データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第84回(常会)
[演説者] 村山達雄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1978/1/21
[参議院演説年月日] 1978/1/21
[全文]

 本日、第八十四回国会の再開に当たり、今後における財政金融政策について所信を申し述べますとともに、昭和五十三年度予算の大綱を御説明いたしたいと存じます。

 わが国を取り巻く内外の経済環境はきわめて厳しいものがあります。

 世界経済は、石油危機によってもたらされた激しい経済変動後の調整過程にあり、いまだに安定した成長路線を見出しえない状況にございます。非産油開発途上国の経済的困難は申すまでもございませんが、先進諸国におきましても、総じて民間経済活動の盛り上がりを欠き、高水準の失業や過剰設備を抱え、中には引き続き物価上昇に悩んでいる国もあります。昨年、先進諸国がその成長率を相次いで下方修正せざるを得なかったことは、その意味で、まことに象徴的であります。

 転じて、わが国経済を見ますと、石油危機により大きな打撃を受け、昭和四十九年度には戦後初めてのマイナス成長を記録いたしましたが、その後は緩やかな拡大基調を続け、米国、西独と並んで世界経済の回復に貢献することが期待されております。

 しかしながら、生産、在庫、企業収益等に関する経済諸指標の推移は、いまなおわが国経済が直面しているきわめて困難な諸問題を端的に物語っております。また、経常収支は大幅な黒字基調を続けており、黒字幅縮小を求める海外からの要請も高まっているほか、昨年、特に九月末以降生じた円相場の急激かつ大幅な上昇により、国内経済に対するデフレ効果も懸念されているのでございます。

 このような内外の経済情勢のもとにおいて、財政金融政策の果たすべき使命はまことに重大なものがあると存じます。私は、特に次の三点を当面の緊要課題として、政策運営に万全を期してまいりたいと存じます。

 まず第一は、わが国経済を速やかに着実な回復軌道に乗せるということであります。

 すなわち、雇用の安定と増大を図り、国民生活の安定を確保するためには、国民各層における経済の先行きに対する不安感を払拭して、企業の健全な活動を維持発展させることが必要であります。

 このため、政府は、昭和五十三年度において七%程度の実質成長を目指し、経済運営に最善を尽くす考えであります。先般の総合経済対策等の一連の施策は、生産、出荷、雇用等に徐々にその効果をあらわしつつありますが、経済の現況に顧み、財政が主導的な役割を果たすことによりまして、景気の速やかな回復を図ることといたしました。特に、公共事業等につきましては、いわゆる十五カ月予算の考え方のもとに、思い切って事業規模を拡大したところであります。

 また、国民経済の大宗を占める民間経済の自律的回復を喚起する必要がありまして、政府は、住宅建設や設備投資を促進するため、予算、税制、財政投融資計画等を通じ所要の施策を講じることといたしました。

 以上の諸施策により総需要の量的な拡大を図るとともに、わが国経済が環境の変化に適切に対応していくため、産業構造の転換を促進し、雇用の安定に資する個別的な施策を推進していくことも肝要でございます。このため、中小企業対策を充実するほか、特定不況産業に対する構造改善対策、離職者対策等について新しい措置を講じることといたしました。

 このような各般の施策を推進するに当たりまして留意すべきは、物価の安定であります。最近の物価の動向は一段と落ちつきを見せておりますが、政府は、引き続き低生産性部門及び流通機構の近代化等を促進するとともに、円高による輸入物価の低下を消費者物価にできる限り反映させるよう努めていく所存でございます。また、最近の金融情勢等から見て、公債の発行が民間金融を圧迫するおそれはないと考えますが、今後の財政金融政策の運営に当たっては、いやしくも物価の安定を損なうことがないよう十分配慮をしてまいりたいと存じます。

 第二は、対外均衡の回復を図るとともに、世界経済の安定と発展に貢献するよう努めることでございます。

 各国経済の相互依存関係が著しく緊密化しておる今日の国際環境のもとにおきましては、いずれの国も自国のことのみを考えて経済を運営していくことはできません。わが国もまた、世界経済の安定と発展のため積極的に貢献していかなければなりません。

 さきに申しましたように、わが国の経常収支は大幅な黒字基調を続けておりますが、これをめぐって対外的にもいろいろな摩擦を生じております。また、最近、保護主義的な動きの高まりも懸念されるところであります。このような状況に対し、わが国としては、経常収支の黒字幅を縮小するよう努めるとともに、自由貿易体制を維持強化していくことが急務であります。このため、内需を拡大して輸入の増大に資することを基本としつつ、市場開放政策を含め、各般の対外経済対策を強力に推進する所存であります。なかんずく、本格的段階を向かえました東京ラウンド交渉が速やかに成果を上げるよう、その妥結に先立って、乗用自動車など約百二十品目について関税率の引き下げを繰り上げ実施する等、国際協調のために一層の努力を続けてまいりたいと存じます。

 さらに、世界経済の均衡のとれた発展のために、開発途上国の経済発展を支援していくことが必要であります。わが国といたしましても、経済協力を強力に展開することとし、その大幅な拡充を図ることとしております。

 第三は、財政の健全化を図るため一層の努力をすることでございます。

 わが国の財政は、大量の公債、特に特例公債への依存から脱却し、財政の健全化を図りつつ、同時に、速やかに景気を回復させるというきわめて困難な問題に直面しております。

 このため、一般会計予算の編成に当たりまして、投資部門と経常部門に分けて検討し、投資的経費につきましては、国民生活充実の基礎となる社会資本の整備を促進しながら景気の回復を早めるため、積極的にその規模を拡大することとする反面、経常的経費につきましては、財政節度の維持に努める見地から極力その規模を抑制することといたしました。また、公債の発行につきましても、経常的経費の財源に充てられる特例公債の額及びその経常的経費の総額に対する割合、すなわち特例公債依存度を極力抑制することに努めましたが、全体としての公債依存度は、特別の財源措置を講じたにもかかわらず、なお三二%ときわめて高いものとなっております。特例公債への依存から速やかに脱却することの必要性については申すまでもございませんが、全体としての公債依存度の高いこともまた重大な問題を含んでおります。

 わが国財政がこのように高い公債依存度を継続するようなことがあれば、公債残高の累増、国債費の増高等を通じて財政体質が硬直化し、機動的運営が阻害され、国民が真に必要とする施策の実施が困難となるおそれがあり、また、将来世代の負担の増加をもたらすほか、経済情勢の推移によっては民間資金需要を圧迫し、あるいは国民経済にインフレ要因を持ち込む危険すらなしとは言えないのでございます。

 今後の財政運営に当たっては、中期的な展望のもとに、財政の健全化を実現していくことが最も重要な課題でございます。しかしながら、財政再建の道は容易ならざるものがございます。財政収支の不均衡を租税の自然増収のみによって是正することはとうてい期待し得ない状況でございます。財政を再建するためには、歳出の節減合理化について強い決意をもって取り組む必要があり、また、同時に、租税負担の一般的な引き上げが避けられないところであると存ずるのでございます。

 以上のような観点から、改めて中期的な財政収支についての試算を作成するとともに、今後の財政運営について再検討を進める所存でございます。私は、このような検討を通じて、わが国財政の深刻な現状が認識され、財政再建について国民各位の御理解と御強力が得られるよう強く念願するものでございます。

 さて、昭和五十三年度予算は、以上申し述べました基本的な考え方に立ちまして、現下の厳しい経済情勢に対処するため、臨時異例の財政運営を行うこととして編成いたしました。

 その大要は、次のとおりでございます。

 第一に、予算及び財政投融資計画を通じ、公共投資等の規模を大幅に拡大することとしております。

 すなわち、一般会計予算につきましては、経常的経費の規模を前年度当初予算の増加率を下回る一七・四%の増加に抑制した反面、投資的経費の規模は、公共事業等予備費二千億円を含め、前年度当初予算に対し三一・七%増の大幅な拡大を図っております。

 以上の結果、両部門を合わせた一般会計予算の規模は、前年度当初予算に対し二〇・三%増の三十四兆二千九百五十億円と相なっております。

 また、財政投融資計画につきましても、民間資金の活用を図りながら、計画規模を経済動向に即応した適度なものとすることとし、前年度当初計画に対し一八・七%増の十四兆八千八百七十六億円としております。計画の策定に当たりましては、社会資本の整備の促進と景気の着実な回復を早めるため、融資部門よりも事業部門を重視し、日本国有鉄道、住宅金融公庫、日本道路公団、地方公共団体等の事業部門に対して傾斜的配分を行うことといたしました。その結果、事業部門の計画規模は、前年度当初計画に対し二四・六%増の九兆五千六百六十六億円となっております。なお、使途別には、引き続き、住宅、生活環境整備、文教等の国民生活の安定と向上に直接役立つ分野に対して資金を重点的に配分することとし、財政投融資計画全体の三分の二に相当する十兆一千九百三十一億円を充てることとしております。

 第二に、公債につきましては、先に申し述べましたとおり、昭和五十三年度におきましても多額の発行を行わざるを得ない状況にありまして、公債発行限度額を十兆九千八百五十億円としております。この結果、公債依存度は三二%となっておりますが、後に申し述べます五月分税収の年度所属区分の変更を行わないこととした場合の公債依存度は、約三七%にも達することになります。

 公債発行限度額につきましては、建設公債は六兆五百億円、特例公債は四兆九千三百五十億円としており、特例公債依存度は一八・四%となっております。

 なお、別途、特例公債の発行のための昭和五十三年度における財政処理のための公債の発行及び専売納付金の納付の特例に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 第三に、税制面におきましては、まず、財政健全化に資するため、酒税及び有価証券取引税の税率の引き上げを行うとともに、新たに石油税を創設することといたしております。

 また、租税特別措置について、税負担の公平確保の見地から引き続きその整理合理化を推進する一方、現下の経済情勢に顧み、住宅建設及び民間設備投資の促進に資するため、住宅取得控除制度を拡充するとともに、一年限りの臨時の措置として税額控除による投資促進税制を実施することとしております。このほか、海外子会社等を通じる租税回避の対策、中小企業対策等のため所要の措置を講じることとしております。

 なお、政府は、昭和五十三年度の税制改正において、所得税の一般的減税を行うべきかどうかについても検討いたしました。しかし、次のような観点からこれを行わないことが適当であると判断いたしました。

 まず、わが国所得税負担は主要国のそれに比べかなり低い水準にあり、さきに申し述べたとおり、今後、租税負担の一般的引き上げが避けられないと考えられる状況におきまして、所得税減税を行うことは将来における問題の解決を一層困難にするばかりであります。

 また、景気対策の観点からも、減税に比べ雇用の増加、需要の造出等の効果のより大きい公共投資の拡大により対処することが適当であると考えられたからであります。

 第四に、昭和五十三年度の税収の伸び悩みを補い、財源の確保を図るとともに、地方財政対策などにも資するため、昭和五十三年度内に納税義務が成立し昭和五十四年五月中に収納される税収について、年度所属区分を変更して、これを昭和五十三年度所属の歳入として受け入れることとし、所要の制度改正を行うこととしております。

 第五に、主要な経費について申し述べます。

 昭和五十三年度予算の編成に当たっては、各種の経費を通じ、すでに申し述べました基本的な考え方に立ちまして、財源の重点的かつ効率的な配分に努めることとしました。すなわち、一般行政経費の抑制、補助金等の整理合理化の推進、受益者負担の適正化等により財政節度の維持に努めるとともに、重要な施策につきましては、次のようにその充実に配慮しております。

 その一つは、公共事業関係費であります。

 この経費につきましては、いわゆる十五カ月予算の考え方のもとに、昭和五十二年度第二次補正予算と合わせ、切れ目のない執行を確保しつつ、積極的に規模の拡大を図ることといたしました。その結果、昭和五十三年度の公共事業関係費は、昭和五十二年度当初予算に対して二七・三%と大幅に増加し、五兆四千五百一億円となっております。このうち、災害復旧等事業費を除く一般公共事業関係費は、前年度当初予算に対し三四・五%増加し、過去最高の増加となっております。

 公共事業関係費の内容につきましては、住宅、下水道・環境衛生等の生活関連施設の拡充のほか、治山、治水等の国土保全施設の整備、農業基盤整備等の推進を図ることとしております。特に住宅対策につきましては、住宅金融公庫の貸付枠を大幅に拡大するとともに、個人住宅の貸付限度額の引き上げ措置等を講じ、その充実を図ることとしております。

 公共事業等の施行に当たりましては、その円滑な消化が図られますよう実施体制を整備するとともに、資材等の需給、価格動向等にも十分留意してまいりたいと考えております。

 なお、道路整備事業につきましては、昭和五十三年度を初年度とする長期計画を策定することといたしております。

 その二つは、社会保障関係費であります。

 この経費につきましては、国民生活の安定と福祉の充実に資するため、各般の施策についてその拡充を図ることとしております。

 まず、社会的、経済的に恵まれない立場にある人々の生活の安定に資するため、生活保護基準の引き上げ、各種年金の改善等を行うほか、心身障害者対策、老人対策についてきめ細かい配慮を払っております。

 また、社会福祉施設に働く職員の増員、健康管理対策の充実等について各般の措置を講じております。

 このほか、国民の健康づくりのための諸施策を積極的に推進するとともに、救急医療を初めとする医療供給体制の整備を推進することとしております。

 さらに、雇用対策については、景気の回復を通じて雇用の安定と拡大を図るとともに、最近の雇用情勢に対処するため、前国会で成立した特定不況業種離職者臨時措置法等の実施に必要な措置を講じ、また雇用安定資金制度の充実等を図ることとしております。

 この結果、昭和五十三年度の社会保障関係費は、前年度当初予算に対し一九・一%増の六兆七千八百十一億円と相なっております。

 その三つは、文教及び科学技術振興費であります。

 この経費につきましては、公立文教施設の整備を促進することとし、公立小中学校の老朽校舎等の改築事業等について、事業量の大幅な拡大を図ることとしております。

 また、国立医科大学の創設等高等教育機関の整備、私立学校に対する助成や育英事業の充実、学校災害救済制度の改善、新技術の開発等各般の施策について、その拡充を図ることとしております。なお、高校、大学等の入学時における父兄の資金負担に対処するため、新たに国民金融公庫等に進学資金貸付制度を設けることといたしております。

 次は、中小企業対策費であります。

 この経費につきましては、特に、中小企業倒産防止共済制度の創設など中小企業の経営安定対策の推進及び中小企業信用保険公庫に対する出資の増額等信用補完制度の充実に重点的に配意するとともに、政府系中小企業金融三機関等の融資規模を拡大することとしております。また、輸出関連中小企業に対する為替変動対策緊急融資制度の充実を図ることにしております。

 また、エネルギー対策費であります。

 エネルギーの安定的な確保は、国民生活と経済の基盤にかかわる基本的な問題であることに顧み、エネルギー対策を一層推進することとし、このため、石油備蓄対策等を大幅に拡充するとともに、電源立地促進対策の充実、原子力平和利用の推進等を図ることとしております。

 さらに、経済協力費であります。

 この経費につきましては、わが国の国際的立場にかんがみ、二国間無償援助の大幅な増額、技術協力の一層の充実を図るなど、質量ともにその拡充について特段の配慮を加えております。

 以上のほか、総合的な食糧自給力の向上と農林水産業の健全な発展を図ることを基本として、国民の食糧需要の動向に対応した食糧生産体制の整備のための諸施策を推進し、農産物の価格、流通対策、農業後継者確保対策等の充実を図るほか、二百海里漁業水域対策についても所要の施策を講じることとしております。

 また、日本国有鉄道の財政再建問題につきましては、昨年末にその基本方針を定めたところでありますが、経営の合理化を一層推進するほか、所要の運賃等の改定を見込むこととし、これらとあわせて引き続き助成措置の確実を図ることとしております。

 第六に、地方財政対策について申し述べます。

 まず、地方交付税交付金について、さきに申し述べました年度所属区分変更後の国税三税の三二%相当額に過年度精算分等を加減した金額五兆三千九百六十八億円を計上するほか、臨時地方特例交付金二千二百五十一億円及び資金運用部資金からの借入金一兆五千五百億円の特例措置を講じること等により、地方団体へ交付すべき地方交付税交付金の総額として七兆四百億円を確保することとしております。

 なお、地方財政が好転し、あるいは地方税財政制度の基本的改正が行われるまでの間の措置といたしまして、昭和五十三年度以降、交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金の償還について、実質的に国がその二分の一を負担する旨を法定することにしております。昭和五十年度及び昭和五十一年度に同特別会計が行った借入金の償還についても、これに準じて地方負担の軽減を図ることとしております。

 また、地方債につきましては、その円滑な消化等を図るため、財政資金を大幅に増額するとともに、一般市町村に係るいわゆる財源対策債につきましては原則として全額政府資金で引き受けるなど、きめ細かい配慮を払っておるところでございます。

 この際、私は、地方公共団体に対しまして、国と同一の歩調によりまして、国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に努め、一般行政経費の節減合理化を推進するとともに、財源の重点的かつ効率的配分を行い、節度ある財政運営を図るよう要請するものでございます。

 なお、この機会に、さきに提出いたしました昭和五十二年度第二次補正予算について一言申し上げます。

 歳出につきましては、まず、景気の回復等を図るため、公共事業等について三千六百六十四億円を追加計上することとし、いわゆる十五カ月予算の考え方のもとに、昭和五十三年度予算と合わせ、切れ目のない執行を図ることとしております。

 また、最近における経済情勢に顧み、信用補完制度の強化を図るため中小企業信用保険公庫に対する出資金を増額するなど、中小企業特別対策費の追加等を行うこととしております。

 なお、予見しがたい税収の減少等によって決算上の不足が生じる場合に対処するため、別途御審議をお願いいたします決算調整資金に関する法律案に基づいて、昭和五十二年度において決算調整資金を創設することとし、同資金への繰り入れに要する経費二千億円を計上することといたしております。

 これらを合わせた歳出追加の総額は五千八百六十八億円となっておりますが、他方、既定経費の節減二百四十六億円の修正減少を行うこととしておりますので、この補正による歳出総額の増加は五千六百二十二億円となっております。

 歳入につきましては、景気の停滞等に伴い、租税及び印紙収入において八千六十億円の減収を見込むとともに、雑収入において二十二億円の増収を見込んでおります。以上の歳出の追加、歳入の減少等に伴う財源不足額一兆三千六百六十億円につきましては、建設公債を三千四百七十億円追加発行するとともに、残余の一兆百九十億円につきましては、特例公債の追加発行を予定しております。この結果、昭和五十二年度の第二次補正後の予算の公債依存度は三四%となっております。

 以上によりまして、昭和五十二年度一般会計第二次補正後予算の総額は、歳入歳出とも第一次補正後予算額に対し五千六百二十二億円増額して、二十九兆三千四百六十六億円となるのであります。

 なお、地方交付税交付金につきましては、今回の一般会計予算補正により、所得税、法人税及び酒税の収入見込額の合算額が減少するにもかかわらず、特に立法措置を講じてこれを減額しないこととし、地方財政の運営に支障を生じることのないよう配慮しているところであります。

 以上、予算の大要について御説明いたしました。

 次に、当面の金融政策の運営について申し述べます。

 金融面におきましては、昨年来、預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図るとともに、金融の量的緩和にも配慮してまいりました。最近の金融情勢を見ますと、市中金利の低下は順調に進んでおり、金利水準は戦後最も低い水準に低下し、企業の資金繰りも総じてみれば緩和基調で推移しております。このような状況のもとにおいて、当面の金融政策の運営に当たっては、物価の安定に配意しながら、引き続き現在の緩和基調を維持し、財政面の措置と相まって景気の着実な回復に資することを基本としてまいりたいと存じます。

 さらに、昭和五十三年度におきましては、国債、地方債等公共債の発行が二十兆円を上回る巨額なものに達すると見込まれますが、金融情勢等に十分配意しながら円滑な消化に努めていく所存でございます。また、市中保有の国債残高の増加に顧み、今後とも安定的な投資家の育成、流通市場の拡大、整備など国債管理政策についてなお一層の配慮を加えてまいる所存でございます。

 今日、わが国が直面している最大の政策課題は、激動する内外情勢のもとにおいて、わが国経済を安定成長路線に円滑に乗せることにあると思います。この意味におきまして、ことしは、わが国経済にとって真に試練の年であると存じます。

 私は、財政金融政策の運営に当たり、中長期的な展望のもとに、当面、景気の速やかな回復を図るべく全力を挙げて取り組んでまいる所存でございます。

 申すまでもなく、経済発展の原動力は民間の経済活動にあるのであります。民間におきましても、政府の施策の相呼応して、着実な努力が払われることを強く期待するものでございます。

 そして、国民の一人一人がそれぞれの個性と創意を十分に発揮できる活力にあふれた明るい社会をともに建設していきたいものと考えております。

 国民各位の御理解と御協力をお願いする次第でございます。