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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第89代第3次小泉純一郎内閣(平成17.09.21〜平成18.09.26)
[国会回次] 第164回(常会)
[演説者] 谷垣禎一財務大臣
[演説種別] 財政演説
[衆議院演説年月日] 2006/1/20
[参議院演説年月日] 2006/1/20
[全文]

 平成十八年度予算及び平成十七年度補正予算の御審議に当たり、今後の財政政策等の基本的な考え方について所信を申し述べますとともに、予算の大要を御説明いたします。

 我が国経済は、これまで成長の制約となっていた三つの過剰、すなわち過剰雇用、過剰設備、過剰債務が解消し、企業部門の好調さが家計部門に波及する中、民間需要中心の回復軌道をたどっております。

 こうした回復の動きを地域や中小企業にも広く浸透させ、持続可能なものとするため、構造改革をさらに一層推進してまいります。また、デフレは脱却に向けた進展が見られるものの依然継続しており、その脱却を確実なものとするため、日本銀行と一体となって政策努力のさらなる強化拡充を図ってまいります。

 一方、四つ目の過剰とも言える政府の債務については、国、地方合わせた長期債務残高が平成十八年度末でGDP比一五〇%を超える見込みであるなど、極めて厳しい状況にあります。市場が財政の持続可能性に懸念を感じ始めた場合、その懸念がリスクプレミアムとなって金利上昇につながるおそれがあり、経済全体に悪影響を与えかねません。こうした懸念を生じさせないためにも、財政構造改革に対する政府の断固たる取り組み姿勢を示す必要があります。

 そのため、政府としては、まずは、二〇一〇年代初頭における国、地方を合わせた基礎的財政収支の黒字化を目指しております。

 さらに、歳出及び歳入のあり方等を一体的に検討することとしており、本年の年央を目途に、この歳出歳入一体改革について、選択肢及び改革工程を明らかにし、平成十八年度内に結論を得ることとしております。税制の抜本的改革についても、こうした歳出歳入一体改革の一環として、国民的な議論を深めてまいりたいと考えております。

 歳出歳入一体改革においては、債務残高対GDP比の引き下げ等、さまざまな論点について議論を行う必要があると考えております。また、歳出歳入一体改革は、単なる財政の収支合わせにとどまるものではありません。我が国の将来の国のあり方につながる課題であると考えております。高福祉・高負担の国もありますし、低福祉・低負担の国もあります。現在の日本は、現世代が負担に比べて大きな便益を受け、その差を、日々刻々、将来世代に先送りしているという意味において、中福祉・低負担ともいうべき状態にあるのではないでしょうか。今後少子高齢化が進む中、現世代の責務として、将来に向けてどのように持続可能な制度を確立するかを考えていかなければなりません。国民にできるだけ具体的な選択肢を示した上で、国民的な議論を積み重ねることが不可欠であると考えております。

 平成十八年度予算編成及び税制改正に当たっては、以上の認識を踏まえ、新規国債発行額について三十兆円にできるだけ近づけるとともに、一般歳出の水準について前年度よりも減額するとの方針のもと、取り組んでまいりました。

 歳出面については、医療制度改革、国と地方の三位一体の改革、公務員総人件費改革など、内閣として取り組んできたさまざまな改革の成果を反映いたしました。また、歳出全般を厳しく見直し、一般歳出について社会保障と科学技術振興の分野を除き前年度より減額するなど、予算配分の重点化を図りました。

 これにより、一般歳出の規模は前年度を下回り、四十六兆三千六百六十億円となりました。また、一般会計全体の予算規模は七十九兆六千八百六十億円となりました。

 次に、主要な経費について申し述べます。

 社会保障関係費については、少子化対策等の推進を図る一方、社会保障制度を将来にわたり持続可能で安定的、効率的なものとしていく観点から、医療保険につき、高齢者の自己負担の見直し等の制度改革を行うとともに、診療報酬を全体で三・一六%引き下げる等の取り組みを行っております。

 文教及び科学振興費については、義務教育における質の向上に向けた構造改革、子供の安全、安心の確保、科学技術分野における選択と集中の一層の推進を図っております。

 防衛関係費については、抑制を図る中で、弾道ミサイル等の新たな脅威への対応等に重点化を図りつつ、効率的で節度ある防衛力整備を行っております。

 公共事業関係費については、全体として抑制しつつ、防災、減災による安全の確保や我が国の競争力の向上に直結する投資等への重点化を行っております。

 経済協力費については、国際的なテロ対策支援や人間の安全保障の推進等へ重点化を図るとともに、より効率的な執行に努めることとしております。

 中小企業対策費については、地方にできることを地方に移譲しつつ、国の産業競争力強化に資する基盤技術開発等への重点化を行っております。

 エネルギー対策費については、事務事業の見直しを行いつつ、安定供給確保のための施策や地球温暖化問題への対応等を着実に進めております。

 農林水産関係予算については、農業構造改革の加速化や食の安全、安心の確保等に向けた重点化を行っております。

 治安関係予算については、治安関連職員の増員を初め、安全で安心して暮らせる社会の実現に向けた重点化を行っております。

 三位一体の改革については、昨年十一月に政府・与党合意が取りまとめられ、四兆円を上回る補助金改革を達成し、三兆円規模の税源移譲を行うこととしております。さらに、地方交付税については、地方歳出の徹底した見直しを通じ地方に配分される総額を約一兆円抑制しつつ、地方税も含む地方一般財源総額については、地方団体が安定的な財政運営を行えるよう、前年度を上回る額を確保しております。

 また、予算執行実績や決算検査報告等の反映など予算の質の向上、効率化を図っております。

 さらに、昨年十二月の行政改革の重要方針に盛り込まれた改革についても、着実に反映しております。

 公務員の人件費については、同重要方針における総人件費改革の実行計画を踏まえ、行政機関について千四百五十五人の純減を図るなど定員の大幅な純減と給与構造改革の実施等を通じ、改革の着実な実行を図っております。

 政府資産・債務改革については、財政融資資金貸付金残高の縮減、国有財産の売却促進等により資産規模のスリム化等に最大限努力するとともに、資産、債務両面における管理の強化に積極的に取り組んでまいります。このような観点から、民間利用の促進等による国有財産の有効活用、未利用国有地等の一層の売却促進等を図るなど、効率性重視に向けた国有財産行政の改革を強力に推進してまいります。このために必要な国有財産法等の改正案を今国会に提出することとしております。また、国家公務員宿舎については、民間の視点を十分に活用しつつ、都心からの移転、再配置に関する具体的な計画案を策定してまいります。

 特別会計については、今後五年を目途に、特別会計自体の統廃合も含め踏み込んだ改革を進めてまいります。平成十八年度予算においても、徹底した歳出の見直しを行うとともに、合計約十三兆八千億円の積立金、剰余金を財政健全化のため活用しております。このうち、財政融資資金特別会計の積立金については、政府資産・債務改革の観点も踏まえ、十二兆円を国債整理基金特別会計に繰り入れ、国債残高の圧縮に充てることといたしました。この措置は、将来の国債費の負担を軽減するとともに、いわゆる国債の平成二十年度問題の解決にも寄与するものと考えております。

 歳入面については、三位一体の改革の一環として所得税から個人住民税への三兆円規模の税源移譲を実現するとともに、経済状況の改善を踏まえ定率減税を廃止することとしております。あわせて、法人関連税制、土地・住宅税制、国際課税、酒税、たばこ税等について所要の措置を講じることとしております。

 これにより、租税等の収入は四十五兆八千七百八十億円を見込んでおります。また、その他収入は三兆八千三百五十億円を見込んでおります。

 以上、歳出歳入両面における取り組みの結果、新規国債の発行予定額は二十九兆九千七百三十億円となり、一般会計の基礎的財政収支も三年連続で改善いたしました。このように、平成十八年度予算は、歳出改革路線を堅持、強化した姿となっており、財政健全化に向けた歩みをさらに進め、歳出歳入一体改革の議論の土台固めを行うことができたものと考えております。

 また、国債残高が多額に上り、今後も借換債を含む国債の大量発行が見込まれる中、国債管理政策を財政運営と一体として適切に運営していく重要性がますます高まってきております。このような観点から、国債発行に当たっては、安定消化を図るとともに、中長期的な調達コストの抑制に努めることを基本とし、市場のニーズ、動向等を踏まえた発行等に取り組んでまいります。

 さらに、平成十八年度財政投融資計画については、財投改革の総点検のフォローアップを行い、各事業の財務の健全性を確認した上で、対象事業の重点化、効率化を進めた結果、その規模は十五兆四十六億円となっております。これは、ピーク時である平成八年度の四割を切る水準であります。

 次に、平成十七年度補正予算について申し述べます。

 歳出面においては、やむを得ざる追加財政需要への対応として、災害対策費、義務的経費の追加及びアスベスト対策関連経費等を計上するとともに、国債整理基金特別会計への繰り入れ及び地方交付税交付金等を計上する一方、既定経費の節減等を行っております。

 歳入面においては、租税等の収入及びその他収入の増加を見込むとともに、前年度の決算上の剰余金を計上しており、また、国債の発行予定額を減額しております。

 以上の結果、平成十七年度補正後予算の総額は、当初予算に対し歳出歳入とも四兆五千二百十九億円増加し、八十六兆七千四十八億円となっております。

 また、特別会計予算及び政府関係機関予算についても所要の補正を行っております。

 国際社会における責任を果たし、我が国経済の将来にわたる発展に資する観点から、国際機関やG7、アジア諸国等と協力し、世界経済の安定と発展に貢献していくことは重要な課題であります。

 特に、我が国と密接な関係を有するアジアにおいて、通貨危機の予防、対処のための域内の枠組みであるチェンマイ・イニシアチブのさらなる強化や、アジアの貯蓄を域内の投資に活用するためのアジア債券市場育成イニシアチブの推進等に取り組んでまいります。

 また、投資交流の促進については、租税条約ネットワークの強化が重要であり、今後も租税条約の改定に取り組んでまいります。

 為替相場については、経済の基礎的条件を反映し安定的に推移することが重要であり、今後とも、その動向を注視し、必要に応じて適切に対処してまいります。

 WTO交渉については、我が国は、昨年末の香港閣僚会議において開発イニシアチブの発表などを通じて貢献いたしましたが、今後とも、新ラウンド交渉を本年末までに終結させることを目指して取り組んでまいります。また、経済連携協定交渉については、昨年、マレーシアとの協定署名等の進展がありました。今後とも、各国との交渉の進展に向けて努力してまいります。これらの交渉においては、税関手続の簡素化や国際的調和の確保など、貿易円滑化にも取り組んでまいります。

 平成十八年度関税改正においては、石油製品関税の引き下げや、知的財産侵害物品の水際取り締まりの充実強化等を図ることとしております。

 以上、平成十八年度予算及び平成十七年度補正予算の大要等について御説明いたしました。関係法律案とともに御審議の上、速やかに御賛同いただきますようお願い申し上げます。

 我が国は、現在、人口減少社会の到来と世界的な競争条件の変化という二つの大きな構造変化に直面しており、財政構造改革を初めとする改革をさらに加速していかなくてはなりません。

 そのためには、構造改革の先にある社会は、弱肉強食の社会ではなく、個を確立した個々人が、互いに切磋琢磨、競争しつつも、本来日本人が持っている家族や地域社会のきずなの中で支え合っていく、活力と信頼に満ちた社会であることを示していく必要があるのではないでしょうか。

 阪神・淡路大震災の際に駆けつけた若者や、児童の安全を守る地域住民の姿に、きずなに支えられた新しい公の胎動が感じられます。国民一人一人がみずから公を担うことによって、家族、地域社会、そして国民と国家のきずなが再構築されるのではないかと考えております。みずからが公に参画するという意識の中から、財政のあり方に対するより深い理解が生まれてくるのではないでしょうか。

 国民各位の御理解と御協力を切にお願いする次第でございます。