[内閣名] 第66代三木(昭和49.12.9〜51.12.24)
[国会回次] 第74回(臨時会)
[演説者] 大平正芳大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1974/12/14
[参議院演説年月日] 1974/12/14
[全文]
ここに、昭和四十九年度補正予算を提出するにあたり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて、最近の内外経済情勢と当面の財政金融政策につき、所信の一端を申し述べたいと存じます。
今次補正予算に計上いたしました経費は、人事院勧告の実施に伴う公務員給与改善費、災害復旧等事業費、米の政府買い入れ価格の引き上げ等に伴う食糧管理特別会計への繰り入れの追加、公立文教施設及び社会福祉施設の建築単価の改定、福祉年金等の年金額の改定実施期日の繰り上げ等及び生活扶助基準等の引き上げに伴う経費の追加、医療費の改定、義務教育費国庫負担金等の義務的経費の追加、所得税及び法人税の増収等に伴う地方交付税交付金の追加等、緊要にしてやむを得ないものに限定いたしております。これらによる歳出追加額は二兆二千六百八十六億円にのぼっておりますが、他方、既定経費の節減五百九億円及び予備費の減額千百九十億円を修正減少することといたしておりますので、歳出予算補正の規模は、差し引き二兆九百八十七億円となっております。この補正規模は、相当巨額なものでありますが、歳出の内容は、人事院勧告の完全実施、災害復旧事業、地方交付税交付金の追加計上等、今日の状況のもとにおきまして真にやむを得ないもののみでございます。
歳入につきましては、租税及び印紙収入の増加見込み額一兆六千百二十億円、その他収入の増加見込み額二千百七十六億円を追加計上いたしますほか、地方交付税交付金の四十八年度精算額に相当する前年度剰余金受け入れ二千六百九十一億円を加え、合計二兆九百八十七億円を計上することといたしております。
この結果、昭和四十九年度一般会計予算の総額は、歳入歳出とも十九兆千九百八十一億円となります。
なお、特別会計及び政府関係機関につきましても所要の予算補正を行いますとともに、財政投融資につきましても、追加措置を講ずることといたしております。
何とぞ、関係の法律案とともに、御審議の上、すみやかに御賛同賜わりますようお願い申し上げます。
この機会に、最近の内外経済情勢と当面の財政金融政策について一言申し述べたいと存じます。
今日、世界経済はかつてない激動の時期を迎え、世界的な規模で進行するインフレーションのもとで、景気の後退と失業の増大が次第に深刻化いたしております。そうした中にありまして、各国政府は、いかにして不況を招来することなくインフレを収束させるかというきわめて困難な課題に取り組んでおりますが、いずれの国も十分その効果をあげているとは言えない状況でございます。また、石油価格等の高騰を契機として、各国の国際収支構造は急激に変化し、国際収支の不均衡がこれまた世界的な規模で生じております。
このような状況を乗り切るためには、各国が国際協調の精神に立脚して忍耐強く、かつ、冷静に事態に対処してまいることが不可欠の前提であると思います。わが国といたしましてもみずからの足場を固めつつ、あらゆる分野で国際協調の原則を貫き、世界経済の新たな秩序の確立に積極的な役割りを果たしてまいらなければならないと考えております。
次に、当面の国内経済の運営について申し述べます。
昨秋の石油危機を契機といたしまして、物価は異常な高騰を示すとともに、国際収支は大幅な赤字を記録するに至りました。そこで、政府は、物価の安定を最重点の政策目標といたしまして、財政、金融両面にわたる厳しい総需要抑制策を実施してまいりました。こうした政策の効果が、国民の協力を得まして経済の各分野に逐次浸透いたしました結果、今春以降物価の騰勢は鈍化し、卸売り物価、消費者物価とも鎮静化の傾向をたどりつつあります。また、国際収支におきましても貿易収支は黒字に転じ、長期資本収支もかなりの改善を見るに至っております。
かくして、需要超過によるインフレの高進は回避されつつありますけれども、インフレ心理はなお根強く、かつ、賃金その他物価を押し上げる要因は依然として強く働いております。また、これまでのように生産性の向上をはかることが困難な状況のもとでは、賃金の著しい上昇は物価の高騰を招き、国際競争力の低下をもたらすことが懸念されるのであります。このような賃金と物価の悪循環を断ち切り、経済を安定した軌道に乗せるためには、国民各層の節度ある対応が期待されますが、政府としては、何よりもまず物価の安定に最大限の努力を傾注し、国民の期待するような実績をあげてまいらなければならないと考えております。
さらに、石油などの資源や食糧について、その価格と需給の安定は、にわかには期待できないばかりか、ますます重要な課題になってきております。こうした状況のもとでは、国民の一人一人が資源の節約とその活用に努めますとともに、政府におきましてもわが国経済の省資源化をはかるべく一層の努力を傾けなければなりません。なお、資源問題に対処する過程におきましては、環境問題、労働力問題等への対応と相まちまして、わが国経済の成長のテンポを適正な範囲にとどめなければならないことも、いわば大方のコンセンサスになってきたものと考えます。
以上申し述べますような状況のもとにおきまして、政府は引き続き抑制的な基調のもとで経済の運営をはかってまいらなければならないと考えております。すなわち、金融引き締め基調を維持いたしますとともに、五十年度予算につきましても、でき得る限り予算規模の圧縮をはかる等、抑制的な姿勢を貫いてまいる所存でございます。
このように、政府は、経済の運営にあたり、抑制的な基調を堅持しておりますが、これによって、社会的、経済的に恵まれない方々や健全な経営につとめてまいりました中小企業等に不当なしわ寄せが生ずることのないよう極力配慮してまいりました。今後とも、物価や景気の動向を十分注視しつつ、必要に応じ、きめこまかい措置を講じてまいる考えでまいります。
現下のわが国経済が直面している諸問題は、内外の経済環境の変化に伴いまして生じた複雑かつ錯綜した諸要因に基づくものであるだけに、その解決は決して容易ではございません。したがって、われわれは相当長期間にわたってもろもろの試練に耐え、不撓不屈の努力をもって経済の足固めに専念する覚悟が肝要であると考えます。
わが国は、勤勉にして知識水準の高い国民と近代的かつ先進的な技術で装備された工業生産力をもっております。また、わが国経済の動向は国際経済社会において大きな影響力を持つに至っております。したがいまして、わが国が適切な経済運営をはかってまいりますことは、ひとりわが国のみならず、ひいては世界経済の安定と発展に寄与することになるものと考えます。このような自覚と自負を持ちまして、われわれが当面する難局を乗り越えていくならば、外にあっては各国の信頼を集め、内にあっては堅実にして安らぎのある社会を建設することが可能になると確信するものであります。
国民各位の御理解と御協力を切にお願い申し上げる次第であります。