データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第82回(臨時会)
[演説者] 坊秀男大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1977/10/3
[参議院演説年月日] 1977/10/3
[全文]

 ここに、昭和五十二年度補正予算を提出するに当たり、その大綱を御説明申し上げ、あわせて、最近の経済情勢と当面の財政金融政策について、所信を申し述べたいと存じます。

 まず、今回提出いたしました昭和五十二年度補正予算の大綱について御説明いたします。

 政府は、最近の内外経済情勢にかんがみ、景気の着実な回復を図り、国民生活、特に雇用の安定を確保するとともに、対外均衡にも資するため、先般、総合経済対策を決定いたしました。

 この対策におきましては、公共投資を中心に事業規模にして総額約二兆円の追加を行うこととしております。このため、一般会計におきまして、一般公共事業費及び災害復旧等事業費のほか、社会福祉、文教、医療関係その他各種施設の整備費等の追加に必要な歳出予算として三千九百五億円を計上するとともに、所要の国庫債務負担行為の追加を行うことといたしております。

 そのほか、人事院勧告の実施に伴う国家公務員等の給与改善費、中小企業等特別対策費、北洋漁業救済対策費、義務教育費国庫負担金等の義務的経費の追加等につきましても、所要の措置を講ずることといたしております。この結果、歳出の追加総額は五千二百四十七億円となります。

 他方、各省庁の一般行政経費等の節減一千三百四十億円、予備費の減額二百四十六億円のほか、昭和五十一年分所得税の特別減税による所得税の収入見込み額の減少に伴い地方交付税交付金につき九百六十億円の減額を行っておりますので、歳出の修正減少額は二千五百四十六億円となります。

 以上歳出の追加及び減少を加減いたしますと、一般会計歳出総額は当初予算額に対し二千七百一億円増加することとなっております。

 歳入におきましては、まず、公共事業費等の追加に要する財源を確保するため、別途御審議をお願いいたします一般会計の歳出の財源に充てるための産業投資特別会計からする繰入金に関する法律案に基づく産業投資特別会計からの受入金一千五十八億円を計上するとともに、財政法第四条第一項ただし書きの規定に基づく公債を二千五百十億円増発することとしております。

 公債につきましては、他方で昭和五十二年度の公債の発行の特例に関する法律に基づく公債を一千百二十億円減額することとしておりますので、公債の発行総額は差し引き一千三百九十億円の増加となっております。

 このほか、租税及び印紙収入について、昭和五十一年分所得税の特別減税による所得税の減収見込み額三千億円を減額するとともに、前年度剰余金受け入れ三千四十五億円及びその他収入の増加二百八億円を計上いたしております。

 以上によりまして、昭和五十二年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算額に対し二千七百一億円増加し二十八兆七千八百四十四億円となり、また、公債依存度は二九・九%となっております。

 なお、地方交付税交付金が九百六十億円減額されることに伴い、交付税及び譲与税配付金特別会計において一般会計からの受け入れが減少することとなりますが、同特別会計において資金運用部資金から同額の借り入れを行うことにより、地方団体に交付すべき地方交付税交付金の総額を当初予算額どおり確保することとしております。この借入金の償還については、昭和五十五年度から昭和六十二年度までの各年度において、それぞれ償還額と同額の臨時地方特例交付金を一般会計から同特別会計へ計画的に繰り入れることといたしております。

 さらに、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましても、一般会計予算補正等に関連して所要の補正を行うことといたしております。

 また、財政投融資計画につきましては、総合経済対策等を推進するため、すでに弾力条項を発動して住宅金融公庫の貸付枠十万戸の追加に要する資金等につき機動的に対処してまいりましたが、今回の予算補正において、日本国有鉄道等に対し総額一千八百六億円の追加を行うこととしております。これらの結果、昭和五十二年度の財政投融資の追加の総額は、弾力条項の発動分も含め七千三百六十四億円になります。

 以上、昭和五十二年度の補正予算の大綱を御説明申し上げました。何とぞ関係の法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同くださるようお願い申し上げます。

 なお、前国会において継続審議となっております健康保険法等及び国有鉄道運賃法等の改正二法案は、いずれも重要な予算関連法案であり、一日も早い成立を強く期待している次第であります。

 次に、最近の経済情勢と当面の財政金融政策について一言申し述べたいと存じます。

 世界経済は、石油危機を契機として戦後最大の不況と激しいインフレという大きな試練に直面しましたが、各国の努力により、全体として回復過程にあります。しかしながら、国により回復の足取りには明暗があり、問題はなお解決を見ておりません。

 この間、わが国経済もきわめて深刻な打撃を受けましたが、五十年春を底に回復過程にあります。しかしながら、最近の動向を見ますと、経済は緩やかな拡大基調にあるとはいえ、設備投資等の民間需要は伸び悩み、雇用の改善が遅れており、構造的な問題を抱えた産業があるほか、国際収支面では経常収支がかなりの黒字になっております。

 このような経済情勢を考慮し、政府は、九月三日、総合経済対策を決定いたしました。

 まず、財政面におきましては、先ほど御説明いたしましたとおり、公共投資等を大幅に追加し、国民生活の基盤となる社会資本の整備や個人住宅の建設等を促進しつつ、有効需要の増大を図ることとしております。

 次に、金融面におきましては、金利全般にわたりその水準の引き下げを図り、金利負担を軽減し、ひいては雇用の安定に資することといたしております。

 公定歩合につきましては、本年三月及び四月に引き続き、去る九月五日、〇・七五%の引き下げが行われ、さらに、長期及び短期の貸出金利につきましても着実に引き下げが行われております。この結果、金利水準は全体として戦後最も低い水準に低下しております。また、貸出金利の引き下げが円滑に行われるよう預貯金金利の引き下げを行うことといたしましたが、預貯金者の立場に配意し、原則として〇・五%の引き下げにとどめるとともに、いわゆる福祉定期預金については、その取り扱い期間を延長することといたしました。

 なお、金融緩和を一層促進するため、預金準備率の引き下げもあわせて行われたところであります。

 今般の総合経済対策においては、以上の財政金融面の措置のほか、構造対策、雇用対策等各般の施策を実施することとし、また、輸入の促進、経済協力の推進等対外経済対策も講ずることといたしております。これにより、物価の安定を確保しつつ、わが国経済に対する内外の要請にこたえ得ると確信する次第であります。

 私は、先月末、ワシントンのIMF総会に出席し、各国の財政金融の責任者と世界経済の諸問題について親しく意見を交換する機会を得ました。

 今回のIMF総会におきましては、世界経済の安定的拡大のため、米国、西独及びわが国に対し各国から大きな期待が寄せられましたが、同時に、相互依存関係が深まっている今日の世界では、これらの国々のみならずすべての国が力を合わせて、国際的な協調と連帯の精神にのっとり、経済のインフレなき拡大、国際収支の調整、保護主義の排除、国際的金融協力の強化等につき、一層の努力を傾注すべきことが相互に確認されましたことは、まことに有意義であったと思います。

 わが国は、かねてから国際社会の一員として、世界経済の発展に積極的な役割を果たすよう努力してまいりました。先般の総合経済対策も、景気の着実な回復を図り、対外均衡にも資する見地から決定されたものであり、今回のIMF総会においても各国から歓迎を受けたところであります。

 わが国の国際収支につきましては、今後、国内需要拡大の効果が浸透するに伴い、年初来の円高の影響とも相まって、経常収支の黒字幅は漸次縮小の方向に向かうものと見込まれます。

 また、世界貿易の拡大と一層の自由化は、諸国民の生活水準を向上させ、福祉を高めるゆえんであります。わが国としては、保護主義的な動きを排し自由貿易体制を堅持する立場から、東京ラウンド交渉に積極的に取り組んでまいります。

 以上、補正予算の大綱と当局の政策運営について御説明いたしましたが、この機会に、財政の現状と課題について申し述べます。

 わが国財政は、昭和五十年度以降連続三カ年にわたって、特例公債を含む大量の国債の発行を余儀なくされております。現在の公債依存度約三割という水準は、戦後、諸外国にも例を見ないきわめて異常なものであります。このように高い公債依存度が今後とも続くようなことがあれば、国債費の増高等を通じて財政が硬直化し、機動的な財政運営に支障を生ずるのみならず、国民が真に必要とする施策の実施が困難となるおそれがあります。今後の財政運営に当たっての最大の課題は、このような異常な事態から速やかに脱却し、財政に対する国民の信頼を確保するため、その健全化を図ることにあります。

 このような観点から、今回の補正予算の編成に当たっても、歳出の節減等に努め、公債の増発を極力抑制して、公債依存度を三割未満にとどめることにしたのであります。

 さらに、昭和五十三年度予算編成に当たっては、歳出面において、いわゆるスクラップ・アンド・ビルドの原則を徹底し、既定経費について全面的に洗い直すとともに、施策の優先順位の厳しい選択を行う必要があると考えております。

 また、歳入面については、昨年以来、税制調査会において中期的視野に立った今後の税制のあり方について審議が重ねられてきております。この一両日の間にこれについての答申が行われる予定でありますが、政府としては、これを踏まえながら、全体的な財政経済政策の一環として昭和五十三年度においてとるべき税制上の方策について十分検討してまいりたいと考えております。

 わが国経済は、いまや、内外の環境変化に適応し、安定成長経済を実現していくためのきわめて重要な時期を迎えております。

 かつての高度成長のもとにおける惰性を払拭し、経済体質を改善していくためには、家計、企業、財政等経済社会の各分野において、一層の努力を必要といたします。しかし、過去幾多の試練を乗り越えてきたわが国民の英知と活力を結集し、政府と民間が一体となって問題の解決に当たるならば、必ずや新たな展開が切り開かれるものと確信いたします。

 政府は、今後とも全力を傾注して経済運営に遺憾なきを期してまいる所存でございます。

 国民各位の御理解と御協力を切に要望する次第でございます。