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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第70代鈴木(昭和55.7.17〜57.11.27)
[国会回次] 第94回(常会)
[演説者] 渡辺美智雄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1981/1/26
[参議院演説年月日] 1981/1/26
[全文]

 ここに、昭和五十六年度予算の御審議を願いするに当たりまして、その大綱を御説明申し上げ、あわせて当面の財政金融政策の基本的な考え方について、私の所信を申し上げさせていただきます。

 昭和五十六年度予算は財政再建元年予算であります。前年度予算で第一歩を踏み出した財政再建をさらに一段と進めて、本格的な軌道に乗せることができたと考えております。

 顧みれば、第一次石油危機後の停滞する経済の中で、景気の回復と国民生活の安定を図るため、わが国財政は、あえて大量の公債の発行という非常手段によって主導的な役割を果たし、わが国経済を高度成長から安定成長へ円滑に移行させる上で、世界にもまれな成果を上げてまいりました。

 しかしながら、その反面、国の財政収支は巨額の赤字に陥り、いまだに特例公債を含む大量の公債に依存をせざるを得ない状況が続いております。

 公債による財源の調達は、いつかは国民の負担によって、利子をつけて返さなければならない債務を負うことであります。しかるに、それは増税による財源調達と異なって、国民にとって当面の負担感がないということから、公債依存の財政下では、どうしても財政に対する期待が過大なものとなりがちであります。

 しかも、第一次石油危機依然の十数年にわたる恵まれた高度経済成長下に根づいた財政への過大な依存の風潮は、国民と政府があたかも別なものであるかのごとき感を抱かせるほど強いものでありました。そして、遺憾ながらいまだに高度成長時代の惰性が断ち切られていないというのが実情であると存じます。かかる環境のもとでは、とかく財政に対する要求を抑えるということよりも、公債による財源調達という安易な道に流れやすいことは、否めない傾向であります。

 しかしながら、個人の生活や企業活動の面では、すでに安定成長時代への適応が進んでいるのにもかかわらず、財政だけがいつまでも過大な期待にこたえていくことは不可能であります。

 いまや、社会経済情勢の変化に対応した新たな施策を講ずる力を財政が失い、また、公債残高の累増は、経済金融政策の円滑な運営に大きな影響を及ぼすに至りました。

 一方、遠からず高齢化社会の到来が予見されており、また、流動的な社会経済情勢の変化に即応するため、財政の果たすべき役割が一層重要度を加えていくものと考えています。したがって、そのときどきの要請にこたえて、国民が豊かで平和な日々を送ることができるように、一刻も早く公債依存体質から脱却をして財政の対応力を回復しておくことがぜひとも必要であります。

 財政再建は鈴木内閣に与えられた使命であり、私に課せられた最大の責務でもあります。

 このような考え方に立ち、昭和五十六年度予算の編成に当たりましては、公債発行額を、前年度当初予算よりもさらに二兆円減額することを基本方針といたしました。

 このため、歳出面におきまして、一般行政経費を極力抑制するとともに、政策的経費についても根底から見直すなど、節減合理化に格段の努力を払いました。

 さらに、行政の整理簡素化を積極的に進め、その減量化を図る見地から事務・事業の整理、委譲を行うほか、昭和五十五年行政改革を引き続き着実に実施することといたしました。

 また、歳入面におきましても、特殊法人からの国庫納付金などを実施して税外収入の増収を図るとともに、現行税制の基本的枠組みの中で、相当規模の増収措置を講ずることとし、法人税を初めとする五税目について税率の引き上げ等を行うことにいたしております。

 このような歳出面における思い切った節減合理化と、歳入面における徹底した見直しにより、昭和五十六年度予算は、財政再建元年予算と言えるものになったのであります。

 しかし、すでに六年間続いてきた公費依存体質は、単年度で治癒し得るものではありません。財政再建を引き続き前進させていくためには、歳入歳出両面を通じて、施策の水準がいかにあるべきか、費用の負担はいかにあるべきか、その相互の関連性を十分念頭に置きながら考えていく必要があります。たとえば、高福祉を望めば高負担は避けられません。

 予算は有限であります。欲望は無限であります。

 国の施策により利益を受けるのも、その費用を負担するのも同じく国民であります。財政の健全化の達成は、財政を支える国民各位の御理解と御協力によらざるを得ません。

 国民各位に切にお願いを申し上げる次第でございます。

 昭和五十六年度予算は、以上述べました基本的な考え方に立って編成をいたしました。

 その大要は、おおよそ次のとおりであります。

 第一に、歳出面におきましては、経費の徹底した節減合理化に努め、特に国債費及び地方交付税交付金以外の一般歳出を極力圧縮することによって、全体としての規模を厳しく抑制し、一般会計予算の前年度当初に対する伸び率を一けたにとどめました。

 このため、各省庁の経常事務費を初めとする一般行政費を極力抑制するとともに、政策的経費についても、既存の制度、慣行にとらわれず根底から見直しを図りました。また、各種施策の優先順位を厳しく検討した上で、限られた財源の重点的、効率的な配分を行い、歳出内容の質的充実に努めたところであります。補助金等については、昭和五十四年末に決定された整理合理化計画に基づいて整理目標の達成に努めるとともに、積極的に減額、統合、終期の設定等を推進してまいりました。

 さらに、国家公務員の定員については、計画的な削減を着実に実施するとともに、増員を極力抑制し、国家公務員数の縮減を図ったところであります。

 これらの結果、一般会計予算の規模は、前年度当切に比べて九・九%増の四十六兆七千八百八十一億円となっております。また、このうち一般歳出の規模は、前年度当初予算に対して四・三%増の三十二兆五百四億円であります。一般会計予算の伸びが一けたにとどまったのは昭和三十四年以来二十二年ぶりであり、一般歳出の伸びが五%以下にとどまったのは昭和三十一年度以降実に二十五年ぶりのことであります。

 第二、税制面におきましては、現行税制の基本的枠組みの中で相当規模の増収措置を講ずることといたしまして、法人税率の一律二%引き上げを初めとして、酒税、物品税、印紙税及び有価証券取引税の各税について、税率の引き上げ、課税対象の拡大などを行うことといたしております。

 所得税については、その負担水準の現状や財政の実情にかんがみ、一般的に負担を軽減することは見合わせざるを得なかったところであります。しかしながら、最近における社会情勢の変化に対応して、財源面の制約をも考慮しつつ、家計を助ける主婦などに対する配慮といたしまして控除対象配偶者の適用要件を改正するなどの税負担の調整を図ることとしたのであります。

 また、租税特別措置については、期限の到来するものを中心に洗い直しを図り、交際費課税を強化するとともに、エネルギー対策の促進に資するため所要の税制上の措置を講ずることといたしました。

 以上のほか、税務執行面における公平確保の観点から、脱税の場合の賦課権の除斥期間を延長する等の措置を講ずることといたしております。なお、税の執行に当たりましては、国民の信頼と協力を得て、今後とも層一層適正公平な税務執行を実現するよう、不断の努力を払う所存でございます。

 第三に、公債につきましては、さきに申し上げましたように、その発行予定額を前年度当初より二兆円減額することとして、十二兆二千七百億円といたしました。この結果、公債依存度は二六・二%となり、前年度当初予算の三三・五%よりも七・三%依存度が低くなったのであります。この二兆円の減額は、そのすべてを特例公債の減額によっておりますので、特例公債の発行予定額は五兆四千八百五十億円となり、建設公債の発行予定額は前年度当初予定額と同額の六兆七千八百五十億円となっております。

 特例公債の発行等につきましては、別途、財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律案を提出して、御審議を願いすることといたしております。

 また、公債の円滑な消化に配慮いたしまして、資金運用部資金による引き受けを前年度当初予定より一兆円増の三兆五千億円とし、国債引受団による引受予定額を前年度当初予定よりも二兆七千六百億円圧縮いたしまして七兆百億円にとどめたのであります。

 第四に、財政投融資計画につきましては、限られた原資事情にかんがみ、対象機関の事業内容、融資対象等を見直しまして、規模の抑制を図るとともに、重点的、効率的な資金配分に努めることといたしたのであります。

 この結果、昭和五十六年度の財政投融資計画の規模は、十九兆四千八百九十七億円となって、前年度当初計画に比べて七・二%の増加となっております。

 第五に、主要な経費について申し上げます。

 まず、社会保障関係費につきましては、今後の高齢化の進展等に備え、一律総花主義を排し、社会的公正の確保を旨として、給付の重点化、適正化を図るとともに、負担の公平化を着実に進め、社会保障施策を重点的に推進していくことといたしております。

 このため、老齢福祉年金及び児童手当につきましては、比較的裕福な世帯の方にはできる限り自助の考え方に立って対処していただくこととして所得制限の適正化を図る一方、障害福祉年金等につきましては、所得制限を緩和することといたしました。また、社会的、経済的に弱い立場にある心身障害者、老人、母子世帯、低所得者世帯につきましては、重点的に給付の改善を図るなど、社会福祉諸施策を着実に推進していくことといたしております。

 医療費につきましては、人口の老齢化、医療の高度化等に伴い、今後とも必然的に増加し、それにつれて国民の負担も増加することが予想されるだけに、いやしくも乱診乱療、不当不正請求にわたることのないようその効率化、適正化を図ることが重要であります。このため、医療機関に対する指導、監査の強化を初め、社会保険診療報酬請求書の審査の改善充実、高額医療機器の適正配置と共同利用の促進、医療費通知の充実など、各般の施策を講ずることといたしております。一方、医療供給の面では、僻地・救急医療等の整備を初め、難病対策の拡充、がん研究体制の整備など、一層の充実を図っております。

 さらに、雇用対策につきましては、高年齢者、心身障害者等の雇用安定のための諸施策に意を用いているところであります。

 文教及び科学振興費につきましては、公立文教施設の事業量の見直しを図りつつ、小中学校校舎の改築や、高校新増設建物に対する国庫補助制度の継続等に十分配慮するほか、私立学校に対する助成、新大学の創設など各般の教育施策について着実な進展を図ることといたしております。

 また、科学技術の振興につきましては、資源に乏しいわが国が今後一層の発展を遂げるためには、その着実な充実を図る必要があるとの長期的展望に立ちまして、時代の要請に応じたプロジェクトの推進、基礎研究の充実等に重点的に配慮いたしております。

 次に、エネルギー対策につきましては、厳しい国際石油情勢のもとで、国民生活の安定と経済の着実な発展を確保する観点から特段の配慮を行い、石油の安定的供給の確保、石油代替エネルギーの開発利用、地元福祉に配慮した電源立地の円滑化及び省エネルギー対策等の諸施策を積極的に推進することといたしております。

 経済協力費につきましては、国際社会の一員としての責任を果たしていくために、二国間無償援助及び技術協力予算を中心に大幅な増額を図るとともに、国際機関に対する分担金等について応分の協力を行うことといたしました。

 防衛関係費につきましては、「防衛計画の大綱」に基づき、国際情勢にも配慮し、経済財政事情等を勘案しつつ、質の高い防衛力の着実な整備に努めることとし、特に装備の更新、近代化を図るとともに、基地周辺対策を推進することといたしております。

 公共事業関係費につきましては、厳しい財政事情にかんがみ、引き続き抑制を図ることとし、国民生活の充実の基礎となる社会資本の整備に配慮しながら、その総額においては前年度と同額にとどめることといたしました。

 中小企業対策費につきましては、中小企業の経営力の一層の強化、地域中小企業振興施策等の充実に努めるとともに、中小企業金融を円滑に進めるため、政府系中小金融三機関に対する出融資の拡充及び信用補完制度の拡大を図ることとしました。

 以上のほか、総合的な食糧自給力の向上と農林水産業の健全な発展を図ることを基本として、食糧管理費につきましては、米の需給均衡を図るため水田利用再編対策の大幅な見直しを行う一方、米麦の政府売り渡し価格の改定等の措置を講じ、財政負担の軽減を図ることとしました。また、引き続き地域農業生産の再編成、沿岸漁業の振興、林業活動の促進等に必要な経費を計上いたしております。

 日本国有鉄道の財政再建問題につきましては、昨年、日本国有鉄道経営再建促進特別措置法が制定されましたので、昭和五十六年度においては一万一千人に及ぶ定員削減等の思い切った経営合理化を推進することとし、さらに運賃等の改定を見込み、これらとあわせて必要な助成措置を講じることといたしております。

 第六に、地方財政対策について申し上げます。

 昭和五十六年度の地方財政につきましては、一兆三百億円の財源不足が見込まれます。これに対して、一般会計から臨時地方特例交付金、資金運用部資金からの借り入れ及び建設地方債の増発等によって所得の財源を確保し、その運営に支障が生ずることのないよう配慮しております。これらの結果、地方団体に交付する地方交付税交付金の総額は八兆七千百六十六億円となります。

 この際、私は、地方公共団体に対しましても、財政再建に向けて、国と同一の姿勢によって、歳出の節減合理化を推進し、財源の重点的かつ効率的配分を行うよう強く要請するものでございます。また、これに関連して、定員及び給与についての適切な管理を行うよう、あわせてお願いいたしたいと考えております。

 次に、この機会に、さきに提出いたしました昭和五十五年度補正予算について一言申し上げます。

 歳出につきましては、農業保険費、災害復旧等事業費等、当初予算作成後に生じた事由に基づいて特に緊要となった事項について措置を講ずることといたしました。

 これらの措置に必要な歳出の追加額は一兆二千八十四億円でありますが、他方、既定経費の節減等によって一千百五十九億円の修正減額を行うことといたしましたので、この補正による歳出総額の追加は一兆九百二十五億円となります。

 歳入につきましては、最近までの収入実績等を勘案し、租税及び印紙税収入について七千三百四十億円、専売納付金等税外収入については三百二十億円、それぞれ増収を見込むとともに、前年度剰余金受け入れ三千二百六十五億円を計上しております。

 以上によりまして、昭和五十五年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対して一兆九百二十五億円増加して四十三兆六千八百十四億円となります。また、その公債依存度は三二・七%であります。

 以上、昭和五十六年度予算及び昭和五十五年度補正予算の大要について御説明をいたしました。

 次に、最近の経済情勢と当面の政策運営の基本的考え方について申し上げます。

 先進諸国はいずれも第二次石油危機への対応の過程で、物価の高騰、景気の落ち込み、国際収支の赤字といった三重の困難な状況に直面いたしました。ましてエネルギー資源に乏しいわが国にとって、石油価格の上昇が大きな重荷となったことは言うまでもございません。このような厳しい環境の中にかかわらず、わが国が、企業、労働組合、家計等の堅実な対応によって、諸外国と比べてこれらの困難を最小限度に食いとめ、乗り切りつつあることは喜ばしいことであります。

 まず、物価については、卸売物価はすでに沈静化しており、消費者物価も落ちつきの傾向が定着しつつあります。

 景気につきましては、個人消費の伸び悩みなどから経済の拡大テンポは緩やかなものとなっておりますが、今後、物価の安定とともに個人消費の回避が期待され、次第に明るさが増してくるものと考えます。

 国際収支につきましては、経済収支はなお赤字基調でありますが、貿易収支の好転を反映して着実に改善を示しつつあります。これに加えて資本収支も海外からの対日証券投資を中心に流入超過の傾向が続いております。

 このような経済情勢化で、経済運営の基本的態度として求められるものは、何よりもまず物価の安定を図りつつ、景気の回復を着実なものとし、民間設備投資や個人消費支出等の民間需要を中心とした息の長い成長を持続せしめることであると思います。今後とも物価に悪い影響の出ない範囲内で景気に配慮し、機動的、弾力的な政策運営を行っていくことが肝要だと考えております。

 また、国際収支につきましては、今後とも国際的に調和のとれた形でその改善を図るべく着実な努力を積み重ねてまいる所存であります。

 為替相場につきましては、昨年の後半以降、円高方向に推移してきております。これは基本的には、わが国経済の実力が評価されていることのあらわれであると考えます。為替相場の動向は、ひとりわが国経済の諸情勢のみならず、海外の要因にも大きく左右されますので、関係諸国とも緊密な協調を保ちつつ、円相場の安定に努めてまいりたいと考えております。

 今後のわが国を取り巻く国際経済情勢につきましては、世界経済は、多くの先進諸国でことし後半から景気の立ち直りが予想されるなど、総じて見れば次第に明るさが増すものと期待されますが、また同時に、流動的な国際石油情勢、海外金利動向、非産油発展途上国の債務累積等懸念すべき要因も決して少なくはありません。

 わが国は、世界経済に大きな影響を及ぼす立場にある国の一つとして、世界経済の調和ある発展に貢献していかなければなりません。保護貿易主義の台頭の回避、南北間の対話と協力の促進などは、世界経済の持続的発展を実現する上で基本的な課題でありますし、こうした課題に対してじみちに取り組んでいく必要がございます。

 開発途上国の経済発展のための努力を支援することは、これらの国々の国民生活の向上のためのみならず、世界経済全体の均衡のとれた成長を確保するためにも重要でございます。こうした観点から引き続き経済協力の着実な拡充を図るとともに、効率的な実施に努めてまいる考えであります。このため、厳しい財政事情にかかわらず、このたび政府開発援助に係る国の予算につきましては、今後五年間の目標を掲げることといたしました。また、関税政策の面におきましても、本年度末に適用期限が到来する特恵関税制度につき、その期限をさらに十年延長する等の措置を講ずることといたしております。

 次に、当面の金融政策の運営について申し上げます。

 金融面におきましては、さきに申し上げました経済運営の基本的態度のもとに、昨年十一月から十二月にかけて預貯金金利を含む金利水準全般の引き下げを図るとともに、預金準備率の引き下げなど金融の量的緩和にも配慮をしてまいりました。

 今後の金融政策の運営に当たりましては、物価、景気、海外情勢等、経済の動向を総合的に判断いたしまして、機動的に対処してまいりたいと存じます。

 金融政策の機動的運営にとって看過し得ない問題は、規模の大きくなった郵便貯金と累増する国債残高であります。

 このほど内閣に、金融の分野における官業の在り方に関する懇談会が設けられ、いわゆる金利政策の一元化等の問題について早急に検討されることとなったのは、時宜を得たものと考えます。

 公債残高は昭和五十六年度末に約八十二兆円に達し、また五十六年度に約八千九百五十億円予定されている借りかえ債発行額も、年を追うて急増が見込まれています。このような状況にかんがみ、今後とも安定的な消化の促進、流通市場の整備等国債管理政策については、なお一層の配慮をしてまいる所存でありますが、改めて申し上げるまでもなく、国債発行額の減額にまさる対策はあり得ないのであります。

 金融制度につきましては、社会経済情勢の変化に対応して、金融機関の健全経営を確保するとともに、国民経済的、社会的要請に適切にこたえ得るようその整備改善を図りたいと考えております。そのため、普通銀行制度の全面改正とともに、相互銀行、信用金庫等の制度の一部改正を行うこととし、関係方面とも調整を図った上で、所要の法律案を今国会に提出したいと考えております。また、これと関連して証券取引法の一部改正をお願いする予定であります。

 最後に、すでに申し述べましたとおり、第二次石油危機に際しましても、わが国民は柔軟な適応力を発揮し、これをまさに乗り切ろうとしております。

 わが国経済は、物価、成長、雇用等を総合的に見て、諸外国に比較しても最も良好な状態にあります。

 わが国経済のしなやかな強さは、つとに諸外国から驚異と称賛の目をもって見られているところであります。

 しかし、他方でわが国経済は、エネルギー制約とならんで諸外国に例を見ない巨額の財政赤字という弱点を抱えているということを忘れてはなりません。また、世界経済を離れて日本経済はあり得ず、わが国経済の繁栄とともに、世界の中の日本として果たしていくべき責務もそれだけ大きなものになるということを十分認識する必要があります。

 問題の所在は明らかとなりました。道は近きにあります。順次実行あるのみです。わが国民のすぐれた資質と能力を生かして、内に財政再建の課題を達成し、外に国際社会の一員としての責務を果たすことができれば、一層明るい未来の展望を切り開いていくことができるものと信じて疑いません。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。