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日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[文書名] 漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約(漁業及び公海の生物資源の保存条約)

[場所] ジュネーヴ
[年月日] 1958年4月29日作成,1966年3月20日効力発生
[出典] 外務省条約局,主要条約集(昭和52年版),1041−1054頁.
[備考] 仮訳文
[全文]

漁業及び公海の生物資源の保存に関する条約

昭和三十三年四月二十九日 ジュネーヴで作成
昭和四十一年三月二十日 効力発生

この条約の当事国は、

海洋生物資源の開発のための近代技術の発達は、増加しつつある世界の人口の食糧需要に応ずる人間の能力を増大するものであるが、この資源のあるものを乱獲の危険にさらしてきていることを考慮し、

また、公海の生物資源の保存に含まれる問題は、可能なときはいつでもすべての関係国の協同活動による国際協力に基づいて解決されることを明らかに必要とする性質のものであることを考慮して、

次のとおり協定した。

第一条

いずれの国も、(a)自国の条約上の義務、(b)この条約に定める沿岸国の利益及び権利並びに(c)公海の生物資源の保存に関する以下の諸条の規定に従うことを条件として、自国の国民が公海において漁業に従事する権利を有する。

いずれの国も、公海の生物資源の保存に必要とされる自国の国民に関する措置を採用し、又はこれを採用するにあたつて他の国と協力する義務を有する。

第二条

この条約において「公海の生物資源の保存」とは、食糧その他の海産物の最大限の供給を確保するようにこの生物資源の最適の持続的生産を可能にする措置の総体をいう。保存の計画は、人間の消費のための食糧の供給を第一に確保する目的で作成される。

第三条

他の国の国民が漁業に従事していない公海のいずれかの水域において自国の国民が一又は二以上の種類の魚族その他の海洋生物資源の漁業に従事している国は、影響を受ける生物資源の保存のために必要なときは、その水域において自国の国民に対して措置をとる。

第四条

二以上の国の国民が公海の一又は二以上の水域において一又は二以上の同一の種類の魚族その他の海洋生物資源の漁業に従事している場合には、これらの国は、そのいずれかの国の要請により、影響を受ける生物資源の保存のために必要な措置をそれらの国民に対して合意によつて定める目的で交渉を行なう。

関係国が十二箇月以内に合意に達しない場合には、いずれの当事国も、第九条に定める手続を開始することができる。

第五条

第三条及び第四条に規定する措置が執られた後に他の国の国民が公海のいずれかの水域において一又は二以上の同一の種類の魚族その他の海洋生物資源の漁業に従事する場合には、その国は、その措置が国際連合食糧農業機構事務局長に通告された日から七箇月以内にその措置を自国の国民に適用する。その措置は、形式上も、また、事実上も、差別的なものであつてはならない。同事務局長は、その措置の通告を要請するいずれの国に対しても、また、いかなる場合にもその措置を最初に執つた国が指定するいずれの国に対しても、その措置を通告する。

前記の他の国がこのようにして執られた措置を受諾せず、かつ、十二箇月以内に合意に達することができない場合には、いずれの関係当事国も、第九条に定める手続を開始することができる。執られた措置は、第十条2の規定に従うことを条件として、特別委員会の決定が行なわれるまで引き続き義務的なものとする。

第六条

沿岸国は、自国の領海に隣接する公海のいずれかの水域における生物資源の生産性の維持に特別の利害関係を有する。

沿岸国は、自国の国民が前記の水域で漁業を行なつていない場合にも、その水域における公海生物資源の保存を目的とする調査及び規制のいかなる制度にも平等の立場で参加する権利を有する。

自国の国民が沿岸国の領海に隣接する公海のいずれかの水域において漁業に従事している国は、当該沿岸国の要請があるときは、当該水域における公海生物資源の保存に必要な措置を合意によつて定めるため交渉を行なう。

自国の国民が沿岸国の領海に隣接する公海のいずれかの水域において漁業に従事している国は、当該沿岸国が採用している保存措置と対立する保存措置を当該水域において実施してはならない。もつとも、それらの国は、当該水域における公海生物資源の保存に必要な措置を合意によつて定めるため当該沿岸国と交渉を行なうことができる。

関係国が保存措置について十二箇月以内に合意に達しない場合には、いずれの当事国も、第九条に定める手続を開始することができる。

第七条

前条1の規定にかんがみ、いずれの沿岸国も、他の関係国との間の交渉が六箇月以内に合意に達しないときは、海洋生物資源の生産性を維持するため、自国の領海に隣接する公海のいずれかの水域におけるいずれかの魚族その他の海洋資源に適した保存措置を一方的に執ることができる。

沿岸国が1の規定に基づいて執る措置は、次の要件を満たしている場合に限り、他の国についても効力を有する。

(a) 漁業に関する現存の知識に照らして保存措置を緊急に適用する必要があること。

(b) 執られた措置が適切な科学的調査研究の結果に基づいていること。

(c) このような措置が形式上もまた事実上も外国の漁民に不利となるような差別をしないこと。

前記の措置は、その効力に関する意見の相異がこの条約の関係規定に従つて解決されるまで、引き続き効力を有する。

前記の措置を他の関係国が受諾しない場合には、いずれの当事国も、第九条に定める手続を開始することができる。執られた措置は、第十条2の規定に従うことを条件として、特別委員会の決定が行なわれるまで引き続き義務的なものとする。

異なる国の沿岸が含まれる場合には、領海及び接続水域に関する条約第十二条に定める地理的境界設定の原則が採用される。

第八条

いずれの国も、自国の沿岸に隣接していない公海の水域において自国の国民が漁業に従事していない場合においてもその水域における公海の生物資源の保存に特別の利害関係を有するときは、その水域において国民が漁業に従事している国に対し、それぞれ第三条及び第四条の規定に基づいて必要な保存措置を執るよう要請することができ、同時に、そのような措置を必要とすると考える科学的理由を述べ、かつ、自国の特別の利害関係を示すものとする。

十二箇月以内に合意に達しない場合には、前記の国は、第九条に定める手続を開始することができる。

第九条

第四条、第五条、第六条、第七条及び第八条の規定に基づいて国の間に生ずる紛争は、当事国が国際連合憲章第三十三条に定める他の平和的解決方法による解決を求めることに同意しない限り、いずれかの当事国の要請により、五人の委員から成る特別委員会に解決のため付託される。

前記の委員は、この条の規定に従つて解決の要請があつた時から三箇月以内に、紛争当事国間の合意によつて指名され、そのうちの一人が委員長に指定される。合意に達しない場合には、委員は、いずれかの当事国の要請に基づき、国際連合事務総長が、その後の三箇月の期間内に、紛争当事国、国際司法裁判所長及び国際連合食糧農業機構事務局長と協議の上、紛争当事国以外の国の国民であつて解決すべき紛争の性質に従い漁業に関する法律上、行政上又は科学上の問題を専門とする十分な資格を有するもののうちから指名する。最初の任命の後に生ずる空席は、最初の選任について定める方法と同じ方法で補充される。

この条約の規定に基づく手続の当事国は、自国の国民の一人を特別委員会に対して指名する権利を有するものとし、その者は、特別委員会の委員と同等の立場でこの手続に完全に参加する権利を有するが、投票権又は委員会の決定の作成に参加する権利を有しない。

特別委員会は、委員会自体の手続規則を定めて、この手続の各当事国が聴取を受け及び、事件を提起する十分な機会を確保する。同委員会は、また、この問題について当事国が合意に達しない場合における紛争当事国間の費用の分担方法を決定する。

特別委員会は、その設立の時から五箇月の期間内に決定を行なう。ただし、必要な場合にこの期限を三箇月をこえない期間延長することを決定するときは、この限りでない。

特別委員会は、その決定を行なうに際し、この条約の規定及び紛争の解決に関する紛争当事国間の特別の合意に従う。

特別委員会の決定は、多数決による。

第十条

特別委員会は、第七条の規定に基づいて生ずる紛争については、同条2に掲げる基準を適用する。第四条、第五条、第六条及び第八条の規定に基づいて生ずる紛争については、同委員会は、紛争に係る問題に従つて次の基準を適用する。

(a) 次の要件は、第四条、第五条及び第六条の規定に基づいて生ずる紛争の決定に共通するものである。

(i) 科学的調査研究の結果が保存措置の必要性を証明していること。

(ii) 個個の措置が科学的調査研究の結果に基づくものであり、かつ、実施可能なものであること。

(iii) その措置が形式上もまた事実上も他の国の漁民に不利となるような差別をしないこと。

(b) 第八条の規定に基づいて生ずる紛争の決定には、科学的調査研究の結果が保存措置の必要性を証明しており、又は保存の計画が妥当なものであるという要件が適用される。

特別委員会は、決定を行なうまでの間、紛争の対象となつている措置を適用してはならないことを決定することができる。ただし、第七条の規定に基づいて生ずる紛争の場合には、その措置は、それを緊急に適用する必要性がないことが特別委員会にとつて一見して明白であるときにのみ、停止される。

第十一条

特別委員会の決定は、関係国を拘束するものとし、その決定には、国際連合憲章第九十四条2の規定が適用される。この決定に勧告が附されていない場合には、その勧告に対して可能な最大限の考慮を払うものとする。

第十二条

特別委員会の裁定の事実的基礎が一若しくは二以上の種類の魚族その他の海洋生物資源の状態又は漁獲方法の実質的な変化によつて変更されるときは、いずれの関係国も、他の国に対し、保存措置の必要な修正を合意によつて行なうための交渉を行なうよう要請することができる。

妥当な期間内に合意に達しない湯合には、いずれの関係国も、最初の裁定の時から少なくとも二年を経過していることを条件として、第九条に定める手続に再び訴えることができる。

第十三条

いずれかの国の領海に隣接する公海の水域の海底下に埋設された設備により行なわれる漁業に関する規制は、そのような漁業をその国民が長期にわたつて引き続き維持しかつ行なつている国が行なうことができる。ただし、そのような漁業を前記の国民が長期間の慣行によつて排他的に行なつてきた水域を除くほか、その国の国民でない者も、その国民と同等の立場でその活動に参加することを認められる。前記の規制は、当該水域の公海としての一般的地位に影響を及ぼすものではない。

この条において「海底下に埋設された設備により行なわれる漁業」とは、ささえとなる部分が海底下に埋設され、一箇所に設定され、かつ、永続的に運用されるようにそこに残置されており、又は除去されるとしても毎漁期同じ場所に再設される漁具を使用する漁業をいう。

第十四条

第一条、第三条、第四条、第五条、第六条及び第八条において「国民」とは、大きさのいかんを問わず当該国の法令に従つて同国の国籍を有する漁業用の船舶又は舟艇をいうものとし、その乗組員の国籍のいかんを問わない。

第十五条

この条約は、国際連合及びそのいずれかの専門機関の加盟国並びにその他の国でこの条約の当事国となるように国際連合の総会が招請したものによる署名のため千九百五十八年十月三十一日まで開放しておく。

第十六条

この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託するものとする。

第十七条

この条約は、第十五条に規定するいずれかの種類に属する国の加入のため、開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託するものとする。

第十八条

この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。

この条約は、二十二番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する国については、その国がその批准書又は加入書を寄託した後三十日目の日に効力を生ずる。

第十九条

いずれの国も、署名、批准若しくは加入の時に、第六条、第七条、第九条、第十条、第十一条及び第十二条の規定を除くこの条約の規定について留保を行なうことができる。

1の規定に従つて留保を行なういずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた通告を行なうことにより、いつでも当該留保を撤回することができる。

第二十条

この条約が効力を生じた日から五年の期間を経過した後は、いずれの締約国も、国際連合事務総長にあてた書面による通告により、いつでもこの条約の改正のための要請を行なうことができる。

国際連合の総会は、1の要請に関連して執るべき措置がある場合には、その措置について決定を行なうものとする。

第二十一条

国際連合事務総長は、国際連合のすべての加盟国その他第十五条に規定する国に次の事項を通報する。

(a) 第十五条、第十六条及び第十七条の規定に従つて行なわれるこの条約の署名及び批准書又は加入書の寄託

(b) 第十八条の規定に従つてこの条約が効力を生ずる日

(c) 第二十条の規定に従つて行なわれる改正の要請

(d) 第十九条の規定に従つて行なわれるこの条約に対する留保

第二十二条

この条約は、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語の本文をひとしく正文とし、その原本は、国際連合事務総長に寄託するものとし、同事務総長は、第十五条に規定するすべての国にその認証謄本を送付する。

以上の証拠として、下名の全権委員は、このためそれぞれの政府から正当に委任を受け、この条約に署名した。

千九百五十八年四月二十九日にジュネーヴで作成した。