データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第59代第2次池田(昭和35.12.8〜38.12.9)
[国会回次] 第43回(常会)
[演説者] 田中角栄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1963/1/23
[参議院演説年月日] 1963/1/23
[全文]

 わが国は、今や、国際経済社会の有力なる一員として、貿易立国の精神に徹しつつ、強力に自由化を推進するとともに、健全にして均衡のとれた成長のための基盤を一段と強化すべき新たな年を迎えたのであります。

 私は、この年の課題にこたえるための努力の焦点を一つにしぼれば、それは輸出力の増大であると信じております。

 すなわち、貿易・為替の自由化は、諸国間の輸出入の拡大を通じて、国際分業の利益をもたらすものであり、さらに、わが国にとりましては、諸外国の差別的な対日輸入制限の撤廃を促進し、輸出市場を拡大するために不可欠な手段となるものでありますが、反面、輸出力の増大を伴わずして自由化を進める場合におきましては、輸入の一方的な増加から国際収支の均衡を失することになるのでありまして、輸出力の増大こそ自由化の実現に欠くことができない前提であります。また、わが国経済の健全にして均衡ある成長を達成するためには、輸出力を増大して、経済規模の拡大に伴い必要な資源の輸入余力を増強することが絶対に必要であることは、特に論を待たないところであります。

 今回提出いたしました昭和三十八年度予算も、このような心がまえをもって編成せられたものでありますが、その際、私が最も意を用いた諸点は、次の通りであります。

 第一に、社会資本の充実、産業基盤の強化であります。

 わが国経済が、対外競争力を強化し、輸出力を増大し、自由化に邁進するためにも、また、日本経済の安定成長を実現するためにも、民間資本の拡充に即応して社会資本を格段に充実し、産業基盤を一そう強化し、国民経済全体として、近代的、合理的な国づくりを行なわねばならないことを痛感いたしたわけであります。

 第二に、国内産業の体制整備であります。

 わが国産業の輸出力は、近年における飛躍的な経済発展を経て、大幅に強化せられたとはいえ、貿易の自由化を一段と推進して参るにあたりましては、世界的な視野に立って、産業構造の高度化、企業体質の改善等を急速に進めるとともに、必要に応じましては、雇用と資本の転換を促進し、さらに、過当競争を排除する等、産業体制を整備することがきわめて緊要であります。また、このことは、全体として、生産性を高め、資源の合理的な利用を進め、もって日本経済の健全な成長を促進することとなるのであります。

 第三に、文教、社会保障等の重要施策であります。

 文教には文教としても、社会保障には社会保障としても本来の使命があり、意義があることはもとよりでありますが、同時に、人つくりの持つ経済的な役割が急速に増大しつつあることも事実であります。経済の健全にして均衡のとれた成長のためには、そのにない手たる国民の能力の開発活用に努めるとともに、成長の成果を広く各階層に及ぼすことが必要であるとかたく信ずるものであります。このことは、国際的な経済交流の一そうの活発化にあたり、国際競争力を充実し、輸出力を増大するためにも、また同様に必要な事柄であります。

 今回提出いたしました昭和三十八年度予算について、項目別にその概要を申し述べます。

 まず、社会資本の充実のための公共投資の拡大であります。

 道路整備につきましては、最近における道路交通の実情にかんがみ、一般財源の投入を大幅に増額したほか、財政投融資計画におきましても、前年度に対し七割近い増額を行ない、中央、地方を通ずる道路網の整備を促進することとなし、特に、大都市及びその周辺の道路に重点を置くことといたしました。

 また、港湾につきましても、輸出の振興と地方開発に重点を置いて五カ年計画を促進するとともに、国有鉄道、電信電話施設の計画的拡充のため、必要な資金措置を講ずることといたしました。

 さらに、農業基盤の整備につきましても一そうの充実に努め、また、産業用地、用水の確保をはかるため、一般会計及び財政投融資計画を通じ、所要の措置を講じております。

 治山治水対策につきましては、規定の五カ年計画を特に推進するため必要な予算を計上し、災害復旧の進捗と相待って、国土の保全に万全を期することといたしました。

 以上、公共事業関係費の総額は、災害復旧関係費を除き、四千五百六十四億円に達し、昭和三十七年度当初予算に対し、七百七十八億円の増加となります。

 なお、公共事業の円滑な遂行をはかるため、特定公共事業に関する譲渡所得に対する課税を大幅に減免する措置を講ずることといたしております。

 文教施策の飛躍的な拡充をはかり、科学技術を振興して、現下の要請にこたえることは、政府として最も意を用いているところであります。

 これがため、道徳教育の充実、教育水準の質量両面における向上と教育環境の改善、小中学校の学級編成及び教職員定数の適正化と施設の整備をさらに推進するとともに、高等学校生徒の急増に備えての校舎の一そうの整備につき、所要の資金措置を講ずることといたしております。

 また、前年度に引き続き、国立高等専門学校を創設、整備するとともに、大学、高校における理工系の学生、生徒の増募、施設の充実をはかり、産業の発展に伴う技術者の確保に遺憾なきを期しておるのであります。

 さらに、現下の科学技術の動向にかんがみ、各省研究機関の研究体制の強化、国産新技術の開発、原子力、防災科学等の重要研究を推進して、科学技術の一段の向上を期することといたしております。

 育英奨学、低所得者子弟の就学援助等、教育の機会均等を確保するための施策、勤労青少年教育のための方策につきましても特段の配慮を加えましたほか、義務教育教科書の無償措置を拡大するとともに、新たに、小中学校の全学童を対象とするミルク給食について、財政負担の措置を講ずることといたしました。

 以上、文教及び科学振興費の総額は、三千七百十七億円となり、昭和三十七年度当初予算に対し、六百三十四億円の増加となっておるのであります。

 次に、社会保障及び社会福祉関係であります。

 わが国の社会保障制度は、戦後、目ざましい発展を遂げたのでありますが、昭和三十八年度予算におきましては、社会保障関係諸施策の画期的な拡充改善をはかることといたしました。すなわち、重ねて、生活保護基準の大幅な引き上げを行ない、児童保護及び老人福祉を中心に社会福祉費を増額するとともに、国民健康保険の世帯主七割給付、低所得者の保険料の軽減を新たに実施するほか、医療費の地域差を撤廃する等、医療保障の改善をはかることといたしたわけであります。また、国民年金におきましては、福祉年金につき所要の改善措置を講ずることといたしております。

 さらに、雇用対策の面におきましては、産業構造の変革に即応して、労働力移動の円滑化をはかるための諸措置を一そう拡充強化し、失業対策事業の刷新改善をはかるとともに、失業保険につきましても、給付日額の引き上げ等、給付内容の改善措置を講ずることといたしました。

 以上、社会保障関係費の総額は、三千六百七十九億円となり、昭和三十七年度当初予算に対し、六百七十六億円の増加を示しておるのであります。

 このほか、なお、環境衛生施設の整備につき、新たに五カ年計画を策定して、その計画的促進をはかるほか、住宅対策につきましても所要の改善措置を講ずることにいたしておるのであります。

 輸出力の増大は、申すまでもなく、国の総力をあげての経済の合理化、近代化によって達成さるべきものでありますが、貿易振興及び経済協力推進のための直接の措置といたしましては、引き続き、海外市場調査、国際見本市、技術協力等の事業を拡充強化するとともに、日本輸出入銀行に対し多額の財政資金を投入し、もって輸出の増進に資することにいたしたのであります。

 農林漁業の振興につきましては、成長農産物の選択的拡大、農林漁業の近代化、合理化と、生産基盤の強化をさらに促進し、経営の安定、向上を期するほか、農林水産物の価格安定対策につきましても特に意を用いたのでございます。

 また、農林金融につきましては、農業近代化資金の融資ワクを拡大するとともに、農林漁業経営構造改善資金融通制度を設けて、農林漁業金融公庫の資金の飛躍的な充実をはかり、特に、長期、低利の資金を確保する方途を講ずることにいたしたのであります。

 中小企業につきましては、その基本的対策を確立するとともに、経営の安定強化に資するよう、従来からの諸施策の拡充強化に加え、新たに団地化、協業化を促進するための中小企業高度化資金融通特別会計を設置するほか、中小企業投資育成株式会社を新設して、自己資本の充実に資するとともに、税制面においても、これらの施策に即応して、中小企業者の設備等に関する割増償却制度の新設等を行なうことにいたしております。

 また、中小企業金融対策といたしましては、中小企業信用保険公庫において、設備の近代化をはかるための新種保険を創設するほか、融資基金に充てるため、出資を増額するとともに、財政投融資において、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の貸付ワクの拡大に必要な資金措置を講じ、民間資金の協力と相待って、中小企業金融の拡充、円滑化に資することといたしております。

 特定の産業に対する対策といたしましては、まず、石炭鉱業の安定強化が、エネルギー及び雇用対策の両面から見て、今日きわめて重要であります。昭和三十八年度におきましては、原油及び重油の関税率を引き上げることとなし、これによる関税収入の増加額を勘案しつつ、石炭鉱業の近代化、合理化、産炭地域の振興、炭鉱離職者対策等を一そう強力に推進するほか、新たに、鉱害処理の促進をはかるための鉱害賠償基金、電力用炭の引き取り確保のための電力用炭代金精算株式会社を創設することとなし、百八十億円を計上いたしております。また、財政投融資計画におきましても、日本開発銀行、石炭鉱業合理化事業団、産炭地域振興事業団の事業遂行に支障を生ずることのないよう、所要の資金措置を講ずることといたしております。

 また、海運業につきましては、合併等の集約化を行ない。自立態勢を整える企業に対し、既往の借入金の利払いを猶予することとし、業界の再編、合理化を推進するとともに、新造船に対する利子補給率の引き上げ等を行ない、国際競争力の強化をはかることといたしております。

 さらに、新たに、自由化に備える対策として、非鉄金属鉱業について金属鉱物探鉱融資事業団を設置し、また、日本開発銀行の融資対象においても特別の考慮を払うほか、重電機器や工作機械についても、外国製品の有利な延べ払い条件を利用した進出に対処するための措置を講ずる等、格段の意を用いております。

 地方財政の内容は、幸いにして、近年著しく改善されつつありますが、昭和三十八年度においては、電気ガス税の負担の軽減をはかり、他方、市町村たばこ消費税の税率を引き上げ、地方財源の拡充をはかることといたしました。そのほか、地方交付税及び地方税の大幅な増収、地方団体の起債ワク拡大等により、地方の行政内容、住民福祉は、引き続き向上するものと期待される次第であります。なお、地方団体におきましても、経費使用の合理化をはかり、財政の健全化の努力を続けられるよう希望するものであります。

 わが国の税負担は、相次いで行なわれた税制改正の結果、相当合理化されて参りましたが、わが国の社会経済の著しい進展に即応するため、現在、税制調査会において、租税制度の基本的検討を行なっているところであります。

 しかし、来年度におきましても、国民生活の安定に資するため、一般的な負担の軽減をはかること、及び現下の経済情勢に顧み、当面の産業及び金融政策上の要請に対応する税制上の措置を講ずることの二点を主眼として、平年度五百四十億円程度の減税を行なうことといたしました。すなわち、中小所得者の負担の軽減をはかるため、所得税の課税最低限を引き上げ、中小法人の留保所得課税を軽減するとともに、資本蓄積の促進、社会資本の充実、産業体制の整備、中小企業設備の近代化等のための税制上の措置を講ずることといたしたのでございます。

 財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目においても触れたところでございますが、計画の策定にあたりましては、住宅、上下水道をはじめとする生活環境施設の整備、及び道路、国鉄等の公共投資の拡充強化に重点を置くほか、輸出の振興と国内産業の整備合理化に努めるとともに、引き続き、中小企業金融の円滑化、農林漁業の振興に特に配慮いたしておるのであります。

 以上、昭和三十八年度における財政の重点項目について、その概要を御説明いたしたのでございますが、一般会計予算の総額は、歳入、歳出とも二兆八千五百億円でありまして、昭和三十七年度当初予算に対し、四千二百三十二億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しましては、三千六百九十億円の増加となっておるのでございます。また、財政投融資計画の総額は、外貨債等を含み、一兆一千九十七億円でありまして、昭和三十七年度当初計画に対し、二千四十五億円、改定計画に対しては、一千四百三十九億円の増加となっておるのであります。

 このように、昭和三十八年度予算及び財政投融資計画は、時代の要請と現下の経済情勢に即応して、昭和三十七年度に比し、一段とその規模を拡大しておりますが、通貨価値の安定と国際収支の均衡維持の配慮のもとに、健全均衡財政の方針は引き続き堅持せられているのでありまして、財政投融資における政府資金、民間資金を通ずる積極的な活用とも相待って、デフレの脅威もインフレの不安もない正常な経済の発展に大きく貢献すると信ずるものであります。

 なお、この際、昭和三十七年度補正予算第二号について一言申し述べます。

 公務員の給与改善、石炭対策、過年災害の復旧等につきましては、さきに、補正予算第一号をもって対処したのでありますが、さらに、産業投資特別会計の資金の充実、義務的経費の不足補てん、地方交付税交付金の増額等を内容として、八百二十一億円の補正予算第二号を提出いたしました。産業投資特別会計の資金への繰り入れは、経済基盤の強化、企業の体質改善を強力に推進すること等のため、同会計よりの出資需要がますます増大しておりますので、この際、その資金を充実することが急務と考えられるところから行なうものでございます。この結果、昭和三十七年度一般会計予算の総額は、歳入、歳出とも、それぞれ二兆五千六百三十一億円と相なることになります。

 次に、金融政策について申し述べます。

 過去一年余りにわたり、国際収支の改善を目途として、一連の金融引き締め策を講じて参りましたが、これら景気調整のための施策も所期の効果をおさめましたため、日本銀行においては、昨年十月及び十一月の二度にわたり公定歩合の引き下げ等を行ない、これとともに、金融政策も新たな局面を迎えるに至ったのであります。

 金融政策の新しい局面におきましては、金融正常化の必要が一段と痛感せられております。御承知のように日本銀行においては、昨年十月の公定歩合の引き下げに際し、高率適用制度の改正を行なうとともに、今後の金融調節の手段としては、債券の売買を一そう弾力的に行ない、これにより、市中金融機関が日本銀行借り入れに過度に依存する姿を是正する方針を決定したのであります。これは、金融の正常化のための環境を醸成する上からも、きわめて好ましい施策であると考えるのでありますが、私は、このような日本銀行の新しい方針と相待って、金融の正常化については、さらにその推進をはかる考えであります。この点に関し、ことに長期の安定した産業資金調達のために、株式市場や公社債市場の育成強化をはかることは、きわめて肝要でありまして、その健全な発達のため、一そうの工夫と配慮を重ねて参りたいと存じます。なお、両市場の安定した運営は、言うまでもなく、健全な大衆投資家の支持と信頼を基盤とするものでありますが、今後とも、この点を特に重視して、所要の施策を講じて参る所存であります。

 次に、金利につきましては、わが国の金利水準は、諸外国の金利水準に比較して割高であり、その引き下げは、かねてより要請せられているのでありますが、特に、今後、わが国経済の国際競争力を強化するためにも、国際金利水準に可能な限りさや寄せしていく必要があります。もとより、金利の問題は、資金需給の実態に即して考えるべきでありまして、まず、このためには、貯蓄増強に努める等、資金供給の増加をはかるとともに、資金需要の調整にも留意し、金利引き下げのための環境を整備することが肝要であります。

 このような見地から、私は、国民貯蓄の増強を一段と推進して参る必要のあることを強調するものであります。政府といたしましては、来年度より、従来の預貯金等の利子所得に対する課税について一そうの優遇措置を講ずるとともに、国民貯蓄組合にかえて、新たに、少額貯蓄優遇制度を設けることにより、免税制度の適正な運営をはかるなど、貯蓄増強のための一連の施策を行なうことといたしておるものであります。

 以上、金融政策の新局面について申し述べましたが、なお、この際、ここに付言いたしますと、さきの景気調整の過程において、政府は経済界に対し、いたずらに摩擦や困難が生ずることのないよう、特に、その影響が不当に中小企業等に対ししわ寄せされることのないよう、適時適切な施策を講じて参ったのでありますが、なお、ここしばらくは、その円滑な収束のために、財政金融面を通じて、きめの細かい配慮をいたして参る考えであります。

 次に、国際収支の状況並びにこれに関連する当面の国際金融政策について申し述べます。

 国際収支は、当初期待されました昭和三十七年度下期を待たずして、すでに上期は均衡を回復し、その後も改善を続けております。外貨準備高も、昨年末をもって十八億ドルをこえるに至っており、米国市中銀行からの特別借款の今後の返済については、外貨の資金繰り上何らの支障もなく、また、昨年一月国際通貨基金との間に締結いたしましたスタンドバイ取りきめも、これを実際に使用することなく、最近終了させることができた次第でございます。しかしながら、国際収支は、国内経済活動の動向等により、変動しやすいものであります。また、貿易・為替の自由化の影響は、これから本格的に現われてくるものと考えなければなりません。世界経済の今後の動向も、必ずしも楽観を許されないものがあります。他方、主要な先進工業諸国は、つとに通貨の交換性を回復し、その相互間の経済交流はますます活発化しておりますが、最近は、欧州経済共同体の進展、米国における通商拡大法の成立を契機として、関税の一括引き下げを行なおうとする機運がとみに高まっております。

 以上のような情勢に即応し、わが国としては、国際収支の基礎を一そう強固なものにするとともに、これまでに達成した自由化の成果の上に立って、さらにこれを着実に推進し、円の交換性の実現という大きな目標に向かって、その体制の整備に一段の努力を傾けるべきであります。

 この際、国民各位におかれましても、一そう広い視野に立って、わが国経済の当面するこの大きな転換の時期に対処していかれることを切望いたします。

 また、低開発国に対する経済協力は、今後の世界貿易並びに経済の発展のために必要であるのみならず、わが国の貿易拡大のためにも大きな意義を有するものであります。わが国は、これまでも、国際機関への出資や二国間の取りきめ等を通じて、できる限りの経済協力をして参ったのでありますが、今後におきましても、国力の許す範囲内で、積極的に努力いたしたいと考えております。

 以上、財政金融政策の基本的な考え方と予算の大綱について御説明いたしました。

 もとより、躍動する国際経済社会の中にあって、日本経済が、その大きな歩みと完全に一体化しつつ着実な発展を続け、所得と福祉の一そうの増大を達成し、自由世界をささえる一つの大きな柱としての地位を確保することは、容易ならざることであります。しかしながら、戦後わずか十八年、幾度かの危機を乗り越えて、今日のごとき日本をつくり上げた国民の不撓不屈の努力と旺盛な創造力をもってすれば、必ずやその目標を達成し得るものとかたくこれを信じております。

 中国の古典に、「財は国の命なり」とあります。私は、わが国経済の目標達成の上において、財政金融政策がそのかなめであることを思うとき、職責の重大さを身にしみて感ずるとともに、力の限りを尽くして努力する覚悟をかたくするものであります。

 国民各位におかれましても、政府の意のあるところを了とせられ、あらゆる理解と協力を寄せられんことを切望してやみません。