データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第60代第3次池田(昭和38.12.9〜39.11.9)
[国会回次] 第46回(常会)
[演説者] 田中角栄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1964/1/21
[参議院演説年月日] 1964/1/21
[全文]

  昭和三十九年度予算の提出にあたり、その大綱を御説明いたしますとともに、財政金融政策の基本的考え方について所信を申し述べたいと存じます。

 本年は、わが国がOECD加盟、IMF八条国移行に伴い、名実ともに国際経済社会の有力な一員となる本格的な開放体制移行の年であります。

 貿易なくしては経済を営み得ず、貿易の伸長なくしては経済の拡大を期しがたいわが国にとりまして、開放体制への移行こそは、日本経済か、常に前進する国際経済社会の中にあって、さらに大きな発展の機会を見出していくために、みずからが選んだ発展への道であります。すなわち、これによりまして、わが国は、諸外国との経済交流を緊密化し、国際分業の利益を一そう享受するとともに、輸出市場をさらに拡大し得ることとなるのであります。

 しかし、同時に、わが国経済が国際経済の動向からくる影響をより直接的に受け、また、国際経済上の要請に一段と積極機敏に応じていくべきこととなるのも明らかなところであります。われわれは、この新しい段階に進むに際し、わが国経済の前途に自信と希望を持つべきではありますが、同時に、わが国経済の運営が複雑さを加え、その国際的責任が重さを増す事実に思いをいたし、決意とくふうを新たにするのでなければならないと考えます。

 近時、世界経済は、国際協調を通じ、貿易並びに資本交流の自由化をはかることによって、拡大均衡を実現する方向に進みつつあり、当面の景況も、米国景気の引き続く上昇、西欧経済の持続的堅調を中心に、総じて上昇傾向にあると判断されるのであります。しかしながら、米国のドル防衛の強化、国際流動性の確保、EECをめぐる域内、域外の利害の調整等、なお幾多の複雑な問題が存ずることもいなめない事実でありまして、わが国経済をめぐる国際環境は、必ずしも容易なものではないと認められるのであります。

 さて、わが国経済が、ここ数カ年にわたる急速な成長の成果として、産業構造の高度化、完全雇用への接近、国民生活水準の向上並びに所得格差の縮小等、顕著な進歩の実績をあげ得ましたことは、周知のとおりであります。

 この急速な成長の過程を通じて、農業、中小企業等、相対的に立ちおくれた部門の近代化、合理化の緊要性、若年労働力を中心とする労働需給の逼迫等の問題が生じてきており、着実な成長を保ちつつ、じみちにこれらの解決をはかることが今後の重要な課題となっておるのであります。また、後に述べますように、昨年来、輸出の伸びを上回る輸入の増加と貿易が収支の赤字幅の増大から、経常収支の逆調が続いており、国際収支の改善に一そう努める必要が生じております。わが国経済が国際経済からの影響を受けやすくなっている現在、この問題には従来以上に慎重な態度で対処いたしますとともに、その根本的な解決にあたっては、長期的、総合的な見地に立って、建設的な努力を傾けるべきであると考えます。

 以上、要するに、今後、わが国経済が開放体制下に堅実な発展を続けてまいりますためには、日本経済に内在する成長力を、世界経済の動向、国際収支、物価の動き等、内外諸要因の推移に即応しつつ、適切かつ弾力的に調整し、もって、調和のとれた適度な成長を実現するとともに、経済、社会の各部面において所要の体質強化を着実に進め、国民経済全体としての生産性を一段と固めることが基本的に肝要であります。

 政府は、このような見地に立ち、昭和三十九年度予算の編成にあたりましては、国際収支の改善と物価の安定を主眼とし、いやしくも財政が景気に対し刺激的な要因となることを避けるため、健全均衡財政の方針を堅持することといたしております。支出内容におきましても、将来にわたる国力発展の基盤を充実し、経済各部門の均衡ある発展に資するための重要施策に対しまして、資金を効率的、重点的に配分し、その着実な推進を期しておるのであります。また、税制面におきましては、国民負担の軽減、合理化をはかり、あわせて企業資本の充実等、所要の体質強化を進めるため、画期的な大幅減税を行なうことといたしておるのであります。さらに、財政と金融とは、もとより相補い、相助け、両者一体となって運営さるべきものでありましても、財政上の諸施策と相まって、経済の安定的成長とその体質強化を期してまいる所存であります。

 以下、今回提出いたしました昭和三十九年度予算について御説明いたします。

 一般会計予算の総額は、歳入、歳出とも、三兆二千五百五十四億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対し、四千五十四億円、すでに成立いたしました補正予算を加えた予算額に対しては、二千八百十二億円の増加となっておるのであります。

 また、財政投融資計画の総額は、一兆三千四百二億円でありまして、昭和三十八年度当初計画に対し、二千三百五億円の増加となっております。

 政府が特に重点を置きました重要施策につき、その概略を申し述べますと、まず、中央、地方を通ずる減税を中心とする税制の改正であります。昭和三十九年度におきましては、最近の国民負担の現状及び経済情勢の推移に顧み、中小所得者に重点を置いて所得税の負担を軽減すること、資本の充実と設備の更新に資するとともに、中小企業の負担軽減をはかるため、企業課税の軽減を行なうほか、産業の国際競争力の強化など所要の特別措置をあわせ講ずること、市町村民税負担の不均衡を是正すること等、平年度二千百八十億円に及ぶ大幅な減税を行なうことといたしたのであります。

 すなわち、所得税におきましては、国民生活の安定に資するため、広く基礎控除、配偶者控除、扶養控除を引き上げるとともに、専従者控除及び給与所得控除の改正、譲渡所得課税の適正合理化、その他所要の改正を行なうことといたしました。この結果、たとえば、夫婦及び子三人の給与所得者の場合、所得税を課されない限度は、現在の約四十二万八千円から約四十八万五千円に引き上げられることとなり、中小所得者の所得税の負担は著しく軽減されることになります。

 法人税におきましては、開放経済への移行に備えて、企業の経営基盤の強化をはかるため、機械設備を中心に、固定資産の耐用年数を平均一五%程度短縮するとともに、中小企業の負担軽減をはかるため、軽減税率の適用所得限度額及び同族会社の留保所得課税控除額の引き上げを行なうことといたしました。さらに、企業の国際競争力の強化、当面要請される諸施策に即応する特別措置をあわせ講ずることといたしておるのであります。

 また、地方税におきましては、昭和三十九年度における地方財政の実情を考慮しつつ、市町村民税の負担の不均衡を是正するため、その制度の合理化をはかるとともに、固定資産税の負担の調整、電気ガス税の引き下げ、法人事業税の軽減等の措置を講ずることにいたしたのであります。

 さらに、最近の道路輸送需要の増大に対処し、その整備財源の拡充をはかるため、道路整備計画の改定と見合って、揮発油税、地方道路税及び軽油引取税の税率をそれぞれ引き上げることといたしております。

 なお、関税率につきましては、経済の諸情勢に応じ、所要の調整を行なうことといたしておりますほか、とん税及び特別とん税につきましても、国際収支の改善に資するため、その税率をそれぞれ引き上げることといたしておるのであります。

 次は、農林漁業の近代化であります。

 農林漁業につきましては、農業構造改善事業、農業基盤整備事業等、農業基本法の定める方向に沿いつつ成長農産物の選択的拡大、生産性の向上、経営の安定強化に資するための諸施策を総合的に推進いたしますとともに、農林水産物の価格安定と流通機構の改善合理化をはかるため、所要の予算措置を講じておるのであります。

 また、農林漁業金融公庫の新規貸し付け計画額を、昭和三十八年度の八百七十億円から一千七十億円へと拡大するとともに、融資条件の改善を行なうこととなし、農業近代化資金、農業改良資金の融資ワク拡大とあわせ、農林漁業金融の飛躍的拡充改善を期することといたしております。

 次に、中小企業の近代化、高度化であります。

 中小企業につきましては、昭和三十八年度に確立された基本的政策に基づき、設備の近代化、構造の高度化を通じて、経営基盤の安定強化に資するため、中小企業高度化資金融通特別会計への繰り入れを飛躍的に増額いたしますとともに、設備近代化補助、小規模事業対策等の諸施策を引き続き拡充強化することといたしております。

 また、税制面におきましても、前に述べましたとおり、法人税軽減税率の適用限度の引き上げ等、国税、地方税を通じまして、中小企業に対し、平年度六百億円を上回る減税を行なうことといたしたのであります。

 中小企業金融対策といたしましては、中小企業信用保険公庫に対する出資を格段に増額して信用保証協会の資金を充実し、保証機能の強化、なかんずく、手形割引保証の拡充をはかりますとともに、財政投融資計画におきましても、国民金融公庫、中小企業金融公庫及び商工組合中央金庫の貸し付けワクの拡大と商工組合中央金庫の貸し出し利率引き下げのため、巨額の財政資金を投入するほか、新たに中小企業金融公庫に債券の発行を認める等の措置を講じ、民間金融機関の協力と相まって、中小企業金融の拡充、円滑化に資することといたしておるのであります。

 わが国の社会保障制度は、年々充実の一途をたどってまいったのでありますが、昭和三十九年度予算におきましても、経済の発展に応じた国民生活の均衡ある向上と社会福祉の増進に資するため、引き続き社会保障関連の諸施策にわたっての改善充実をはかることといたしておるのであります。

 すなわち、生活保護基準の大幅な引き上げを行ないますとともに、国民健康保険の世帯員に対する診療給付率を四カ年計画で七割に引き上げ、医療保険の充実に資することといたしております。また、福祉年金につきましては、他の公的年金との併給限度額の引き上げ、所得制限の緩和等の改善措置を講ずることといたしておるのであります

 雇用対策につきましても、産業構造、雇用構造の変化に即応して、労働力移動の一そうの円滑化をはかることといたしておるのであります。

 以上、社会保障関係費の総額は四千三百七億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対して、六百九十二億円の増加となる次第であります。

 次に、住宅の建設及び生活環境施設の整備であります。

 住宅につきましては、昭和四十五年度における一世帯一住宅の実現を目標に、公営住宅建設のための予算を増額するほか、政府資金、民間資金を活用して、住宅金融公庫、住宅公団等の資金を充実し、三十一万七千戸に及ぶ政府施策住宅を建設いたしますとともに、民間自力建設の推進に資するため、固定資産税、不動産所得税の減税及び新築貸家住宅の特別償却制度の拡充を行なうことといたしました。また、上下水道、し尿処理施設等生活環境施設につきましても、その整備が経済の成長と生活水準の向上に立ち後れている現状にかんがみ、予算及び財政投融資計画を画期的に増額し、その積極的整備を促進することにいたしておるのであります。

 文教を刷新して、健全な青少年の育成につとめ、科学技術を振興して、現下の要請にこたえることは、政府の重大な責務であり、従来とも最も意を用いてきたところであります。

 これがため、昭和三十九年度におきましては、教育水準の向上と教育環境の整備改善に格段の配慮を行ない、小、中学校における教職員数の充実と、教室等施設の整備を一そう推進することといたしました。特に、国立学校につきましては、その管理運営の円滑化、なかんずく、施設設備の飛躍的整備をはかるため、新たに国立学校特別会計を設け、国立高等専門学校及び理工系学部、学科の増設等を積極的に行ない、産業の発展、高度化に伴う技術者の要請に遺憾なきを期しておるのであります。

 また、教育の機会均等を確保するための育英奨学、僻地教育の振興、私立学校の助成、学校給食の改善等につきましても特段の配慮を加えましたほか、義務教育教科書の無償給与制度の進展をはかることにいたしておるのであります。

 科学技術の振興につきましても、宇宙開発推進本部を新設する等、各省試験研究機関の研究体制を強化し、原子力の平和利用、国産新技術の開発、防災科学等の重要研究を推進することといたしておるのであります。

 以上、文教及び科学振興費の総額は四千百三十六億円でありまして、昭和三十八年度当初予算に対し、三百九十億円の増加となっておるのであります。

 次は、社会資本の充実、産業基盤の強化であります。

 まず、道路の整備につきましては、新たな五カ年計画を策定し、昭和三十九年度以降五年間に、総額四兆一千億円の資金を投入し、もって、道路輸送需要の増大、地域開発の展開等、現行計画策定後の情勢変化に対処することとなし、このため、揮発油税及び地方道路税の税率を引き上げる等の措置を講じて、必要な財源の確保をはかることといたしております。昭和三十九年度におきましては、この新計画の初年度といたしまして、予算及び財政投融資計画を通じ、大幅な資金の確保につとめておるのであります。

 港湾につきましては、その重点的整備を促進するため、道路整備と並んで予算の著増をはかりますとともに、港湾貨物の増大、地域開発の進展等、最近の変化に対応して、昭和三十九年度を初年度とする新五カ年計画を策定することといたしておるのであります。

 また、日本国有鉄道につきましては、東海道新幹線の完成を期するとともに、安全輸送の確保と輸送力の増強をはかるため、改良工事を大いに拡充することとし、また、日本電信電話公社につきましても、電信電話施設の整備拡充をはかることにいたしておるのであります。

 なお、増大する産業用地、用水需要に対処するため、土地造成と水資源の総合的開発を推進するほか、新産業都市の建設等、地域開発を促進するため必要な資金につきましても、予算及び財政投融資計画を通じてその確保につとめる所存であります。

 さらに、治山治水事業につきましても、その大幅な推進を図るため必要な予算を計上いたしまして、災害復旧等事業の推進と相まち、国土保全に万全を期することといたしておるのであります。

 以上、公共事業関係費の総額は、災害復旧等事業費及び高潮対策事業費を除き、五千三百七十七億円に達し、昭和三十八年度当初予算に対し九百三十九億円の増加となっておるのであります。

 次に、輸出の振興につきましては、日本貿易振興会等による海外市場調査、国際見本市、広報宣伝等の海外活動を積極的に行ないますとともに、日本輸出入銀行に対する財政資金を増額して貸し付け規模を拡大するほか、税制面におきましても、企業の国際競争力を強化する等のための減税を行なうことといたしておるのであります。

 また、引き続き、対外経済協力を推進するほか、貿易外収支の改善に資するため、海運業の体質改善と外航船腹の拡充、国際航空事業の育成強化につきましても、所要の措置を講ずることといたしております。

 地方財政の内容は、幸いにして、良好な状況で推移しておりますが、昭和三十九年度におきましては、市町村民税及び電気ガス税の減税を行なう一方、市町村民税臨時減税補てん債の発行及び市町村たばこ消費税の税率引き上げによって、地方財政の運営に遺憾なきを期しているのであります。

 そのほか、地方税及び地方交付税の著しい増収等により、地方財政の基盤はますます強化されますので、地方における行政内容と住民福祉は一そうの向上が期待される次第であります。

 財政投融資につきましては、以上、それぞれの項目においても触れたところでありますが、計画の策定にあたりましては、農林漁業及び中小企業関係金融の充実、住宅の建設及び生活環境施設の整備に重点を置くとともに、輸出の振興、道路、鉄道等社会資本の強化及び地域開発の推進に特に配意いたしておるのであります。

 なお、この際、昭和三十八年度補正予算第三号について一言申し述べます。

 公務員の給与改善、災害の復旧等につきましては、さきに補正予算第二号をもって対処いたしたのでありますが、今回、さらに、産業投資特別会計及び同特別会計資金への繰り入れ、義務教育費国庫負担金等義務的経費の不足補てん、地方交付税交付金の増額等を内容として、総額八百二十六億円の補正予算第三号を提出いたしました。

 産業投資特別会計への繰り入れは、輸出振興の重要性にかんがみ、日本輸出入銀行に対して行ないます同特別会計の追加出資に必要な財源を繰り入れるものであり、また、同特別会計資金への繰り入れは、経済基盤の強化、企業の体質改善を強力に推進する等のため、出資需要がますます増大しておりますので、この際、その資金を充実することが急務と考え、これを行なうものであります。

 このほか、日本国有鉄道におきましても、改良工事を促進し、鉄道輸送の安全確保に資するため、改良費を追加することとなし、所要の予算措置を講ずることといたしました。

 また、これらに関連いたしまして、財政投融資計画におきましても、日本輸出入銀行及び日本国有鉄道につき、それぞれ所要の追加を行なった次第であります。

 次に、金融政策並びに資本市場育成の問題について申し述べます。

 最近における国際収支の推移、生産及び物価の動向、金融機関貸し出しの趨勢等にかんがみ、昨年十二月、日本銀行においては、準備預金の率を引き上げたのでありまして、企業の資金需要及び金融機関貸し出しの増勢は鎮静に向かうものと期待しておりますが、今後とも、経済の動向を慎重に見守りながら、機に応じて適切な施策が実施せられ、資金需給の調整を通じて、経済活動が適正に保たれるよう意を用いてまいる考えであります。

 もとより、金融の調整にあたりましては、近代化、合理化により、新たな発展への道を求めつつある中小企業等の真剣な努力が、いやしくもこれによって阻害されることのないよう、細心の留意をいたしてまいる所存であります。

 次に、わが国が開放経済への移行に即応し、わが国経済の体制を整備してまいるにあたりまして、金融界の果たすべき役割りはいよいよ重きを加えつつあると認められるのであります。したがいまして、この際、各金融機関は、その公共的社会的責任について一段と自覚を深め、みずからの経営態勢の刷新合理化をはかるとともに、特に、融資にあたっては、いたずらに過当な競争に走ることなく、広く国民経済的視野に立って節度ある態度を堅持し、金融機関としての責務の達成につとめられるよう切に期待する次第であります。

 さらに、わが国企業におきましても、その基盤を充実するため、戦前及び諸外国に比してきわめて悪化している自己資本比率の向上をはかり、長期安定資金の確保につとめることが、この際、特に必要と思われるのであります。

 このような見地から、政府といたしましては、今回、企業、投資家及び証券業者に対する一連の税制上の施策を実施することといたしておりますが、今後とも、資本市場の健全な発展をはかるため、各般の施策を着実に推進してまいりたいと存じております。もとより、資本市場の安定した運営と発展の基礎は、堅実な大衆投資家の支持と信頼を得ることにあるのでありまして、この点にかんがみ、証券業者におかれては、経営の健全化と投資勧誘態度の適正化に一段と努力されるよう強く要請いたす次第であります。

 わが国は、近く、OECDへ正式に加盟し、世界の主要先進諸国との協力関係を一そう緊密化するとともに、四月一日を目途とするIMF八丈国への移行に伴い、わが国の円は、交換可能通貨として広く世界の諸国から認められることとなるのであります。

 このような新しい事態に対処するための努力の一環として、わが国がかねて強力に進めてまいりました対外取引の自由化につきましては、本年において、外貨予算制度の廃止、渡航制限の緩和等を行ない、計上取引に対する為替制度の撤廃を一応終了いたしたいものと考えております。もとより、このような自由過疎地は、国際分業を通じ経済活動の効率を高めるためのものであり、外貨の放漫な使用を許容し、乱費を奨励するものではないのでありまして、国民がそれぞれの立場において、外貨の合理的、効果的な使用につとめ、国際収支の安定に寄与することが強く要望されているのであります。

 近時、国際金融協力の必要性はとみに高まりつつあります。これに即応し、昨年十月、日本銀行は、米国連邦準備制度と主要国中央銀行間のスワップ取り決め網に参加し、国際的な通貨安定対策の一翼をになうこととなりましたが、さらに、わが国は、IMF借り入れ取りきめ参加十カ国蔵相会議の一員として、国際流動性確保のための対策の検討に積極的に参加しておるのであります。なお、このような機運が高まりつつある際に、本年秋のIMF、世銀等の総会がわが東京で開催されることになりましたことはまことに意義深いものがあります。

 また、世界の態勢は、為替の自由化から関税障壁の除去に向かっており、ガットにおいては関税の一括引き下げ交渉が引き続き行なわれております。さらに、低開発国問題につきましても、経済援助の強化に加え、あたらに、ガットや国際連合において、これらの諸国に対し、特恵関税を供与する等、その貿易拡大のための方途が検討されるに至っておるのであります。

 政府といたしましては、これらの動きに積極的に対処しつつ、今後の関税政策を進めてまいる所存でありますが、この際、わが国産業が、かかる動向に即応する体制をできるだけすみやかに整備することが要望されておるのであります。

 最近の国際収支の推移を見ますと、輸出は、主としてわが国産業の国際競争力の強化、海外環境の好調を反映し、順調な伸長を示しておりますものの、輸入が、国際商品価値の高等等、一時的な要因もさることながら、生産の大幅な上昇から顕著な増加を見せ、海運その他の貿易外収支における赤字幅の拡大と相まって、経常収支は、昨年年初来一貫してかなりの逆調を呈するに至っておるのであります。この間、総合収支は、資本収支の黒字によって均衡を維持してまいったのでありますが、欧米諸国における資本市場の動向にかんがみ、今後、外資の流入に大きく期待することは必ずしも容易ではありません。したがいまして、財政金融政策等、各般の施策において万全を期しつつ、貿易収支の均衡回復と貿易外収支の赤字基調是正につとめてまいる所存であります。

 国際収支につきましては、経常収支を均衡させることが望ましいのでありますが、当面、国内資本の不足を補い、国際収支の波動に対処する準備を手厚くするためには、引き続き優良な安定外資の秩序ある導入を図ることが必要であると存じます。

 一方、対外投融資につきましては、わが国の海外市場を確保し、あるいは低開発諸国を援助するためのみならず、対外債務の見合いともなって、わが国国際収支の長期的安定に資するものでありますので、政府といたしましては、今後とも、国際間の協調を念頭に置きつつ、国力の許す範囲内において、堅実な対外投融資を積極的に進めていく所存であります。

 以上、財政金融政策の基本的な考え方と予算の大綱について御説明をいたしました。

 私は、開放体制への本格的な移行というまことに意義深い年に臨み、全く新しい気持ちをもって、この予算を編成したのでありますが、この機会に、私が日ごろ痛感いたしておりますところを率直に申し上げてみたいと存じます。

 まず、予算は国民すべてのものであるということを協調したいのであります。国民の委託を受け、予算の執行にあたる政府、地方公共団体等におきましては、予算の執行に適正を期することはもちろん、さらに進んで、地方の実情等、国民生活の実態を十分わきまえ、効率的にこれを使用するようくふうしなければなりません。しかし、このことは、国民各位の理解と協力がなければ、はなはだ困難であります。予算が、人つくり国づくり等を通じてわれわれの今日の営みにつながり、あすの繁栄を築くものであることを十分理解せられ、政府の施策に協力を寄せられたいのであります。

 次に、資本の蓄積と貯蓄の増強の重要性について重ねて強調いたしたいのであります。

 戦後十八年間、国民のたゆまぬ建設的努力により、わが国の国力は飛躍的に向上してきたのでありますが、国際経済に本格的に仲間入りしていくに際し、さらに一段と経済力を強化するため、従来にも増して、資本蓄積と貯蓄増強につとめなければならないと思うのであります。

 企業におきましては、あくまで自己責任の原則に立ち、慎重かつ合理的な経営を通じて、資本内容を充実し、設備を効果的に高度化し、もって、内外のきびしい環境にも耐え得る力をつちかうことが肝要であると存じます。また、家庭生活にありましても、この際、心を新たにして、むだを省き、健全な消費生活を営み、貯蓄につとめられることが望ましいのであります。このような意味におきまして、このたびの大幅な減税を、企業及び家計において、資本の蓄積と貯蓄の増強に役立てられることを念願いたしておるのであります。

 私は、日本国民の勤勉と良識によって、わが国の経済が将来ますます発展し、より豊かな国民生活が築き上げられるとともに、この上に立って、わが国が世界の自由と平和の建設に大いに貢献してまいることを国民各位とともに信じて疑わないものであります。