[内閣名] 第64代第1次田中(昭和47.7.7〜47.12.22)
[国会回次] 第70回(臨時会)
[演説者] 植木庚子郎大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1972/10/28
[参議院演説年月日] 1972/10/28
[全文]
ここに、昭和四十七年度補正予算の提出にあたり、その大綱を説明申し上げ、あわせて最近の内外経済情勢と今後の財政金融政策につき、所信の一端を申し述べたいと存じます。
まず、今回提出にかかる昭和四十七年度補正予算の大綱につき、御説明申し上げます。
最近の国内経済は、本年度における積極大型予算の執行、数字にわたる公定歩合の引き下げなど財政金融面からの諸施策が講じられたこともあり、おおむね順調な景気回復の過程をたどっております。しかし、社会資本の整備等に対する国民の要請はなおきわめて強いものがあり、他方、国際収支面では、昨年末の通貨調整後もかなり大幅な黒字が続いております。
政府は、これら内外の諸情勢に顧み、昭和四十七年度補正予算の編成にあたりましては、人事院勧告の実施等に伴う公務員の給与改善費、法人税の増収に伴う地方交付税交付金の追加、米の生産調整に要する経費、義務教育費国庫負担金等の義務的経費の追加等につき、所要の補正措置を講ずるほか、社会資本の整備を一そう促進しますとともに、当面の緊急課題たる国際収支の均衡回復に資するため、公共投資の追加を行なうことといたしました。公共投資につきましては、一般公共事業及び災害復旧事業のほか、社会福祉、文教、医療関係その他の各種施設の整備等をあわせ、事業費の規模で約一兆円の追加を行なうこととし、これらに必要な歳出予算及び国庫債務負担行為の追加を行なうことといたしております。
以上の歳出の追加に伴う財源といたしましては、既定経費の節減、予備費の減額を行なうほか、歳入予算において、租税及び印紙収入の増加二千八百二十億円を計上しますとともに、国債三千六百億円を増額するなど、所要の補正措置を講ずることといたしております。
この結果、昭和四十七年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも六千五百十三億円を増加して十二兆千百八十九億円と相なるのであります。
また、ただいま申し述べました一般会計予算補正等に関連して、道路整備特別会計等の特別会計及び日本国有鉄道等の政府関係機関につきましても、それぞれ所要の予算補正を行なうことといたしております。
なお、財政投融資につきましては、すでに去る八月に二千六百六十八億円の追加を行なったのでありますが、さらに今回の予算補正等に関連しまして、総額五千三十億円の追加を行なうことといたしております。
以上が昭和四十七年度補正予算の大綱であります。
何とぞ、関係の諸法律案とともに、御審議の上、すみやかに御賛同あらんことをお願いいたします。
この機会に、最近の内外経済情勢と今後の財政金融政策について一言申し述べたいと存じます。
昨年末に行なわれました多国間の通貨調整は、戦後四半世紀にわたる国際経済体制に一転機を画するものであり、いまや、国際通貨制度の改革は、国際経済面における最も重要な課題となっております。私は、去る九月末、国際通貨基金及び世界銀行の年次総会に出席し、あわせて各国の通貨当局の首脳と会談してまいりましたが、各国とも、国際通貨制度の改革に強い意欲を示しており、本課題解決の準備を担当する二十カ国委員会の正式発足とも相まちまして、その作業はいよいよ本格的着手の段階に入りました。
他方、貿易面につきましては、世界貿易の拡大、自由化の促進を目的とする次期国際ラウンド交渉の明年からの開始を目ざして、鋭意準備作業が進められております。
わが国といたしましては、国際的地位の向上とこれに伴う国際的責務の増大を認識し、新しい国際経済秩序確立のための国際会議におきましては、これを成功に導くよう積極的に寄与する心がまえが肝要と存じます。
次に、わが国の最近の国際収支の動向について見ますと、昨年末に行なわれた通貨調整後も、なお相当の貿易収支の黒字が続いております。通貨調整の効果が国際収支面に浸透するまでにかなりの期間を要しますことは、国際的に共通した認識となっておりますが、国際収支の現況に徴しまするとき、これを適正な水準に戻すためには、引き続き格段の政策努力を払うべきものと考えます。
政府は、本年五月、対外経済緊急対策を策定し、諸般の措置を講じてまいりましたが、この際さらにその内容を拡充することといたしまして、去る十月二十日、輸入の拡大、輸出の適正化、資本の自由化、経済協力の拡充、福祉対策の充実等、対外経済関係の調整を主眼とする総合的な諸施策の推進を決定し、そのすみやかな実施をはかりますため、所要の法律案をこの国会に提出することといたしました。
また、目を国内の経済動向に転じますと、わが国経済は今後も引き続き着実な成長を続けるものと思われますが、これまでの高度の成長に伴い、公害問題をはじめとする各種のひずみが増大するにつれまして、国民は、いまや、成長と福祉との調和を求め、真に人間性豊かな福祉社会の建設を待ち望んでおります。
この意味におきまして、今後の経済政策の基本的課題は、安定経済成長のもとで国民生活の質的充実をはかりますとともに、あわせて対外均衡の回復を達成することにあると存じます。
よって、今後の財政金融政策の運営にあたりましては、充実した経済力と国際収支のゆとりを活用し、物価の安定に十分配意しつつ、相対的に立ちおくれている社会資本の整備と社会保障の充実のため、積極的に努力いたしてまいることが肝要であります。これと同時に、長期的な展望のもとに、国民の税負担等のあり方につき本格的な検討を加え、また、公債政策の健全な運営をはかることにより、民間部門と政府部門の間における資源配分の適正化を進める必要があると考えます。
また、激動する内外の経済情勢に即応し、各般の施策を機動的に活用してまいりますため、金融環境の整備及び証券市場の育成指導に努めてまいる所存であります。
以上申し上げましたように、わが国は、いまや内外にわたる新たな試練と転換のときを迎えており、その前途には早急に解決をはかるべきたくさんの問題をかかえております。
私は、このときにあたり、内においては豊かな福祉社会を建設し、外に対しては国際協調の精神をもって世界経済の発展に寄与し得ますよう、財政金融政策の運営に全力を尽くしてまいる所存であります。
国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。