データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第72代第2次中曽根(昭和58.12.27〜61.7.22)
[国会回次] 第102回(常会)
[演説者] 竹下登大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1985/1/25
[参議院演説年月日] 1985/1/25
[全文]

 ここに、昭和六十年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方につき所信を申し述べますとともに、算予の大綱を御説明いたしたいと存じます。

 現在、我が国経済は、なお改善を要する分野や解決すべき課題を抱えておりますが、世界的に見ても、また過去との比較においても、総じて、恵まれた、良好な状態にあると言えるのではないかと考えられます。

 まず、物価は三年以上にわたり極めて安定しております。また、民間経済の創意と活力をあらわす投資を中心として、経済は順調に拡大しております。これらの結果、国民生活は着実に向上しております。すなわち、安定の中にあって力強さと豊かさを備えた成長の姿が見られるのであります。

 私は、我が国経済がこのような基調を中長期的に定着させていくよう今後とも努力を重ね、潤いと活力のある経済、社会を構築してまいりたいと念願するものであります。

 この目標の実現のためには、まず第一に、我が国経済、社会の特質である柔軟性を引き続き維持することが肝要であります。

 我が国は、戦後、高度成長を実現し、その後二度にわたる石油危機の悪影響を克服して今日の安定と繁栄を築いてまいりましたが、これは、国民のすぐれた英知とたゆみない努力に裏づけられた、我が国経済、社会の高い柔軟性によるところが大であります。今後においても、先端技術の開発等の面で創造力を発揮するとともに、人口の高齢化など社会構造の変化に適応していくためには、柔軟性の特質をさらに生かしてまいらねばなりません。

 第二には、我が国が国際国家として大きく成長することが必要であります。

 申すまでもなく、我が国経済の安定と発展は、世界経済との密接な関連の上に成り立つものであります。私は、国民の一人一人がこの点の認識を一層深め、世界の諸国民の平和と繁栄のために我が国が積極的に貢献するよう努力する必要があり、また、そのことが同時に、我が国の豊かで安定した経済、社会の持続を可能とする条件でもあると考えるものであります。

 以上の考え方に立って、私は、今後の財政金融政策の運営に当たり次の四つの課題を設定し、適切な政策運営に万全を期してまいる所存であります。

 それらの課題とは、インフレなき持続的成長の確保、財政改革の強力な推進、金融の自由化及び円の国際化の促進、そして世界経済発展への貢献の四つであります。

 まず第一は、引き続きインフレなき持続的成長の確保を図っていくことであります。

 物価の安定は、経済の発展と国民生活安定の大前提であります。冒頭に申し上げましたような戦後最良の物価安定の状況を今後とも維持し、持続的成長の基礎としてまいる所存であります。

 一方、景気の面では、引き続き国内民間需要を中心とする持続的な安定成長の達成に向けて努力してまいります。

 このため、昭和六十年度予算におきましても、厳しい財政事情のもとで公共事業の事業費の確保に努めるなど、景気の維持拡大にはできる限りの配慮を払っております。

 金融面では、我が国金融は、現在、量的に緩和した状態にあり、最近では長期金利も低下しております。今後の金融政策の運営につきましては、従来同様、物価、景気、内外金利の動向、為替相場の状況等を見守りながら、適切かつ機動的に対処してまいる所存であります。

 第二は、財政改革の強力な推進であります。

 我が国経済、社会の柔軟性を維持し、今後の内外経済の変化に対応していくためには、財政の対応力の回復が最も急を要する政策課題であることは、多言を要しないところであります。

 このため、政府は「一九八〇年代経済社会の展望と指針」において昭和六十五年度までの間に特例公債依存体質からの脱却と公債依存度の引き下げに努めるという努力目標を示し、財政改革を推進してきております。

 特に近年においては、連年一般歳出を前年度同額以下とするなど、制度、施策の見直し等を通ずる歳出の節減合理化を中心として、財政健全化のための努力を積み重ねてまいりました。昭和六十年度予算においても、引き続き歳出歳入両面の努力によって、公債を前年度の当初発行予定額に比し一兆円減額することとしております。

 しかしながら、これらの努力をもってしてもなお、我が国財政は深刻な状態にとどまっていると申さざるを得ません。

 すなわち、公債の発行残高は、昭和六十年度末には約百三十三兆円にも達する見込みであり、その利払い等に要する経費は十兆円を超えるに至っております。これは、歳出予算の一九%強を占める大きさであり、社会保障関係費をも上回り、主要経費中最大の歳出項目となっているのであります。

 この利払い費の増高が、政策的な経費に充て得る財源を極度に制約しております。その結果、財政に本来期待されている諸機能を十全には発揮し得なくなっており、このままでは、今後における人口の急速な高齢化や国際社会における責任の増大など、社会経済の変化に対応する力が失われるだけでなく、さらには後代の国民に、高齢化に伴うさまざまな負担に加え、多額の公債の元利払い負担を負わせることになりかねないのであります。今後とも我々は、年々着実に財政改革を進めてまいらなければなりません。

 このため、歳出面におきましては、政府と民間の役割分担並びに国と地方の機能分担及び費用負担のあり方を見直すなど、連年の努力を踏まえ、その節減合理化にさらに積極的に取り組んでまいりたいと存じます。

 また、歳出面におきましては、税制調査会の昭和六十年度の税制改正に関する答申において、「既存税制の部分的な手直しにとどまらず、今こそ国民各層における広範な議論を踏まえつつ、幅広い視野に立って、直接税、間接税を通じた税制全般にわたる本格的な改革を検討すべき時期にきている」との極めて異例の御指摘をいただいているところであります。これについては、政府といたしましては、税制調査会の答申の趣旨等を踏まえ、税制全般にわたる広範な角度からの論議と検討が行われるべき問題であると考えております。今後、国民各位の深い御理解と御協力を賜わりますようお願い申し上げる次第であります。

 なお、財政改革の問題は中期的な展望を持って幅広い視点から検討を行う必要がありますが、このような検討に資するため、本年度におきましても、中期的な財政事情の展望を作成したいと考えております。

 財政改革への道は決して平坦なものではありません。しかし、私は、今後ともさらに財政改革を推進するため、渾身の努力を重ねてまいりたいと存じます。

 第三は、金融の自由化及び円の国際化の促進であります。

 近年、経済構造の変化や経済全般にわたる国際化の進展、技術革新等を背景に金融の自由化及び円の国際化が急速に進展しておりますが、私は、これらの動きは我が国経済の発展と国民生活の向上に資するものであると同時に、我が国が世界経済の発展に貢献していく上で有意義なものであると考えております。

 このような考え方に立ち、大蔵省はつとに新銀行法の制定、外国為替管理法の改正等を行い、そのもとで諸般の自由化・弾力化措置をとってまいりました。とりわけ昨年には、「金融の自由化及び円の国際化についての現状と展望」や、いわゆる日米円・ドル委員会の報告書を作成、公表し、金融の自由化及び円の国際化について、今後の展望や当面とるべき具体的措置等を内外にお示ししたところであります。今後、この展望等に沿って、金融の自由化、円の国際化を着実に進めてまいりたいと考えております。

 他方、金融行政並びに金融政策において、信用秩序の維持を図ることは、国民に対する重大な責務であります。こうした観点から、私は、今後における金融の自由化、円の国際化の促進に当たっては、信用秩序の維持に遺憾なきを期してまいる所存であります。

 もとより、金融の自由化といい、円の国際化といい、これらは、国民の間に自己責任原則の浸透が図られて初めて真に実現されるものであります。また、自由化・国際化の中にあって、金融機関等においては、経営の効率化がさらに必要となることは改めて申すまでもありません。

 さらに、金融の自由化や円の国際化の一層の進展を図りつつ、金融政策の有効性を確保するためには、従来以上に金利機能を重視する必要があり、この観点から、引き続き金融市場の整備等について検討してまいりたいと考えております。

 なお、我が国金融の自由化や円の国際化に対しては海外から強い関心が寄せられており、昨年は米国のほか英国の金融当局との間にも建設的な意見交換の場を持ったところであります。今後とも、金融制度や金融行政をめぐる諸問題について相互の協調と理解の増進に努めてまいる考えであります。

 第四は、我が国が国際国家としてさらに飛躍するため、世界経済の発展に貢献することであります。

 私は、昨年九月、ワシントンで開催されたIMF・世銀総会において、日本の大蔵大臣として初めて総会の議長を務め、我が国の戦後における経済発展の経験を踏まえ、IMF・世銀を中心とする国際協力の一層の強化を呼びかけてまいりました。今後ともこれらの国際金融機関に対し、資金協力のみならず、施策立案や運営などの面においても我が国の国際的地位にふさわしい貢献を行い、世界経済の健全な発展に寄与してまいりたいと考えております。

 また、十カ国蔵相会議においては、国際的な通貨の安定を図るため、国際通貨制度改善のための条件を明らかにする作業が進められており、私が議長としてその取りまとめを行うことを予定しております。我が国としては、現行の変動相場制を前提に、その漸進的かつ着実な改善が推進されるよう、今後とも本作業に積極的に貢献してまいる所存であります。

 なお、最近の為替市場の動きにかんがみ、先般ワシントンで開催された主要五カ国の蔵相会議において、為替市場の一層の安定に向けて各国が努力する旨合意いたしました。我が国としても、このような方向で引き続き各国と協力してまいりたいと考えております。

 一方、我が国の国際収支について見ますと、貿易・経常収支は大幅な黒字を続けておりますが、これは、米国経済の急速な拡大、ドルの独歩高や一次産品価格の低迷等の海外の要因によるところが大きいと考えられます。

 したがって、この不均衡を是正するためには、基本的に、ドルの独歩高の是正等の国際的な経済環境の変化が必要であると考えます。

 同時に我が国としては、自由貿易体制の維持強化を通じて世界貿易の拡大と世界経済の発展に貢献する見地から、率先して市場の解放と輸入の促進に努めることも等しく重要と考えております。このため、政府は昨年、二度にわたって対外経済対策を策定し、現在、それらの各種の施策の着実な実施に努めているところであります。

 この二つの対策に沿い、昭和六十年度関税改正においては、開発途上国の経済発展への貢献にも配慮しつつ、東京ラウンド合意にのっとった関税引き下げの繰り上げ措置を、米国・ECより一歩先んじて実施するとともに、諸外国の関心の強いワイン、紙製品等の関税率の引き下げ、特恵関税制度の改善等を行うこととしております。

 なお、経常収支黒字の反面、我が国の長期資本収支は大幅な赤字を継続しており、これによって世界の資本不足国に必要な資金が供給され、同時に、世界的な金利上昇圧力も緩和されている点にも留意する必要があると考えられます。

 経済協力につきましては、厳しい財政事情のもとではありますが、開発途上国の自助努力を支援し、もって世界経済の安定と発展に資するため、今後とも効果的、効率的実施に十分配慮しつつ、その充実に努める所存であります。

 また、累積債務問題につきましては、債務国において中長期的観点に立った構造調整を進めるとともに、それを支援する関係当事者の真剣な努力が引き続き重要であると考えております。

 次に、昭和六十年度予算の大要について御説明いたします。

 昭和六十年度予算は、引き続き財政改革を強力に推進するため、特に、歳出の徹底した節減合理化を行うことを基本として、あわせて、歳入面についてもその見直しを行い、これにより公債発行額を可能な限り縮減することとして、編成いたしました。

 歳出面におきましては、既存の制度、施策の見直しを行うなど徹底した節減合理化を行い、その規模を厳しく抑制したところであります。

 概算要求の段階におきましては、前年度に引き続き対前年度マイナスの概算要求基準を設定し、各省庁において、それぞれ所管の予算について根底から洗い直し、優先順位の厳しい選択を行ったところでありますが、その後の予算編成に当たりましても、聖域を設けることなくすべての分野にわたり徹底的な節減努力を払いました。

 特に、補助金等につきましては、すべてこれを洗い直し、人件費補助等の見直し、高率補助率の引き下げ、その他廃止、合理化など徹底した整理合理化を積極的に進めました。これにより、補助金等総額においては、前年度に引き続き、真にやむを得ない増加要素を織り込んでなお、前年度に比し千三百四十四億円の減と厳しく圧縮いたしました。なお、いわゆる行革関連特例法による特例措置については、所要の継続措置を講ぜざるを得なかったのでありますが、現下の厳しい財政事情にかんがみ、ぜひ御理解を賜りたいと存じます。これらについては、別途、国の補助金等の整理及び合理化並びに臨時特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 国家公務員の定員につきましては、定員削減計画の着実な実施、新規増員の厳しい抑制のほか、定年制度の施行による退職者の後補充に対する適切な対応の結果、行政機関職員について、六千四百八十二人に上る大幅な縮減を図ることといたしております。

 以上の結果、一般歳出の規模は、三十二兆五千八百五十四億円と前年度に比べ三億円の減に圧縮いたしております。これは、昭和五十八、五十九年度に引き続き三年連続の対前年度減額であります。

 これに国債費及び地方交付税交付金を加えた一般会計予算規模は、前年度当初予算に比べ、三・七%増の五十二兆四千九百九十六億円となっております。

 次に、歳入面につきまして申し述べます。

 歳入の基幹たる税制につきましては、昭和六十年度においては、最近の社会経済情勢と現下の厳しい財政事情にかんがみ、税負担の公平化、適正化を一層推進するとの観点から、その見直しを行うことといたしました。すなわち、貸倒引当金の法定繰り入れ率の引き下げ、公益法人、協同組合等の軽減税率の引き上げ、利子配当等の課税の適正化、租税特別措置の整理合理化等を行うとともに、基盤技術研究開発の促進、中小企業技術基盤の強化等に資するため所要の措置を講ずることといたしております。

 なお、税の執行につきましては、今後とも、国民の信頼と協力を得て、一層適正公平な税務行政を実施するよう、努力してまいる所存であります。

 また、税外収入につきましては、極めて厳しい財政事情にかんがみ、可能な限りその確保を図ることといたしております。

 公債につきましては、以上申し述べました歳出歳入両面の努力により、その発行予定額を前年度当初予算より一兆円減額し、十一兆六千八百億円といたしました。その内訳は、建設公債五兆九千五百億円、特例公債五兆七千三百億円となっております。この結果、公債依存度は二二・二%となり、前年度当初予算の二五・〇%より二・八ポイント低下することとなります。特例公債の発行につきましては、別途、昭和六十年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特別措置に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 また、昭和六十年度においては、特例公債の借換債一兆八千六百五十億円を初めて発行することとなりますが、これを含め、八兆九千五百七十三億円の借換債の発行を予定しており、これを合わせた公債の総発行額は二十兆六千三百七十三億円となります。これらの公債につきましては国債引受団による引き受け、中期国債の公募入札のほか、特に資金運用部資金による引き受けの拡充により、円滑な消化を図ることといたしております。

 さらに、今後の公債の大量の償還、借りかえに円滑に対応するため、短期の借換債の発行や年度を越えた借換債の前倒し発行といった新たな方策を昭和六十年度から実施し得るよう、所要の制度改正を行うことといたしております。

 なお、昭和六十年四月から発足する日本電信電話株式会社の株式に関しては、そのうち売却可能な分については国債整理基金特別会計に帰属させ、公債償還財源の充実に資することとしております。他方、政府保有が義務づけられている分については産業投資特別会計に帰属させ、その配当金収入を同特別会計において活用することとしております。また、日本たばこ産業株式会社の株式に関しても同趣旨の措置を講ずることとしております。

 財政投融資計画につきましては、対象機関の事業内容、融資対象等を厳しく見直すとともに、資金需要の実態および政策的な必要性を勘案し、重点的、効率的な資金配分に努めることとしております。

 この結果、昭和六十年度の財政投融資計画の規模は二十兆八千五百八十億円となり、昭和五十九年度当初計画額に対し一・二%の減額となっております。

 次に、主要な経費につきまして申し述べます。

 昭和六十年度予算におきましては、極めて厳しい財施事情のもとで、経費の徹底した合理化、効率化を図っておりますが、限られた財源の中で質的な充実に配意することとし、特に、真に恵まれない方々に対する施策等については、きめ細かな配慮を行うとともに、中長期的観点から充実を図る必要があるものについては配意したところであります。

 まず、社会保障関係費、文教及び科学振興費につきましては、今後における高齢化社会の進展等社会経済の変化に対応して、今後とも各種施策が安定的かつ有効に機能するよう制度、運営の不断の見直しが必要でありますが、昭和五十九年度予算で進めた医療保険、年金、雇用保険及び育英奨学事業等の本格的な制度改革の上に立って合理化、効率化を進めることとしております。また、老人や心身障害者に対する福祉施策の充実、保健事業の推進、高年齢者の就業機会の確保、教育環境の整備、基礎科学研究の充実など、施策の推進に努めております。

 経済協力費につきましては、国際情勢等を考慮しつつ、政府開発援助予算の増額について特段の配慮を行うこととし、防衛関係費につきましても、他の諸施策との調和を図りながら、質的充実に配意することとしております。また、エネルギー対策費につきましても、中長期的な需給見通しを踏まえ、各種施策を計画的かつ着実に推進することといたしております。

 中小企業対策費につきましては、中小企業を取り巻く環境の変化に対応し、その近代化、構造改善を促進していくための措置を講じております。また、農林水産関係費につきましては、需要の動向に即応した生産の再編成を行いながら、生産性の高い農業の実現を図ることを基本に、施策の重点的、効率的な推進に努めております。

 また、食糧管理費の節減合理化、国鉄経営の合理化等をさらに推進したところであります。

 公共事業関係費につきましては、厳しい財政事情にかんがみ、総額として前年度を下回る水準としておりますが、国民生活充実の基盤となる社会資本の整備に重点的に配意することとし、一般公共事業の事業費については、前年度を上回る水準を確保することといたしております。

 昭和六十年度の地方財政につきましては、高率補助率の引き下げによる影響等を織り込んで五千八百億円の財源不足が見込まれますが、地方交付税交付金の特例措置等の地方財政対策を講ずることとし、その適正な運営に支障の生じないよう配意しております。地方団体におかれましても、歳出の節減合理化を推進し、より一層有効な財源配分を行うよう要請するものであります。

 この機会に、昭和五十九年度補正予算につきまして一言申し上げます。

 昭和五十九年度補正予算につきましては、災害復旧費の追加、給与改善費、健保法改正の施行遅延等に伴う国庫負担増を初め義務的経費の追加等、当初予算作成後に生じた事由に基づき特に緊要となったやむを得ない事項について措置を講ずることといたしております。

 そのための財源としては、既定経費の節減、予備費の減額を行い、租税及び印紙収入、税外収入の増加を見込むとともに、さらに、特例公債の追加発行を避けるため、前年度の純剰余金二千五百六億円につきましてやむを得ずその二分の一を充てることといたしました。なお、純剰余金の二分の一につきましては、財政法の規定に基づき、公債償還財源として国債整理基金特別会計に繰り入れることといたしております。

 また、昭和五十九年の災害につきましては、早期にその復旧を図ることとし、これに要する経費につきましては、建設公債千八百五十億円を発行することによりその財源を確保することといたしております。

 この結果、昭和五十九年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対し八千八百六十一億円増加して、五十一兆五千百三十四億円となっております。

 なお、一般会計及び特別会計において、景気の持続的拡大に資するため、一般公共事業に係る国庫債務負担行為二千四十六億円を追加計上し、これにより事業費として三千億円を確保することといたしております。

 以上、昭和六十年度予算及び昭和五十九年度補正予算の大要について御説明いたしました。御審議の上、何とぞ速やかに御賛同くださいますようお願いを申し上げます。

 我々は昭和六十年代の劈頭に立っております。この新たな十年間において、我が国は世界の諸国民の平和と繁栄に貢献しながら、潤いのある、活力に満ちた経済、社会を築いてまいらねばなりません。

 このためには、我々は勇断をもって眼前にある課題の解決に取り組むことが必要であります。とりわけ、財政改革の推進こそは、我々の子孫に重荷を残すことのないよう、ぜひとも解決しなければならない課題であることは、申すまでもありません。

 財政は国民のためのものであり、同時に国民によって財政は支えられているのであります。受益と負担はいかにあるべきか、今後の財政についてどのような展望を開いていくかなどの問題に、国民各位の御理解を得ながら取り組んでまいる所存であります。

 国民各位の一層の御支援と御協力を切にお願いする次第であります。