[内閣名] 第83代第2次橋本内閣(平成8.11.7〜平成10.7.30)
[国会回次] 第142回(常会)
[演説者] 松永光大蔵大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 1998/2/16
[参議院演説年月日] 1998/2/16
[全文]
平成十年度予算の御審議をお願いするに当たり、財政及び金融行政の運営の基本的な考え方と予算の大要を御説明したいと思いますが、その前に、このたびの金融検査をめぐる不祥事について申し述べます。
先般、大蔵省の金融検査部に所属する職員が収賄の容疑により逮捕されましたことは、大蔵省に対する信頼を著しく損なうものであり、ざんきにたえません。ここに改めて国民の皆様におわび申し上げます。
今回の事態への対応については、これまでの国会審議の過程などで申し上げているところでありますが、まず、綱紀の保持を徹底するため、新たに金融服務監査官を大臣官房に設置いたしました。金融服務監査官は、民間金融機関等の検査・監督に従事する職員について、綱紀の保持状況の監視・調査を行うものであり、その際、弁護士に助言を求めることとしております。今後とも、この制度を活用し、綱紀の保持の一層の徹底を図ってまいります。また、現在、金融行政に関連する部局の職員と金融機関等の関係について大蔵省の内部調査を実施しておりますが、その結果を速やかに取りまとめ、問題がある場合には厳正に処分いたします。
さらに、金融行政に対する信頼を回復するため、検査体制、行政手法等に関し、抜本的な改革を進めてまいります。
金融検査については、厳正で実効性ある検査体制、手法を確立するため、検査の基本的なあり方を転換いたします。
具体的には、早期是正措置の導入を契機として、金融機関による自己査定を前提としつつ、事後的なルール遵守状況等の把握に重点を置くほか、予告検査の導入等の新たな金融検査の手法を構築いたします。
さらに、民間専門家の登用、研修の強化充実、主要国監督当局との人材交流等を進めることとし、早急に具体策を取りまとめ、実施してまいります。
また、金融行政については、明確なルールに沿った透明性の高い手法に移行しつつありますが、こうした中で、さらに金融機関から意見を聴取したり、行政の考え方を説明するため、定例の金融連絡会を新たに設置いたします。これは、いわゆるMOF担の存在を必要としない行政に転換するとともに、行政の透明性を確保するための措置であります。
私は、国民の皆様に信頼される新しい大蔵省をつくり上げるため、以上申し上げました措置を初めとする大蔵省の改革に全力を挙げて取り組んでまいる決意であります。
次に、財政及び金融行政の運営の基本的な考え方について所信を述べます。
最近の経済金融情勢を概観しますと、個人消費が低調な動きとなるなど、家計や企業の景況感の厳しさが実体経済に影響を及ぼしており、景気はこのところ停滞している状況にあります。また、アジア地域の通貨・金融市場の混乱のほか、昨年秋以来、複数の金融機関の経営問題の表面化等を契機に、我が国の金融システムの安定性が大きく揺らぎかねない事態が生じました。
こうした危機的な事態に機動的に対応するため提案いたしました平成九年度補正予算並びに特別減税及び金融システム安定化に関する法律について御賛同いただきましたことに感謝申し上げます。
同補正予算に計上されました災害復旧事業等の公共事業や一般公共事業に係る国庫債務負担行為などについては、現在、鋭意執行に努めております。
二兆円規模の特別減税については、給与所得者等に対して、今月の源泉徴収時から減税を実施しております。
預金者保護と金融危機時における金融機関の自己資本充実を柱とする金融システム安定化のための措置については、国会における御審議を踏まえ、厳正かつ透明性の高い運用に努めてまいります。とりわけ、多くの御議論がありました金融機関の発行する優先株等の引き受けについて、その審査を公正、中立に行うため、金融危機管理審査委員会を可及的速やかに設置し、金融機関からの審査要請に直ちに応じられるよう体制を整備することにより、金融機関の自己資本の充実に向けた取り組みを進めてまいります。
また、年度末に向けては、政府系金融機関の資金量を十分に確保するとともに、早期是正措置の弾力的運用などの方策を講ずることとし、資金供給の円滑化に努めてまいります。
政府としては、金融システムの安定化と経済の回復軌道への復帰に向けて、これらの施策を適切に実行してまいります。
経済金融情勢に対して機動的な対応を行うことと並行して、中期的な目標に向けた構造改革を着実に推進することも重要な課題であります。
新世紀まであと三年となった現在、我が国経済社会は、本格的な高齢社会への移行、国際化・情報化の進展など、時代の大きな潮流変化の中にあります。経済社会を支えてきた旧来の制度をこうした変化に対応した新たなものとし、豊かで活力ある経済社会を構築していくために、全力を挙げて、財政構造改革、金融システム改革等の構造改革を推進していかなければなりません。
まず、現在の危機的な財政状況から脱却し、さまざまな政策要請に十分対応できる財政構造を構築していくことが必要であります。私としては、財政構造改革法に規定された最終的な目標達成に向けて全力を尽くしてまいる所存であります。
また、財政投融資については、財政政策の中で有償資金を適切な分野に活用するという基本的な役割を踏まえつつ、その抜本的改革を進めてまいります。
さらに、税制については、平成十年度改正において、時代の潮流変化と各般の構造改革にあわせ、広範かつ思い切った措置を講ずることとしております。
主要な措置を申し述べますと、法人税制については、基本税率や中小法人に対する軽減税率等を引き下げるとともに、課税ベースを拡大、適正化いたします。これにより、法人税の基本税率は、シャウプ税制以降最も低く、米国の連邦法人税率を下回る水準となります。こうした改革は、経済活動に対する税の中立性を高め、経済構造改革の推進にも寄与するものと考えております。
金融関係税制については、金融システム改革に対応した措置を講じます。その中で、有価証券取引税及び取引所税について、その税率を本年四月から半減し、さらに、平成十一年末までに、金融システム改革の進展状況、市場の動向等を勘案して見直し、株式等譲渡益課税の適正化とあわせて廃止することとしております。
土地住宅税制については、土地をめぐる状況の変化等を踏まえ、地価税を当分の間課税しないこととするほか、個人、法人の土地譲渡益課税の大幅な軽減措置等を講じます。
また、所得課税においては、中堅所得者層の税負担等に配慮したきめ細かい措置を講じます。
我が国の金融システムに対する内外の信認を確固たるものとしていくためには、金融システム安定化のための措置を実施していくとともに、新世紀に向けて金融システム改革を進め、自由かつ公正で国際的な金融システムを形成していくことが不可欠であります。
政府としては、このために、投資信託の整備、株式売買委託手数料の完全自由化、証券会社の原則登録制への移行等を図るとともに、公正取引ルール、金融機関のディスクロージャーに関する制度及び破綻の際の証券投資家、保険契約者の保護のための制度の整備を行います。また、不動産等の資産の流動化を促進するための制度整備等を行ってまいります。こうした措置を実施するため、今国会に金融関連の所要の法律案を提出することとしております。
このような政府の取り組みにあわせて、金融機関において、その社会的責任と高い公共性にかんがみ、国際的に通用するディスクロージャーの実現、責任ある経営体制の整備及び経営の合理化、効率化に向けたさらなる取り組みが行われることを強く期待するものであります。
目を外に転じますと、世界経済は米国を中心に拡大基調を続けておりますが、昨年夏以降、タイに端を発しインドネシア、韓国などのアジア地域に広がった通貨・金融市場の混乱の影響が懸念されております。世界経済の持続的発展にとってアジア経済の安定が不可欠であります。そのために、我が国としては、IMFを中心とする国際的な支援体制の中で、関係各国中最大の支援を実施してまいりました。
さらに、アジアの通貨・金融の安定に向けた域内協力を強化するため、我が国の積極的な取り組み等により、昨年十一月、マニラにおいてアジア地域を中心とした新たな支援の枠組みが合意され、APEC首脳宣言でも支持されたところであります。
今後とも、アジア地域の動向を注視していくとともに、関係各国及びIMF、世界銀行、アジア開発銀行等の国際機関とも密接に連携しながら適切に対処していく所存であります。
為替相場については、今後とも、主要国との政策協調及び為替市場における協力を通じ、その安定を図ってまいります。
また、我が国は、WTO、APEC等を通じ、多角的自由貿易体制の維持強化及び貿易円滑化に積極的に取り組んでおり、平成十年度関税改正においても、特定品目の関税率の引き下げ等、所要の改正を行うこととしております。
次に、今国会に提出しております平成十年度予算の大要について御説明いたします。
平成十年度予算は、財政構造改革法に従い、歳出全般について聖域を設けることなく徹底した見直しを行いつつ、限られた財源を重点的、効率的に配分したものとなっております。また、長年の懸案である国鉄長期債務及び国有林野累積債務についても具体的な処理策をまとめたところであります。
歳出面については、一般歳出の規模は四十四兆五千三百六十二億円となり、前年度当初予算に対して五千七百五億円、一・三%の縮減を達成いたしました。
国家公務員の定員については、第九次定員削減計画を着実に実施するとともに、増員は厳に抑制し、三千七百人に上る行政機関職員の定員の縮減を図っております。補助金等についても、地方行政の自主性の尊重及び財政資金の効率的使用の観点から、その整理合理化を積極的に推進しております。
これらの結果、一般会計予算規模は七十七兆六千六百九十二億円となり、前年度当初予算に対し〇・四%の増加となっております。
歳入の基幹たる税制については、さきに申し述べましたとおり、法人税制、金融関係税制、土地住宅税制等に関し適切な措置を講ずるほか、たばこ特別税を創設することといたします。
税の執行については、今後とも国民の信頼と協力を得て、適正、公平な実施に一層努めてまいります。
以上の措置を受け、公債発行予定額については、前年度当初予算より一兆千五百億円減額し、十五兆五千五百七十億円としております。その減額の内訳は、建設公債について八千百億円、特例公債について三千四百億円となっております。この結果、公債依存度は二〇%となり、前年度当初予算の二一・六%より一・六ポイント低下しております。特例公債の発行等については、既に関係の法律案を提出しており、御審議をお願いすることとしております。
財政投融資計画については、財政投融資の抜本的改革を推進するとの基本方針のもとで、民業補完や償還確実性の原則を徹底するとともに、景気に配慮しながら資金の重点的、効率的な配分を図り、その規模のスリム化を図ったところであります。この結果、一般財政投融資の規模は三十六兆六千五百九十二億円となり、前年度当初計画に対し六・八%の縮減となっております。また、資金運用事業を加えた財政投融資計画の総額は四十九兆九千五百九十二億円となり、前年度当初計画に対し二・七%の縮減となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
社会保障関係費については、少子・高齢化が急速に進む中で安定的な社会保障制度を構築する観点から、医療分野において薬価の大幅な引き下げや老人医療費の負担の公平化を図るための制度改革を行うほか、雇用保険制度に係る国庫負担のあり方を見直すなどの措置を講じております。
文教及び科学振興費については、創造的で活力に富んだ国家を目指して、教育環境の整備、高等教育、学術研究の充実、創造的、基礎的研究に重点を置いた科学技術の振興等の施策の推進に努めております。
公共事業関係費については、物流の効率化対策に資するものを中心とした経済構造改革関連の社会資本及び生活関連の社会資本について重点的に整備することとしております。公共事業の実施に当たっては、費用対効果分析の活用や長期にわたる事業等を対象とした再評価システムの導入などを通じて、公共事業の効率化、透明化に努めることとしております。
中小企業対策費については、厳しい経営環境に配慮し、中心市街地活性化、金融対策等に重点を置いて施策の充実を図っております。
農林水産関係予算については、自主流通米価格の急落等、米をめぐる厳しい状況に対処するため新たな米政策を構築するなど、担い手への施策の集中及び市場原理、競争条件の一層の導入を図りつつ、施策の着実な推進に努めております。
経済協力費については、事前調査・事後評価の拡充等を図りつつ、環境、社会開発、人道、人づくり等の分野に重点化を図り、所管の枠を超えた総合調整を行うなど、援助の量から質への転換を徹底しております。
防衛関係費については、先般見直しが行われた中期防衛力整備計画のもと、効率的で節度ある防衛力の整備を図ることとしております。
エネルギー対策費については、地球温暖化問題への対応の重要性等も踏まえ、総合的なエネルギー対策の着実な推進に努めております。
地方財政については、国と地方がバランスのとれた財政運営を行う必要があるという基本的考え方を踏まえつつ、所要の地方交付税総額を確保するなど、地方財政の運営に支障を生ずることのないよう適切な措置を講ずることとしております。地方公共団体におかれましても、財政の自主的かつ自立的な健全化に鋭意努力されるよう要請するものであります。
以上、平成十年度予算の大要について御説明いたしました。
何とぞ、関係の法律案とともに、御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。
私は、これまで申し述べました諸施策を実施し、経済を回復軌道に復帰させるとともに、諸改革を通じ、将来世代のために豊かで活力ある経済社会を築いていくことに全力を尽くしてまいります。そして、大蔵省に対する国民の皆様の信頼を回復するよう、財政及び金融行政を適正に運営してまいる決意であります。
国民各位の一層の御理解と御協力を切にお願い申し上げる次第であります。