[内閣名] 第81代村山内閣(平成6.6.30〜8.1.11)
[国会回次] 第132回(常会)
[演説者] 武村正義大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1995/1/20
[参議院演説年月日] 1995/1/20
[全文]
平成七年度予算の御審議をお願いするに当たり、今後の財政金融政策の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。
まず、今回の兵庫県南部地震で亡くなられた方々とその御遺族に対し深く哀悼の意を表しますとともに、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。今後、速やかに被害状況を把握の上、財政金融上の措置につきましても、補正予算の検討も含めて、最善を尽くしてまいる所存であります。
我が国は、戦後五十年の間に、国民一人一人の英知と努力により幾多の試練を乗り越え、世界にも例を見ない目覚ましい経済発展を遂げてまいりました。バブル経済崩壊以降の長きにわたったここ数年の低迷からもようやく抜け出し、我が国経済にも明るさが広がりつつあります。
一方、目を外に転じますと、世界経済の一体化が一層進む中で、アジア諸国の急速な成長や旧計画経済諸国の国際市場への参入など、我が国をめぐる情勢には大きな変化が見られます。
このような内外の諸情勢のもとで、今後我が国の進むべき道は、来るべき二十一世紀を展望しつつ、国内的には、国民一人一人が生活面での真の豊かさを実感できるような活力ある経済社会を実現していくとともに、対外的には、世界経済の安定的発展のために我が国にふさわしい貢献をしていくことにあると考えます。
まず、財政金融政策の前提となる最近の内外経済情勢について申し上げます。
我が国経済は、これまで景気を下支えしてきた公共投資と住宅投資が引き続き高水準で推移することに加え、個人消費や設備投資などの民間需要の自律的回復を通じて、内需を中心とした安定成長に向かうものと期待いたしております。
国際経済情勢を見ますと、世界経済は、地域によってばらつきが見られるものの、全体として拡大基調を強めております。先進諸国では、景気拡大の足並みがそろい、また、旧計画経済諸国の一部に低迷が見られるものの、アジアを中心とした開発途上国では、景気は拡大を続けております。
私は、今後の財政金融政策の運営に当たり、このような最近の内外経済情勢を踏まえ、以下に申し述べる諸課題に全力を挙げて取り組んでまいる所存であります。
第一の課題は、現在回復局面にある我が国経済における内需を中心とした安定成長の確保であります。
二十一世紀に向けて、我が国が豊かで活力ある経済社会を構築し、調和ある対外経済関係を形成していくためには、内需を中心とした安定成長を持続していく必要があります。
さきに申し上げましたように、我が国経済は、これまでの累次にわたる経済対策等の効果もあって、緩やかながらも回復基調をたどっております。
平成七年度予算編成に当たりましても、このように回復局面にある我が国の経済情勢を踏まえ、一段と深刻さを増した財政事情のもと、平成六年度と同程度規模の所得減税を引き続き実施するほか、公共投資の着実な推進を図るとともに、国内産業の空洞化の懸念等の構造的課題にも適切に対処し、我が国経済の中長期的な安定成長に資するものとしたところであります。
今般の税制改革も、活力ある福祉社会の実現を目指す視点に立って行ったものであり、我が国経済社会の豊かさと活力の維持増進に資するものと確信をいたしております。
金融面では、七次にわたる公定歩合の引き下げの効果などにより、各種金利は依然として低い水準にあり、今後ともその効果を見守ってまいる所存であります。
また、為替相場につきましては、経済の基礎的諸条件を反映して安定的に推移することが望ましいと考えており、今後とも為替相場の動向を注視し、適宜適切に対処し、為替相場の安定を図ってまいる所存であります。
第二の課題は、財政改革を引き続き強力に推進することであります。
財政改革の目的は、一日も早く財政がその対応力を回復することにより、今後急速に進展する人口の高齢化や国際社会における我が国の責任の増大など社会経済情勢の変化に財政が弾力的に対応し、我が国経済社会の豊かさと活力を維持増進していこうとするところにあります。財政の硬直化がさらに進めば、我が国経済の発展にとって重大な支障となりかねません。このため、公債残高が累増しないような財政体質をつくり上げていくことが基本的な課題であり、将来の世代に多大な負担を残さず、健全な形で我が国経済社会を引き継いでいくことこそ、今の我々に課せられた重大な責務であることに改めて思いをいたさねばなりません。
しかしながら、我が国財政の現状を見ますと、累次にわたる経済対策を実施するための公債発行等の結果、公債残高は急増し、昨年末にはついに二百兆円を超え、国債費が政策的経費を圧迫するなど、構造的にますます厳しさを増しております。また、国際的に比較しましても、公債依存度、利払い費率等が主要先進国の中でも、一、二を争う高い水準にあるなど、我が国財政は著しく悪化した状況にあります。さらに、これに加え、平成五年度決算において税収が三年連続して減少し、初めて二年連続して決算上の不足を生じるという極めて異例な事態となり、その後の税収動向にも厳しいものが見込まれております。
平成七年度予算につきましては、各般の努力により、何とか、財政体質の歯どめなき悪化につながりかねない特例公債の発行によることなく編成することができましたが、極めて厳しい状況のもと、NTT株式の売却収入に係る無利子貸し付けの繰り上げ償還に係るものを除いた建設公債の発行額を増加せざるを得なかったばかりか、平成五年度決算上の不足額の繰り戻しの延期等の特例的な措置をとるのやむなきに至ったところであります。この結果、平成七年度末の公債残高は約二百十二兆円に増加する見込みであり、また、特例的な措置の中には今後処理を要するものもあるなど、財政事情は一段と深刻の度を増していると言わざるを得ません。
こうした足元の財政事情に加え、安定成長下の経済においては、過去見られたような大幅な税収の増加を期待することは困難であることを考えれば、今や我が国財政は一刻も放置しておけないほどに脆弱な体質になっていると言っても過言ではありません。
私といたしましては、我が国財政がこのような切迫した状況にあることについて、広く訴えるとともに、国民の御理解と御協力を得て、今後さらに一歩でも二歩でも財政改革の歩を進めるべく全力を尽くしてまいる所存であります。
第三の課題は、調和ある対外経済関係の形成と世界経済発展への貢献に努めることであります。
世界経済は、貿易や直接投資の拡大ととともに相互依存関係をさらに深めつつありますが、その中にあって、我が国は、調和ある対外経済関係の形成に努めるとともに、世界経済の発展のために積極的に貢献していく必要があると考えます。
我が国としては、世界経済のインフレなき持続的成長の強化を目指して、G7蔵相・中央銀行総裁会議を通じた政策協調を進めるとともに、APEC蔵相会合等において各国との対話、協調に努めてまいります。
日米包括協議の金融サービス分野における協議につきましては、先般決着を見たところであります。その中で、我が国が実施することを表明した金融サービスに係る規制緩和措置等につきましては、これを誠実に実施してまいる所存であります。
七年半にわたるウルグアイ・ラウンド交渉の終結を受けて、今年一月一日に世界貿易機関が発足いたしました。我が国としましても、この新たな国際機関のもと、多角的自由貿易体制の維持強化に一層積極的に貢献してまいりたいと考えております。
平成七年度におきましては、関税制度について、石油関係の免税・還付制度の適用期限の延長、自動車用繊維製品等の関税撤廃等の改正を行うことといたしております。
経済協力につきましては、引き続き開発途上国への支援の促進に努めてまいりますとともに、旧計画経済諸国についても、市場経済への円滑な移行のため、他の主要先進国とも協調しながら適切な支援を行ってまいる所存であります。
第四の課題は、金融自由化の着実な推進とともに、証券市場の活性化を図ることであります。
我が国経済の今後の発展を確保するためには、国民の金融システムに対する信頼を確保し経済活動に必要な資金の円滑な供給を図るとともに、金融・資本市場の自由化、国際化を着実に推進させることが不可欠であります。
このような観点から、金融行政においては、金融システムの安定性確保のため万全を期するとともに、金融機関の不良資産の処理の促進及び資金の円滑な供給の確保を図ってまいる所存であります。また、金融自由化につきましては、これを着実に推進しているところであり、昨年十月には、流動性預金の金利が自由化されたことにより、預金金利の自由化措置がすべて実施されております。金融制度改革につきましても、証券子会社や信託銀行子会社の営業が開始されるなど、着実に進展をしております。
保険制度改革につきましては、昨年六月の保険審議会報告を踏まえ、所要の法律案を今国会に提出すべく、現在鋭意準備を進めているところでございます。今回の保険制度改革は、自由化、国際化等の環境の変化に対応するとともに、保険事業の健全性を確保することを目的とした改革であり、二十一世紀に向けて新しい保険制度を構築しようとするものであります。
証券市場の活性化のための施策につきましては、個人投資家の株式投資を促進し、証券市場のすそ野を拡大する観点から、先般、証券投資信託の改革の具体的方策を取りまとめ、実施に移しているところであります。また、我が国における外国株式市場活性化のため、外国株に係る上場基準等の緩和と外国企業に係る開示費用の軽減措置を講じたところであります。さらに、研究開発型、知識集約型等の新規事業を実施する企業の資金調達をより一層促進するため、店頭登録制度について所要の見直しを行うこととしております。また、社債の発行に係る適債基準等の基本的見直しを本年度中に行うことといたしております。
次に、平成七年度予算の大要について御説明いたします。
平成七年度予算は、財政体質の歯どめなき悪化につながりかねない特例公債の発行を回避するため、従来にも増して徹底した歳出の洗い直しに取り組む一方、限られた財源の中で重点的、効率的な配分に努め、質的な充実に配意することとして編成をいたしました。先ほども述べましたとおり、平成七年度予算編成をめぐる財政事情の厳しさには尋常ならざるものがあり、全体として歳出規模の圧縮に努めましたが、厳しい中にあって豊かで活力ある経済社会の構築等のために真に必要な施策に要する経費の確保に努め、いわば「風雪の中の寒梅」のような予算づくりを目指したところであります。
歳出面につきましては、既存の制度・施策について見直しを行うなど経費の徹底した節減合理化に努めることとし、一般歳出の規模は四十二兆一千四百十七億円、前年度当初予算に対し三・一%の増加となっております。
国家公務員の定員につきましては、第八次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、二千八十五人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。
補助金等につきましては、地方行政の自主性の尊重、財政資金の効率的使用の観点から、その整理合理化を積極的に推進することといたしております。
また、現下の一段と深刻さを増した財政事情にかんがみ、特例的な措置として、平成六年度予算に引き続き国債整理基金特別会計に対する定率繰り入れ等三兆二千四百五十七億円を停止する等の措置を講ずるとともに、平成五年度の決算上の不足に係る国債整理基金からの繰り入れ相当額五千六百六十三億円の同基金への繰り戻しを延期するという臨時異例の措置を講ずることといたしております。これらの措置につきましては、税外収入の確保のための特別措置とあわせ、別途、平成七年度における財政運営のための国債整理基金に充てるべき資金の繰入れの特例等に関する法律案を提出し、御審議をお願いすることといたしております。
これらの結果、一般会計予算規模は七十兆九千八百七十一億円、前年度当初予算に対し二・九%の減少となっております。
次に、歳入面について申し述べます。
税制につきましては、今般の税制改革及び特別減税に関連する法律が成立したことを踏まえ、平成七年度税制改正として、最近の社会経済情勢の変化及び現下の厳しい財政事情に顧み、課税の適正公平を確保する観点から租税特別措置の大幅な整理合理化を行うとともに、早急に実施すべき措置を講ずることといたしております。今後とも、あるべき税制に向けて不断に努力をしてまいります。
税の執行につきましては、今後とも国民の信頼と協力を得て、一層適正公平に実施するよう努力してまいる所存であります。
また、税外収入につきましては、一段と深刻さを増した財政事情のもと、外国為替資金特別会計及び自動車損害賠償責任再保険特別会計からの一般会計への繰り入れの特別措置を講ずる等、格段の増収努力を払っております。
公債につきましては、公共事業等の財源を確保する等のため、建設公債九兆七千四百六十九億円を発行することといたしております。また、所得税減税の実施等による平成七年度における租税収入の減少を補うため、いわゆる減税特例公債二兆八千五百十一億円を発行することといたしております。なお、借換債を含めた公債の総発行予定額は三十七兆九千七百五十八億円となっております。
財政投融資計画につきましては、対象機関の事業内容等を厳しく見直すとともに、国民生活の質の向上等各般の政策的諸要請に的確に対応していくとの考えに立ち、住宅建設、地域の活性化等の分野を中心に一層の重点的、効率的な資金配分を図ったところであります。
この結果、一般財投の規模は四十兆二千四百一億円、二・一%の増加となっております。また、資金運用事業を加えた財政投融資計画の総額は四十八兆一千九百一億円、前年度当初計画に対し〇・七%の増加となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
公共事業関係費につきましては、昨年十月に策定された新しい公共投資基本計画を踏まえ、本格的な高齢化社会が到来する前に着実に社会資本整備を推進するとの観点に加え、回復局面にある我が国経済情勢も考慮し、高い伸びを確保することとしております。また、住宅、下水道、環境衛生等の国民生活の質の向上に結びつく分野を初め、二十一世紀に向けて新たな時代のニーズに的確に対応するため、思い切った重点投資を行うなど、重点的、効率的な配分に一層の努力を払っております。また、住宅金融公庫融資の着実な推進、公共賃貸住宅の供給の促進、住宅宅地関連公共施設の整備の促進など、住宅対策の拡充を図っております。
社会保障関係費につきましては、老人保健制度及び国民健康保険制度の改正、公費負担医療制度の見直しを行うほか、「高齢者保健福祉推進十か年戦略」を全面的に見直し、老人介護対策のさらなる充実を図るとともに、低年齢児保育の充実など緊急保育対策等を推進することに加え、がん対策、エイズ対策等の諸施策について、きめ細かく配慮しております。雇用対策につきましては、雇用の安定に万全を期するため、産業構造の変化や大学新卒者等にも配慮した総合的な雇用対策等を引き続き推進することといたしております。
文教及び科学振興費につきましては、教育環境の整備、高等教育・学術研究の改善充実、文化の振興等を図るとともに、基礎研究の充実を初め科学技術振興のため、各般の施策の推進に努めております。
中小企業対策費につきましては、中小企業の置かれている厳しい経営環境に配慮し、技術・ノウハウの開発やその事業化及び創業への支援による中小企業の創造的事業活動の促進策を初め、特に緊要な課題に重点を置いて施策の充実を図っております。
農林水産関係予算につきましては、世界貿易機関設立協定の承認やいわゆる新食糧法の成立等、我が国農業・農村を取り巻く内外の諸情勢を踏まえ、経営感覚にすぐれた効率的、安定的な経営体が生産の大宗を担う農業構造の実現に重点を置くこととし、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策を含め所要の施策の着実な推進に努めております。
経済協力費につきましては、開発における女性の役割の重視、環境への配慮等の新しい側面に十分配慮するとともに、NGOとの連携を強化するなど援助実施体制の充実に努めるほか、開発途上国における人づくり支援等を通じ、きめ細かく真に効率的な援助を目指すことといたしております。
防衛関係費につきましては、東西冷戦終結後の国際情勢、一段と深刻さを増している我が国の財政事情などを踏まえ、効率的で節度ある防衛力の整備を図ることといたしております。
エネルギー対策費につきましては、地球環境保全の重要性等も踏まえ、総合的なエネルギー対策の着実な推進に努めております。
地方財政につきましては、平成六年度に引き続き極めて厳しい状況になっておりますが、円滑な地方財政の運営に支障を生じることのないよう所要の措置を講ずることとし、所得税減税、住民税減税の影響について交付税及び譲与税配付金特別会計の借入金や減税補てん債の発行により補てんするとともに、一般会計からの加算や同特別会計の借入金を活用すること等により所要の地方交付税総額を確保することといたしております。地方公共団体におかれましても、このような厳しい財政事情のもと、従来にも増して歳出の節減合理化を推進し、より一層効率的な財源配分を行うよう要請するものであります。
この機会に、平成六年度補正予算について一言申し述べます。
平成六年度一般会計補正予算につきましては、歳入面では、最近までの収入実績等を勘案して租税及び印紙収入の減収を見込む一方、税外収入の増収等を計上するとともに、歳出面では、災害復旧等事業費、ウルグァイ・ラウンド農業合意関連対策費、義務的経費の追加など、特に緊要となった事項等について措置を講ずることとしております。
以上によりまして、平成六年度一般会計補正後予算の総額は、当初予算に対し歳入歳出とも六千七百三十五億円減少し、七十二兆四千八十二億円となっております。
以上、平成七年度予算及び平成六年度補正予算の大要について説明をいたしました。両予算が現下の諸情勢に果たす役割に御理解を賜り、何とぞ、関係の法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
二十一世紀まであと六年足らず、今、新しい世紀を目前に控えた我々の責務は、内外の一層の調和ある繁栄を築き、我々の子孫に伝えていくことであります。
しかしながら、その道は平たんではありません。我が国経済は、本格的な高齢化社会の到来や国際分業体制の進展など、内外の経済環境の変化を背景としたさまざまな構造的課題に直面しているのであります。従来の発想や行動様式のままでは、これらを克服することはできません。
二十一世紀に向け、活力に満ちた経済社会をつくり出すためには、簡素で効率的な行政のもとで、より自由な経済活動を展開し、我が国に本来備わっている活力を改めて引き出すことが必要であります。そのためには、行財政改革と経済構造改革をともに強力に進めていかなければなりません。
それは困難で苦痛を伴う道ではありますが、国民一人一人が自信と勇気を持って取り組めば必ずや新たな地平を切り開くことができるものと確信いたします。
国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願い申し上げます。