データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第88代第2次小泉純一郎内閣(平成15.11.19〜平成17.9.21)
[国会回次] 第162回(常会)
[演説者] 谷垣禎一財務大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 2005/1/21
[参議院演説年月日] 2005/1/21
[全文]

 平成十七年度予算及び平成十六年度補正予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

 昨年来、たび重なる大型台風や新潟県中越地震、スマトラ沖大地震及びインド洋津波などの自然災害が甚大な被害をもたらしております。ここに、亡くなられた方々とその御遺族に対し深く哀悼の意を表しますとともに、被災者の方々に心からお見舞いを申し上げます。政府としては、今後とも被災地域の復旧等に向けて全力を挙げて取り組んでまいります。

 我が国経済は、政府、民間双方の構造改革の取り組みにより長きにわたった低迷を脱し、財政出動に頼ることなく、国内民間需要を中心に回復を続けております。こうした回復の動きを地域や中小企業にも広く浸透させ、持続可能なものとするため、構造改革をさらに一層推進してまいります。また、デフレは緩やかながらも依然継続しており、その脱却を確実なものとするため、日本銀行と一体となって政策努力を強化してまいります。

 一方で、財政の現状は、平成十七年度末の公債残高が五百三十八兆円程度に達する見込みであるなど、非常に厳しい状況にあります。こうした状況が続きますと、経済の成長を阻害することになりかねません。

 このため、持続可能な財政を構築することが重要な課題であります。今後とも、二〇一〇年代初頭の基礎的財政収支の黒字化を目指し、歳出歳入両面からバランスのとれた財政構造改革を進めていく必要がありますが、これに取り組むに当たっては、次の三つの点を踏まえる必要があると考えます。

 第一に、歳出面において、特に、社会保障制度の見直しが不可欠です。社会保障の給付と負担は、このままでは経済の伸びを大きく上回って増大していくと見込まれます。将来にわたり持続可能な制度を構築するには、年金、医療、介護等を総合的にとらえ、給付と負担の規模を国民経済の身の丈に合ったものとすることを目指す必要があります。あわせて、自助と公助の役割分担の見直しのほか、次世代の国民を育てていくことの大切さの再認識や、高齢者を一律に弱者ととらえる考え方の見直しといった意識改革が重要であると考えております。

 第二に、歳入面において、少子高齢化やグローバル化等の大きな構造変化に対応し、あるべき税制を構築していかなければなりません。このため、これまでの政府・与党の方針を踏まえ、景気低迷時に講じた措置の見直しを含め、社会共通の費用を広く公平に分かち合うとともに、持続的な経済社会の活性化を実現するため、税制改革の具体化に取り組んでまいります。

 第三に、持続的な財政の構築には、国、地方を通じて取り組んでいく必要があります。こうした観点から、国と地方のいわゆる三位一体の改革については、地方の権限と責任を拡大し、必要な行政サービスを地方みずからの責任で選択できる幅を拡大するとともに、国、地方を通じた行政のスリム化を図ることが重要と考えております。

 こうした財政構造改革の取り組みに対して国民の御理解を得るに当たっては、財政の現状をわかりやすく説明するとともに、事務事業の民営化など行政改革を推進しつつ、徹底した歳出の見直しや予算の質の改善に取り組まなければならないと考えております。

 平成十七年度予算及び税制改正におきましては、以上の認識のもと、歳出歳入両面の改革に取り組むこととしております。

 歳出面については、歳出改革路線を堅持、強化する方針のもと、聖域なき改革を行っております。

 これにより、一般会計全体の予算規模は八十二兆千八百二十九億円、一般歳出の規模は四十七兆二千八百二十九億円となり、一般歳出は三年ぶりに前年度の水準以下に抑制いたしました。

 また、国家公務員の定員については、治安など真に必要な部門に適切に配置しつつ、行政機関職員全体として七百二十八人の縮減を図っております。

 次に、主要な経費について申し述べます。

 社会保障関係費については、介護保険につき、制度間の重複の是正や在宅と施設の利用者負担の公平性の観点から、施設における給付を見直す等の取り組みを行っております。

 公共事業関係費については、全体として抑制しつつ、我が国の競争力の向上に直結する投資等への重点化を行っております。

 文教及び科学振興費については、教育研究の質的向上を目指した改革を進めるとともに、競争的研究資金の拡充等により、予算の質の向上を図っております。

 防衛関係費については、思い切った削減を行う中で、新たな防衛計画の大綱及び中期防衛力整備計画を踏まえ、テロや弾道ミサイル等の新たな脅威への対応等に重点化を図りつつ、効率的で節度ある防衛力整備を行っております。

 農林水産関係予算については、全体として抑制しつつ、構造改革の加速や食の安全、安心の確保に向けた重点化を行っております。

 経済協力費については、戦略的かつ効率的な援助の実施に必要な経費を確保しつつ、人間の安全保障の推進等への重点化を行っております。

 エネルギー対策費については、安定供給確保のための施策や省エネルギー対策等の地球温暖化問題への対応等を着実に進めております。

 中小企業対策費については、新事業への挑戦や経営革新の推進を図るとともに、円滑な資金供給を確保するための基盤強化等を行っております。

 治安関係予算については、地方警察官の増員を初め、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を図っております。

 また、三位一体の改革については、国庫補助負担金について、税源移譲に結びつく改革のほか、スリム化を図ること等により一兆八千億円程度の改革を行っております。この結果を受け、所得譲与税による税源移譲を行うこと等により、地方に対する財源措置を講じております。

 さらに、地方交付税について、地方歳出の見直しを行い、一般会計における総額を抑制すると同時に、地方に配分される総額について、地方の財政運営に配慮し、前年度と同規模を確保しております。今般の見直しの結果、地方の公債依存度、基礎的財政収支等の財政指標は大幅に改善することとなります。

 このほか、特別会計については、事務事業の見直し等の視点から着実な改革を進めております。また、政策評価や決算の反映など予算の質の向上に取り組んでおります。

 歳入面については、三位一体の改革との関係で、平成十八年度に国、地方を通ずる個人所得課税の抜本的見直しが必要となることを展望しつつ、平成十一年以降、景気対策のための臨時異例の措置として継続されてきた定率減税について、導入時と比較した経済状況の改善を踏まえ、その規模を二分の一に縮減することとしております。あわせて、住宅税制、金融・証券税制、国際課税、中小企業関係税制等について、経済の活性化や公平な課税の確保等の観点から適切な措置を講ずることとしております。

 これにより、租税等の収入は四十四兆七十億円を見込んでおります。また、その他収入は三兆七千八百五十九億円を見込んでおります。

 以上、歳出歳入両面における取り組みの結果、新規国債については、発行予定額を四年ぶりに前年度よりも減額し、三十四兆三千九百億円となり、一般会計の基礎的財政収支も昨年度に続き改善するなど、財政規律堅持の姿勢を明確にすることができました。

 また、国債残高が多額に上り、今後も大量発行が見込まれる中、国債管理政策を財政運営と一体として適切に運営していく重要性がますます高まってきております。これまでも、国債市場特別参加者制度や新商品の導入等、各種施策の実施に鋭意取り組んでまいりましたが、今後とも、国債の確実かつ円滑な消化、中長期的な調達コストの抑制を図るため、市場のニーズや動向等を踏まえた国債の発行、商品性・保有者層の多様化等、国債管理政策の一層の充実に努めてまいります。

 さらに、財政投融資については、すべての財投事業について、財務の健全性等の総点検を行い、財政投融資残高において大きなウエートを占める住宅金融公庫について、民間で取り組んでいる直接融資を廃止し、都市再生機構について、ニュータウン事業から撤退するなどの見直しを実施しております。これにより、将来の財務上の懸念を解消し、財投事業の健全性を一層確かなものとしております。

 平成十七年度財政投融資計画については、特殊法人等整理合理化計画等を反映しつつ、事業の重点化、効率化に努め、総額を十七兆千五百十八億円に抑制しております。

 次に、平成十六年度補正予算について申し述べます。

 平成十六年度補正予算については、大型台風や新潟県中越地震の被災地における復旧のための経費等として、災害対策費を一兆三千六百十八億円計上しております。このほか、歳出面においては、義務的経費の追加を行うとともに、国債整理基金への繰り入れ及び地方交付税交付金等を計上する一方、既定経費の節減等を行っております。

 歳入面においては、国債を増発することなく税収及び税外収入の増加を見込むとともに、前年度の決算剰余金を計上しております。

 以上の結果、平成十六年度補正後予算の総額は、当初予算に対し歳出歳入とも四兆七千六百七十八億円増加し、八十六兆八千七百八十七億円となっております。

 また、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行っております。

 財政投融資計画については、災害復旧経費等で総額五十四億円を追加することとしております。

 これらとともに、国際機関やG7、アジア諸国等と協力し、世界経済の安定と発展に貢献してまいります。特に、我が国と密接な関係を有するアジアにおいて、通貨危機の予防、対処のための域内の枠組みであるチェンマイ・イニシアチブの見直しや、アジアの貯蓄を域内の投資に活用するためのアジア債券市場育成イニシアチブの推進等に取り組んでまいります。また、アジア域内の投資交流を活発化させる観点から、租税条約の改定に取り組んでまいります。

 為替相場については、経済の基礎的条件を反映し安定的に推移することが重要であり、今後とも、その動向を注視し、必要に応じて適切に対処してまいります。

 さらに、WTO新ラウンド交渉やASEAN、韓国等との経済連携交渉に努力してまいります。こうした交渉においては、税関手続の簡素化や国際的調和を含む貿易円滑化にも取り組んでまいります。平成十七年度関税改正においては、税関における水際取り締まりの強化と通関手続の一層の迅速化等を図ることとしております。

 以上、平成十七年度予算及び平成十六年度補正予算の大要等について御説明いたしました。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

 グローバル化時代において、我が国が持続的に発展していくためには、日本の魅力を高め、世界から評価されることが重要であると考えますが、財政の持続可能性が危ぶまれるようでは、その実現は困難であります。

 来年度予算は、持続可能な財政の構築に向けた一里塚になったものと考えておりますが、公債依存度はなお四一・八%に及ぶなど、財政は依然大変厳しい状況にあります。財政の現実を国民に粘り強くお伝えし、「公(こう)」に対し何をどこまで求め、そして、どう負担し支え合うか、議論を喚起しながら、国民各層にある問題意識や不安を受けとめ、さまざまな工夫を重ねていかなければならないと考えております。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第であります。