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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第63代第3次佐藤(昭和45.1.14〜47.7.7)
[国会回次] 第67回(臨時会)
[演説者] 水田三喜男大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1971/10/19
[参議院演説年月日] 1971/10/19
[全文]

 ここに、昭和四十六年度補正予算の御審議をお願いするにあたり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて、最近の内外経済情勢と今後の財政金融政策について所信の一端を申し述べたいと存じます。

 今回提出いたしました昭和四十六年度補正予算の大綱について御説明いたします。

 昭和四十六年度の財政運営にあたりましては、経済の動向に即応し、公共事業等の施行の促進、財政投融資の数次にわたる追加等の措置を講じてきたところでありますが、米国の輸入課徴金の賦課及び円の為替変動幅の制限の暫定的停止という新たな事態に対処するため、公共事業を中心とする公共投資の追加、中小企業対策の拡充強化等、緊要と認められる経費について措置するとともに、所得税減税を年内に実施するため、所要の予算補正を行なうことといたしました。

 公共投資につきましては、国内需要を喚起し、国民生活の向上と社会資本の整備を一そう推進するため、治山治水、道路、港湾、住宅、下水道、農業基盤の整備等の一般公共事業のほか、災害復旧、各種文教施設、社会福祉施設整備等をあわせ、事業費の規模で約五千億円を追加することといたし、このため、所要の歳出予算及び国庫債務負担行為の追加を行なうことといたしております。なお、このほか、日本国有鉄道及び日本電信電話公社につきましても、建設工事規模の拡大をはかることとし、所要の予算補正を行なうこととしております。

 次に、米国の輸入課徴金の賦課、円の為替変動幅の制限の暫定的停止などによって影響をこうむる輸出関連中小企業について、政府関係中小企業金融三機関による長期低利の融資、信用補完制度の拡充、設備近代化資金の償還期限の延長等の措置を講ずることといたし、このため、商工組合中央金庫及び中小企業信用保険公庫に対する出資の追加並びに中小企業設備近代化補助金の追加等を行なうことといたしております。

 以上のほかに、一般会計歳出予算につきましては、人事院勧告に基づく公務員の給与改善費、米の生産調整関係経費、対米繊維輸出規制に伴う特別措置に必要な経費、農業共済再保険特別会計への繰り入れ、義務教育費国庫負担金等の義務的経費の不足額の補てんを追加するとともに、既定経費の節減、予算費の減額等を予定いたしております。

 税制面につきましては、これまでの国民各位のたゆまざる御努力に報い、また、景気のすみやかな回復に資するため、所得税の減税を特に繰り上げて、年内減税に踏み切ることといたしました。減税の規模は千六百五十億円を予定しておりますが、給与所得者については年末調整の際に、事業所得者等については確定申告の際に減税の効果が現われるように、目下、関係法律案の準備を急いでいるところでありまして、できるだけ早い機会に国会での御審議をお願いいたしたいと存じております。

 歳入につきましては、現下の経済情勢にかんがみ、国債七千九百億円を増額するとともに、所得税減税の年内実施、経済活動の停滞等による減収見込み等を考慮し、租税及び印紙収入並びに日本銀行納付金を減額するなど、所要の補正を行なうことといたしております。

 この結果、昭和四十六年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも二千四百四十七億円を増加して、九兆六千五百九十億円と相なるのであります。

 次に、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましては、ただいま申し述べました一般会計予算補正等に関連して、道路整備特別会計等の特別会計及び日本国有鉄道等の政府関係機関につき、それぞれ所要の予算補正を行なうことといたしております。

 なお、財政投融資につきましては、経済の動向にかんがみ、すでに昭和四十六年度一般会計予算総則に織り込まれた政府保証債の発行限度の弾力措置を活用したほか、資金運用部資金等を財源として、合計四千四百四十九億円の追加を行なったところでありますが、今回の補正予算に関連して、さらに二千六十四億円の追加を行なうことといたしております。

 最後に、地方財政対策について一言申し述べます。

 今回の補正予算において国税三税の収入見込み額を減額したことに伴い、地方交付税法に従い、地方交付税交付金を減額することといたしておりますが、地方財政の現状にかんがみ、このうち所得税の減税に伴う地方交付税交付金の減五百二十八億円については、特に一般会計が補てんし、その差額及び地方公務員の給与改定財源の不足額については、交付税及び譲与税配付金特別会計が資金運用部資金を借り入れ、これを財源として交付することといたしております。

 なお、公共投資の追加に伴う地方公共団体の負担、地方税の減収につきましても、それぞれ適切な措置を講ずることといたし、地方財政対策に遺憾のないよう配慮しております。

 以上、昭和四十六年度補正予算の大綱を御説明いたしました。

 何とぞ、補正予算及び関係法律案につきまして、すみやかに御賛同あらんことをお願いいたします。

 この機会に、最近の内外経済情勢と今後の財政金融政策について、一言申し述べたいと存じます。

 第二次大戦後、国際経済は国際通貨基金やガットなどの国際機関を中心に、各国が相協力して固定為替相場制を維持しながら、自由、無差別、互恵の精神のもとに順調な拡大を続けてまいりました。しかしながら、去る八月に米国がドル防衛のために輸入課徴金の賦課、ドルの金への交換の一時停止の措置を講じまして以来、主要国は何らかの形で変動為替相場制への移行を余儀なくされ、世界経済は貿易や通貨の問題をめぐって現在大きく動揺しております。

 このような国際経済情勢にかんがみ、私は、九月以降、二度にわたる十カ国蔵相会議や国際通貨基金の総会など、各種の国際会議に出席し、各国通貨当局の首脳と隔意のない会談を通じて真剣な協議を重ねてまいりました。各国とも、現状を打開するためには、平価調整を含む総合的な措置が必要であり、また、何らかの形で国際通貨制度を改革しなければならないという点で共通の認識が深まりつつあります。しかし、現段階におきましては、問題点が明らかになった程度であり、具体的な平価調整の内容、時期等につきましては、依然確たる見通しは立ちがたい状況にあります。

 現在の国際通貨不安の根本的な原因は、米国の国際収支が著しく悪化していることにあることは明らかであります。しかしながら、ドルが現行の国際通貨制度のもとで基軸通貨として果たしている役割りを考えますと、ドルの弱体化は、米国一国だけの問題ではなく、世界的な問題としてその解決を考えていかなければなりません。したがいまして、政府といたしましては、主要国に対して、現在の国際通貨問題の解決のために公平な負担を分かち合うことを主張してまいりましたが、今後、各国が多角的平価調整に応ずる場合には、わが国も進んでそれに参加するという立場をとり、長期にわたる国益と国際協調との調和をはかりながら、事態の早期解決に全力を尽くす所存であります。

 また、輸入課徴金は、自由な貿易を著しく阻害するものであり、ガットの精神に反するものであります。わが国としては、日米貿易経済合同委員会あるいはガット等国際会議の場を通じて、課徴金の撤廃を強く米国に働きかけているところであります。

 これと同時に、国際的に台頭しつつある保護貿易主義、地域主義を抑制し、自由な貿易体制を維持発展させていくためには、わが国自身としても経済の国際化を一段と推進する必要があります。先般、総合的対外経済政策を決定し、逐次その実施をはかってきたところでありますが、今後ともこの基本線に沿って、貿易・資本の自由化、関税の引き下げ、経済協力の拡充などを推進してまいる所存であります。

 次に、国内の経済動向に目を転じますと、昨年の秋以降、景気は急速に下降局面に入り、本年に入ってからもしばらくは沈滞の様相を呈しておりましたが、これまでとられてきた金融緩和措置、財政投融資の追加などの景気対策の効果の浸透とともに、六、七月にかけて、景気は回復のきざしを見せておりました。しかしながら、これから立ち上がろうとしたやさきに、国際通貨情勢の動揺に直面し、輸出環境の悪化、設備投資意欲の減退等、実体経済面に大きな影響を受け、このまま放置すれば、景気の回復はかなりおくれることが懸念されております。

 政府といたしましては、当面大きな影響をこうむることが懸念されている輸出関連中小企業に対して、緊急対策を閣議決定し、金融、財政、税制を通じてきめこまかい措置を講ずると同時に、中小企業製品の輸出成約の円滑化のために、外貨預託を活用するなど、その経営の安定のために格段の配慮を行なったところであります。

 さらに、景気のすみやかな回復をはかるため、財政面におきましては、本年度の補正予算の中に来年度への展望をも織り込み、公共事業等の事業規模を拡大するほか、所得税の年内減税を実行するなど積極的な措置を講ずると同時に、市中消化に十分配意しつつ公債政策の活用をはかることとし、相当量の国債の追加発行を行なうことといたしました。これらの施策は、単に景気対策としてだけではなく、むしろ産業活動に比し、これまで相対的に立ちおくれている社会資本の整備を促進し、国民生活の向上に資するものと期待しております。

 さらに、金融面におきましては、昨年十月以来、公定歩合は四回にわたり合計して一%の引き下げが行なわれ、これに伴い市中金利も次第に低下してまいりました。本年九月からは一連の長期金利引き下げも実施され、金融緩和基調は、国際収支の大幅黒字を背景に、実体経済に浸透してきておりますが、今後、季節的な金融緩慢期を迎え、この傾向は一そう促進されるものと思われます。また、今後、経済の国際化が進展するに伴い、内外資金の流出入は一そう増大することが予想されますが、金融政策面におきましては、金融調整手段の一そうの整備に努めていく所存であります。

 また、最近の金融環境の変化や国債発行の増額等の事態に対応し、公社債の円滑な発行、流通のため、金利機能が十分発揮できるような資本市場の整備育成をはかる方向で、一そうの努力をしてまいりたいと考えております。

 なお、沖縄の本土復帰に伴う対策といたしましては、県民の生活に急激な変化をもたらすことのないよう、租税、関税等について特別の措置を講ずるほか、通貨交換に関する地元の要望を考慮し、復帰に際し、特に県民に給付金を支給することとするなど、格別の配慮を払っております。

 戦後二十六年、わが国経済は目ざましい成長を続け、幾多の成果をおさめてまいりました。

 今後、われわれに課せられた目標は、これまでの経済成長の成果を国民生活の質的充実に結びつけることであり、それが国民各位の勤勉と努力にこたえるゆえんであると存じます。

 このような経済運営の転換期にあたり、わが国経済は、国際通貨体制の動揺という、きわめて困難な状況に直面することになりましたが、政府は、財政金融政策の総力をあげて、この試練を乗り越え、内外均衡を達成しつつ、真の国民福祉の向上に邁進する所在{前1字ママ}であります。

 政府の施策に対する国民各位の御理解と御協力を切望する次第であります。