データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第61代第1次佐藤(昭和39.11.9〜42.2.17)
[国会回次] 第49回(臨時会)
[演説者] 福田赳夫大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1965/7/30
[参議院演説年月日] 1965/7/30
[全文]

 ここに昭和四十年度の補正予算の御審議をお願いするにあたりまして、その大綱を御説明申し上げまするとともに、わが国現下の経済情勢並びに今後の財政金融政策について、所信の一端を申し述べます。

 まず、今回提出いたしております補正予算について、その概要を御説明いたします。

 昭和四十年度一般会計補正予算(第1号)は、歳入歳出とも約二百十五億円であります。昨年秋東京で開催されました国際通貨基金第十九回総会において採択された決議に基づき、今春、国際通貨基金の増資が決定され、あわせて国際復興開発銀行も増資する運びとなったのであります。わが国といたしましては、最近における世界貿易の発展に伴う国際流動性増強の必要性と、世界経済におけるわが国の地位の向上にも顧みまして、これに積極的に協力することといたし、これら両機関に対する追加出資に要する経費を計上いたした次第であります。また、これが財源につきましては、本件の特殊な性格にかんがみまして、日本銀行特別納付金及び外国為替資金からの受け入れ金を充てることにいたしておる次第であります。

 何とぞ、本補正予算及び関係法律案につきまして、すみやかにご賛同あらんことをお願い申しあげます。

 最近におけるわが国経済の状況を見ますると、輸出は引き続いて堅実な伸びを示しておりますが、国内の経済活動は、ここ数カ月の間、おおむね停滞的であります。特に、産業界におきましては、収益の低下、企業の倒産、株価の低迷など、種々の困難が見られ、経済の停滞感は容易に払拭し切れない状況でございます。

 このような状況をもたらしましたおもな原因は、数年来の急テンポの設備投資などによる経済の量的拡大の反面、資本構成が悪化し、収益率が低下するなど、質的内容の充実がこれに伴わなかったところにあると思うのであります。したがいまして、この不振の現状を打開するには、安易な気持ちでこれに臨むわけにはまいらないのであります。今日の事態のよって来たるところを十分認識し、需給バランスの改善、企業体質の強化など、正しい方向に即し、着実かつ真剣な努力を傾注しなければならないと思うのであります。

 幸いにして、今日、過去の反省から、経済界にも慎重かつ合理的な経営態度を確立しようとする気運が高まりつつあるのであります。現に、一部には、生産や設備の調整など、自主的な立ち上がりの努力も進められており、すでに成果を見せるに至ったものもあるのであります。こうした自主的な立ち上がりの意識や努力が、ひとり不況下においてだけでなく、一般的な心がまえとして、今後の経済界の正しい秩序を打ち立てていくことにつながるものであるとするならば、まことに心強く存ずるものでありまして、政府といたしましても、諸般の施策を通じまして、これを助長してまいりたい所存でございます。

 六月以来、政府は、経済界が立ち上がりの意欲を持って不況と沈滞の意識から脱却し、一日も早く経済が正常な軌道に乗ることができるように、金融、財政各般の施策を推し進めてまいりました。

 まず、金融面におきましては、六月末、公定歩合の再引き下げに踏み切ったのでありますが、このたび、特に中小企業の金利負担の軽減に資するため、政府関係中小金融三機関の金利の引き下げを行なうことといたしております。これらの措置は、日本銀行の窓口規制の廃止、預金準備率の引き下げなどの量的規制の緩和と相まちまして、企業の収益性に明るい期待を与えておるものと考えます。政府といたしましては、今後とも、資金の需給関係を緩和ぎみに保ちながら、市中貸し出し金利の一そうの引き下げにつとめてまいりたい所存であります。

 さらに、財政面におきましては、さきに公共事業費及び財政投融資の繰り上げ支出を決定いたしました。この措置は、目下萎縮ぎみの需要にはずみをつけることを目的としたものでありますが、このたび、これに加えまして、二千億円をこえる住宅、運輸、通信、輸出、上下水道等の財政投融資対象機関の事業の拡充を決定いたしたのであります。これは、当面緊急度が高く、かつ関連事業に与える効果の特に大きい事業を選んだものでありまして、直接の政府需要のみならず、関連する民間部門の需要に対しましても刺激を与え、ひいては国内需要全体にまでその拡大効果を及ぼすことが期待されるものであります。

 なお、輸出の振興と対外経済協力の推進は、長期的にわが国経済にとってきわめて重要な課題でありますが、特に当面、輸出の好調が経済活動をささえる重要な柱となっていることに顧みまして、この際、延べ払い輸出及び経済協力の促進等の諸施策を積極的に推進してまいる所存であります。

 私は、日本国民のすぐれた能力と勤勉さ、近代化された設備と高度の技術水準等を顧みるときに、わが国経済の本来持っている活力は、他の先進諸国に比べ、はるかに若々しく、かつ力強いものがあると考えるのであります。今日われわれの当面している諸困難も、この活力に加えて、克服しようとする意志と努力さえ十分でありまするならば、やがてこれを打開し得て、行く手には繁栄への大道がたんたんと開かれるであろうことを信じて疑いません。

 私は、このたび、日米貿易経済合同委員会に出席し、日米間の懸案について、米国朝野の指導的人物と胸襟を開いて話し合ってまいったのでありますが、米国側は、一様に最近の日本経済の動向に深い関心を示してはいるものの、いずれも、わが国の生産設備が著しく近代化され、また輸出が堅調を続けている事実等から、今回の不況も、過去何回かにわたって示された日本国民の英知によりまして必ずや克服されるであろうと、深い信頼の念を表明しておったのであります。私は、今回の訪米によりまして、一そう日本経済の将来に対する自信と決意を深めた次第であります。

 さらに、政府は、当面の景気対策のみならず、国民が前途に明るい希望と自信を持って経済活動を行ない得まするよう、その指針となるべき長期的な財政政策について目下検討を進めておるのであります。

 申すまでもなく、今後の日本経済の課題は、均衡のとれた経済の拡大を通じまして国民福祉の高い水準を実現していくことであると思うのであります。すなわち、国際収支の均衡と物価の安定を確保することはもちろん、経済各部門の近代化、合理化を促進する一方、経済発展と調和のとれた社会開発を実現することであります。ゆとりのある家庭と蓄積のある企業を柱といたしまして、その上に豊かな福祉社会を築き上げることが、政治の究極の目標であると申さねばならないのであります。私は、この政治目標に奉仕することこそが、財政金融政策の任務であるとかたく信ずるものであります。

 国の財政の運営にあたりまして、国の費用は一銭一厘といえどもこれをむなしゅういたしてはなりません。冗費を節し、限られた資金を最も効率的かつ重点的に使うということが、私の信念でございます。しかしながら、同時に、明るい豊かな社会を建設するためには、社会資本の充実、生活環境の整備、あるいは文教、社会保障、農山漁村、中小企業への諸施策など、財政の果たすべき役割りは今後ますます重要になると思うのであります。これがため増大する財政需要を積極的に充足してまいること、これまた私の重大なる任務であります。

 このように増大する財政需要の財源を一体いずこに求めることとすべきでありましょうか。財政の健全性を保持し、通貨価値の安定を確保することは、もとより財政運営のかなめであり、私は、この根本原則をいささかもゆるがせにしないかたい決意を持つものであります。しかしながら、これまでのように国家財政の財源のほとんど全部を租税に求めることがはたして今日適切であるかどうか、再検討の時期にきていると思うのであります。

 わが国における税負担は、国民所得との対比において、あるいは税率の点において、先進諸国に比べて必ずしも高いようには見えませんが、所得が低くかつ蓄積の乏しいわが国の場合におきまして、個人にとりましても、また企業にとりましても、税の負担は相当な重荷となっておるものと考えるのであります。画期的な大減税こそ第一に取り上げらるべき緊要な課題であると考えるのであります。この意味におきまして、私は、目下、個人と企業の負担を軽減するため、数年間を通ずる計画的かつ大幅な減税の構想を練っておるのであります。

 画期的な減税を行なうためには、まず、何よりも物価の安定を実現しなければなりません。物価の安定が確保されるならば、国民には旺盛な貯蓄心が再建されるのであります。私は、そこに生まれた蓄積を政府の施策に適切に活用すべきものと考えるのであります。この活用、つまり健全な公債政策の導入こそは国の財政に大幅な減税を行なう余裕を与えることと存ずるのであります。減税が行なわれますれば、企業にも家庭にも余力が生じ、貯蓄はさらに進みます。貯蓄が進めば、さらに減税を行ない得る基礎となるのであります。かくして、家庭はゆとりを取り戻し、企業は蓄積を持ち、底の浅い日本経済は質的に逐次改善強化されてまいるものと信ずるのであります。

 このような観点から、政府といたしましては、当面、経済の不況克服に全力を尽くすことはもちろんでありますが、物価問題についても真剣に取り組む決意でございます。

 次に、金融の問題について申し述べます。

 今後の安定的な成長路線におきまして、金融に期待されることは、さきに申し述べました新しい財政の進め方に即応いたしまして、これと一そう有機的な関係を保ちながら、十分にその機能を発揮することでなければならぬと思うのであります。そのためには、金融政策が有効かつ適切に作用する環境と条件を整えていくことが肝要である、かように存ずるのであります。

 政府といたしましては、このような観点から、わが国経済全体の姿を考えながら、金融環境の改善に一段と努力してまいる所存でありまして、今後、貯蓄の増強はもとより、金利機能の活用、長短金融市場の整備、特に公社債市場の育成等の諸施策を、総合的かつ現実的に推進してまいりたい考えでございます。また、わが国経済の諸分野におきまして重要な役割りを果たしている中小企業及び農林漁業の経営基盤を強化し、近代化を進めていくため、その金融の円滑化に今後一そう配慮を加えてまいる所存でございます。

 次に、企業の長期資金調達の場である資本市場の育成も懸案の問題であります。最近の資本市場は、遺憾ながら、その機能を十分果たしているとは言いがたい状況にあります。株式市場の改善につきましては、昨年来、民間各界の協力のもとに各般の施策が講じられてまいったのでありますが、政府としても、今後、資本市場の環境整備のため、証券業界の自主的な体質改善の指導促進を含め、各般の施策を積極的に推進していく所存であります。

 なお、先般来、政府は、証券市場の混乱を未然に防止し、信用制度を保持する必要から、日本銀行と協議の上、諸般の措置を講じてまいりましたが、今後とも必要に応じまして万全の措置をとっていく決意でございます。

 次に、国際経済政策について申し述べます。

 まず、国際収支につきましては、経常収支の黒字を中心に好調な推移を示しておりますが、最近の国際金融市場の逼迫、既存債務の返済の増加などの要因を考えますと、資本取引について安易な見通しを持つことは困難となりつつあるのであります。したがいまして、今後は、引き続き健全な長期安定外資の導入を促進する一方、輸出の一そうの増進をはかり、経常収支の黒字を中心とした国際収支の均衡確保につとめることが必要であると考えるのであります。

 わが国の輸出を伸ばすためには、世界貿易が着実に拡大し、世界経済が繁栄を続けていくことが何よりも重要であります。このような見地から、政府としては、今後とも、国際流動性の強化や国際通貨の安定性の確保について、関係各国と緊密に協力してまいる所存であります。また、ガットにおける関税一括引き下げ交渉につきましても、国内産業に対する影響に十分配慮しつつ、積極的にこれに参加していく考えであります。

 さらに、開発途上にある国々に対しましても、その経済の発展なくしては世界の真の繁栄はあり得ないという認識のもとに、貿易と経済協力の両面を通じて、国力の許す範囲内で、できる限り協力の手を差し伸べたいと考えております。特に、わが国とは地理的にも経済的にも最も密接な関係にあるアジア諸国に重点を置くことといたし、現在その設立の準備が進められておりますアジア開発銀行にも積極的に参加していく所存であります。

 世界の中の日本、特にアジアの中の日本という心がまえこそが、国際経済社会に臨むわが国の基本的方針でなければならないと思うのであります。

 以上、わが国経済の現状と今後の財政金融政策について、私の所信の一端を申し述べた次第であります。

 われわれはいま二つの問題に直面しておるのであります。第一は、今日の不況を一日も早く乗り切ることであります。第二は、これまで築き上げてきた経済発展の成果を基盤といたしまして、さらに、つり合いのとれた福祉社会建設への歩みを進めることであります。もちろん、これら二つの課題は切り離すことのできない問題でありますが、今日の不況を正しい方向に沿って克服してこそ、今後の繁栄への道が開かれるものとかたく信ずるのであります。

 この意味におきまして、政府は、当面不況打開のために全力を尽くす覚悟でございます。国民諸君も勇気と自信を持って協力されんことを期待してやまない次第であります。