[内閣名] 第78代宮沢(平成3.11.5〜5.8.9)
[国会回次] 第123回(常会)
[演説者] 羽田孜大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1992/1/24
[参議院演説年月日] 1992/1/24
[全文]
平成四年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大綱を御説明いたします。
戦後四十年余の間に、我が国経済は、国民のすぐれた英知とたゆみない努力により、二次にわたる石油危機など幾多の試練を乗り越え、世界にもまれに見る目覚ましい発展を遂げてまいりました。
この間、国際社会における我が国の地位は急速に向上し、今や、激動が続く国際情勢のもとで、その地位にふさわしい役割を果たしていくことを強く期待されております。
今後、我が国の進むべき道は、これまでに達成した経済的成果を生かしながら、国内的には、国民の一人一人が生活面での豊かさを実感できるよう、国民生活の一層の質的向上を実現していくとともに、対外的には、世界経済の安定的発展のために我が国にふさわしい貢献をしていくことにあると考えます。
最近の内外経済情勢について見ますと、我が国経済は、個人消費や設備投資に依然底がたさが見られるものの、住宅建設の減少などに見られるように、このところ拡大テンポが減速しつつあります。しかしながら、雇用情勢については、有効求人倍率が高い水準にあるなど、依然引き締まり基調で推移しております。また、物価の動向を見ますと、国内卸売物価は引き続き落ちついており、消費者物価についても、その騰勢は鈍化しつつあります。このような状況から判断すれば、我が国経済は、いわば完全雇用を維持しながらインフレなき持続可能な成長に移行する過程にあるものと考えられます。
国際経済情勢を見ますと、先進国は、全体として景気の減速局面からの回復の過程にあり、本年は昨年よりも高い成長が見込まれております。しかしながら、依然米国経済の景気回復の足取りが重いことなどから、全体の回復のテンポも緩やかなものとなると見込まれております。他方、今後の世界的な資金需要の高まりへの対処は引き続き重要な課題であり、このためには世界的な貯蓄増大が重要であると指摘されております。また、累積債務問題につきましては、引き続き解決に向けての努力を必要といたしております。旧ソ連につきましては、昨年末で連邦が消滅し、各共和国による独立国家共同体がスタートしておりますが、経済・金融などの面で深刻な問題に直面しており、国際金融機関の協力を得て適切な調整・改革政策を実施していくことが重要であると認識しております。
私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外経済情勢を踏まえ、二十一世紀に向けて我が国が進むべき道を展望しつつ、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。
第一の課題は、内需を中心としたインフレなき持続可能な成長への円滑な移行を図ることであります。このような観点から、景気には十分配慮した施策を実施することといたしております。
平成四年度予算編成に当たりましては、こうした見地から、極めて厳しい財政事情のもとでありますが、時代の要請に的確に対応した財源の重点的、効率的な配分を図り、特に公共投資については、国・地方を通じ最大限の努力を払っております。すなわち、まず一般歳出における公共事業関係費について五・三%の伸びを確保するとともに、財政投融資計画においても、公共事業実施機関について一〇・八%の伸びとしております。さらに、地方単独事業についても、一一・五%と高い伸びを見込んでおります。
一方、金融面では、昨年七月、十一月、さらに十二月末と三度にわたって公定歩合の引き下げが行われたところであります。この間、市場金利は低下を続け、これを受けて金融機関の貸出金利も低下してきております。さらに、最近の地価の鎮静化傾向等にかんがみ、昨年末をもって金融機関の不動産業向け貸し出しに係る総量規制を解除いたしましたが、これは宅地供給や住宅建設の適切な促進等に必要な資金の円滑な供給に資するものと考えられます。
また、今後とも、主要国との政策協調及び為替市場における協力を通じ、為替相場の安定を期してまいりたいと存じます。
国民各位におかれましては、我が国経済の先行きに自信を持って経済活動に取り組まれますことを期待いたしておるところであります。
第二の課題は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。
平成四年度予算においては、財政改革を推進する等の観点から、まず既存の制度、施策について見直しを行うなど歳出の徹底した節減合理化に努め、一般歳出についてはその増加額を前年度同額以下とするなど、可能な限りの努力を払ったところでありますが、当面の厳しい税収動向、財政事情に対応するため、建設公債の発行額を増加させることといたしました。
この結果、我が国財政は、公債残高が平成四年度末には約百七十四兆円にも達する見込みであり、また、国債費についても歳出予算の二割を超えて政策的経費を圧迫するなど構造的な厳しさが続いております。
財政政策の目的は、本格的な高齢化社会が到来する二十一世紀に向けて一日も早く財政が本来の対応力を回復することにより、今後の財政に対する内外の諸要請に適切に対応し、豊かで活力ある経済社会の建設を進めていくことにあります。
したがって、今後の財政運営に当たっても、後世代に多大の負担を残すことなく、二度と特例公債を発行しないことを基本として、公債依存度の引き下げ等により、公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていかなければなりません。このため、引き続き財政改革の推進に全力を傾けてまいる所存であります。
第三の課題は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済発展への貢献に努めることであります。
世界経済は、貿易や直接投資の拡大とともに相互依存関係をさらに深めつつあり、もはや、一国の経済は、他国との円滑な経済関係なしには成り立たないという状況にあります。このような状況のもとで、国際社会において重要な地位を占める我が国は、調和ある対外経済関係の形成に努めるとともに、世界経済の発展のために積極的に貢献していく必要があろうと考えます。
先般の日米首脳会談におきましては、日米両国が、先の先進諸国とともに、今後とも物価安定を伴った持続的成長に資するよう協調的努力を続けていくことの重要性が再確認されたところであります。
保護主義的な動きを回避し、多角的自由貿易体制を維持強化することは、世界各国の経済発展と国民生活向上の基礎であります。このような観点から、ウルグアイ・ラウンドにつきましては、各国と協調しつつ、成功裏に終結するよう努力することが重要であると考えます。
関税制度につきましては、市場アクセスの一層の改善を図る等の見地から、保税地域制度の改善、石油関係の関税率の引き下げ等の措置を講ずることといたしております。
経済協力につきましては、開発途上国の自助努力を支援するため、政府開発援助の着実な拡充と資金環流措置の実施に努めているところであります。
累積債務問題につきましては、新債務戦略を積極的に支持し、所要の協力を行っていく考えであります。
旧ソ連地域に対する支援につきましては、新しい体制のもとで市場経済への移行を促進し、種々の改革を支援するため、他の先進主要国とも協調しつつ、適切な支援を進めていくことといたしております。
第四の課題は、金融・資本市場の自由化、国際化を着実に進展させるとともに、証券及び金融をめぐる諸問題に適切に対応することであります。
金融・資本市場の自由化、国際化は、国民の金融に対するニーズにこたえるとともに、我が国経済の発展に寄与するものであります。また、金融に関する制度等について国際的な調和を図っていくことは、世界経済において期待される我が国の役割を果たす上でも大きな意義を有するものと考えられます。
このような観点から、これまでも逐次各種の措置を講じてきており、特に、預金金利の自由化につきましては、遅くとも平成六年度中に自由化を完了すべく努力いたしているところであります。
また、我が国の金融制度及び証券取引制度につきましては、有効かつ適正な競争の促進を通じ、内外の利用者の利便性の向上をもたらすとともに、国際的にも通用する金融制度及び証券取引制度を構築することが極めて重要であり、このため、金融制度調査会答申、証券取引審議会報告等を踏まえ、金融・資本市場における各種の業務分野への参入等を含む金融制度改革を推進する必要があると考えます。
こうした中で昨年、証券及び金融をめぐる一連の不祥事が発生し、我が国の証券市場や金融機関に対する内外の信頼が大きく損なわれたことはまことに遺憾なことであり、極めて深刻に受けとめたところであります。
これまでも、一連の不祥事の実態解明、再発防止策等について検討を行い、昨年の臨時国会においては、緊急に措置すべき事項として損失補てんの禁止等を内容とする証券取引法等の改正案を成立させていただくとともに、金融機関の内部管理体制の総点検を早急に行うことなどを内容とする対応策を講じたところでありますが、その際、これらの問題に関し、臨時行政改革推進審議会及び国会の特別委員会より、制度、行政の各般にわたる総合的な対応策を講ずべきであるとの御指摘をいただいたところでございます。
政府といたしましては、これらの答申及び諸決議を最大限に尊重するとの基本的考え方のもと、このような不祥事の再発防止及び我が国の金融・資本市場に対する内外の信頼回復を図るため、法制上、行政上の総合的な対策に取り組んでまいる考えであります。すなわち、より公正で透明な証券市場等の実現に向け、新しい検査監視体制の創設を含む所要の措置を講ずるとともに、金融・資本市場における有効かつ適正な競争を促進すること等を目的とした金融制度改革を進めることとし、所要の法律案を今国会に提出すべく、現在鋭意準備を進めておるところでございます。
次に、平成四年度予算の大要について御説明いたします。
平成四年度予算は、極めて厳しい財政事情のもとで、歳出の徹底した節減合理化や税外収入の確保に努めるほか、建設公債の発行額を増加させ、税制面においても所要の措置を講ずることといたしました。またその中にあって、社会資本整備の着実な推進や国際社会への貢献を初め、時代の要請に応じ、限られた財源を重点的、効率的に配分するよう努めることとして編成いたしたところであります。
歳出面につきましては、一般歳出の規模は三十八兆六千九百八十八億円となっており、これに、地方交付税交付金、国債費等を加えた一般会計予算規模は七十二兆二千百八十億円となっております。
国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、一千三百七十二人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制面では、まず、土地の相続税評価の適正化に伴う相続税の負担調整として課税最低限の引き上げや税率区分の幅の拡大等を行うことといたしております。
また、課税の適正公平の確保を推進する等の観点から、企業関係租税特別措置の一層の整理合理化、みなし法人課税制度の廃止、赤字法人の欠損金の繰り戻し還付制度の適用の停止、海外関係会社からの過大借り入れへの対応措置としての過小資本税制の導入等の措置を講じる考えであります。
さらに、当面の厳しい税収動向、財政事情に対応するため、国民生活、国民経済に配慮しつつ、新たに必要最小限の措置として、法人特別税の創設及び普通乗用自動車に係る消費税の税率を四・五%とする特例措置をお願いすることといたしております。なお、湾岸支援のための法人臨時特別税及び石油臨時特別税並びに普通乗用自動車に係る消費税六%の経過措置は、平成三年度末に失効させることといたしております。
税の執行に尽きましては、今後とも国民の信頼と協力を得て、一層適正公平に実施するよう努力してまいる所存であります。
公債発行予定額は七兆二千八百億円としております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は二十八兆七千七百八十億円となります。
財政投融資計画につきましては、現下の経済情勢も踏まえ、社会資本の整備、国際社会への貢献、地域の活性化等の政策的要請に積極的にこたえ、資金の重点的、効率的な配分を図ったところであります。
この結果、財政投融資計画の規模は四十兆八千二十二億円、前年度当初計画に対し一〇・九%の増加となっており、また、資金運用事業を除いた一般財投の規模は三十二兆二千六百二十二億円、一〇・八%の増加となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
公共事業関係費につきましては、社会資本の整備の重要性にかんがみ、また、あわせて景気にも配慮することとして、その拡充を図るとともに、これまでNTT株式売り払い収入の活用によって行ってきた社会資本の整備の促進を図るための事業につきましても、これを確保することといたしております。公共事業の配分に当たっては、生活関連重点化枠などを通じて、環境衛生、住宅、下水道、公園など国民生活の質の向上に資する分野に重点を置くとともに、地域の事情に十分な配慮がなされるよう対処してまいる所存であります。特に、住宅対策については、住宅金融公庫における貸付限度額等の引き上げ、地域活性化住宅の供給、公共賃貸住宅の建てかえの推進など施策の拡充を図っております。なお、平成三年度末に期限の到来する治水治山の各五カ年計画及び新たに策定される森林整備事業計画については、おのおの適切に計画を策定することといたしております。
社会保障関係費につきましては、二十一世紀に向かって活力ある福祉社会を形成していくことが重要な課題であります。このため、将来にわたって安定的かつ有効に機能する制度を構築していく必要があり、このような観点から政府管掌健康保険制度、雇用保険制度の見直し等を行うことといたしております。また、すべての国民が安心してその老後を送ることができるよう「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を着実に推進するとともに、保健医療、福祉関係の人材確保方策を講じるなど、国民に身近な施策についてきめ細かな配慮を行っております。
文教及び科学振興費につきましては、教育行政に係る国と地方の役割分担の見直しを通じた初等中等教育と高等教育との間での財源配分の見直しを進め、高等教育、学術研究の改善充実、公立学校施設整備事業費の確保、生涯学習の推進、芸術、文化、スポーツの振興などの施策の充実に努めるとともに、基礎的、創造的研究を初めとする科学技術の振興のための施策を推進することといたしております。
中小企業対策費につきましては、地域中小企業の創造的発展支援、中小企業の物流共同化、効率化への支援などの施策の内容の充実を図ることといたしております。
農林水産関係予算につきましては、農業を取り巻く内外の諸情勢を踏まえ、生産性の向上等を基本とする農業の展開を図り、我が国農業の産業としての自立性を高め、あわせて農山漁村の活性化に資するための施策を推進することといたしております。
経済協力費につきましては、第四次中期目標、他の経費とのバランス等を総合勘案し、政府開発援助予算について七・八%増といたしており、また、効果的、効率的な援助とするため適正な評価やその内容の一層の改善を図ることといたしております。
防衛関係費につきましては、中期防衛力整備計画のもと、現下の厳しい財政事情や国際関係安定化に向けてさらに動きつつある国際情勢等を踏まえ、極力その抑制を図るとともに、その中にあって後方分野の充実に努めるなど防衛力全体としての均衡がとれる態勢の維持整備を推進することといたしております。
エネルギー対策費につきましては、地球環境保全及びエネルギー関係での国際協力の重要性を踏まえつつ、中長期的観点に立った総合的なエネルギー政策を着実に推進することといたしております。
地方財政につきましては、中期的な地方財政の健全化策を講じつつ円滑な地方財政運営のため所要の地方交付税総額を確保した上で、地方交付税の年度間調整としての特例措置等を行うことといたしております。なお、地方公共団体におかれましても、歳出の節減合理化をさらに推進し、より一層効率的な財源配分を行われますことを要請するものであります。
以上、平成四年度予算の大要について御説明いたしました。本予算が、現下の諸情勢に果たす役割に御理解を賜り、何とぞ、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願いを申し上げます。
我が国は、二十一世紀には、世界にも例を見ない本格的な高齢化社会を迎えることとなります。こうした時代においても、国民の一人一人が、また、その子供たちが幸せを感じることができるような、真に豊かで活力に富み、国際的にもふさわしい役割を果たし得る経済社会を創造していかなければなりません。そのためには、今世紀の残された期間に、しっかりとした礎を築いておくことが必要であります。
ただいま申し述べました諸課題を一歩一歩着実に解決することにより、来るべき二十一世紀に向けて私たちに課せられた責任を精いっぱい果たしてまいりたいと思います。こうした今日の地道な努力は、必ずや新時代の一層の発展と繁栄につながるものと確信をいたしております。
国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願いを申し上げる次第であります。
以上であります。