[内閣名] 第88代第2次小泉純一郎内閣(平成15.11.19〜現在)
[国会回次] 第159回(常会)
[演説者] 谷垣禎一財務大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 2004/1/19
[参議院演説年月日] 2004/1/19
[全文]
平成十六年度予算及び平成十五年度補正予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。
日本経済の現状を見ますと、長期的な低迷の中でも、多くの国民の英知と努力によって培われてきた活力が、政府、民間の改革への取り組みによってようやく発揮され始め、経済に明るい兆しが見られます。この景気回復の動きを民間需要主導の持続的な経済成長につなげていくためには、経済の活性化、子や孫の世代に負担を先送りしない持続可能な財政の構築、国民の安心、安全の確保を目指した諸般の取り組み、これらを総合的に進めていくことが重要であると考えております。また、デフレ克服に向け、引き続き政府は日本銀行と一体となって取り組んでまいります。
今後の財政政策等の運営に当たっては、以下に申し述べる諸課題に着実かつ的確に取り組み、構造改革の努力の成果を上げてまいる所存であります。
第一の課題は、財政構造改革であります。
我が国の財政状況は、平成十六年度末の公債残高が四百八十三兆円程度に達する見込みであるなど、世界の先進国の中でも最悪の水準となっております。このため、政府としては、中長期的な財政運営に当たり、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支黒字化を目指すとの目標達成に向け努力しているところであります。
こうした中、平成十六年度予算編成につきましては、引き続き歳出改革路線を堅持し、一般会計歳出及び一般歳出について、実質的に前年度の水準以下に抑制しました。
一方、予算の内容については、経済財政運営と構造改革に関する基本方針二〇〇三等を踏まえ、例えば科学技術や治安対策など、活力ある社会経済の実現や国民の安心の確保に資する分野に重点的に配分したほか、各分野においても真に必要な施策への絞り込みを行い、めり張りのある予算の配分を実現いたしました。
また、国と地方の改革、年金改革などの重要課題に着実に取り組むとともに、予算編成過程について、モデル事業や政策群といった手法の導入、予算執行調査の拡充を行ったほか、特別会計については、すべての特別会計を対象として幅広い見地から検討を行い、事務事業の見直し等を進めております。
こうした歳出改革へ向けた努力を通じ、国債発行額を極力抑制したところであり、その結果、公債依存度は、前年度と同水準の四四・六%となっております。
このように、来年度予算については、私としては、基礎的財政収支の黒字化に向けて一つの手がかりとなるものと考えておりますが、財政が危機的状況にあることに変わりはありません。今後とも、手綱を緩めることなく、財政構造改革に向けた不断の努力を重ねてまいりたいと考えております。
なお、こうした財政構造改革の推進により国債に対する信認を確保しつつ、中長期的な調達コストの抑制、確実かつ円滑な国債の消化を図るため、市場のニーズや動向等を十分に踏まえ、国債管理政策を適切に運営してまいります。
第二の課題は、税制改革であります。
平成十六年度においても、持続的な経済社会の活性化に向け、広範な改革を実現した平成十五年度改正の結果として、国、地方合わせて実質一兆五千億円の減税となります。
平成十六年度改正においては、引き続き、経済活性化に向けた動きをより確かなものとするための改正を行うこととしております。
具体的には、景気動向と住宅政策の両面に配意し、住宅ローン減税を見直した上で延長するほか、個人資産の活用を促進するため、土地譲渡益課税の税率を引き下げるとともに、公募株式投資信託の譲渡益課税を上場株式並みに軽減することとしております。また、創造的な企業活動と事業の再構築を支援するため、エンゼル税制の拡充を初めとする中小企業関連税制及び法人税制の見直しを行うほか、国際的な投資交流を促進するため、日米租税条約の全面改正と関連国内法令の見直しを行うこととしております。このほか、世代間、高齢者間の公平を確保し、年金制度改革にも対応する観点から、年金税制の見直しを行うこととしております。
今後とも、持続可能な社会保障制度の確立、地方分権の推進といった諸課題に対応し、公正で活力ある経済社会を実現するため、先般の与党税制改正大綱を踏まえ、改革の明確な道筋を示しつつ、税制の抜本的改革を進めてまいります。
第三の課題は、世界経済の安定と発展への貢献であります。
我が国は、国際機関やG7、アジア諸国等と協力しつつ、国際金融システムの強化や開発途上国の経済社会の発展等の課題に取り組んでまいります。また、アジアにおける通貨・金融の安定化に向けて、アジア債券市場育成イニシアチブ等の取り組みを通じて一層の貢献を行ってまいります。
為替相場につきましては、経済の基礎的条件を反映して安定的に推移することが重要であり、今後とも、為替相場の動向を注視し、必要に応じて適切に対処してまいる所存であります。
WTO新ラウンド交渉に引き続き積極的に取り組むとともに、メキシコ、韓国、ASEAN等との自由貿易協定を含む経済連携を積極的に推進してまいります。
平成十六年度関税改正においては、知的財産権侵害物品に係る認定手続の充実、税関における水際取り締まりの強化等を行うこととしております。
次に、今国会に提出しております平成十六年度予算の大要について御説明いたします。
歳出面については、一般歳出の規模は四十七兆六千三百二十億円、一般会計全体の予算規模は八十二兆千百九億円となっております。
また、国家公務員の定員については、治安など真に必要な部門には適切に定員を措置しつつ、行政機関職員全体としては、五百五十三人の定員の縮減を図っております。
歳入面については、租税等は、平成十六年度税制改正を織り込み四十一兆七千四百七十億円を見込んでおります。また、その他収入は三兆七千七百三十九億円を見込んでおります。
これらの結果、公債発行予定額は三十六兆五千九百億円となっております。なお、特例公債の発行については、別途、所要の法律案を提出し、御審議をお願いすることとしております。
財政投融資計画については、財投改革の趣旨を踏まえ、中小企業対策などセーフティーネットの構築等、真に必要な資金需要には的確に対応しつつ、対象事業の一層の重点化を図ることといたしました。この結果、平成十六年度財政投融資計画の規模は、二十兆四千八百九十四億円となっております。
次に、主要な経費について申し述べます。
社会保障関係費については、年金につき、長期的な給付と負担の均衡を図り、社会経済と調和した持続可能な制度への改革に取り組むとともに、診療報酬、薬価等の改定等を行うこととしております。
公共投資関係費については、その水準を全体として抑制しつつ、活力ある社会経済の実現に向けて、国と地方の役割分担等の観点も踏まえ、重点化を行っております。
文教及び科学振興費については、義務教育費国庫負担制度の見直しを初め、確かな学力、豊かな心の育成等の教育改革の推進、競争的な環境のもとでの個性あふれる大学づくりに努めるとともに、科学技術振興費については、優先順位づけも踏まえた重点化を行いつつ拡充したところであります。
防衛関係費については、思い切った削減を行う中で、テロや弾道ミサイル等の新たな脅威に対応するための配分の重点化を図りつつ、効率的で節度ある防衛力整備を行うこととしております。
農林水産関係予算については、食の安全、安心の確保や環境保全に配慮しつつ、施策の対象を意欲と能力のある経営体へ重点化し、米政策の改革を初めとする農業の構造改革の着実な推進等を図っております。
経済協力費については、新ODA大綱のもと、我が国の国益を重視しつつ、全体として規模を縮減する中で、援助対象のさらなる戦略化、重点化を図っております。
エネルギー対策費については、エネルギーの安定供給確保と地球環境問題への対応等を着実に進めております。
中小企業対策費については、創業・経営革新の推進や人材育成、中小企業に対する円滑な資金供給を確保するための基盤強化等を図っております。
また、補助金、地方交付税、税源移譲を含む税源配分のあり方に関する、いわゆる三位一体の改革については、その成果を平成十六年度予算に反映させたところであります。
まず、地方向け補助金等については、基本方針二〇〇三や総理指示を踏まえ、一兆円の廃止・縮減等の改革を行っております。また、地方交付税については、地方財政の効率化を促し、地方の自立を促進する観点から、地方歳出の徹底した見直しを行い、地方の財政運営に配慮しつつ総額を抑制しております。さらに、廃止する国庫補助負担金の対象事業の中で、引き続き地方が主体となって実施する必要があるものについては、暫定措置として国の所得税収の一部を地方へ譲与することにより税源移譲を行うほか、義務教育費国庫負担金の退職手当等に係る一般財源化分につき、特例的な交付金により暫定的に財源措置を講じております。
地方公共団体におかれましても、歳出全般にわたる一層の見直し、合理化、効率化に積極的に取り組まれるよう要請するものであります。
次に、平成十五年度補正予算について申し述べます。
平成十五年度補正予算については、歳出面において、義務的経費を中心としたやむを得ざる追加財政需要への対応として、義務的経費の追加、災害対策費及びイラク復興支援経済協力費等を計上する一方、既定経費の節減等を行うこととしております。
他方、歳入面においては、その他収入の減収を見込むとともに、前年度の決算上の剰余金を計上することとしております。また、国債の増発は行わないこととしております。なお、決算上の剰余金については、財政法第六条に基づく国債整理基金への繰り入れを行わないこととしております。
以上によりまして、平成十五年度補正後予算の総額は、当初予算に対し歳入歳出とも千五百五億円増加し、八十一兆九千三百九十六億円となります。
また、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行うこととしております。
以上、平成十六年度予算及び平成十五年度補正予算の大要について御説明いたしました。
今の日本経済を例えますと、至るところに新たな胎動が見られるものの、過去の成功体験という厚い殻をなかなか破れずに、いわば、ひなが卵の殻を中からコツコツ一生懸命たたいている状態にあるのではないかと思います。民間の経済が内側から必死に殻をたたいている今こそ、政府は外側からその殻をたたき、新たな胎動を大きなうねりにつなげていくことが必要なのではないでしょうか。平成十六年度予算は、そのための重要な一歩であると考えております。
何とぞ、関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。