データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第73代第3次中曽根(昭和61.7.22〜62.11.6)
[国会回次] 第109回(臨時会)
[演説者] 宮澤喜一大蔵大臣
[演説種別] 昭和六十二年度補正予算に関する演説
[衆議院演説年月日] 1987/7/6
[参議院演説年月日] 1987/7/6
[全文]

 昭和六十二年度補正予算のご審議をお願いするに当たり、当面の財政金融制度の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、補正予算の大綱を御説明いたします。

 最近の経済情勢について見ますと、世界経済は、全体として緩やかな拡大を続けているものの、主要国の経済成長は力強さを欠いており、各国の大幅な対外不均衡等を背景として、保護主義が高まりつつあります。また、開発途上国における累積債務問題も、なお解決を見ておりません。

 一方、我が国経済について見ますと、国際収支の不均衡は是正の兆しはありますが、なお大幅であります。また、景気は底がたさはあるものの、製造業を中心に停滞感が続き、雇用面も厳しい状況にございます。

 このような経済情勢を踏まえ、政府は、内需を中心とした景気の積極的な拡大を図るとともに、対外不均衡の是正、調和ある対外経済関係の形成を目的として、去る五月に、緊急経済対策を決定したところであります。これは、公共投資等の拡大及び所得税等の減税先行により六兆円を上回る財政措置を伴う内需拡大策を講ずるとともに、所要の対外経済対策を講ずるものであります。

 まず、内需拡大策について申し上げます。

 本対策においては、まず、これまでの最高の公共事業等の施行促進を図るとともに、事業費五兆円の公共投資等の追加を行うことといたしております。

 具体的には、一般公共事業で、日本電信電話株式会社の株式売り払い収入の活用を図りつつ、二兆四千五百億円の追加を行うほか、災害復旧事業四千五百億円、施設費等三千五百億円、日本道路公団等の事業費二千五百億円、地方単独事業の追加要請八千億円、住宅金融公庫の融資制度の拡充等による事業規模の追加七千億円を確保することといたしております。

 また、本対策におきましては、衆議院に設置された税制改革協議会における協議の状況を踏まえ、速やかに直間比率の見直し等税制の抜本改革の実現を図り、その一環として、昭和六十二年度において総額一兆円を下らない規模の所得税等の減税先行を確保することといたしております。

 さらに、金融政策につきましては、公定歩合が史上最低の水準に引き下げられており、また、短期金利も低い水準となっております。また、資金運用部の預託金利につきましても、去る五月に引き下げを図ったところであり、政府関係金融機関の金利の引き下げも実施されております。

 その他、住宅投資の促進、地域活性化の推進、民間活力の活用、中小企業対策、雇用対策、円高差益の還元等の諸施策を盛り込んでおります。

 次に、緊急経済対策のうち、対外経済対策に関する部分について申し上げます。

 まず、総額十億ドル規模の政府調達による追加的な外国製品の輸入を行うことを初めとする輸入拡大策を講ずることといたしております。

 また、我が国経済の効率化、国際化に資すると同時に、世界経済の発展に貢献していく見地から、金融・資本市場の自由化、国際化を図ることといたしております。

 本対策を受け、また、主要先進国等との金融協議その他の場における意見交換をも踏まえ、去る六月に「金融・資本市場の自由化、国際化に関する当面の展望」を発表いたしました。これは、預金金利自由化の一層の推進、短期金融市場の拡充、外国金融機関のアクセス改善等を内容とするものであり、これに沿って、今後とも、環境整備を図りつつ、自由化、国際化を積極的に進めてまいりたいと考えております。

 さらに、開発途上国の自助努力を支援するとともに、累積債務問題の解決を図り、もって世界経済の成長と繁栄に資することも我が国の大きな国際的責務であります。

 このため、政府開発援助につきましては、第三次中期目標について、極力その早期達成を図ることとし、少なくとも七年倍増目標の二年繰り上げを実施し、昭和六十五年のODA実績を七十六億ドル以上とすることといたしております。

 また、開発途上国等の開発・債務問題の解決に資するため、さきに世銀特別ファンドの創設、IMFへの貸し付け等により、約百億ドルの資金還流を図ったところでありますが、今回さらに国際開発金融機関への拠出や日本輸出入銀行、海外経済協力基金及び民間資金の動員等を通じ、今後三年間に二百億ドル以上のアンタイド資金の還流を実現させたいと考えております。

 先日行われましたベネチア・サミットには私も出席してまいりましたが、このたびの緊急経済対策は、世界経済に貢献するものとして各国から高い評価を受けたところであります。

 なお、サミットにおきましては、二月のルーブル会議、四月のワシントン会議等を通じ各国蔵相間で到達した政策協調と為替安定のための合意が、首脳レベルの一致した支持を受けましたが、これは、今後とも、各国との政策協調及び適時適切な介入を通じて、為替相場の安定を図っていく上で極めて有意義であったと考えております。

 政府は、以上申し述べました緊急経済対策の着実な実行を図ることにより内外の要請にこたえるべく、ここに本対策の施策の実現を図るため、昭和六十二年度補正予算を国会に提出したところであります。

 次に、財政改革及び税制改革について一言申し上げます。

 我が国財政は、昭和六十二年度末の公債残高が、百五十三兆円を超える見込みとなり、国債の利払い費が歳出予算の約二割を占めるなど、極めて厳しい状況が続いております。今後急速に進展する人口の高齢化や国際社会における我が国の責任の増大など、今後の社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応していくためには、財政改革を推進して財政の対応力の回復を図ることが依然として緊要な課題であります。近く作業を開始する昭和六十三年度予算編成に当たりましても、制度の基本にさかのぼった見直しや施策の優先順位の厳しい選択を行い、一層の経費の節減合理化のため積極的に取り組むとともに、内外の経済情勢に適切に対処するための種々の工夫、努力もあわせて行ってまいりたいと考えております。

 税制につきましては、戦後四十年間にわたる経済社会情勢の著しい変化に即応し、公平、公正等の基本理念のもとに抜本的な見直しを行うことにより、国民の理解と信頼に裏づけられた安定的な歳入構造を確立することが急務であります。

 税制改革問題につきましては、さきの衆議院議長あっせんに基づき、衆議院に税制改革協議会が設置され、現在、鋭意協議が続けられているところでありますが、政府といたしましても、この機会に一日も早く抜本的な税制改革案が得られることを期待いたしております。また、さきの緊急経済対策に盛り込まれた所得税等の減税先行については、恒久的な財源措置を確保しつつ、税制改革の一環をなすものとして所要の改正法案を今国会に提出いたしたいと考えております。いずれにいたしましても、税制改革協議会における御審議の推移を注視してまいりたいと考えております。

 次に、今国会に提出いたしました昭和六十二年度補正予算の大要について御説明申し上げます。さきに御説明いたしました緊急経済対策を実施するため、一般会計におきまして、公共事業関係費の追加として、一般公共事業関係費八千億円、災害復旧等事業費三千四百三十五億円を計上するとともに、一般公共事業に係る所要の国庫債務負担行為の追加を行っております。また、文教、研究開発及び社会福祉関係の施設整備費等の追加として二千百五十億円を計上することといたしております。

 これとあわせて、日本電信電話株式会社の株式売り払い収入について、国債の償還財源に充てるという基本原則は維持しつつ、その一部を活用して社会資本の整備の促進を図るため、四千五百八十億円を国債整理基金特別会計から一般会計を通じて産業投資特別会計に繰り入れ、このうち四千億円を公共事業に、また、五百八十億円を特定の民活事業に充てることといたしております。

 なお、この日本電信電話株式会社の売り払い収入の社会資本整備への活用につきましては、別途、日本電信電話株式会社の株式の売払収入の活用による社会資本の整備の促進に関する特別措置法案及び同法の実施のための法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 このほかにも、緊急経済対策における各施策の実施等のため、中小企業等特別対策費四百十四億円、政府調達特別対策費一千十一億円、経済協力特別対策費百八十三億円等を計上いたしております。

 他方、歳入面におきましては、公共事業等の財源につきまして、先ほど申し述べましたように、日本電信電話株式会社の株式売り払い収入の一部を国債整理基金特別会計から繰り入れるとともに、建設公債一兆三千六百億円を追加発行することといたしました。この公債につきましては、国債引受団による引き受け、資金運用部資金による引き受け及び公募入札により円滑な消化を図ることといたしております。

 また、特例公債の増発を回避するため、やむを得ず、昭和六十一年度の決算上の純剰余金の二分の一の範囲内で四千三十億円を計上する等所要の補正を行うことといたしました。

 これらの結果、昭和六十二年度一般会計補正後予算の総額は、歳入歳出とも当初予算に対し二兆七百九十三億円増加して、五十六兆一千八百三億円となっております。

 なお、先ほど申し述べましたように、税制改革問題については、税制改革協議会において協議が続けられていることでもありますので、税制改革関連の歳入歳出につきましては、今回は補正を行わないことといたしております。

 以上の一般会計予算補正等に関連して、特別会計予算及び政府関係機関予算につきましても、所要の補正を行うことといたしております。

 財政投融資計画につきましては、緊急経済対策を実施するため、住宅金融公庫、日本道路公団等十三機関に対し、総額八千四百五十二億円の追加を行うことといたしております。

 以上、昭和六十二年度補正予算の大要を御説明申し上げました。何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同くださいますようお願い申し上げます。