[文書名] 条約法に関するウィーン条約(条約法条約)
昭和四十四年五月二十三日 ウィーンで作成
昭和五十五年一月二十七日 効力発生
昭和五十六年五月二十九日 国会承認
昭和五十六年六月二十六日 加入についての閣議決定
昭和五十六年七月二日 加入書寄託
昭和五十六年七月二十日 公布及び告示
(条約第一六号及び外務省告示第二八二号)
昭和五十六年八月一日 我が国について効力発生
条約法に関するウィーン条約
この条約の当事国は、
国際関係の歴史における条約の基本的な役割を考慮し、
条約が、国際法の法源として、また、国(憲法体制及び社会体制のいかんを問わない。)の間の平和的協力を発展させるための手段として、引き続き重要性を増しつつあることを認め、
自由意思による同意の原則及び信義誠実の原則並びに「合意は守られなければならない」との規則が普遍的に認められていることに留意し、
条約に係る紛争が、他の国際紛争の場合におけると同様に、平和的手段により、かつ、正義の原則及び国際法の諸原則に従つて解決されなければならないことを確認し、
国際連合加盟国の国民が、正義と条約から生ずる義務の尊重とを維持するために必要な条件の確立を決意したことを想起し、
人民の同権及び自決の原則、すべての国の主権平等及び独立の原則、国内問題への不干渉の原則、武力による威嚇又は武力の行使の禁止の原則、すべての者の人権及び基本的自由の普遍的な尊重及び遵守の原則等国際連合憲章に規定する国際法の諸原則を考慮し、
この条約において条約法の法典化及び漸進的発達が図られたことにより、国際連合憲章に定める国際連合の目的、すなわち、国際の平和及び安全の維持、諸国間の友好関係の発展並びに国際協力の達成が推進されることを確信し、
この条約により規律されない問題については、引き続き国際慣習法の諸規則により規律されることを確認して、
次のとおり協定した。
第一部 序
第一条 この条約の適用範囲
この条約は、国の間の条約について適用する。
第二条 用語
1 この条約の適用上、
(a) 「条約」とは、国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう。
(b) 「批准」、「受諾」、「承認」及び「加入」とは、それぞれ、そのように呼ばれる国際的な行為をいい、条約に拘束されることについての国の同意は、これらの行為により国際的に確定的なものとされる。
(c) 「全権委任状」とは、国の権限のある当局の発給する文書であつて、条約文の交渉、採択若しくは確定を行うため、条約に拘束されることについての国の同意む表明するため又は条約に関するその他の行為を遂行するために国を代表する一文は二以上の者を指名しているものをいう。
(d) 「留保」とは、国が、条約の特定の規定の自国への適用上その法的効果を排除し又は変更することを意図してへ条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入の際に単独に行う声明(用いられる文言及び名称のいかんを問わない。)をいう。
(e) 「交渉国」とは、条約文の作成及び採択に参加した国をいう。
(f) 「締約国」とは、条約(効力を生じているかいないかを問わない。)に拘束されることに同意した国をいう。
(g) 「当事国」とは、条約に拘束されることに同意し、かつ、自国について条約の効力が生じている国をいう。
(h) 「第三国」とは、条約の当事国でない国をいう。
(i) 「国際機関」とは、政府間機関をいう。
2 この条約における用語につき規定する1の規定は、いずれの国の国内法におけるこれらの用語の用法及び意味にも影響を及ぼすものではない。
第三条 この条約の適用範囲外の国際的な合意
この条約が国と国以外の国際法上の主体との間において又は国以外の国際法上の主体の間において締結される国際的な合意及び文書の形式によらない国際的な合意については適用されないということは、次の事項に影響を及ぼすものではない。
(a) これらの合意の法的効力
(b) この条約に規定されている規則のうちこの条約との関係を離れ国際法に基づきこれらの合意を規律するような規則のこれらの合意についての適用
(c) 国及び国以外の国際法上の主体が当事者となつている国際的な合意により規律されている国の間の関係へのこの条約の適用
第四条 この条約の不遡及{遡にソとルビ}
この条約は、自国についてこの条約の効力が生じている国によりその効力発生の後に締結される条約についてのみ適用する。ただし、この条約に規定されている規則のうちこの条約との関係を離れ国際法に基づき条約を規律するような規則のいかなる条約についての適用も妨げるものではない。
第五条 国際機関を設立する条約及び国際機関内において採択される条約
この条約は、国際機関の設立文書である条約及び国際機関内において採択される条約について適用する。ただし、当該国際機関の関係規則の適用を妨げるものではない。
第二部 条約の締結及び効力発生
第一節 条約の締結
第六条 国の条約締結能力
いずれの国も、条約を締結する能力を有する。
第七条 全権委任状
1 いずれの者も、次の場合には、条約文の採択若しくは確定又は条約に拘束されることについての国の同意の表明の目的のために国を代表するものと認められる。
(a) 当該者から適切な全権委任状の提示がある場合
(b) 当該者につきこの1に規定する目的のために国を代表するものと認めかつ全権委任状の提示を要求しないことを関係国が意図していたことが関係国の慣行又はその他の状況から明らかである場合
2 次の者は、職務の性質により、全権委任状の提示を要求されることなく、自国を代表するものと認められる。
(a) 条約の締結に関するあらゆる行為について、元首、政府の長及び外務大臣
(b) 派遣国と接受国との間の条約の条約文の採択については、外交使節団の長
(c) 国際会議又は国際機関若しくはその内部機関における条約文の採択については、当該国際会議又は国際機関若しくはその内部機関に対し国の派遣した代表者
第八条 権限が与えられることなく行われた行為の追認
条約の締結に関する行為について国を代表する権限を有するとは前条の規定により認められない者の行つたこれらの行為は、当該国の追認がない限り、法的効果を伴わない。
第九条 条約文の採択
1 条約文は、2の場合を除くほか、その作成に参加したすべての国の同意により採択される。
2 国際会議においては、条約文は、出席しかつ投票する国の三分の二以上の多数による議決で採択される。ただし、出席しかつ投票する国が三分の二以上の多数による議決で異なる規則を適用することを決定した場合は、この限りでない。
第十条 条約文の確定
条約文は、次のいずれかの方法により真正かつ最終的なものとされる。
(a) 条約文に定められている手続又は条約文の作成に参加した国が合意する手続
(b) (a)の手続がない場合には、条約文の作成に参加した国の代表者による条約文又は条約文を含む会議の最終議定書への署名、追認を要する署名又は仮署名
第十一条 条約に拘束されることについての同意の表明の方法
条約に拘束されることについての国の同意は、署名、条約を構成する文書の交換、批准、受諾、承認若しくは加入により又は合意がある場合には他の方法により表明することができる。
第十二条 条約に拘束されることについての同意の署名による表明
1 条約に拘束されることについての国の同意は、次の場合には、国の代表者の署名により表明される。
(a) 署名が同意の表明の効果を有することを条約が定めている場合
(b) 署名が同意の表明の効果を有することを交渉国が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 署名に同意の表明の効果を付与することを国が意図していることが当該国の代表者の全権委任状から明らかであるか又は交渉の過程において表明されたかのいずれかの場合
2 1の規定の適用上、
(a) 条約文への仮署名は、交渉国の合意があると認められる場合には、条約への署名とされる。
(b) 国の代表者による条約への追認を要する署名は、当該国が追認をする場合には、条約への完全な署名とされる。
第十三条 条約に拘束されることについての同意の条約構成文書の交換による表明
国の間で交換される文書により構成されている条約に拘束されることについての国の同意は、次の場合には、当該文書の交換により表明される。
(a) 文書の交換が同意の表明の効果を有することを当該文書が定めている場合
(b) 文書の交換が同意の表明の効果を有することを国の間で合意したことが他の方法により認められる場合
第十四条 条約に拘束されることについての同意の批准、受諾又は承認による表明
1 条約に拘束されることについての国の同意は、次の場合には、批准により表明される。
(a) 同意が批准により表明されることを条約が定めている場合
(b) 批准を要することを交渉国が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 国の代表者が批准を条件として条約に署名した場合
(d) 批准を条件として条約に署名することを国が意図していることが当該国の代表者の全権委任状から明らかであるか又は交渉の過程において表明されたかのいずれかの場合
2 条約に拘束されることについての国の同意は、批准により表明される場合の条件と同様の条件で、受諾又は承認により表明される。
第十五条 条約に拘束されることについての同意の加入による表明
条約に拘束されることについての国の同意は、次の場合には、加入により表明される。
(a) 当該国が加入により同意を表明することができることを条約が定めている場合
(b) 当該国が加入により同意を表明することができることを交渉国が合意したことが他の方法により認められる場合
(c) 当該国が加入により同意を表明することができることをすべての当事国が後に合意した場合
第十六条 批准書、受諾書、承認書又は加入書の交換又は寄託
条約に別段の定めがない限り、批准書、受諾書、承認書又は加入書は、これらについて次のいずれかの行為が行われた時に、条約に拘束されることについての国の同意を確定的なものとする。
(a) 締約国の間における交換
(b) 寄託者への寄託
(c) 合意がある場合には、締約国又は寄託者に対する通告
第十七条
条約の一部に拘束されることについての同意及び様々な規定のうちからの特定の規定の選択
1 条約の一部に拘束されることについての国の同意は、条約が認めている場合又は他の締約国の同意がある場合にのみ、有効とされる。もつとも、第十九条から第二十三条までの規定の適用を妨げるものではない。
2 様々な規定のうちからの特定の規定の選択を認めている条約に拘束されることについての国の同意は、いずれの規定に係るものであるかが明らかにされる場合にのみ、有効とされる。
第十八条 条約の効力発生前に条約の趣旨及び目的を失わせてはならない義務
いずれの国も、次の場合には、それぞれに定める期間、条約の趣旨及び目的を失わせることとなるような行為を行わないようにする義務がある。
(a) 批准、受諾若しくは承認を条件として条約に署名し又は条約を構成する文書を交換した場合には、その署名又は交換の時から条約の当事国とならない意図を明らかにする時までの間
(b) 条約に拘束されることについての同意を表明した場合には、その表明の時から条約が効力を生ずる時までの間。ただし、効力発生が不当に遅延する場合は、この限りでない。
第二節 留保
第十九条 留保の表明
いずれの国も、次の場合を除くほか、条約への署名、条約の批准、受諾若しくは承認又は条約への加入に際し、留保を付することができる。
(a) 条約が当該留保を付することを禁止している場合
(b) 条約が、当該留保を含まない特定の留保のみを付することができる旨を定めている場合
(c) (a)及び(b)の場合以外の場合において、当該留保が条約の趣旨及び目的と両立しないものであるとき。
第二十条 留保の受諾及び留保に対する異議
1 条約が明示的に認めている留保については、条約に別段の定めがない限り、他の締約国による受諾を要しない。
2 すべての当事国の間で条約を全体として適用することが条約に拘束されることについての各当事国の同意の不可欠の条件であることが、交渉国数が限定されていること並びに条約の趣旨及び目的から明らかである場合には、留保については、すべての当事国による受諾を要する。
3 条約が国際機関の設立文書である場合には、留保については、条約に別段の定めがない限り、当該国際機関の権限のある内部機関による受諾を要する。
4 1から3までの場合以外の場合には、条約に別段の定めがない限り、
(a) 留保を付した国は、留保を受諾する他の締約国との間においては、条約がこれらの国の双方について効力を生じているときはその受諾の時に、条約がこれらの国の双方又は一方について効力を生じていないときは双方について効力を生ずる時に、条約の当事国関係に入る。
(b) 留保に対し他の締約国が異議を申し立てることにより、留保を付した国と当該他の締約国との間における条約の効力発生が妨げられることはない。ただし、当該他の締約国が別段の意図を明確に表明する場合は、この限りでない。
(c) 条約に拘束されることについての国の同意を表明する行為で留保を伴うものは、他の締約国の少なくとも一が留保を受諾した時に有効となる。
5 2及び4の規定の適用上、条約に別段の定めがない限り、いずれかの国が、留保の通告を受けた後十二箇月の期間が満了する日又は条約に拘束されることについての同意を表明する日のいずれか遅い日までに、留保に対し異議を申し立てなかつた場合には、留保は、当該国により受諾されたものとみなす。
第二十一条 留保及び留保に対する異議の法的効果
1 第十九条、前条及び第二十三条の規定により他の当事国との関係において成立した留保は、
(a) 留保を付した国に関しては、当該他の当事国との関係において、留保に係る条約の規定を留保の限度において変更する。
(b) 当該他の当事国に関しては、留保を付した国との関係において、留保に係る条約の規定を留保の限度において変更する。
2 1に規定する留保は、留保を付した国以外の条約の当事国相互の間においては、条約の規定を変更しない。
3 留保に対し異議を申し立てた国が自国と留保を付した国との間において条約が効力を生ずることに反対しなかつた場合には、留保に係る規定は、これらの二の国の間において、留保の限度において適用がない。
第二十二条 留保の撤回及び留保に対する異議の撤回
1 留保は、条約に別段の定めがない限り、いつでも撤回することができるものとし、撤回については、留保を受諾した国の同意を要しない。
2 留保に対する異議は、条約に別段の定めがない限り、いつでも撤回することができる。
3 条約に別段の定めがある場合及び別段の合意がある場合を除くほか、
(a) 留保の撤回は、留保を付した国と他の締約国との関係において、当該他の締約国が当該撤回の通告を受領した時に効果を生ずる。
(b) 留保に対する異議の撤回は、留保を付した国が当該撤回の通告を受領した時に効果を生ずる。
第二十三条 留保に関連する手続
1 留保、留保の明示的な受諾及び留保に対する異議は、書面によつて表明しなければならず、また、締約国及び条約の当事国となる資格を有する他の国に通報しなければならない。
2 批准、受諾又は承認を条件として条約に署名するに際して付された留保は、留保を付した国により、条約に拘束されることについての同意を表明する際に、正式に確認されなければならない。この場合には、留保は、その確認の日に付されたものとみなす。
3 留保の確認前に行われた留保の明示的な受諾又は留保に対する異議の申立てについては、確認を要しない。
4 留保の撤回及び留保に対する異議の撤回は、書面によつて行わなければならない。
第三節 条約の効力発生及び暫定的適用
第二十四条 効力発生
1 条約は、条約に定める態様又は交渉国が合意する態様により、条約に定める日又は交渉国が合意する日に効力を生ずる。
2 1の場合以外の場合には、条約は、条約に拘束されることについての同意がすべての交渉国につき確定的なものとされた時に、効力を生ずる。
3 条約に拘束されることについての国の同意が条約の効力発生の後に確定的なものとされる場合には、条約は、条約に別段の定めがない限り、当該国につき、その同意が確定的なものとされた日に効力を生ずる。
4 条約文の確定、条約に拘束されることについての国の同意の確定、条約の効力発生の態様及び日、留保、寄託者の任務その他必然的に条約の効力発生前に生ずる問題について規律する規定は、条約文の採択の時から適用する。
第二十五条 暫定的適用
1 条約又は条約の一部は、次の場合には、条約が効力を生ずるまでの間、暫定的に適用される。
(a) 条約に定めがある場合
(b) 交渉国が他の方法により合意した場合
2 条約又は条約の一部のいずれかの国についての暫定的適用は、条約に別段の定めがある場合及び交渉国による別段の合意がある場合を除くほか、当該いずれかの国が、条約が暫定的に適用されている関係にある他の国に対し、条約の当事国とならない意図を通告した場合には、終了する。
第三部 条約の遵守、適用及び解釈
第一節 条約の遵守
第二十六条 「合意は守られなければならない」
効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。
第二十七条 国内法と条約の遵守
当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。この規則は、第四十六条の規定の適用を妨げるものではない。
第二節 条約の適用
第二十八条 条約の不遡及{遡にソとルビ}
条約は、別段の意図が条約自体から明らかである場合及びこの意図が他の方法によつて確認される場合を除くほか、条約の効力が当事国について生ずる日前に行われた行為、同日前に生じた事実又は同日前に消滅した事態に関し、当該当事国を拘束しない。
第二十九条 条約の適用地域
条約は、別段の意図が条約自体から明らかである場合及びこの意図が他の方法によつて確認される場合を除くほか、各当事国をその領域全体について拘束する。
第三十条 同一の事項に関する相前後する条約の適用
1 国際連合憲章第百三条の規定が適用されることを条件として、同一の事項に関する相前後する条約の当事国の権利及び義務は、2から5までの規定により決定する。
2 条約が前の若しくは後の条約に従うものであること又は前の若しくは後の条約と両立しないものとみなしてはならないことを規定している場合には、当該前の又は後の条約が優先する。
3 条約の当事国のすべてが後の条約の当事国となつている場合において、第五十九条の規定による条約の終了又は運用停止がされていないときは、条約は、後の条約と両立する限度においてのみ、適用する。
4 条約の当事国のすべてが後の条約の当事国となつている場合以外の場合には、
(a) 双方の条約の当事国である国の間においては、3の規則と同一の規則を適用する。
(b) 双方の条約の当事国である国といずれかの条約のみの当事国である国との間においては、これらの国が共に当事国となつている条約が、これらの国の相互の権利及び義務を規律する。
5 4の規定は、第四十一条の規定の適用を妨げるものではなく、また、第六十条の規定による条約の終了又は運用停止の問題及びいずれかの国が条約により他の国に対し負つている義務に反することとなる規定を有する他の条約を締結し又は適用することから生ずる責任の問題に影響を及ぼすものではない。
第三節 条約の解釈
第三十一条 解釈に関する一般的な規則
1 条約は、文脈によりかつその趣旨及び目的に照らして与えられる用語の通常の意味に従い、誠実に解釈するものとする。
2 条約の解釈上、文脈というときは、条約文(前文及び附属書を含む。)のほかに、次のものを含める。
(a) 条約の締結に関連してすべての当事国の間でされた条約の関係合意
(b) 条約の締結に関連して当事国の一又は二以上が作成した文書であつてこれらの当事国以外の当事国が条約の関係文書として認めたもの
3 文脈とともに、次のものを考慮する。
(a) 条約の解釈又は適用につき当事国の間で後にされた合意
(b) 条約の適用につき後に生じた慣行であつて、条約の解釈についての当事国の合意を確立するもの
(c) 当事国の間の関係において適用される国際法の関連規則
4 用語は、当事国がこれに特別の意味を与えることを意図していたと認められる場合には、当該特別の意味を有する。
第三十二条 解釈の補足的な手段
前条の規定の適用により得られた意味を確認するため又は次の場合における意味を決定するため、解釈の補足的な手段、特に条約の準備作業及び条約の締結の際の事情に依拠することができる。
(a) 前条の規定による解釈によつては意味があいまい又は不明確である場合
(b) 前条の規定による解釈により明らかに常識に反した又は不合理な結果がもたらされる場合
第三十三条 二以上の言語により確定がされた条約の解釈
1 条約について二以上の言語により確定がされた場合には、それぞれの言語による条約文がひとしく権威を有する。ただし、相違があるときは特定の言語による条約文によることを条約が定めている場合又はこのことについて当事国が合意する場合は、この限りでない。
2 条約文の確定に係る言語以外の言語による条約文は、条約に定めがある場合又は当事国が合意する場合にのみ、正文とみなされる。
3 条約の用語は、各正文において同一の意味を有すると推定される。
4 1の規定に従い特定の言語による条約文による場合を除くほか、各正文の比較により、第三十一条及び前条の規定を適用しても解消されない意味の相違があることが明らかとなつた場合には、条約の趣旨及び目的を考慮した上、すべての正文について最大の調和が図られる意味を採用する。
第四節 条約と第三国
第三十四条 第三国に関する一般的な規則
条約は、第三国の義務又は権利を当該第三国の同意なしに創設することはない。
第三十五条 第三国の義務について規定している条約
いずれの第三国も、条約の当事国が条約のいずれかの規定により当該第三国に義務を課することを意図しており、かつ、当該第三国が書面により当該義務を明示的に受け入れる場合には、当該規定に係る当該義務を負う。
第三十六条 第三国の権利について規定している条約
1 いずれの第三国も、条約の当事国が条約のいずれかの規定により当該第三国若しくは当該第三国の属する国の集団に対し又はいずれの国に対しても権利を与えることを意図しており、かつ、当該第三国が同意する場合には、当該規定に係る当該権利を取得する。同意しない旨の意思表示がない限り、第三国の同意は、存在するものと推定される。ただし、条約に別段の定めがある場合は、この限りでない。
2 1の規定により権利を行使する国は、当該権利の行使につき、条約に定められている条件又は条約に合致するものとして設定される条件を遵守する。
第三十七条 第三国の義務又は権利についての撤回又は変更
1 第三十五条の規定によりいずれかの第三国が義務を負つている場合には、条約の当事国及び当該第三国の同意があるときに限り、当該義務についての撤回又は変更をすることができる。ただし、条約の当事国及び当該第三国が別段の合意をしたと認められる場合は、この限りでない。
2 前条の規定によりいずれかの第三国が権利を取得している場合において、当該第三国の同意なしに当該権利についての撤回又は変更をすることができないことが意図されていたと認められるときは、条約の当事国は、当該権利についての撤回又は変更をすることができない。
第三十八条 国際慣習となることにより第三国を拘束することとなる条約の規則
第三十四条から前条までの規定のいずれも、条約に規定されている規則が国際法の慣習的規則と認められるものとして第三国を拘束することとなることを妨げるものではない。
第四部 条約の改正及び修正
第三十九条 条約の改正に関する一般的な規則
条約は、当事国の間の合意によつて改正することができる。当該合意については、条約に別段の定めがある場合を除くほか、第二部に定める規則を適用する。
第四十条 多数国間の条約の改正
1 多数国間の条約の改正は、当該条約に別段の定めがない限り、2から5までの規定により規律する。
2 多数国間の条約をすべての当事国の間で改正するための提案は、すべての締約国に通告しなければならない。各締約国は、次のことに参加する権利を有する。
(a) 当該提案に関してとられる措置についての決定
(b) 当該条約を改正する合意の交渉及び締結
3 条約の当事国となる資格を有するいずれの国も、改正がされた条約の当事国となる資格を有する。
4 条約を改正する合意は、既に条約の当事国となつている国であつても当該合意の当事者とならないものについては、拘束しない。これらの国については、第三十条4(b)の規定を適用する。
5 条約を改正する合意が効力を生じた後に条約の当事国となる国は、別段の意図を表明しない限り、
(a) 改正がされた条約の当事国とみなす。
(b) 条約を改正する合意に拘束されていない条約の当事国との関係においては、改正がされていない条約の当事国とみなす。
第四十一条 多数国間の条約を一部の当事国の間においてのみ修正する合意
1 多数国間の条約の二以上の当事国は、次の場合には、条約を当該二以上の当事国の間においてのみ修正する合意を締結することができる。
(a) このような修正を行うことができることを条約が規定している場合
(b) 当該二以上の当事国が行おうとする修正が条約により禁止されておらずかつ次の条件を満たしている場合
(i) 条約に基づく他の当事国による権利の享有又は義務の履行を妨げるものでないこと。
(ii) 逸脱を認めれば条約全体の趣旨及び目的の効果的な実現と両立しないこととなる条約の規定に関するものでないこと。
2 条約を修正する合意を締結する意図を有する当事国は、当該合意を締結する意図及び当該合意による修正を他の当事国に通告する。ただし、1(a)の場合において条約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第五部 条約の無効、終了及び運用停止
第一節 総則
第四十二条 条約の有効性及び条約の効力の存続
1 条約の有効性及び条約に拘束されることについての国の同意の有効性は、この条約の適用によつてのみ否認することができる。
2 条約の終了若しくは廃棄又は条約からの当事国の脱退は、条約又はこの条約の適用によつてのみ行うことができる。条約の運用停止についても、同様とする。
第四十三条 条約との関係を離れ国際法に基づいて課される義務
この条約又は条約の適用によりもたらされる条約の無効、終了若しくは廃棄、条約からの当事国の脱退又は条約の運用停止は、条約に規定されている義務のうち条約との関係を離れても国際法に基づいて課されるような義務についての国の履行の責務に何ら影響を及ぼすものではない。
第四十四条 条約の可分性
1 条約を廃棄し、条約から脱退し又は条約の運用を停止する当事国の権利であつて、条約に定めるもの又は第五十六条の規定に基づくものは、条約全体についてのみ行使することができる。ただし、条約に別段の定めがある場合又は当事国が別段の合意をする場合は、この限りでない。
2 条約の無効若しくは終了、条約からの脱退又は条約の運用停止の根拠としてこの条約において認められるものは、3から5まで及び第六十条に定める場合を除くほか、条約全体についてのみ援用することができる。
3 2に規定する根拠が特定の条項にのみ係るものであり、かつ、次の条件が満たされる場合には、当該根拠は、当該条項についてのみ援用することができる。
(a) 当該条項がその適用上条約の他の部分から分離可能なものであること。
(b) 当該条項の受諾が条約全体に拘束されることについての他の当事国の同意の不可欠の基礎を成すものでなかつたことが、条約自体から明らかであるか又は他の方法によつて確認されるかのいずれかであること。
(c) 条約の他の部分を引き続き履行することとしても不当ではないこと。
4 第四十九条及び第五十条の場合には、詐欺又は買収を根拠として援用する権利を有する国は、条約全体についてこの権利を行使することができるものとし、特定の条項のみについても、3の規定に従うことを条件として、この権利を行使することができる。
5 第五十条から第五十三条までの場合には、条約の分割は、認められない。
第四十五条 条約の無効若しくは終了、条約からの脱退又は条約の運用停止の根拠を援用する権利の喪失
いずれの国も、次条から第五十条までのいずれか、第六十条又は第六十二条の規定に基づき条約を無効にし若しくは終了させ、条約から脱退し又は条約の連用を停止する根拠となるような事実が存在することを了知した上で次のことを行つた場合には、当該根拠を援用することができない。
(a)条約が有効であること、条約が引き続き効力を有すること又は条約が引き続き運用されることについての明示的な同意
(b) 条約の有効性、条約の効力の存続又は条約の運用の継続を黙認したとみなされるような行為
第二節 条約の無効
第四十六条 条約を締結する権能に関する国内法の規定
1 いずれの国も、条約に拘束されることについての同意が条約を締結する権能に関する国内法の規定に違反して表明されたという事実を、当該同意を無効にする根拠として援用することができない。ただし、違反が明白でありかつ基本的な重要性を有する国内法の規則に係るものである場合は、この限りでない。
2 違反は、条約の締結に関し通常の慣行に従いかつ誠実に行動するいずれの国にとつても客観的に明らかであるような場合には、明白であるとされる。
第四十七条 国の同意を表明する権限に対する特別の制限
特定の条約に拘束されることについての国の同意を表明する代表者の権限が特別の制限を付して与えられている場合に代表者が当該制限に従わなかつたという事実は、当該制限が代表者による同意の表明に先立つて他の交渉国に通告されていない限り、代表者によつて表明された同意を無効にする根拠として援用することができない。
第四十八条 錯誤
1 いずれの国も、条約についての錯誤が、条約の締結の時に存在すると自国が考えていた事実又は事態であつて条約に拘束されることについての自国の同意の不可欠の基礎を成していた事実又は事態に係る錯誤である場合には、当該錯誤を条約に拘束されることについての自国の同意を無効にする根拠として援用することができる。
2 1の規定は、国が自らの行為を通じて当該錯誤の発生に寄与した場合又は国が何らかの錯誤の発生の可能性を予見することができる状況に置かれていた場合には、適用しない。
3 条約文の字句のみに係る錯誤は、条約の有効性に影響を及ぼすものではない。このような錯誤については、第七十九条の規定を適用する。
第四十九条 詐欺
いずれの国も、他の交渉国の詐欺行為によつて条約を締結することとなつた場合には、当該詐欺を条約に拘束されることについての自国の同意を無効にする根拠として援用することができる。
第五十条 国の代表者の買収
いずれの国も、条約に拘束されることについての自国の同意が、他の交渉国が直接又は間接に自国の代表者を買収した結果表明されることとなつた場合には、その買収を条約に拘束されることについての自国の同意を無効にする根拠として援用することができる。
第五十一条 国の代表者に対する強制
条約に拘束されることについての国の同意の表明は、当該国の代表者に対する行為又は脅迫による強制の結果行われたものである場合には、いかなる法的効果も有しない。
第五十二条 武力による威嚇又は武力の行使による国に対する強制
国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する武力による威嚇又は武力の行使の結果締結された条約は、無効である。
第五十三条 一般国際法の強行規範に抵触する条約
締結の時に一般国際法の強行規範に抵触する条約は、無効である。この条約の適用上、一般国際法の強行規範とは、いかなる逸脱も許されない規範として、また、後に成立する同一の性質を有する一般国際法の規範によつてのみ変更することのできる規範として、国により構成されている国際社会全体が受け入れ、かつ、認める規範をいう。
第三節 条約の終了及び運用停止
第五十四条 条約又は当事国の同意に基づく条約の終了又は条約からの脱退
条約の終了又は条約からの当事国の脱退は、次のいずれかの場合に行うことができる。
(a) 条約に基づく場合
(b) すべての当事国の同意がある場合。この場合には、いかなる時点においても行うことができる。もつとも、当事国となつていない締約国は、事前に協議を受ける。
第五十五条 多数国間の条約の効力発生に必要な数を下回る数への当事国数の減少
多数国間の条約は、条約に別段の定めがない限り、当事国数が条約の効力発生に必要な数を下回る数に減少したことのみを理由として終了することはない。
第五十六条 終了、廃棄又は脱退に関する規定を含まない条約の廃棄又はこのような条約からの脱退
1 終了に関する規定を含まずかつ廃棄又は脱退について規定していない条約については、次の場合を除くほか、これを廃棄し、又はこれから脱退することができない。
(a) 当事国が廃棄又は脱退の可能性を許容する意図を有していたと認められる場合
(b) 条約の性質上廃棄又は脱退の権利があると考えられる場合
2 当事国は、1の規定に基づき条約を廃棄し又は条約から脱退しようとする場合には、その意図を廃棄又は脱退の十二箇月前までに通告する。
第五十七条 条約又は当事国の同意に基づく条約の運用停止
条約の運用は、次のいずれかの場合に、すべての当事国又は特定の当事国について停止することができる。
(a) 条約に基づく場合
(b) すべての当事国の同意がある場合。この場合には、いかなる時点においても停止することができる。もつとも、当事国となつていない締約国は、事前に協議を受ける。
第五十八条 多数国間の条約の一部の当事国の間のみの合意による条約の運用停止
1 多数国間の条約の二以上の当事国は、次の場合には、条約の運用を一時的にかつ当該二以上の当事国の間においてのみ停止する合意を締結することができる。
(a) このような運用停止を行うことができることを条約が規定している場合
(b) 当該二以上の当事国が行おうとする運用停止が条約により禁止されておらずかつ次の条件を満たしている場合
(i) 条約に基づく他の当事国による権利の享有又は義務の履行を妨げるものでないこと。
(ii) 条約の趣旨及び目的に反することとなるものでないこと。
2 条約の運用を停止する合意を締結する意図を有する当事国は、当該合意を締結する意図及びその運用を停止することとしている条約の規定を他の当事国に通告する。ただし、1(a)の場合において条約に別段の定めがあるときは、この限りでない。
第五十九条 後の条約の締結による条約の終了又は運用停止
1 条約は、すべての当事国が同一の事項に関し後の条約を締結する場合において次のいずれかの条件が満たされるときは、終了したものとみなす。
(a) 当事国が当該事項を後の条約によつて規律することを意図していたことが後の条約自体から明らかであるか又は他の方法によつて確認されるかのいずれかであること。
(b) 条約と後の条約とが著しく相いれないものであるためこれらの条約を同時に適用することができないこと。
2 当事国が条約の運用を停止することのみを意図していたことが後の条約自体から明らかである場合又は他の方法によつて確認される場合には、条約は、運用を停止されるにとどまるものとみなす。
第六十条 条約違反の結果としての条約の終了又は運用停止
1 二国間の条約につきその一方の当事国による重大な違反があつた場合には、他方の当事国は、当該違反を条約の終了又は条約の全部若しくは一部の運用停止の根拠として援用することができる。
2 多数国間の条約につきその一の当事国による重大な違反があつた場合には、
(a) 他の当事国は、一致して合意することにより、次の関係において、条約の全部若しくは一部の運用を停止し又は条約を終了させることができる。
(i) 他の当事国と違反を行つた国との間の関係
(ii) すべての当事国の間の関係
(b) 違反により特に影響を受けた当事国は、自国と当該違反を行つた国との間の関係において、当該違反を条約の全部又は一部の運用停止の根拠として援用することができる。
(c) 条約の性質上、一の当事国による重大な違反が条約に基づく義務の履行の継続についてのすべての当事国の立場を根本的に変更するものであるときは、当該違反を行つた国以外の当事国は、当該違反を自国につき条約の全部又は一部の運用を停止する根拠として援用することができる。
3 この条の規定の適用上、重大な条約違反とは、次のものをいう。
(a) 条約の否定であつてこの条約により認められないもの
(b) 条約の趣旨及び目的の実現に不可欠な規定についての違反
4 1から3までの規程は、条約違反があつた場合に適用される当該条約の規定に影響を及ぼすものではない。
5 1から3までの規定は、人道的性格を有する条約に定める身体の保護に関する規定、特にこのような条約により保護される者に対する報復(形式のいかんを問わない。)を禁止する規定については、適用しない。
第六十一条 後発的履行不能
1 条約の実施に不可欠である対象が永久的に消滅し又は破壊された結果条約が履行不能となつた場合には、当事国は、当該履行不能を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができる。履行不能は、一時的なものである場合には、条約の運用停止の根拠としてのみ援用することができる。
2 当事国は、条約に基づく義務についての自国の違反又は他の当事国に対し負つている他の国際的な義務についての自国の違反の結果条約が履行不能となつた場合には、当該履行不能を条約の終了、条約からの脱退又は条約の運用停止の根拠として援用することができない。
第六十二条 事情の根本的な変化
1 条約の締結の時に存在していた事情につき生じた根本的な変化が当事国の予見しなかつたものである場合には、次の条件が満たされない限り、当該変化を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができない。
(a) 当該事情の存在が条約に拘束されることについての当事国の同意の不可欠の基礎を成していたこと。
(b) 当該変化が、条約に基づき引き続き履行しなければならない義務の範囲を根本的に変更する効果を有するものであること。
2 事情の根本的な変化は、次の場合には、条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができない。
(a) 条約が境界を確定している場合
(b) 事情の根本的な変化が、これを援用する当事国による条約に基づく義務についての違反又は他の当事国に対し負つている他の国際的な義務についての違反の結果生じたものである場合
3 当事国は、1及び2の規定に基づき事情の根本的な変化を条約の終了又は条約からの脱退の根拠として援用することができる場合には、当該変化を条約の運用停止の根拠としても援用することができる。
第六十三条 外交関係又は領事関係の断絶
条約の当事国の間の外交関係又は領事関係の断絶は、当事国の間に当該条約に基づき確立されている法的関係に影響を及ぼすものではない。ただし、外交関係又は領事関係の存在が当該の適用に不可欠である場合は、この限りでない。
第六十四条 一般国際法の新たな強行規範の成立
一般国際法の新たな強行規範が成立した場合には、当該強行規範に抵触する既存の条約は、効力を失い、終了する。
第四節 手続
第六十五条 条約の無効若しくは終了、条約からの脱退又は条約の運用停止に関してとられる手続
1 条約の当事国は、この条約に基づき、条約に拘束されることについての自国の同意のか瑕疵{カシとルビ}を援用する場合又は条約の有効性の否認、条約の終了、条約からの脱退若しくは条約の運用停止の根拠を援用する場合には、自国の主張を他の当事国に通告しなければならない。通告においては、条約についてとろうとする措置及びその理由を示す。
2 一定の期間(特に緊急を要する場合を除くほか、通告の受領の後三箇月を下る期間であつてはならない。)の満了の時までに他のいずれの当事国も異議を申し立てなかつた場合には、通告を行つた当事国は、とろうとする措置を第六十七条に定めるところにより実施に移すことができる。
3 他のいずれかの当事国が異議を申し立てた場合には、通告を行つた当事国及び当該他のいずれかの当事国は、国際連合憲章第三十三条に定める手段により解決を求める。
4 1から3までの規定は、紛争の解決に関し当事国の間において効力を有するいかなる条項に基づく当事国の権利又は義務にも影響を及ぼすものではない。
5 第四十五条の規定が適用される場合を除くほか、1の通告を行つていないいずれの国も、他の当事国からの条約の履行の要求又は条約についての違反の主張に対する回答として、1の通告を行うことを妨げられない。
第六十六条 司法的解決、仲裁及び調停の手続
前条3の規定が適用された場合において、異議が申し立てられた日の後十二箇月以内に何らの解決も得られなかつたときは、次の手続に従う。
(a) 第五十三条又は第六十四条の規定の適用又は解釈に関する紛争の当事者のいずれも、国際司法裁判所に対し、その決定を求めるため書面の請求により紛争を付託することができる。ただし、紛争の当事者が紛争を仲裁に付することについて合意する場合は、この限りでない。
(b) この部の他の規定の適用又は解釈に関する紛争の当事者のいずれも、国際連合事務総長に対し要請を行うことにより、附属書に定める手続を開始させることができる。
第六十七条
条約の無効を宣言し、条約を終了させ、条約から脱退させ又は条約の運用を停止させる文書
1 第六十五条1の通告は、書面によつて行わなければならない。
2 条約の規定又は第六十五条2若しくは3の規定に基づく条約の無効の宣言、条約の終了、条約からの脱退又は条約の運用停止は、他の当事国に文書を伝達することにより実施に移される。文書に元首、政府の長文は外務大臣の署名がない場合には、文書を伝達する国の代表者は、全権委任状の提示を要求されることがある。
第六十八条 第六十五条及び前条に規定する通告及び文書の撤回
第六十五条及び前条に規定する通告又は文書は、効果を生ずる前にいつでも撤回することができる。
第五節 条約の無効、終了又は運用停止の効果
第六十九条 条約の無効の効果
1 この条約によりその有効性が否定された条約は、無効である。無効な条約は、法的効力を有しない。
2 この条約によりその有効性が否定された条約に依拠して既に行為が行われていた場合には、
(a) いずれの当事国も、他の当事国に対し、当該行為が行われなかつたとしたならば存在していたであろう状態を相互の関係においてできる限り確立するよう要求することができる。
(b) 条約が無効であると主張される前に誠実に行われた行為は、条約が無効であることのみを理由として違法とされることはない。
3 第四十九条から第五十二条までの場合には、2の規定は、詐欺、買収又は強制を行つた当事国については、適用しない。
4 多数国間の条約に拘束されることについての特定の国の同意が無効とされた場合には、1から3までに定める規則は、当該特定の国と条約の当事国との関係において適用する。
第七十条 条約の終了の効果
1 条約に別段の定めがある場合及び当事国が別段の合意をする場合を除くほか、条約又はこの条約に基づく条約の終了により、
(a) 当事国は、条約を引き続き履行する義務を免除される。
(b) 条約の終了前に条約の実施によつて生じていた当事国の権利、義務及び法的状態は、影響を受けない。
2 1の規定は、いずれかの国が多数国間の条約を廃棄し又はこれから脱退する場合には、その廃棄又は脱退が効力を生ずる日から、当該いずれかの国と条約の他の各当事国との間において適用する。
第七十一条 一般国際法の強行規範に抵触する条約の無効の効果
1 条約が第五十三条の規定により無効であるとされた場合には、当事国は、次のことを行う。
(a) 一般国際法の強行規範に抵触する規定に依拠して行つた行為によりもたらされた結果をできる限り除去すること。
(b) 当事国の相互の関係を一般国際法の強行規範に適合したものとすること。
2 第六十四条の規定により効力を失い、終了するとされた条約については、その終了により、
(a) 当事国は、条約を引き続き履行する義務を免除される。
(b) 条約の終了前に条約の実施によつて生じていた当事国の権利、義務及び法的状態は、影響を受けない。ただし、これらの権利、義務及び法的状態は、条約の終了後は、一般国際法の新たな強行規範に抵触しない限度においてのみ維持することができる。
第七十二条 条約の運用停止の効果
1 条約に別段の定めがある場合及び当事国が別段の合意をする場合を除くほか、条約又はこの条約に基づく条約の運用停止により、
(a) 運用が停止されている関係にある当事国は、運用停止の間、相互の関係において条約を履行する義務を免除される。
(b) 当事国の間に条約に基づき確立されている法的関係は、(a)の場合を除くほか、いかなる影響も受けない。
2 当事国は、運用停止の間、条約の運用の再開を妨げるおそれのある行為を行わないようにしなければならない。
第六部 雑則
第七十三条 国家承継、国家責任及び敵対行為の発生の場合
この条約は、国家承継、国の国際責任又は国の間の敵対行為の発生により条約に関連して生ずるいかなる問題についても予断を下しているものではない。
第七十四条 外交関係及び領事関係と条約の締結
国の間において外交関係又は領事関係が断絶した場合又はこれらの関係が存在しない場合にも、これらの国の間における条約の締結は、妨げられない。条約を締結すること自体は、外交関係又は領事関係につきいかなる影響も及ぼさない。
第七十五条 侵略を行つた国の場合
この条約は、侵略を行つた国が、当該侵略に関して国際連合憲章に基づいてとられる措置の結果いずれかの条約に関連して負うことのある義務に影響を及ぼすものではない。
第七部 寄託者、通告、訂正及び登録
第七十六条 条約の寄託者
1 交渉国は、条約において又は他の方法により条約の寄託者を指定することができる。寄託者は、国(その数を問わない。)、国際機関又は国際機関の主たる行政官のいずれであるかを問わない。
2 条約の寄託者の任務は、国際的な性質を有するものとし、寄託者は、任務の遂行に当たり公平に行動する義務を負う。特に、この義務は、条約が一部の当事国の間においては効力を生じていないという事実又は寄託者の任務の遂行に関しいずれかの国と寄託者との間に意見の相違があるという事実によつて影響を受けることがあつてはならない。
第七十七条 寄託者の任務
1 寄託者は、条約に別段の定めがある場合及び締約国が別段の合意をする場合を除くほか、特に次の任務を有する。
(a) 条約の原本及び寄託者に引き渡された全権委任状を保管すること。
(b) 条約の原本の認証謄本及び条約の要求する他の言語による条約文を作成し、これらを当事国及び当事国となる資格を有する国に送付すること。
(c) 条約への署名を受け付けること並びに条約に関連する文書、通告及び通報を受領しかつ保管すること。
(d) 条約への署名又は条約に関連する文書、通告若しくは通報が正式な手続によるものであるかないかを検討し、必要な場合には関係国の注意を喚起すること。
(e) 条約に関連する行為、通告及び通報を当事国及び当事国となる資格を有する国に通知すること。
(f) 条約の効力発生に必要な数の署名、批准書、受諾書、承認書又は加入書の受付又は寄託の日を当事国となる資格を有する国に通知すること。
(g) 国際連合事務局に条約を登録すること。
(h) この条約の他の規定に定める任務を遂行すること。
2 寄託者の任務の遂行に関しいずれかの国と寄託者との間に意見の相違がある場合には、寄託者は、この場合の問題につき、署名国及び締約国又は適当なときは関係国際機関の権限のある内部機関の注意を喚起する。
第七十八条 通告及び通報
条約又はこの条約に別段の定めがある場合を除くほか、条約に基づいていずれの国の行う通告又は通報も、
(a) 寄託者がない場合には通告又は通報があてられている国に直接送付し、寄託者がある場合には寄託者に送付する。
(b) 通告又は通報のあてられている国が受領した時又は場合により寄託者が受領した時に行われたものとみなす。
(c) 寄託者に送付される場合には、通告又は通報のあてられている国が前条1(e)の規定による寄託者からの通知を受けた時に当該国によつて受領されたものとみなす。
第七十九条 条約文又は認証謄本における誤りの訂正
1 条約文の確定の後に署名国及び締約国が条約文に誤りがあると一致して認めた場合には、誤りは、これらの国が別段の訂正方法を決定しない限り、次のいずれかの方法によつて訂正する。
(a) 条約文について適当な訂正を行い、正当な権限を有する代表者がこれにつき仮署名すること。
(b) 合意された訂正を記載した文書を作成し又は交換すること。
(c) 訂正済みの条約文全体を原本の作成手続と同一の手続によつて作成すること。
2 寄託者のある条約の場合には、寄託者は、誤り及び誤りを訂正する提案を署名国及び締約国に通告し、かつ、これらの国が提案された訂正に対して異議を申し立てることができる適当な期限を定めるものとし、
(a) 定められた期限内に異議が申し立てられなかつたときは、条約文の訂正を行い、これにつき仮署名するとともに訂正の調書を作成し、その写しを当事国及び当事国となる資格を有する国に送付する。
(b) 定められた期限内に異議が申し立てられたときは、これを署名国及び締約国に通報する。
3 1及び2に定める規則は、条約文が二以上の言語により確定されている場合において、これらの言語による条約文が符合していないことが明らかにされかつ署名国及び締約国がこれらを符合させるよう訂正することを合意するときにも、適用する。
4 訂正された条約文は、署名国及び締約国が別段の決定をしない限り、誤りがあつた条約文に当初から代わる。
5 登録された条約の条約文の訂正は、国際連合事務局に通告する。
6 条約の認証謄本に誤りが発見された場合には、寄託者は、訂正の調書を作成し、その写しを署名国及び締約国に送付する。
第八十条 条約の登録及び公表
1 条約は、効力発生の後、登録又は記録のため及び公表のため国際連合事務局に送付する。
2 寄託者が指定された場合には、寄託者は、1の規定による行為を遂行する権限を与えられたものとする。
第八部 最終規定
第八十一条 署名
この条約は、千九百六十九年十一月三十日まではオーストリア共和国連邦外務省において、その後千九百七十年四月三十日まではニュー・ヨークにある国際連合本部において、国際連合、いずれかの専門機関又は国際原子力機関のすべての加盟国、国際司法裁判所規程の当事国及びこの条約の当事国となるよう国際連合総会が招請したその他の国による署名のために開放しておく。
第八十二条 批准
この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。
第八十三条 加入
この条約は、第八十一条に定める種類のいずれかに属する国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。
第八十四条 効力発生
1 この条約は、三十五番目の批准書又は加入書が寄託された日の後三十日目の日に効力を生ずる。
2 三十五番目の批准書又は加入書が寄託された後にこの条約を批准し又はこれに加入する国については、この条約は、その批准書又は加入書の寄託の後三十日目の日に効力を生ずる。
第八十五条 正文
中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスペイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。
以上の証拠として、王名の全権委員は、それぞれの政府から正当に委任を受けてこの条約に署名した。
千九百六十九年五月二十三日にウィーンで作成した。
附属書
1 国際連合事務総長は、優秀な法律専門家から成る調停人の名簿を作成し、これを保管する。このため、国際連合のすべての加盟国及びこの条約の当事国は、二人の調停人を指名するよう要請されるものとし、指名された者の氏名が名簿に記載される。調停人の任期は、五年とし、更新することができる。臨時の空席を補充するために指名される調停人の任期についても、同様とする。2の規定によりいずれか特定の任務を遂行するために選定された調停人は、任期の満了後も引き続き当該任務を遂行する。
2 国際連合事務総長は、第六十六条の規定に基づく要請があつた場合には、次のとおり構成される調停委員会に紛争を付託する。紛争の一方の当事者である一又は二以上の国は、次の者を任命する。
(a) 紛争の一方の当事者であるいずれかの国の国籍を有する一人の調停人(1に規定する名簿から選定されるか選定されないかを問わない。)
(b) 紛争の一方の当事者であるいずれの国の国籍も有しない一人の調停人(1に規定する名簿から選定される。)紛争の他方の当事者である一又は二以上の国は、同様の方法により二人の調停人を任命する。紛争の双方の当事者の選定に係る四人の調停人の任命は、国際連合事務総長が要請を受領した日の後六十日以内に行われる。
四人の調停人は、最後の者が任命された日の後六十日以内に、議長となる五人目の調停人(1に規定する名簿から選定される。)を任命する。
議長又は議長以外の調停人の任命が、それぞれの任命について定められた期間内に行われなかつた場合には、国際連合事務総長が当該期間の満了の後六十日以内に任命を行う。国際連合事務総長は、1に規定する名簿に記載された者又は国際法委員会の委員のうちから議長を任命することができる。任命を行うためのいずれの期間も、紛争の当事者の間の合意によつて延長することができる。
調停人が欠けたときは、当該調停人の任命の場合と同様の方法によつて空席を補充する。
3 調停委員会は、その手続を決定する。調停委員会は、紛争の当事者の同意を得て、条約の当事国に対しその見解を口頭又は書面により調停委員会に提示するよう要請することができる。調停委員会の決定及び勧告は、五人の調停人の過半数による議決で行う。
4 調停委員会は、紛争の友好的な解決を容易にすると考えられる措置について紛争の当事者の注意を喚起することができる。
5 調停委員会は、紛争の友好的な解決を図るため、紛争の当事者からの意見の聴取、紛争の当事者の主張及び異議の審理並びに紛争の当事者に対する提案を行う。
6 調停委員会は、その設置の日から十二箇月以内に報告を行う。報告は、国際連合事務総長に提出し、かつ、紛争の当事者に送付する。事実又は法律問題に関し報告に記載されている結論を含め、報告は、紛争の当事者を拘束するものではなく、また、紛争の友好的な解決を容易にするために当事者の検討に付される勧告としての性質以外のいかなる性質も有しない。
7 国際連合事務総長は、調停委員会に対しその必要とする援助及び便宜を与える。調停委員会の経費は、国際連合が負担する。