[内閣名] 第67代福田(昭和51.12.24〜53.12.7)
[国会回次] 第85回(臨時会)
[演説者] 村山達雄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1978/9/20
[参議院演説年月日] 1978/9/20
[全文]
ここに、昭和五十三年度補正予算を提出するに当たり、わが国の当面の経済情勢と財政金融政策についての所信の一端を申し述べますとともに、補正予算の大綱を御説明申し上げたいと存じます。
わが国経済は、国民のたゆみない努力と節度ある経済運営により、石油危機を契機とした激しいインフレを克服し、景気も五十年春を底に、緩やかな回復過程を歩むに至っております。
最近の経済情勢を見ますと、物価が安定的に推移する中で、公共投資の拡充、在庫調整の進展、個人消費の回復等が見られます。また、昨年来の金利水準全般の引き下げ、金融の量的緩和のための措置の効果が実体面に浸透してきており、企業収益も改善の傾向を示すなど、内需を中心に、全体として順調な景気回復傾向が続いております。しかしながら、雇用情勢はいまだ目立った改善が見られず、また、輸出は最近の急激な円高の進行により数量では減少してきており、その国内経済に与える影響が懸念されるに至っております。一方、国際収支面では、輸出の数量での減少があるものの、ドル建て価格の上昇等により、経常収支ではかなりの黒字が続いております。
このような経済情勢を考慮し、景気の回復を一層確実にするため、政府は、九月二日、総合経済対策を決定いたしました。
まず、内需拡大策として、財政面におきましては、事業規模にして約二兆五千億円に上る公共投資等の追加を行い、道路、下水道、環境衛生施設等の社会資本の整備や住宅建設を推進するとともに、国民生活の基礎の充実を図るため、文教施設、社会福祉施設、病院等の整備を促進することとしております。
さらに、今回の総合経済対策においては、不況地域の中小企業の経営、雇用の安定を図り、あわせて不況業種に対する対策等を推進するほか、国際収支の黒字縮小に寄与するため、緊急輸入の推進を図るとともに、世界貿易の拡大を目指して、東京ラウンド交渉に積極的に取り組むこととしております。また、後発開発途上国に対する無償資金協力の追加を行うなど、政府開発援助の三年間倍増の方針に沿った経済協力の拡充を図ることとしております。
これらの諸施策によりまして、わが国経済は、本年度の政府見通しで想定した経済成長を確実に達成することができるものと考えております。
また、今後におけるわが国の国際収支の動向につきましては、海外の景気動向、インフレの状況等に影響されるところが大でありますが、これらの内需拡大策等の政策効果の浸透により、黒字幅は次第に縮小に向かうものと見込まれます。
私は、今日ほど、国際的な協調と連帯が必要なときはないと痛感しております。また、このことは、先般ボンにおいて開催された先進国首脳会議に出席した各国首脳の共通の認識でもありました。わが国が世界経済において大きな比重を占めるに至った今日、今後の経済政策は、ひとり自国経済のみならず世界経済の安定と発展に貢献するものでなければならないと確信を強めている次第であります。
私は、今回の総合経済対策の着実な実行により、現下の内外の要請に十分こたえていきたいと考えておる次第でございます。
次に、今国会に提出することといたしております昭和五十三年度補正予算の大綱について御説明いたします。
さきに御説明いたしました総合経済対策を実施するため、一般会計におきまして、公共事業関係費、文教・社会福祉関係の施設整備費、船舶建造費等の追加に必要な歳出予算として四千五百九十三億円を計上するとともに、所要の国庫債務負担行為の追加を行うこととしております。そのほか、構造不況業種・中小企業等特別対策費、経済協力等特別対策費、水田利用再編対策費、国債整理基金特別会計への繰り入れ等につきましても、追加措置を講ずることとしております。この結果、歳出の追加総額は七千百五十二億円となります。
他方、一般行政経費その他の既定経費の節減二千二百九十二億円、公共事業等予備費の減額二千億円、一般予備費の減額四百五十億円のほか、昭和五十二年分所得税の特別減税による所得税の収入見込み額の減少に伴い、地方交付税交付金につき九百六十億円の減額を行っておりますので、歳出の修正減少額は五千七百二億円となります。
歳入におきましては、この特別減税による所得税の減収見込み額三千億円を減額するとともに、建設公債二千八百億円、特別公債二百億円、合わせて三千億円の公債を増発することといたしております。このほか、前年度剰余金受け入れ一千二百八十億円及びその他収入等百七十億円を計上しております。
以上の結果、昭和五十三年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも三十四兆四千四百億円となります。
なお、地方交付税交付金が九百六十億円減額されることに伴い、交付税及び譲与税配付金特別会計において一般会計からの受け入れが減少することとなりますが、同特別会計において資金運用部資金から同額の借り入れを行うことにより、地方団体に交付すべき地方交付税交付金の総額を当初予算額どおり確保することといたしております。この借入金の償還につきましては、昭和五十九年度から昭和六十八年度までの各年度において、それぞれ償還額と同額の臨時地方特例交付金を一般会計から同特別会計へ計画的に繰り入れることといたしております。
さらに、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましても、所要の補正を行うことといたしております。
また、財政投融資計画につきましては、総合経済対策を推進するため、すでに弾力条項を発動して、住宅金融公庫の貸付枠七万三千戸の追加に要する資金等について機動的に対処してまいりましたが、今回の予算補正において、日本国有鉄道等に対し総額一千三百六十九億円の追加を行うことといたしております。これらの結果、昭和五十三年度の財政投融資の追加の総額は、弾力条項の発動分も含め六千五百十二億円になります。
以上、昭和五十三年度の補正予算の大綱を御説明申し上げました。何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。
この機会に改めて、財政の現状と今後の課題について申し述べたいと思います。
わが国財政は、昭和五十年度以降、停滞した経済情勢に対処するため、特例公債を含む大量の公債に依存しており、特に昭和五十三年度においては、実質的な公債依存度はきわめて高いものとなっております。
経済の変動に機動的に対処し、その安定に資することが財政に課せられた重要な使命の一つであることはもちろんでありますが、財政収支の大幅な赤字をいつまでも放置しておくことは、後代に大きな負担を残し、また、将来、経済そのものの安定と発展を阻害するおそれがあります。したがいまして、中期的な展望のもとに財政の健全化を図っていくことが、いまや、緊急かつ重大な課題となっております。
今回の補正予算の編成に当たりましては、このような基本的な考え方を踏まえまして、その財源はできる限り既定経費の節減、前年度剰余金等により捻出することとし、公債の増発については、最近の公社債市場の動向等も勘案の上極力抑制し、すでに実施済みの昭和五十二年分所得税の特別減税三千億円に相当する額にとどめることとしたところであります。
昭和五十三年度の公債発行額は、この補正による増発分を含めますと、実に十一兆二千八百五十億円もの巨額に上ることとなり、公債の消化を円滑に行うには、なお一層の努力を要する状況にあります。このため、今後とも、国債管理政策を機動的かつ適切に運営してまいる所存であります。
さらに、昭和五十四年度予算の編成に当たっても、厳しい財源事情のもとにあって、歳出面ではいわゆるスクラップ・アンド・ビルドの趣旨を一層徹底し、新規施策等の財源は極力既定経費の節減によることとし、歳出内容の合理化を図っていきたいと考えております。
また、財政の現状を直視すれば、歳入面においても、今後、一般的な税負担の引き上げを求めることを真剣に検討しなければならないと考えております。
私は、明日、IMF・世銀総会に出席のため、ワシントンに向け出発いたしますが、同総会において、わが国の経済情勢と政策努力について十分説明するとともに、国際通貨情勢の安定等、現在の世界経済が抱えている問題について率直な意見を申し述べ、各国の理解と協調を求めたいと考えております。
世界経済は、幾多の試練を克服して、安定した成長路線に円滑に移行することを迫られております。
その中にあって、わが国経済も新たな事態に対応するための構造的諸問題に直面しており、その本質を冷静に見きわめなければならない時期にあります。この激動期における財政金融政策の運営に当たっては、中長期的視野のもとに、経済の均衡のとれた成長を目指し、じみちな努力を積み重ねることにより、堅実で明るい社会を建設していきたいと考えております。
国民各位の御理解と御協力をお願いする次第でございます。