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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第78代宮沢(平成3.11.5〜5.8.9)
[国会回次] 第126回(常会)
[演説者] 林義郎大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1993/1/22
[参議院演説年月日] 1993/1/22
[全文]

 平成五年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

 戦後の我が国経済は、二次にわたる石油危機など幾度となく困難に直面いたしましたが、そのたびにそれを乗り越え、さらなる飛躍を実現し、その結果、今や我が国経済は世界経済において大きな地位を占めるに至りました。

 しかしながら、現在、我が国経済は、いわゆるバブル経済の生成と崩壊の過程で種々のひずみが生ずるなど幾多の問題に直面しており、その解決に総力を挙げて取り組んでおるところであります。

 我が国は、これまでの経験を生かしてこの試練を克服しなければなりません。政策運営を生産者中心から生活者や消費者をより重視する方向へ転換することにより、国民一人一人が豊かさとゆとりを実感できる生活大国を実現していくとともに、世界経済の安定的発展のためにその地位にふさわしい貢献をしていくことが必要であります。

 まず、最近の内外経済情勢について申し上げます。

 我が国経済は、現在調整過程にあります。他方で、住宅投資に回復の動きが見られ、公共投資は拡大しております。政府は、昨年夏に過去最大規模の総合経済対策を策定し、その着実な実施に努めておりますが、平成五年度予算についても、近年になく厳しい財政事情のもとではありますが、景気には十分配慮いたしました。こうした政策努力が、今後我が国経済の内需中心の持続的な成長に大きく寄与するものと確信しております。

 国際経済情勢を見ますと、世界経済は総じて緩やかな回復基調にあるものの、回復の足取りは国によりばらつきが見られ、その活性化が大きな課題となっております。また、ECでは統合に向けた動きが進展し、旧ソ連や中・東欧諸国では、市場経済への移行の努力が続けられるなど、世界の情勢には大きな変化も見られます。

 私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外経済情勢を踏まえ、二十一世紀に向けて我が国が進むべき道を展望しながら、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。

 第一の課題は、内需を中心とした持続可能な成長を実現することであります。このような観点から、景気に十分配慮した施策を実施することとしております。

 平成五年度予算編成に当たりましては、こうした見地から、公共事業関係費について最近では実質上最も大きな伸びを確保するとともに、財政投融資計画や地方財政計画における地方単独事業についても近年最大の伸びを確保するなど、国・地方を通じ全体として十分な額の公共投資を確保することとしております。この結果、今後とも公共投資の切れ目のない執行が可能となり、平成五年度の財政経済見通しにおける政府投資額は九・五%増と高い伸びで増加する見込みであります。

 また、住宅の質の向上により生活大国の実現に資するとともに、経済に対する波及効果の大きい住宅投資を促進する観点から、住宅対策の充実を図ることとしております。

 一方、金融面では、五次にわたる公定歩合の引き下げの効果などにより、市場金利は低下を続け、これを受けて金融機関の貸出金利も低下してきております。政府としては、こうした政策効果がなお一層浸透していくことを期待しております。

 また、今後とも、主要国との政策協調及び為替市場における協力を通じ、為替相場の安定を図ってまいりたいと考えております。

 第二の課題は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。

 顧みれば、我が国財政は、昭和五十年度以降、特例公債の発行を余儀なくされ、その結果、巨額の公債残高を抱え、財政構造の硬直化が進行しました。政府としては財政の対応力の回復のために懸命な努力を払い、平成二年度においてようやく、十五年間の長きにわたって続いた特例公債の発行が回避されました。このような経験から見ても、一たび特例公債を発行すれば、財政の赤字体質が慢性化し、特例公債依存から脱却することが極めて困難となるのは明らかであります。

 平成五年度予算においては、税収が前年度当初見積もりを下回るという、昭和五十八年度予算以来の厳しい歳入状況に直面しております。このような状況のもとで、制度や歳出の徹底した見直し、合理化に積極的に取り組むことなどにより、特例公債の発行を回避いたしましたが、他方、景気の動向等にかんがみ公共事業等を着実に推進していくため、建設公債の発行額は増加させることにいたしました。その結果、我が国財政は、公債残高が平成五年度末には約百八十二兆円にも達する見込みであり、巨額の国債費が政策的経費を圧迫するなど、依然として構造的な厳しさが続いております。

 財政改革の目的は、本格的な高齢化社会が到来する二十一世紀を間近に控え、一日も早く財政が本来の対応力を回復することにより、今後の財政に対する内外の諸要請に適切に対応し、豊かで活力のある経済社会の建設を進めていくことにあります。

 したがって、今後の財政運営の基本的方向としては、後世代に多大の負担を残さず、再び特例公債を発行しないことを基本とし、公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくことが重要であります。財政の規律を重んずるという考え方は、国際的にも共通の認識となっているところであり、私は今後ともこのような基本的方向に沿って、財政改革を引き続き協力に推進していく覚悟であります。

 第三の課題は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済発展への貢献に努めることであります。

 世界経済は、貿易や直接投資の拡大とともに相互依存関係をさらに深めつつありますが、その中にあって我が国は、調和のある対外経済関係の形成に努めるとともに、世界経済の発展のために積極的に貢献していく必要があると考えます。

 保護主義的な動きを回避し、多角的自由貿易体制を維持強化することは、世界各国の経済発展と国民生活向上の基礎であります。このような観点から、ウルグアイ・ラウンドにつきましては、我が国を含め各国が有する困難な問題について適切な解決を図りつつ、成功裏に終結するよう努力することが重要であると考えております。

 関税制度につきましては、市場アクセスの一層の改善を図るなどの見地から、重油の関税割り当て制度の廃止等の関税改正を行うこととしております。

 経済協力につきましては、開発途上国の自助努力を支援するため、昨年六月に策定された政府開発援助大綱のものとで、政府開発援助の充実に努めているところであります。

 また、累積債務問題につきましても、その解決は世界経済の安定と成長を図る上で重要な課題の一つと位置づけ、引き続きその解決に努力していく考えであります。

 旧ソ連地域に対する支援につきましては、これらの国々が新しい体制のもとで、市場経済への移行や種々の改革を円滑に進められるよう、他の主要先進国とも協調しつつ、適切に対応してまいりたいと考えております。

 第四の課題は、金融システムの安定性の確保及び証券市場の活性化を図るとともに、金融・資本市場の自由化、国際化を着実に進展させることであります。

 金融システムの安定性の確保につきましては、金融機関の自助努力を基本としつつ、政府としても金融システムに対する国民の信頼が損なわれないよう最大源の努力を払っていくことが重要であり、このような考え方に立って各種の措置を講じてまいりました。

 まず金融機関の不良資産の問題につきましては、その処理方針を早期に確定し、計画的、段階的な処理を図っていくことにより、金融システムへの不安感を払拭することが重要であります。この観点から、個別問題の早期処理が進められている一方、民間金融機関により共同債権買取機構が設立されることとなるなど、必要な環境整備に努めております。また、各銀行によるいわゆる不良資産のディスクロージャーが本年三月期より行われる予定であります。さらに、経済活動に必要な資金の円滑な供給が阻害されることのないよう、新たな自己資本充実策を着実に実施するなど、金融機関の融資対応力の確保を図っているところであります。

 証券市場の活性化等のための施策につきましては、安定的で活力のある市場の確立に向けて、公的資金の簡易保険福祉事業団等を通じるいわゆる指定単への運用に関し、株式組み入れ比率を制限しない指定単を平成五年度においても設けるほか、株式累積投資制度の創設、従業員持ち株制度の運用の弾力化、先物取引の改善の基本的方向についての取りまとめ等の措置を講じております。

 金融・資本市場の自由化、国際化は、国民の幅広いニーズにこたえるとともに、我が国経済の発展にも寄与するものであります。また、近年、市場の一体化が世界的に進展する中で、世界の主要市場の一員としての我が国に対する期待は増大しており、その期待にこたえる上でも大きな意義を有するものと考えます。

 このような観点から、まず預金金利の自由化につきましては、定期預金金利の自由化を本年六月を目途に完了し、また平成六年中には流動性預金金利の完全自由化を図るべく努力してまいる所存であります。

 また、金融制度改革は、有効かつ適正な競争を促進することにより金融制度の効率化及び市場の健全な発展を図るという重要な意義を持っており、政府としても着実かつ円滑に実施していくこととしております。昨年十二月には、金融機関及び証券会社の相互参入の推進、諸規制、諸慣行の見直し等についての制度改革実施のための具体的事項を決定したところであり、今後は、本年四月ごろを目途に金融制度改革法を施行すべく所要の準備を進めてまいりたいと思います。

 次に、平成五年度予算の大要について御説明いたします。

 まず、歳出面につきましては、特例公債の発行を厳に回避するため、制度や歳出の徹底した見直し、合理化に積極的に取り組むとともに、景気や生活大国づくりに十分配慮するなど、社会経済情勢の推移に即応した財政需要に対しては、財源の重点的、効率的配分を行うこととして編成いたしました。

 補助金等につきましては、暫定措置が講じられている公共事業等に係る補助率等について、その体系化、簡素化を図り、恒久化するなど、その整理合理化を積極的に推進することといたしております。なお、これらの措置に関連して、別途国の補助金等の整理及び合理化等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることにいたしております。

 また、現下の財政事情にかんがみ、特例公債の発行を回避するためのやむを得ざる措置として、平成四年度補正予算に引き続き、一般会計において承継した債務等の資金運用部に対する償還を延期することにより、当該債務の償還財源の予算繰り入れ六千九百八十三億円を行わないことなどの措置を講じました。なお、これらの措置につきましては、別途平成五年度における一般会計承継債務等の償還の特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。

 国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、一千二百十五人に上る行政機関職員の定員の削減を図っております。

 以上の結果、一般歳出の規模は三十九兆九千百六十八億円となっており、これに地方交付税交付金、国債費等を加えた一般会計予算規模は七十二兆三千五百四十八億円となっております。

 次に、歳入面について申し述べます。

 税制面では、現下の厳しい財政状況及び最近の社会経済情勢の変化に顧み、課税の適正公平を確保する観点から、租税特別措置の整理合理化を行うほか、農林業対策等のための措置、第十一次道路整備五カ年計画に必要な財源確保等のための措置など、当面早急に実施すべき措置を講ずることとしております。

 税の執行につきましては、今後とも国民の信頼と協力を得て、一層適正公平に実施するように努力してまいる所存であります。

 公債発行予定額は八兆一千三百億円としております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は二十九兆九千三百二十三億円となっております。

 財政投融資計画につきましては、景気に十分配慮するとともに、生活大国の実現に資するため、財政投融資の積極的な活用を図るとの考え方に立ち、社会資本の整備、住宅対策、環境対策等に対し、資金の重点的、効率的な配分に努めたところであります。

 この結果、財政投融資計画の規模は四十五兆七千七百六億円、前年度当初計画に対し一二・二%の増加となっており、また、資金運用事業を除いた一般財投の規模は三十六兆五千九百五十六億円、一三・四%の増加となっております。

 次に、主要な経費について申し述べます。

 公共事業関係費につきましては、景気への配慮という観点から、その拡充を図るとともに、その配分に当たっては、生活関連重点化枠などを通じて、生活に密接に関連した住宅、下水道や環境衛生等の分野に思い切って重点を置き、地域の実情にも十分配慮してまいります。特に住宅対策につきましては、住宅金融公庫における貸付限度額の引き上げ、公共賃貸住宅の供給の促進など施策の拡充を図っております。なお、平成四年度末に期限の到来する道路整備等の三分野の長期計画につきましては、おのおの新たな計画を適切に策定することとしております。

 社会保障関係費につきましては、活力ある福祉社会の形成を目指し、すべての国民が安心して老後を送ることができるよう「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を着実に推進するとともに、エイズ対策等の諸施策についてきめ細かく配慮しております。

 文教及び科学振興費につきましては、教育行政に係る国と地方の費用負担のあり方等の見直しを進めつつ、第六次教職員配置改善計画の策定、公立文教施設整備事業費の確保、高等教育、学術研究の改善充実等を図るとともに、科学技術振興のため、各般の施策の推進に努めております。

 中小企業対策費につきましては、中小企業を取り巻く厳しい経営環境に配慮するとともに、地域の小規模事業対策の強化など特に緊要な課題に重点を置いて施策の充実を図っております。

 農林水産関係予算につきましては、我が国の農業、農村を取り巻く内外の諸情勢に対処するため、今後、経営感覚にすぐれた効率的、安定的な経営体を育成し、こうした経営体が生産の大宗を担う農業構造が実現されるよう各般の施策の推進に努めております。

 経済協力費につきましては、国際社会の平和と発展に寄与するため、無償資金協力や技術協力を重点として、特段の配慮を行っております。

 防衛関係費につきましては、先般修正された中期防衛力整備計画のもと、現下の厳しい財政事情等を踏まえ、極力その抑制を図るとともに、防衛力全体として均衡がとれた態勢の維持整備に努めております。

 エネルギー対策費につきましては、我が国の脆弱なエネルギー供給構造に加え、地球環境保全の重要性を踏まえ、総合的なエネルギー対策の推進に努めております。

 地方財政につきましては、景気にも十分配慮して地方単独事業の拡充を図るなど、歳入歳出を的確に見込むとともに、円滑な地方財政運営のため所要の地方交付税総額を確保した上で、地方交付税の年度間調整としての特例措置等を行うことにしております。なお、地方公共団体におかれましても、歳出の節減合理化をさらに推進し、より一層効率的な財源配分を行われるよう要請するものであります。

 以上、平成五年度予算の大要について御説明いたしました。本予算が現下の諸情勢に果たす役割に御理解を賜り、何とぞ関係の法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願いを申し上げます。

 来るべき二十一世紀には、我が国は本格的な高齢化社会を迎えます。私たちは、これまで国民の勤勉と創意工夫、真摯な努力などによって幾多の困難に対処してまいりました。このような点も想起しながら、新たな視点に立った改革を実行し、こうした時代を乗り切っていくことが肝要であります。また、そうすることによって、将来の国民の一人一人が真の繁栄と安定を享受できるような、豊かで活力に富み、国際的にもふさわしい役割を果たし得る経済社会を創造していくことが可能になると考えます。

 私は、ただいま申しました諸課題に正面から取り組み、これを一つずつ着実に解決すべく、今後とも精いっぱいの努力を続けてまいる所存であります。

 国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。