[内閣名] 第59代第2次池田(昭和35.12.8〜38.12.9)
[国会回次] 第37回(特別会)
[演説者] 水田三喜男大蔵大臣
[演説種別] 昭和三十五年度補正予算についての演説
[衆議院演説年月日] 1960/12/12
[参議院演説年月日] 1960/12/12
[全文]
ここに、昭和三十五年度補正予算を提出するにあたり、その概要を御説明いたします。
私は、前国会におきまして、当面の経済情勢と今後の経済運営の目標について所信を明らかにいたしたのでありますが、幸いにして、わが国経済はその後も安定した基調の上に引き続き順調な拡大過程をたどっており、本年度の経済成長率は、年度当初の予想を上回って、実質一〇%をこえるものと見込まれるのであります。最近、アメリカ政府は国際収支の悪化に対処する諸方策実施の方針を決定し、注目を集めております。これによって、わが国の国際収支もある程度の影響を受けることは覚悟せねばなりませんが、政府の企図いたしております諸政策の基本を変更する必要が生じたものとは考えません。政府といたしましては、今後とも国際経済協調の精神に立って対外経済の諸問題に対処するとともに、内外情勢の推移に細心の配慮を払いつつ、わが国経済の均衡ある成長を期して参る所存であります。
次に、今回提出いたしました補正予算について申し述べます。
今回の補正予算は、経済の拡大に伴う法人税等租税及び印紙収入の自然増収を歳入に計上し、国家公務員給与の改善を初め、災害関係費その他当初予算作成後発生した事由に基づき、本年度内に措置を講ずる必要のある経費並びに社会保障及び文教関係の国庫補助金、負担金の不足額補てん等、法律に基づく義務的経費の追加の財源に充てることといたしたのであります。その総額は千五百十四億円でありまして、これにより、昭和三十五年度一般会計予算総額は、歳入歳出とも一兆七千二百十一億円と相なるのであります。また、特別会計の予算についても所要の補正を行なうことといたしております。
まず、一般会計補正予算の歳出追加のおもな内容について、その概略を御説明いたします。
第一は、給与改善に関する経費であります。
国家公務員の現行給与水準は、民間給与の上昇に伴い、これとの間に相当の格差を生じております。このため、先般の人事院勧告の内容を尊重して所要の改定を行なうこととし、これに要する経費として、義務教育費国庫負担金分等を含め、二百十四億円を計上いたしております。
第二は、災害関係費であります。
昭和三十五年発生の災害につきましては、既定の予備費をもって応急の措置を講じたのでありますが、さらに、今回八十億円を追加し、その復旧に遺憾なきを期しております。
なお、チリ地震津波の被災の状況にかんがみ、その被災地域に対して津波対策事業を実施することとし、所要の措置を講ずることといたしました。
また、昭和三十四年以前の発生にかかる災害の復旧事業及び伊勢湾高潮対策事業費につきましては、昭和三十五年度予算編成後の調査の結果、相当の増加を生ずることが明らかとなりましたので、予定の進捗率を確保するため、二百七億円を追加計上することといたしております。
第三は、公立中学校の校舎整備費であります。
公立中学校の校舎の整備につきましては、従来とも意を用いて参ったのでありますが、現在までの実施状況に顧みますとき、生徒数の増加が特に著しい昭和三十六年度におきまして、生徒の円滑な収容を行なうためには、あらかじめ措置を講ずることが必要となりましたので、今回、さらに四十億円を追加計上いたすこととしたのであります。
第四は、日本輸出入銀行及び商工組合中央金庫への出資に伴う産業投資特別会計への繰り入れであります。
わが国貿易の拡大とともに、輸出金融等に対する需要は毎年増大してきているのでありますが、ことに本年度におきましては、当初予算における見込みを大幅に上回るに至りました。このため、日本輸出入銀行に対し、その融資資金の不足を補うため、百二十五億円の出資を行なうことといたしたのであります。
また、中小企業の金利負担の軽減をはかる方針に関連して、商工組合中央金庫の貸し出し金利の引き下げに資するよう、同金庫に対し、新たに二十億円の出資を行なうことといたしました。
これらの出資を行なう必要上、産業投資特別会計において不足する財源を一般会計から補てんすることとし、百二十億円を計上いたしたのであります。
第五は、社会保障及び文教関係の国庫補助金、負担金の不足額の補てんでありまして、生活保護費、国民健康保険助成費、義務教育費国庫負担金等、法律に基づく義務的性格の経費について、百三十八億円の追加計上を行なうことといたしました。
第六は、食糧管理特別会計への繰り入れであります。
昭和三十五年産米の収穫見込みが大幅に増加するに至ったこと及びその買い入れ価格が当初予算における見込みを上回って決定されたこと等によって、同特別会計の赤字が増加いたしましたので、これらを補てんするための経費として、二百九億円を追加計上いたしました。
第七に、所得税、法人税及び酒税を歳入として追加計上することに伴う地方交付税交付金等三百六十一億円を計上いたしたのであります。
このほか、さきの日米財産委員会の審決に基づき、賠償等特殊債務処理費に六十八億円を計上するとともに、今後の財政需要に備えるための予備費二十億円を計上いたしております。
次に、歳入について御説明いたします。
以上申し述べました歳出に対する財源といたしましては、租税及び印紙収入の自然増収をもって充てることといたしております。当初予算におきましては、租税及び印紙収入を一兆三千三百六十六億円と見込んでいたのでありますが、経済規模の予想以上の拡大を反映し、法人税等を中心とし、当初の見積もりに比し、総額千五百七十二億円に達する増加が見込まれるに至りました。この増収見込額から、後に申し述べますように、明年一月から実施予定の所得税の減税額五十八億円を差し引いた千五百十四億円を歳入として計上いたしたのであります。
私は、すでに前国会において、昭和三十六年度においては、所得税及び法人税を中心として、国税、地方税をあわせ、平年度一千億円以上の減税を断行いたす考えを明らかにしたのであります。この方針に基づき、今般、政府に提出せられました税制調査会の答申を基礎として、現下の情勢にもっとも即応した税制の改正を行なうことといたしております。このうち、国民の期待の大きい所得税の減税については、昭和三十六年分所得からこれを行なう所存で、来たる通常国会に所要の法律案を提出する所存でありますが、特に給与所得及び退職所得につきましては、あらかじめ、明年一月以降の源泉徴収税額から減税による利益を及ぼすことを適切と考えまして、これに必要な所得税法の臨時特例法案を提出することといたしております。
次に、財政投融資の追加について、その概略を御説明いたします。
追加の主な内容といたしましては、一般会計予算の補正に関連し、さきに申し述べました日本輸出入銀行への出資百二十五億円及び商工組合中央金庫への出資二十億円のほか、災害及び公立中学校校舎整備等に伴う地方自治体の資金需要の増加に応ずるため、地方債において百十四億円を追加することといたしております。また、中小企業の年末金融対策といたしまして、国民金融公庫等に対し、合計二百億円の政府資金を手当することとし、遺憾なきを期した次第であります。
以上の財政投融資の追加に必要な原資につきましては、一般会計から産業投資特別会計に対する繰り入れのほか、資金運用部資金並びに簡易生命保険及び郵便年金積立金において現在見込み得る原資の増加をもって充当いたすこととしております。
以上、昭和三十五年度補正予算の大綱を御説明いたしました。何とぞ、政府の方針を了とせられ、本補正予算に対しすみやかにご賛成あらんことをお願いいたします。