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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第62代第2次佐藤(昭和42.2.17〜45.1.14)
[国会回次] 第57回(臨時会)
[演説者] 水田三喜男大蔵大臣
[演説種別] 昭和四十二年度補正予算等についての演説
[衆議院演説年月日] 1967/12/5
[参議院演説年月日] 1967/12/5
[全文]

 ここに昭和四十二年度補正予算の御審議をお願いするにあたり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて現下の経済情勢と今後の財政金融政策について、所信の一端を申し述べたいと存じます。

 まず、今回提出いたしました昭和四十二年度補正予算の大綱について、御説明いたします。

 一般会計予算におきましては、各地を襲った水害等による災害の復旧、人事院勧告に伴う国家公務員等の給与の改善、四十二年度産米の買い入れ価格の引き上げ等、当初予算作成後に生じた自由に基づく追加財政需要が相次いで生ずるに至りましたので、緊急に措置を講ずる必要のある次の項目について、総額三千十四億円の追加を行なうことといたしました。すなわち、

 一、公務員給与の改善を本年八月から実施することに伴い必要となる経費

 二、公共土木施設等の災害復旧等の事業に必要な経費

 三、食糧管理特別会計への繰り入れ

 四、国民健康保険助成費等義務的経費の追加に要する経費

 五、交通安全対策に必要な経費

 六、産業投資特別会計への繰り入れ

 七、輸出保険特別会計への繰り入れ

 八、診療報酬等の改定に伴う経費の追加

 九、国際分担金其他諸費の追加に要する経費

 十、所得税収入等の追加計上に伴う地方交付税交付金の追加であります。

 以上の財源につきましては、租税及び印紙収入の増二千九百億円、税外収入の増三百十五億円を計上いたしますが、他方、公債金を六百九十億円減額いたしますので、差し引き二千五百二十五億円を充当することといたしております。このほか、歳出におきましては、既定経費の節減及び予備費の減額等四百八十九億円の修正減少を行なうことといたしました。

 以上によりまして、補正予算の規模は、歳入歳出とも二千五百二十五億円となり、昭和四十二年度一般会計予算の総額は、五兆二千三十四億円と相なるのであります。

 特別会計予算におきましては、公務員給与の改善等のため、食糧管理特別会計等十四の特別会計につき所要の補正を行ない、また、政府関係機関の予算におきましても、日本国有鉄道につき、仲裁裁定の実施に伴い不足する財源を補てんするため補正措置を講ずることといたしました。

 なお、財政投融資計画におきましても、地方公共団体、日本国有鉄道、日本輸出入銀行等につき、総額六百四十三億円の投融資の追加を行なうことといたしております。

 何とぞ、本補正予算及び関係法律案につきまして、すみやかに御賛同あらんことをお願いいたします。

 次に、最近におけるわが国の経済情勢について申し述べます。

 日本経済は、昨年以来、予想を上回る勢いで上昇を続けてまいりました。鉱工業の生産活動は、拡大の一途をたどり、生産者の出荷もこれに伴って増大を続けてまいりました。市況は回復し、企業収益も二年間にわたり期を追って増加しております。

 この間、民間企業の投資意欲は次第に盛り上がり、特に昨年後半から製造業の設備投資が本格化し、本年に入って、その増勢は一段と強まってまいりました。このような経済活動の活発化につれて、家計の収入は増加し、民間消費支出も堅調の度を加えております。

 一方、国際収支面では、海外景気の停滞と内需の強調を反映して、本年に入って輸出の伸び悩みが顕著となり、また、輸入は高水準に推移したため、国際収支の赤字基調は、次第にその度合いを強めてまいったのであります。

 このような状況にかんがみ、政府は、去る七月以来、所要の措置を講じてまいりました。

 すなわち、七月には、今年度の国債の発行予定額を七百億円、政府保証債の発行予定額を五百億円、合計千二百億円を減額することといたし、これにより、景気上昇期における財政の節度ある姿勢を明らかにし、あわせて民間企業が投資に対して慎重な態度で望むことを要請したのであります。

 さらに、九月には、国際収支の均衡回復をはかるため、国内の総需要を抑制する必要を認め、総額三千百十二億円にのぼる公共事業費等について、繰り延べの措置を講ずることといたしました。また、金融面におきましては、公定歩合の一厘引き上げ等を行ない、財政金融面から一連の景気調整措置を講じたのであります。

 目下、引き締め措置の効果は、経済各分野に浸透しつつあるものと思われますが、民間投資及び民間消費の基調は、依然として底がたく、国内総需要の圧力は、衰えを見せておりません。

 他方、過日、英ポンドの平価切り下げが行なわれ、これを契機として海外金利も上昇の度を加え、各国の経済運営が慎重さを増しつつあることは、国際経済環境をますますきびしくするものとして注目されます。わが国の国際収支がいまだ改善を見ていない今日、このような事態を迎えたことは、今後の経済運営をいよいよ困難にするものと思われるのであります。

 もとより、円の価値は、わが国経済のゆるぎない力にささえられており、いかなる海外情勢の変化に直面しても、いささかも動揺するものではなく、また、動揺させてはならないと存じます。そのためには、常にあたらしい環境に即応して、慎重な経済運営を行なうことが必要であります。

 最近における海外の事例は、国際均衡を軽視し、国際収支問題の解決にあたって安易な道を選ぶことの対価が、いかに大きいものであるかを教えるものであります。

 政府は、このような内外経済情勢にかんがみ、当面の財政金融政策の運営につきましては、景気抑制的態度を堅持してまいる所存であります。

 明年度予算の編成にあたっては、特に財政規模の膨張を押え、一般会計歳入中に占める公債発行収入の割合を極力引き下げて、公債を伴う財政の景気調整機能を有効に発揮させることとし、一方、近年とみに硬直化しつつある財政体質の改善に積極的に取り組む決意であります。

 わが国の財政は、これまで、急速な経済成長を背景として多額の税の自然増収をあげ、これによって、社会資本の拡充、社会保障の充実等各般の施策を推進する一方、その一部をもって大幅な減税を行なうことができたのであります。しかしながら、この間、歳出はますます多きを求める反面、税負担はもっぱら軽きを望むという気風が醸成されたことは、健全な財政運営をはかるという見地から憂慮すべきことと考えるのであります。

 公債政策導入以来、財政の景気調整機能は重要性を増してきており、この景気調整機能と財政固有の資源配分機能とを相互に矛盾することなく完全に働かせるためには、財政は柔軟な体質を備えなければなりません。

 いまや、わが国財政のあり方は、新たな構想と確固たる決意をもって再検討されなければならないと存じます。従来、ややもすると見受けられた安易な膨張傾向を断ち切り、公経済の各分野における資源配分の優先順位を一段と明確にし、また、公経済と民間経済の受け持つ分野の限界につき反省を加える等、現行の諸制度について、全面的な検討を行なう必要があります。

 もとより、政府みずからも、行政機構の簡素化、定員の縮減、諸経費の節約等に努力する所存でありますが、同時に、国民各位がみずからの家計に対すると同様の真剣さをもって、国の財政問題を考える気風が広く醸成されることを期待してやみません。

 以上、現下の経済情勢並びに今後の政策運営の考え方について申し述べましたが、何とぞ、各位の深い御理解と積極的な御協力を切望いたす次第であります。