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政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第61代第1次佐藤(昭和39.11.9〜42.2.17)
[国会回次] 第51回(常会)
[演説者] 福田赳夫大蔵大臣
[演説種別] 昭和四十年度一般会計補正予算(第三号)等についての演説
[衆議院演説年月日] 1965/12/20
[参議院演説年月日] 1965/12/20
[全文]

 昭和四十年度の補正予算の御審議をお願いするにあたりまして、その大綱を御説明申し上げます。

 今回提出いたしました昭和四十年度補正予算(第3号、特第2号および機第2号)の大綱について御説明いたします。

 昭和四十年度一般会計予算につきましては、経済活動の停滞を反映して租税収入が大幅に減少することが明らかになりましたことに加えて、各地を襲いました台風等による災害の復旧、人事院勧告に伴う国家公務員等の給与の改善、四十年産米の買い入れ価格が当初予算における見込みを上回って決定されたこと等のため、緊急に措置を要する追加財政需要が生じ、歳入歳出の両面から当面の財政処理について特別の措置を必要とするに至りました。

 こうした情勢に対処し、政府としては、補正予算を編成し、次の措置をとることといたしたのであります。

 まず、二千五百九十億円と見込まれます租税収入等の減少につきましては、臨時応急的な特例として、別途提出しております昭和四十年度における財政処理の特別措置に関する法律案に基づき、公債を発行してこれを補てんすることといたしております。この公債は、資金運用部資金による引き受けおよび市中公募により発行することとしておるのであります。

 次に、追加財政需要につきましては、緊急に措置を講ずる必要のあるものとして、公務員給与の改善を本年九月から実施することに伴い必要となる経費、公共土木施設等の災害復旧等事業に必要な経費、農業共済再保健特別会計への繰り入れ、食糧管理特別会計への繰り入れ、消費者米価改定に伴う生活保護費等の増加経費、国民健康保険助成費等義務的経費の不足額の補てんに要する経費、日韓国交正常化に伴い必要となる経費等の項目があります。これらに対しましては、総額千四百十二億円の歳出の追加を行なうことといたしております。この財源につきましては、歳入面で、税外収入の増四百六十四億円、三十九年度剰余金の使用百八十七億円、合計六百五十一億円を補正計上いたしておりますが、なお不足する分につきましては、既定経費の節減、出資金の融資等への振りかえによる節減、予備費の減額等により、七百六十一億円の修正減少を行なって、財源の捻出をはかることといたしておるのであります。

 以上によりまして、昭和四十年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも六百五十一億円を増加して、三兆七千四百四十七億円と相なるのであります。

 次に、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましても、今夏以来実施中の景気対策及びただいま申し述べました一般会計補正等に関連して、特別会計においては、食糧管理特別会計等十五の特別会計、政府関係機関に置いては、日本国有鉄道等六機関について、それぞれ所要の補正を行なうことといたしております。

 また、最近の経済情勢にかんがみ、景気対策の一環として、債務負担行為制度を活用することにより、一般会計、特別会計及び政府関係機関を通じ、公共事業等について約千億円にのぼる契約額の増加をはかることといたしておるのであります。

 最後に、特に地方財政対策について申し上げます。

 まず、地方交付税交付金につきましては、今回の予算補正において所得税、法人税及び酒税の収入見込み額を減額することに伴い五百十二億円の減額となるところ、特別措置として、これを減額せず、当初予算どおりとすることにいたしましたほか、地方公務員の給与改善の財源に資するため、交付税及び譲与税配布金特別会計において資金運用部資金から三百億円を借り入れ、当初の地方交付税交付金にこれを加算することといたしておるのであります。

 また、国税と同様相当大幅な落ち込みが見込まれる地方税等の減収対策につきましても、総額四百億円の地方債を追加し、そのうち資金運用部資金により百五十億円を引き受けることとして、地方財政の対策に遺憾なきを期しておるのであります。

 なお、財政投融資計画におきましても、景気対策の一環として推進しつつある財政投融資対象機関の事業の拡充、地方財政対策及び今回の補正予算に関連して所要の改訂を行ない、日本住宅公団等十機関に対し総額千三百三十五億円の投融資の追加を行なうことといたしておるのであります。

 以上、昭和四十年度補正予算の大綱を御説明いたした次第であります。

 なお、本補正予算についての御理解を深める意味におきまして、当面のわが国経済情勢と、これに対する私の基本的考え方を申し述べたいと存じます。

 最近のわが国経済の状況を見ますと、輸出は引き続き堅調に推移しておりますが、生産活動は依然横ばい基調であります。私は、当面の経済情勢にかんがみまして、先般来の景気対策のすみやかな浸透を期し、今日まで陣頭に立ってその実行の督励に当たってまいりました。財政投融資の繰り上げ措置はすでに目標を若干上回る実績をおさめており、一方、二千百億円の財政投融資対象機関の事業の拡大措置も、発注、支払いは順調に進んでおります。ただ、率直に申しまして、公共事業の施行は立ちおくれぎみでありました。しかし、最近次第に活発化しつつあります。特に、今回の地方財政対策の決定によりまして、今後日増しにその施行、支払いが促進されるものと信じております。

 政府としては、さらに、経済の現局面にかんがみまして、今回の補正予算の編成にあたっては、租税収入の減収に対し、財政規模の圧縮を行なうことなく、あえて公債を発行する措置をとったのであります。

 したがいまして、今夏以来の景気対策に加えて、今回の補正予算に伴う契約及び支出の集中するこれから年度末にかけては、このような財政の運営により経済全般に相当な効果があらわれてまいるものと信じております。

 他方、金融面におきましても、政府は、引き続き資金の需給基調を緩和ぎみに保ちつつ、市中金利の引き下げを促進してまいりつつあります。特に、中小企業小企業金融につきましては、さきに政府関係中小三機関の貸し出し金利の引き下げを行なったのに引き続きまして、これら三機関の本年度下半期貸し出し計画に八百二十億円を追加し、さらに、中小企業信用保険公庫の無担保保険の新設、保険料率の引き下げ等、信用保証制度の強化拡充をはかることといたしておるのであります。

 幸い、今日、経済界におきましては、生産や設備の調整、経営の合理化、企業の合併統合等、企業体質強化のための真剣な不況対応策が進展しつつあります。現在の不況を克服するにあたりましては、民間みずからの積極的な努力と意欲が不可欠であると申さなければなりません。こうした努力こそ、経済界の将来の発展のための基盤をつくるものであると考えるのであります。

 これらの事情を総合的に判断いたしますならば、わが国経済は、今日不況克服のための足固めを終え、今後次第に明るさを取り戻していくものと確信いたしております。

 私は、わが国経済が戦争直後の廃墟の中から立ち上がり、再建復興の段階を経て目ざましい発展を遂げてまいりました今日までの過程におきまして、一貫して均衡財政の方針が堅持されてまいりましたことは、大きな意義を持っていたと思うのであります。しかしながら、いまやわが国経済は新しい段階に入りつつあります。今後わが国経済の、向こうべき道は、今日の国力を基礎として、国際収支の均衡と物価の安定の上に着実な拡大を持続しながら、経済の質的内容を強化充実していくことであると思うのであります。そして、この経済発展の成果を広く国民の資産の増大と生活の向上に結びつけ、もってよりよき福祉社会の実現をはかることこそが、経済政策の究極の目標であると申さなければならないのであります。

 この観点から見まするとき、私は、今後の財政政策の課題は、次の三つの要請にこたえることにあると存じます。

 第一は、豊かな経済社会を実現していくため、社会保障の充実をはかるとともに、社会開発投資を積極的に推進していくことであります。特に、国民の生活の場の改善のため、住宅を中心として、道路、生活環境施設等、立ちおくれている社会資本を整備拡充してまいりますことは、今後財政に課せられた大きな任務であると考えております。

 第二は、このように増大する国の費用を積極的にまかないながら、他面、企業と家庭に蓄積を取り戻し、その安定の基礎を固めるため、財政がその機能を発揮することであります。国の経済の安定は、ただ単に財政がいわゆる均衡財政であることではないと考えます。国の経済を支える企業と家庭の安定こそが、経済安定の前提であり、不可欠の条件であります。これがためには、国民の税負担感がなお重いと思われる現状におきましては、大幅な減税が財政に要請されるのであります。

 第三は、経済の安定的な成長を確保するために、財政運営の弾力化をはかっていくことであります。すなわち、財政と金融が一そう有機的な関係を高めることにより、経済活動の推移に即応した有効適切な景気調整機能を発揮することであります。いまや、財政は経済の動きに対し受け身であってはならないということであります。

 私は、この際、財政政策の基調を転換し、公債政策を導入することにより、わが国の財政に新しい政策手段を装備し、これを健全に活用していくことこそが、この三つの要請にこたえる道である、かように確信いたしております。すなわち、公債の発行によって、社会資本の充実等、財政が本来になうべき役割りを積極的に果たしていくことも、国民待望の大幅減税も可能になるのであります。同時に、景気の動向に応じて、公債の発行を弾力的に調節すること等を通じまして、経済の基調を安定的に推移せしめ、もつてわが国経済の均衡ある発展をはかる道が開かれていくと存ずるのであります。

 特に、今日のように供給力が超過しておる状態のもとでは、健全な公債政策の活用により需要を拡大してまいりますことは、本格的な安定成長路線への地固めを行なう上において不可欠であると申さなければならないのであります。

 公債の発行につきましては、われわれには戦時中及び終戦直後のインフレの苦い経験があります。しかし、極度に資源と物資の欠乏していた当時と、二十年にわたる経済の発展により、国力が充実し、生産力が飛躍的に拡大しておる今日とでは、基本的にその条件を異にしておるのであります。

 もとより、財政の健全性を堅持し、通貨価値の安定を確保することは、経済運営の基本であり、政治に対する国民の信頼にこたえるゆえんでもあります。政府といたしましては、公債政策の導入がいやしくもインフレに連なるがごときことの断じてないよう、最大かつ細心の注意を払ってまいる決意であります。特に、財政の規模をそのときどきの経済情勢の推移から見て適正な限度に維持し、もって国民経済全体としての均衡を確保してまいる決意であります。

 この意味におきまして、公債の発行にあたりましては、第一に、その対象は公共事業費等に限定し、いわゆる経常歳出は租税その他の普通歳入でまかなうこと、第二に、その消化はあくまで市中で行なうこと、という二つの原則を堅持してまいる方針であります。今回の補正予算におきまして日本銀行引き受けの方式をとらなかったのも、この際こうした慣行を確立することが重要であると考えたからであります。

 目下鋭意検討しております昭和四十一年度の予算につきましては、いずれ予算の審議をお願いする際に詳細に御説明する予定で予定でありますが、その編成にあたりましては、これまで申し上げましたような基本的な考え方にのっとり、さらに、当面の経済の動向にかんがみ、積極的な構えでこれに臨む所存であります。

 すなわち、本格的な公債政策の活用により、一方では、国民負担の軽減をはかるため、画期的な大幅減税を実施するとともに、他方では、社会資本の充実等の重要施策について重点的にこれを配慮していく方針であります。

 同時に、いやしくも公債政策の導入に伴い財政が乱に流れることのないよう心するとともに、予算の効率的な活用をはかるよう、財政支出の内容と効果の徹底的な再検討を行なってまいる所存であります。

 いまや、わが国経済は、量的拡大の段階から質的充実の段階に移行すべき時期に際会しております。今日の課題は、現下の不況をすみやかに克服すること、安定成長路線の基礎を固めること、この二つであります。私は、まず不況の克服の問題に取り組み、これに最大の努力を傾ける所存であります。この異常な経済情勢からすみやかに脱却することこそが、豊かな活力に恵まれたわが国経済を本来の安定成長の路線に正しく乗せる道であると確信いたすからであります。

 今日最も大切なことは、政府と国民がこの際一体となって、わが国経済の将来に自信を持ち、困難の打開に立ち向かうことであると信ずるのであります。この意味におきまして、国民各位の一段の奮起と御協力をお願いしてやまないのであります。

 以上、本補正予算の背景をなす事情について御説明申し上げました。何とぞ、本補正予算に対し、すみやかにご賛同あらんことをお願いいたします。