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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第57代第2次岸(昭和33.6.12〜35.7.19)
[国会回次] 第33回(臨時会)
[演説者] 佐藤栄作大蔵大臣
[演説種別] 昭和三十四年度補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1959/10/28
[参議院演説年月日] 1959/10/28
[全文]

 昭和三十四年度補正予算を国会に提出し、御審議をわずらわすこととなりましたので、ここに、その大綱を説明し、あわせて財政金融政策について所信の一端を申し述べたいと存じます。

 去る九月の伊勢湾台風、その他今年度の累次にわたる風水害は、広範、かつ、大規模なものであり、死者、行方不明者合わせて五千六百人をこえる犠牲者を生じ、各地に甚大なる損害の発生を見るに至りました。私は、ここに、衷心より被災者各位に対し深甚なる哀悼と同情の意を表するとともに、被災者各位が一日も早く復興に立ち上がられるよう、心からお祈りいたすものであります。

 政府といたしましては、すでに関係法令及び予備費の範囲内において応急の対策を講じて参ったのでありますが、今回、さらにあとう限りの財源を調達して、被災者の救助及び生業の再建等、民生の安定に遺憾なきを期するとともに、被災施設の復旧にあたりましては、将来再びかかる災害を繰り返すこのとのないよう、充実した対策を講ずることといたしたのであります。

 まず、補正予算の内容につきまして、その概要を説明いたします。

 一般会計の歳出の追加額は六百十四億円でありますが、これた財源確保のため、格段の工夫をいたした次第であります。すなわち、租税収入につきましては、現在の一般的好況を勘案し、年度末までの増収をでき得る限りこれを見積もり、法人税を主体として四百九十億円の増加を計上するほか、税外収入につきましても、専売納付金等の追加四十八億円を計上いたしました。しかしながら、なお不足する財源を補うため、やむを得ず既定経費の節減を断行することにより、七十六億円を調達することといたしたのであります。

 次に、歳出について申し上げます。そのおもなものは、直接災害対策にかかる経費であります。今回、風水害対策費として、本費に追加されましたものは三百四十四億円であり、ほかに新たに追加されました予備費八十億円もまた、主としてこれに充てられることとなる見込みであります。

 特に、災害対策として意を用いました事項は、第一に、被災地における民生の安定及び生業の再建をはかったことでありまして、このため、災害救助の内容を改善し、住宅及び農林漁業施設の復旧の促進をはかり、特に、農地につきましては、明年の作付に支障のないよう配意し、これらに要する経費として百七億円を計上いたしております。第二に、今次災害において、高潮による被害が激甚であったことにかんがみ、科学的にも検討を加え、大規模な海岸堤防事業等、新たな構想による高潮対策を講ずるとともに、公共土木施設等の復旧の充実をはかり、特に、明年の台風襲来期までに重要な河川及び海岸の被災堤防の復旧を促進することとし、これらに要する経費として二百二十一億円を計上いたしました。このほか、文教施設の復旧費等として十一億円を計上し、その実施に遺憾なきを期した次第であります。

 また、災害復旧工事の促進に資するため、三十六億円の国家債務負担行為を特に計上いたしております。

 なお、今回の補正予算におきましては、地方交付税交付金八十五億円を計上いたしました。これにより、地方債の政府引き受けの増加と相待って、地方自治体の所要財源は確保されるものと考えるのであります。

 以上のほか、政府は、石炭鉱業に対する緊急措置を講ずるため、七億二千八百万円を計上いたしました。すなわち、現在不況に悩む石炭鉱業に対する基本的な対策につきましては、目下、鋭意検討をいたしておりますが、とりあえず、その離職者に対する応急措置の必要を認め、今回の補正予算により所要の措置を講じた次第であります。

 また、義務教育費国家負担金等、法令に基づく義務的性質の経費であって、地方自治体において立てかえ支弁にかかるものを補てんするための経費九十一億円を、今回の補正にあわせて計上いたしました。

 次に、財政投融資による災害対策について、その概略を説明いたします。

 今回の財政投融資の追加につきましては、郵便貯金及び簡保資金等において、現在見込み得る原資の増加をすべて充当いたしましたほか、既定計画の一部振りかえ及び公募債の増額により、でき得る限り所要資金の捻出に努力し、総額五百一億円の追加を行なうことといたしたのであります。

 追加のおもなる内容といたしましては、中小企業対策といたしまして、中小企業金融公庫等に対し百五十億円の政府資金の追加を行ないますほか、金利等の貸し出し条件についても特別の配慮を行なうことといたしました。なお、中小企業信用保険公庫に十億円の政府出資を行ない、信用補完の機能の強化をはかることといたしております。また、住宅金融公庫の災害貸付ワクを九十五億円に、農林漁業金融公庫の災害貸付ワクを百四十億円に増大することとし、所要資金として、それぞれ四十億円を計上いたしました。さらに、災害に伴う地方自治体の資金需要の増加に対応して、地方債において百六十億円を追加することといたした次第であります。

 以上のほか、この際、中小企業の年末金融対策といたしまして、百億円の政府資金を手当することといたしたのであります。

 以上申し述べました諸措置により、別途御審議を願うことといたしております各般にわたる特例法と相待って、公共土木、農地及び農業施設災害の初年度における復旧割合におきまして、例年を上回る進捗率となる等、従来に比し充実した災害対策を講じ得るものと確信する次第であります。

 次に、この機会に、最近の経済情勢について申し上げたいと思います。

 わが国経済が、昨年秋以来、急速な回復からさらに上昇へと、きわめて順調な過程をたどってきていることは、御承知の通りであります。すなわち、国民消費水準の向上、輸出の好調等、着実な需要の伸びを背景に、企業の経営状況及び雇用の情勢等も著しい改善を見たのでありますが、この間、物価はおおむね安定した基調にあり、また、国際収支も終始黒字基調を持続し、本年九月末における外貨準備高は十二億九百万ドルに達しているのであります。

 しかしながら、他面、設備、在庫両面の投資に対する企業の根強い拡大意欲からして、経済の先行きを警戒する声も一部に聞かれるのであります。しこうして、今回、政府が災害復旧のために講じます各般の施策によりまして、相当規模の資金が放出されることになるわけでありますが、これによって、従来着実な上昇を続けて参りましたわが国経済の安定と均衡に支障を来たすことのないよう、企業及び金融機関におかれましては、一そう慎重な配慮のもとに行動されるよう希望いたす次第であります。

 私は、さきに、ワシントンで行なわれました国際通貨基金及び国際復興開発銀行の総会に出席し、各国の財政金融関係者と親しく意見を交換する機会を得たのでありますが、その際痛感いたしましたことは、為替貿易の自由化が今や世界経済の大きな流れであるということであります。このような世界の趨勢は、日本経済の特性から見ても歓迎すべきことであり、この際、わが国としても、強力に為替貿易の自由化を推進すべきものと考える次第であります。従って、政府といたしましては、国内経済に与える影響について慎重なる配慮を加えつつ、着実にこれが実施を進めて参る所存であります。関係各界におかれましても、この方針に即し、積極的に必要な態勢を整備せられたいのであります。

 以上、補正予算の概要を説明し、あわせて、今後の経済政策の一端について、私の所信を明らかにいたしたのであります。国民各位も政府の意のあるところを了とせられ、一そうの御協力を切望いたす次第であります。