[内閣名] 第74代竹下(昭和62.11.6〜平成1.6.3)
[国会回次] 第114回(常会)
[演説者] 村山達雄大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1989/2/10
[参議院演説年月日] 1989/2/10
[全文]
平成元年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方につき所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明いたします。
我が国経済は、二度にわたる石油危機を初めとする幾多の試練を乗り越え、目覚ましい発展を遂げてまいりました。その過程で経済、社会全般にわたる国際化が著しく進展し、今や我が国の経済運営は世界から注目を受けている状況にあります。
今後、我が国の進むべき道は、これまでの成長と発展の上に立って、対内的には豊かで活力のある経済、社会の構築を進め、対外的には調和のとれた国際関係を形成し、世界経済の安定的発展のために我が国にふき{前1字ママ}わしい貢献をしていくことにあります。
現在、我が国の経済は、落ちついた物価動向のもとで、内需を中心として力強い拡大を続けております。個人消費は堅調に推移し、設備投資も増勢を強めるなど、民間需要は順調に推移しております。経常収支の不均衡是正も進んでおります。このような我が国の経済の現状につきましては、国際的にも評価されているところであります。
一方、国際経済情勢を見ますと、先進国においては、物価安定に努力が払われるもとで、景気の拡大が続いております。しかしながら、主要国の対外不均衡は、改善傾向にあるとはいえ、依然大幅なものであり、これを背景として、保護主義的な動きにはなお根強いものがあります。さらに、累積債務問題につきましては、積極的な対応が迫られております。
私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、我が国を取り巻く状況を踏まえ、以下に申し述べる諸課題に取り組んでまいります。
第一の課題は、内需を中心としたインフレなき持続的成長を確保していくということであります。
ただいまも申し述べましたように、我が国経済は、現在、経済構造調整が着実に進展する中で、内需主導型の自律的な成長を続けております。今後の経済運営に当たっては、物価の安定を維持しながら、この状況をできる限り長期かつ安定的に持続することが肝要であります。
このような見地から、平成元年度予算につきましては、内需の自律的な拡大基調を背景として、財政改革をさらに推進するとの考え方のもとに編成いたしました。
金融面では、現在我が国の公定歩合は依然として極めて低い水準にあり、また、量的にも緩和された状況にあります。今後とも、金融政策の運営につきましては、内外の経済動向及び国際通貨情勢を注視しつつ、適切かつ機動的に対処してまいる所存であります。
持続的な経済成長を確保する上で、為替相場の安定が重要であることは申し上げるまでもありません。主要国の政策協調努力もあり、為替相場はこのところ安定的に推移しております。
我が国経済の健全な成長は、国民福祉の向上の基礎であると同時に、世界経済全体の発展に貢献するものでなければなりません。経済運営に当たっては、この点を常に念頭に置きながら各般の課題に取り組んでいく必要があります。
我が国は、他の主要諸国とともに政策協調の積極的な推進に努めてまいりました。先日開かれた七カ国蔵相・中央銀行総裁会議の場においても、これまでに構築されてきた主要国間の協調の枠組みを確固として堅持していくことの重要性が再確認されたところであります。今後とも、政策協調のための努力を続けてまいる所存であります。
第二の課題は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。
政府は、平成二年度までの間に特例公債依存体質から脱却し、公債依存度の引き下げに努めるという目標を掲げ、財政再建を着実に進めてまいりました。平成元年度の予算編成に当たっても、経済が好調に推移しているこの時期にこそ、目標達成に向けて確かな歩みを進めることが何よりも重要であると考え、緩むことなく歳出の徹底した見直し、合理化に取り組んだところであります。その結果、特例公債発行額を前年度当初予定額に比し一兆八千二百億円減額することができました。また、公債依存度も前年度当初予算の一五・六%から一一・八%にまで低下しております。
しかしながら、来年度末の公債残高は百六十二兆円程度に達する見込みであり、その国民経済規模に対する比率は、主要諸外国に比較しても特に高い水準にあります。これから生ずる国債の利払い費は歳出予算の約二割を占めており、財政は、基本的にはなお極めて厳しい状況にあると申し上げざるを得ません。
将来の高齢化社会においても、経済、社会の活力を維持し、国際社会における責任の増大にこたえていくためには、今のうちにその基盤ともいうべき財政の対応力の回復を図ることが不可欠であります。また、今次の税制改革を円滑に実施する上で国民の理解と協力を得るためにも、行財政の効率的な運営を図っていく必要があります。
次の世代に対する我々の責任を全うするためには、財政改革の歩みを緩めることは許されません。今後とも、これまでの連年にわたる努力を無にすることのないよう、各般にわたり、行財政改革の推進に不断の努力を傾注してまいる所存であります。
第三の課題は、新しい税制の円滑な実施を図ることであります。
昨年末、税制改革関連法が成立いたしました。シャウプ勧告以来の税制の抜本的な改革はまことに意義深いものがあり、これまでに各方面から賜った御理解、御尽力に対し、改めて敬意と感謝の意を表したいと存じます。
今般の税制改革は、高齢化、国際化の推進等、将来の展望を踏まえ、税に対する不公平感を払拭し、所得、消費、資産等の間で均衡のとれた安定的な税体系を構築することを目指して行われたものであり、必ずや将来の我が国の経済、社会の礎になると確信しております。
政府は、新税制実施円滑化推進本部を設置し、この改革の意義及び全貌について国民の理解を深め、新しい税制の円滑な実施を図るための対策を総合的に推進することといたしております。特に、新しく導入される消費税については、便乗値上げの防止に配慮しながら、その円滑で適正な転嫁のため、各般にわたり、きめ細かな対策を実施することとしております。
もとより、税の適正公平な執行は、税制が国民の信認を得るための基本であり、国税庁及び税関においては、そのため、一層努力してまいります。
どのような税制も、その導入当初は、種々の懸念や戸惑いを生じやすいものであります。なかんずく、消費税の執行に当たりましては、この種の税になじみの薄い我が国の現状を踏まえる必要があります。このため、制度導入当初においては、積極的な広報、親切な相談、適切な指導を中心とした運営を行い、制度の意義、仕組み、手続等について国民の十分な御理解をいただき、混乱や不安が生じないよう配意してまいります。
新しい税制の円滑な実施は現下の最重要課題の一つであり、私は、このために万全の態勢を整えて対処してまいる所存でございます。国民の皆様の御協力を切にお願いいたします。
第四の課題は、金融・資本市場の自由化、国際化を着実に進めていくということであります。
金融・資本市場の自由化、国際化は今や世界的な潮流であり、世界経済における我が国の地位に顧みても、積極的に取り組む必要があります。この課題の着実な推進は、金融の多様化、効率化に対する国民の期待にこたえ、我が国経済の発展に資するゆえんでもあります。
このような観点から、預金金利の自由化、外国金融機関のアクセスの拡大等の措置を逐次講じ、短期金融市場、国際の発行・流通市場、先物市場の整備拡充等に努めてまいりました。
さらに、証券市場につきましては、内外の信頼を確保する見地から、取引の公正性、市場の透明性を高めるため、内部者取引規制の整備及び株式公開制度の改善等を進めております。
今後とも、我が国金融・資本市場が内外経済の発展に十分な貢献を果たし得るよう、諸外国との協調を図りながら、一層努力してまいります。
第五の課題は、調和ある対外経済関係の形成に努めることであります。
自由貿易体制は、世界各国の経済発展と福祉向上の基礎であり、各国との協力のもとに、その維持強化に努めていく必要があります。ウルグアイ・ラウンドにつきましても、昨年十二月の中間見直しを踏まえ、引き続き積極的に交渉を推進してまいります。
また、主要国における対外不均衡是正の問題は、重要な課題であります。我が国としては、国民生活の質的向上を図る見地にも立って、物価構造における内外価格差の是正、市場アクセスの改善等を推進し、貿易の拡大均衡を図ることが必要であります。
関税制度につきましては、この見地から、来年度において、熱帯産品等の関税引き下げ、撤廃等の改正を行うこととしております。
経済協力につきましては、開発途上国の自助努力を支援するため、厳しい財政事情のもとではありますが、政府開発援助の着実な拡充に努めております。また、開発途上国への三百億ドルの資金還流措置につきましても順調に進めてきているところであります。
累積債務問題につきましては、国際的な協調の枠組みの中で、債務国ごとの事情を踏まえ、自助努力を前提に問題の解決を図ることが基本であります。我が国としても、最貧国について債務軽減措置を実施する等、積極的に取り組んでいるところであります。
今後とも、関係国との対話を深めながら、我が国の国際的地位にふさわしい貢献を行ってまいる所存であります。
次に、平成元年度予算の大要について御説明いたします。
平成元年度予算は、内需の持続的拡大に配意しつつ、財政改革を強力に推進することとして編成いたしました。
歳出面におきましては、引き続き既存の制度・施策の見直しを行い、経費の節減合理化に努めるとともに、限られた財源を重点的、効率的に配分するよう努めました。
一般歳出の規模は三十四兆八百五億円となり、これに国債費及び地方交付税交付金等を加えた一般会計予算規模は六十兆四千百四十二億円となっております。なお、消費税の影響額につきましては、適切に計上しております。
また、補助率等につきましては、昭和六十三年度まで暫定措置が講じられてきましたが、改めて、最近における財政状況、国と地方の機能分担、費用負担のあり方等を勘案しながら検討を行い、見直しを行うこととしました。また、厚生年金の国家負担金の繰り入れにつきましては、所要の特例措置を講ずることとしております。これらにつきましては、別途、国の補助金等の整理及び合理化並びに臨時特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることとしております。
国家公務員の定員につきましては、第七次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、三千六十九人に上る行政機関職員の縮減を図っております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制につきましては、税制改革の円滑な実施に配意する措置及び地域の活性化、社会政策上の配慮等の当面の政策的要請に対応する措置を講ずるほか、租税特別措置の整理合理化を行う等の改正を行うこととしております。
公債発行予定額は七兆一千百十億円であり、その内訳は、建設公債が五兆七千八百億円、特例公債が一兆三千三百十億円となっております。特例公債の発行等につきましては、別途、平成元年度の財政運営に必要な財源の確保を図るための特例措置に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることとしております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は二十二兆三千百四十九億円となっております。
財政投融資計画につきましては、社会資本の整備、地域の活性化及び資金還流措置の推進等の政策的要請にこたえ、資金の重点的、効率的な配分に努めました。
この結果、財政投融資計画の規模は三十二兆二千七百五億円となり、このうち資金運用事業を除いた一般財投の規模は二十六兆三千四百五億円となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
社会保障関係費につきましては、今後における経済、社会構造等の変化に対応して、各種施策が長期にわたり安定的かつ有効に機能するよう、制度、運営面において不断の見直しが必要であります。このような観点から公的年金制度の見直しを行うとともに、在宅福祉施策の大幅な拡充等、緊要な施策については重点的な配慮を行っております。また、雇用対策につきましては、六十歳代の前半層を中心とする高年齢者の雇用就業機会の確保等の施策の充実を図っております。
文教及び科学振興費につきましては、教育環境の整備、生涯学習の振興、基礎的、創造的研究の推進等の施策の充実に努めております。
公共事業関係費につきましては、NTT株式売り払い収入の活用を含めて前年度当初予算と同水準の予算を確保しております。その配分に当たっては、生活環境の向上のため、下水道、公園等の事業に特に配意しており、また、地域の実情に十分配慮されるよう対処する所存であります。また、住宅金融公庫の貸付限度額の引き上げ等住宅対策の拡充も図っております。
中小企業対策につきましては、環境の変化に適切に対応し得るよう構造転換を促進することとし、特に地域経済の活性化に資する中小企業の育成等の施策の充実を図っております。
また、農林水産関係予算におきましても、内外の情勢変化を踏まえ、需要動向に適切に対応し、生産性の向上を図るため、生産基盤の整備等の施策に重点的に配慮しております。
経済協力費におきましては、政府開発援助予算について、第四次中期目標の着実な達成を図る観点から、内容の一層の改善にも配意し、前年度当初予算の伸びを上回る七・八%増としております。
防衛関係費につきましては、厳しい財政事情のもとで、他の諸施策との調和を図りながら、中期防衛力整備計画を踏まえ、その質的充実に配意しております。
エネルギー対策費につきましては、中長期的な需給見通しをも踏まえ、安定的なエネルギー供給の確保等の施策を着実に推進することとしております。
地方財政につきましては、地方税及び地方交付税等の大幅な増加が見込まれることから、中期的な地方財政の健全化等を図るため、交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金の返済等の措置を講じております。地方団体におかれましても、歳出の節減合理化をさらに推進し、より一層効率的な財源配分を行われるよう要請するものであります。
この機会に、昭和六十三年度補正予算について一言申し述べます。
昭和六十三年度補正予算につきましては、歳出面におきまして、消費税創設等税制改革関連経費、農産物輸入自由化等関連対策費、貿易保険特別会計への繰り入れ、厚生保険特別会計への繰り入れ等、特に緊要となった事項について措置を講じております。また、歳入面におきましては、税収について三兆百六十億円の増収を見込むとともに、前年度の決算上の剰余金二兆九千七百四十五億円を計上しております。この結果、特例公債を一兆三千八百億円減額しております。
以上によりまして、昭和六十三年度一般会計補正後予算の総額は、当初予算に対し、歳入歳出とも五兆一千五百二十億円増加して、六十一兆八千五百十七億円となっております。
以上、平成元年度予算及び昭和六十三年度補正予算の大要について御説明いたしました。御審議の上、何とぞ速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
平成元年度予算の御審議をお願いするに当たり、私は、平成の時代は、平和の中で、国民一人一人が公平と真の豊かさを享受できる時代となってほしいと祈念しております。
二十一世紀まであと十年余りとなっております。新しい世紀においては、洋の東西、南北を問わず、貧困が払拭され、友誼が一層深まっていることを期待したいと存じます。我が国の国際的責務はますます重くなっていると考えます。また、国内にあっては、高齢化が進行する中で、活力ある福祉社会の建設が進んでいなければなりません。
新しい平成の時代の始まりに当たり、積年の課題であった税制改革が実現し、また、財政再建の第一段階ともいうべき特例公債依存体質からの脱却の目標年度も一年後というところまで参りました。今後、二十一世紀までの残された期間に、一層の発展充実のための枠組みを築き上げていかなければなりません。私は、ただいま申し述べた諸課題を一歩一歩着実に実行してまいります。
国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。