データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第65代第2次田中(昭和47.12.22〜49.12.9)
[国会回次] 第72回(常会)
[演説者] 福田赳夫大蔵大臣
[演説種別] 昭和四十八年度補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1973/12/1
[参議院演説年月日] 1973/12/1
[全文]

 ここに、昭和四十八年度補正予算を提出するにあたりまして、わが国当面の経済情勢と財政金融政策について所信の一端を申し述べますとともに、補正予算の大綱を御説明いたします。

 これまでのわが国経済は、国民のたゆまざる努力によりまして世界に例を見ないほどの高い成長を達成し、その過程におきまして国民の生活水準も格段に向上し、国際社会におけるわが国の地位もとみに重要性を加えてまいったのであります。

 しかしながら、近年、国際経済社会において無視することができなくなってきたことは資源不足の問題であり、このことは、資源の海外依存度がきわめて高いわが国経済にとりまして、特に重要な意味を持つものであります。すなわち、諸外国との協調を維持する上でも、また、諸外国との強調を維持する上でも、また、諸外国との強調を維持する上でも、従来のような高い成長の持続を困難とする新しい局面を迎えておるのであります。

 今後の経済政策の運営にあたりましては、物価の安定、国際収支の均衡維持に加え、資源および環境面からの制約に十分配意しつつ、適正な成長を維持していくという基本的姿勢が肝要となるものと存じます。

 私は、現下の経済情勢に照らし、いまや、物価問題の解決こそは、すべてに優先して取り上げらるべき政策課題であり、これに全力を傾注してまいらなければならないと存ずるのであります。物価の安定は、経済的にも精神的にも安定した国民生活の基盤となるものであり、豊かな福祉社会実現のための不可欠の前提であります。御承知のとおり、わが国の物価は、昨年秋以降、強い騰勢を続けてまいりました。このたびの物価上昇は、海外における物価高騰の影響など多くの要因に基づくものでありますが、何よりも国内需要の急速な拡大によるものと考えられます。このような物価動向に対処するため、政府は、年初来、財政金融政策を初めとする各般の施策を講じてきたところであり、これら諸施策の効果は漸次浸透しつつありますが、物価の上昇基調にはなお根強いものがあるのであります。

 このような情勢のもとにおいて、今般、アラブ産油国による石油の生産及び供給制限の問題が生じたのであります。この新たな事態の発生は、国民経済及び国民生活に大きな影響を及ぼすことが予想され、諸般の緊急施策をも必要とするに至っておるのであります。

 私は、わが国の経済が供給力の制約という新たな事態に直面している現状において、需給の均衡を確保するためには、総需要の抑制をはかることが最も肝要であると考えております。このような観点から、財政金融政策につきましては、一そう抑制的な運営につとめてまいらなけらばならないと存じます。また、国民各位が堅実な消費態度を保ち、将来の生活設計を立てることができますよう、政府といたしましても、貯蓄の推進に一段と配意してまいります。

 次に、今回提出にかかる昭和四十八年度補正予算(第一号、特第一号及び機第一号)の大綱につき、御説明申し上げます。

 以上申し述べましたようなわが国経済の現状に顧み、今回の補正予算は、歳出に追加する経費を特に緊要にしてやむを得ない事項にしぼるとともに、その内容におきましても経済に対する影響を最小限にとどめるよう配意いたしておりまするし、さらに、租税及び印紙収入の増加のうち、財源に充当した残高はあげて公債発行の減額に充てるなど、節度ある財政運営に徹することを基本として編成いたしました。

 すなわち、一般会計歳出予算におきましては、国家公務員の給与改善、米の政府買い入れ価格の引き上げ等に伴う食糧管理特別会計への繰り入れの追加、生活保護基準等の引き上げ、所得税等の増収に伴う地方交付税交付金の追加等に要する経費を計上いたすことにいたしております。

 これらの歳出の追加に要する財源といたしましては、既定経費の節減、予備費の減額を行うとともに、歳入予算においては、租税及び印紙収入の増加等を計上したほか、公債発行額につきましては五千三百億円の減額を行なっております。

 以上の結果、昭和四十八年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも九千八百八十六億円増加し、十五兆二千七百二十六億円となっております。

 また、特別会計及び政府関係機関につきまして所要の予算補正を行なうとともに、財政投融資につきましても追加措置を講ずることといたしました。

 以上、わが国当面の経済情勢及び財政金融政策について申し述べ、補正予算の大綱について御説明いたしました。

 わが国は、国民の創意と活力によりまして、これまで幾多の困難を克服し、偉大な経済の発展をなし遂げてまいりました。この偉大な経済力をもっていたしますれば、公害、過密・過疎、住宅、社会保障など、現在わが国が直面している諸問題を解決し、誇るべき福祉社会を建設することは、十分可能であります。わが国の将来に対しましては、明るい展望を持つことができるのであります。

 しかしながら、当面最も緊急に対処すべき問題は、物価の上昇と石油問題であります。わが国経済の将来への展望の足がかりを築くためには、何よりも、まずこの二つの問題を解決することが必要であり、国民の政府に対する期待もまさにこの点にあるものと信じます。

 この期待にこたえることこそ政府に課せられた責任であります。この責任を果たすため、政府は率先して有効適切な施策を果敢に実行してまいります。私は、最善を尽くし、もってこの難局を乗り切る決意であります。

 国民各位の深い御理解と御協力を切望してやみません。