データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第63代第3次佐藤(昭和45.1.14〜47.7.7)
[国会回次] 第63回(特別会)
[演説者] 福田赳夫大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1970/2/14
[参議院演説年月日] 1970/2/14
[全文]

 昭和四十五年度予算の御審議を願いするにあたりまして、その大綱を御説明申し上げ、あわせて、今後における財政金融政策について、所信を申し述べたいと存じます。

 ここに、一九七〇年代を迎え、新たな十年への第一歩を踏み出すにあたり、過ぎ去った一九六〇年代を振り返ってみますると、わが国経済の発展にはまことにめざましいものがあったわけであります。

 すなわち、この十年間に、わが国経済は、年率にして実質一一%をこえる成長を達成いたし、その結果、国民総生産は、昨年は六十兆円に達し、いまや、その規模におきまして世界第三位の地位を占めるに至り、また、一人当り国民所得におきましても、十年前の約十一万円から、昨年は四十七万円へと、四倍余りの増大を見たのであります。 

 このようなわが国経済の発展を、物の生産、普及の面で見ますると、鉄の生産は、昨年、粗鋼で八千二百万トンに達し、その規模は、十年前の五倍に拡大いたしておるのであります。

 また、自動車の保有台数を見ますと、この十年間に、百万台から千五百万台へと増大し、テレビジョンはほとんど全世帯が、また電気冷蔵庫は百世帯のうち八十五世帯がこれを保有するに至っております。

 この間、産業構造の高度化は、一段と進展いたしました。また、かつては、人口過剰がわが国経済の宿命のようにいわれていたのでありますが、今日では一転して、労働力の確保が問題とされるに至っているのであります。

 さらに、国際貿易の面におきましても、十年前には、三十四億ドルにすぎなかったわが国の輸出は、昨年は、百五十七億ドルと、四・六倍に拡大をいたし、その世界総輸出に占める割合も、三%から六%へと、二倍に増加いたしておるのであります。

 わが国の国際収支は、かつては外資の流入などによりましてようやく均衡を保持していたのでありますが、今日では、経常収支の黒字が資本輸出をまかなってなお余りある状況であります。かくて外貨準備高も、十年前の十三億ドルから、本年一月末には三十六億ドルに増加いたしております。

 以上のようなわが国経済の急速な拡大の結果、内にありましては、国民生活の水準は格段の向上を示し、豊かで多彩な消費生活が可能となってまいったのであります。また、外にありましては、わが国の国際社会に占める地位は飛躍的に高まり、今日では、国際通貨基金や経済協力開発機構等におきまして、各国から重要な役割りを期待されるに至っております。

 顧みますと、一九六〇年代は、戦後の復興を終えたわが国経済が新しい国づくりへの基礎を固めた年代でありました。

 この輝かしい六〇年代の成果を踏まえ、新たな展望に立って、真に世界に誇るに足る日本国を建設すること、これこそが、新しい七〇年代の国家的国民的目標でなければならないと思います。この目標に向かって立ち上がるべきときが来たのであります。

 この目標を達成するためには、われわれは、二つの課題を解決しなければなりません。一つは、内、経済の質的成長の達成であり、一つは、外、世界経済への寄与貢献であります。

 まず、課題の第一は、経済の質的成長の達成であります。

 すなわち、六〇年代を経済の量的拡大を推進した年代といたすならば、七〇年代は、経済成長の質的内容を高めるべき年代と考えるのであります。

 一九六〇年代には、経済の急速な拡大の反面におきまして、物価問題をはじめ、公害、自然の破壊、交通難、過密過疎現象、老人問題等の諸問題が生じてまいってきておるのであります。また、住宅、生活環境施設、道路、港湾等各種社会資本の充実や、農業、中小企業等の近代化への要請も、格段に高まってきております。

 一九七〇年代におきましては、引き続いて成長政策を進めることといたしますが、これらの諸問題を解決しつつ、成長の成果を国民生活の中に吸収し、均衡のとれた経済を実現して、真に豊かな明るい社会を築いていくよう努力してまいらなければならないと存じます。

 特に、物価の安定は、調和のとれた国民生活の向上を実現するために不可欠のものであります。

 最近、消費者物価のみならず、従来比較的安定していた卸売り物価にも上昇傾向が見られるに至り、物価の動向には楽観を許さないものがあるのであります。

 さらに、七〇年代におきましては、労働力不足の深刻化を背景といたしました物価と賃金の循環的上昇の懸念も、看過することができないのであります。

 成長する経済におきまして、成長政策を進めながら物価の安定を確保することは、きわめて困難な課題であります。しかし、総需要を適正な水準に保つとともに、競争条件を整備し、輸入政策の活用をはかり、経済の効率化を進め、全力を尽くしてその実現に努力いたしたいと存じます。

 第二の課題は、世界経済への寄与貢献の問題であります。

 世界の平和と繁栄なくしては、わが国の繁栄も発展もあり得ないことは申し上げるまでもありません。

 六〇年代に急速な経済成長をなし遂げたわが国は、この間、国際的にもゆるぎない地位を築いてまいったのであります。

 新たに迎えた七〇年代におきましては、経済の国際化が一そう進展する中にありまして、わが国は、世界経済との連携を強化しながら、進んで世界の平和と繁栄に貢献していくべきであり、これこそが、今後わが国の進むべき道であると信じます。われわれは、流動する国際情勢に対処しつつ、国際社会におけるわが国の使命を積極的に果たして、世界各国から真に尊敬される国とならなければならないと存じます。

 そのためにも、まず、貿易・資本の自由化を促進しなければならないと存じます。貿易・資本の自由化は、今日世界の大勢であり、同時に、それは、わが国経済の効率を高め、国民福祉を向上させるために欠くことのできないものであります。したがいまして、われわれは、自由化の持つ積極的意義を十分認識し、社会的経済的障害を克服しつつ、これを強力に推進していかなければならないのであります。

 また、開発途上国の経済の発展は、世界の平和と繁栄のために不可欠のものであります。わが国は、これら諸国の開発努力を支援するため、今後とも、国力の増進に応じ、経済協力、特恵関税の供与等の措置を講じ、一そう積極的にこれらを推進していかなければならないと存じます。

 さらに、国際金融面におきましても、わが国は、今後、国際通貨基金の強化充実に力を尽くすなど、国際通貨体制の安定を確保していくため、一段と積極的な役割りをになっていくべきものと考えます。

 このようにして、内にありましては、均衡のとれ、充実した社会を築き、外にありては、国際社会で積極的にその責任を分担する新日本の建設を進めなければならないと存じますが、その前提として、なによりも必要なことは、また大事なことは、経済の持続的成長を確保することであります。

 わが国経済は、目下五十二カ月にも及ぶ戦後最長の景気上昇を実現し、また、国際収支も好調を持続しております。しかし、今後、成長があまりに速きに過ぎるときは、経済社会の均衡を失し、あるいはその反動として落ち込みを招くおそれなしとしないのであります。

 したがいまして、七〇年代においては、労働力、資源、輸送等、次第にきびしさを加えつつある成長制約条件の打開につとめるとともに、引き続いて慎重にして節度ある経済運営の態度を堅持し、着実な歩調で長期にわたる持続的成長を確保してまいらなければならないと考えるのであります。

 ひるがえって、世界経済の現状を見ますると、数年来動揺を繰り返してきました国際通貨情勢は、ようやく落ち着きを取り戻しましたものの、欧米主要諸国は、賃金・物価の上昇あるいは国際収支の不調に悩み、引き締め政策を遂行中であります。これら諸国の今後の経済動向、特に、米国景気の先行きにつきましては、注視を怠ることができないのであります。

 他方、国内におきましては、総需要の拡大に行き過ぎの懸念が生じたため、昨年秋以降、金融調整措置が講じられてまいりました。現在までのところ、金融面において次第にその影響があらわれつつありますが、実体経済は、なおかなり強い拡大基調を示しているのであります。

 このような内外経済情勢に対処いたしまして、わが国経済の持続的成長を確保していくためには、当面の財政金融政策を、格段の慎重さと節度とをもって運営していくことが必要であります。

 昭和四十五年度予算の編成に当たりましては、このような観点から、経済を過度に刺激することのないよう周到な配慮を加えた次第であります。

 また、金融面におきましても、引き続き金利機能の活用、適正な競争原理の導入、資本市場の整備育成等によりまして、金融の効率化と企業体質の強化をはかり、持続的成長を確保するため、財政面の施策と相まって、慎重な政策運営に配意してまいる所存であります。

 次に、昭和四十五年度予算について、御説明申し上げます。

 その特色は、次の諸点であります。

 第一に、財政面から経済を過度に刺激することのないよう配意したことであります。

 すなわち、財政の規模をできる限り抑制するとともに、公債及び政府保証債の発行額を、前年度当初予定額に比し、それぞれ六百億円減額いたしました。これにより、公債発行額は四千三百億円となり、一般会計における公債依存度は、前年度当初予算の七・二%から五・四%に低下することになっておるのであります。

 さらに、現下の経済財政事情にかんがみまして、法人税を増徴することといたしております。

 第二に、税負担の軽減をはかったことであります。

 最近における国民の税負担の状況にかんがみ、昭和四十五年度におきましては、大幅な所得税の減税を行なうとともに、地方税につきましても住民税を中心とする減税を行なうことといたしました。これによる減税額は、平年度約三千八百億円にのぼる見込みであります。

 第三に、一般会計予算及び財政投融資計画とも、限られた財源の適正かつ効率的な配分につとめ、国民の福祉向上のための諸施策を着実に推進いたしたことであります。

 かくして、一般会計予算の総額は、歳入歳出とも七兆九千四百九十七億円となり、昭和四十四年度当初予算に対し、一兆二千百二億円、一七・九%の増加と相なっております。

 財政投融資計画の総額は、三兆五千七百九十九億円でありまして、昭和四十四年度当初計画に対し、五千二十九億円、一六・三%の増加と相なっております。

 なお、国民経済計算上の政府財貨サービス購入は、前年度に対し、一四・八%の伸びと相なる見込みであります。

 以下、政府が特に重点を置いた施策について、その概略を申し述べます。

 まず、税制の改正であります。

 昭和四十五年度の税制改正におきましては、給与所得者を中心とする中小所得者の負担軽減を主眼として、平年度約三千五十億円にのぼる大幅の所得税減税を実施し、夫婦と子供三人の給与所得者の課税最低限を、年収約百三万円に引き上げるとともに、給与所得控除の拡充、中堅層以下の所得者を中心とする税率の緩和等を行なうことといたしました。

 法人税につきましては、現下の経済財政事情にかんがみ、二年間の臨時措置として、普通法人の所得のうち留保分につき、法人税の負担を現行の五%増に引き上げたのであります。なお、中小法人に対しましては、従来の軽減税率を特にそのまま据え置く等、格段の配慮を行なっておるのであります。

 このほか、企業体質の強化、中小企業対策、公害防止・過密過疎対策、住宅対策等を中心として所要の特別措置を講ずることとしたほか、国民の貯蓄態度に及ぼす心理的影響に十分配意しつつ、利子配当課税の漸進的な改善をはかる等、税制の整備合理化に努めることといたしております。

 なお、地方税につきましても、住民税の課税最低限の引き上げ、個人事業税の事業主控除の引き上げ等、中小所得者の負担軽減をはかることといたしております。

 次に、歳出について申し述べます。

 昭和四十五年度予算におきましては、各般の重点施策の着実な遂行をはかっておりますが、その第一は、社会資本の整備と公害対策の充実であります。

 わが国に経済の均衡ある発展を確保するため、各種社会資本の整備の促進に努めた次第であります。すなわち、住宅・生活環境施設の整備に対し財源の重点的な配分を行なうとともに、道路・港湾・空港・漁港等の整備をはかり、治山治水を推進する等、特段の配意を行なっておるのであります。

 道路整備、海岸事業につきましては、昭和四十五年度を初年度とする新五カ年計画を策定することといたしております。空港整備につきましては、新たに特別会計を設け、利用者の負担を拡充することにより、事業の促進をはかることといたしております。また、本州・四国間の架橋につきましては、本州四国連絡橋公団を新設することといたしております。

 次に、公害対策につきましては、引き続き大気汚染防止対策、水質保全対策を強化するとともに、研究調査体制を整備し、また、重油脱硫に対し関税軽減を行なう等、特段の配慮を加えております。

 第二は、社会保障の充実であります。

 社会保障施策につきましては、経済の発展と国民生活の向上に応じ、年々充実をはかってまいりましたが、昭和四十五年度におきましても、生活扶助基準の引き上げを行なうほか、福祉年金の改善等、低所得者層に対する施策の充実をはかっております。

 また、児童、母子、老人、身体障害者等の福祉対策、看護婦要請等の保健衛生対策につき、引き続き、きめこまかく配慮いたしておるのであります。

 第三は、農林漁業及び中小企業の近代化についてであります。

 農業につきましては、米の生産が需要を大幅に上回り、過剰米の在庫が累積しつつある状況にかんがみ、農政の新たな展開をはかることといたしております。すなわち、生産者米価及び消費者米価の水準を据え置く方針をとることとするとともに、百五十万トン以上を目標として、米の生産調整対策を講ずることといたしました。農地の転用を推進するほか、八百十億円の奨励金を計上して、米の減産をはかることといたしておるのであります。

 また、開田、干拓は、厳にこれを抑制することといたしましたが、農業の生産性向上と農業家所得の安定向上をはかるため、農道等の整備、畜産・園芸の振興、農産物の流通改善等を推進することにいたしております。

 なお、農業の経営規模拡大と老後の生活安定に資するため、新たに農業者年金制度を創設することといたしました。

 中小企業対策につきましては、中小企業振興事業団、国民金融公庫、中小企業金融公庫、商工組合中央金庫等の融資規模の拡充を中心に、その充実をはかっております。

 第四は、文教及び科学技術の振興であります。

 文教につきましては、文教施設の整備、特殊教育及び僻地教育の充実、分化{前2字ママ}・体育の振興、情報教育の拡充当、各般の施策を引き続き推進するほか、私学の国家社会に対する役割りと経営の現状にかんがみ、新たに経常費補助を創設して、教育研究水準の向上をはかることといたしておるのであります。

 科学技術につきましては、動力炉の開発、宇宙開発、海洋開発を中心に、大幅な拡充をはかることといたしております。

 第五は、経済協力の推進及び貿易の振興であります。

 このため、日本輸出入銀行及び海外経済協力基金の事業規模の拡大、技術協力の強化等の施策を通じ、わが国経済の実情に応じつつ、その推進をはかることといたしております。

 以上のほか、沖縄と本土との一体化を推進するとともに、防衛力の整備、法秩序の維持、交通安全対策等に特に配慮をいたしております。

 最後に、昭和四十五年度の地方財政は、引き続き地方税、地方交付税等の歳入の大幅な増加が見込まれるのでありますが、現下の経済情勢にかんがみ、国と同一の基調で、重点主義に徹し、節度ある運営を行なうとともに、将来に備え、地方財政の健全化を一そう推進するよう切に期待するものであります。

 なお、この際、昭和四十四年度補正予算について、一言申し述べたいと存じます。

 今回、公務員給与の改善、義務的経費の追加に要する経費、診療報酬の改定に伴う経費の増加、米の政府買い入れ量増加等に伴う食料管理特別会計繰り入れの追加、地方交付税交付金の増額等を内容とする補正予算を提出いたしました。

 このうち、給与改善に要する経費につきましては、既定経費の節減及び予備費の減額をもって、これに充てることといたしております。

 他方、昭和四十四年度におきまする公債発行額を四百億円減額することにいたしておるのであります。

 以上の結果、この補正により追加される額は、千九百十三億円であり、昭和四十四年度予算は、歳入歳出とも、それぞれ六兆九千三百八億円と相なる次第であります。

 以上、予算の大綱について御説明をいたした次第であります。

 いまや、わが国は、新たな展望のもとに、真に世界に誇るにたる日本国を築くべく、ここに、その第一歩を踏み出したのであります。

 しかしながら、わが国経済の前途には、幾多の困難な問題が横たわっていることもまた忘れてはならないのであります。これらの障害を一つ一つ着実に克服し、長期にわたる持続的成長を達成し、国際社会におけるわが国の責務を積極的に果たしつつ、真に豊かで希望に満ちた社会を築きあげていくこと、これこそが一九七〇年代におけるわれわれの目標であります。

 私は、今後も、財政金融政策をより一そう総合的視野のもとに、節度をもって運営し、この目標を達成するため、全力を傾倒してまいる決意でございます。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。