データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第2代黒田(明21.4.30〜明22.12.24)
[国会回次] (議会開設前)
[演説者] 黒田清隆内閣總理大臣
[演説種別] 地方長官に対する訓示
[鹿鳴館演説年月日] 1889/2/12

[全文]

 今般憲法發布式を擧行ありて、大日本帝國憲法及之に附隨する諸法令を公布せられたり、謹て惟ふに、明治十四年十月詔を下して二十三年を期し國會を開く旨を宣言せられ、爾來政府は孜々として立憲設備の事を務め、昨年四月樞密院設立の後は直に憲法及諸法令の草案を同院に下され、會議毎に聖上臨御ましまし、深く宸慮を盡し親しく裁定あらせられたり、叡旨の歸する所を要するに、益々國體の本源に基き、祖宗の遺訓に遵ひ、永遠の基業を定めて則を後昆に垂れ、國本を鞏固にして衆庶と福祉を共にするに在り、仍て將來百般の行政は此科條に準據して進路を取り、以て聖上惓々圖治の盛意に副はんことを務むるは、行政の責に當る者の職任にして、宜く日夜黽勉し以て從事すへきなり、帝國議會は明年を以て開設せらるへし、凡そ我臣民たる者誰か公權を優重せられ公議を伸暢せらるヽ聖上無疆の恩徳を欽仰せさらんや、議會開設の時に至り議員の選に當る者は、各忠實の誠を盡して國事に參預し、上下和融の美を成し、以て慈仁の旨に奉答せんこと今より切に望む所なり、若し奔競浮躁徒に紛擾を事とし、議會の體面を損し、自ら其信用を公衆に失ふか如きことあらは、遂に立憲の盛意を曠くするに至らん、地方牧民の責に當る各員意を加へて誘導啓發あらんことを欲するなり、憲法は敢て臣民の一辭を容るヽ所に非るは勿論なり、唯た施政上の意見は人々其所説を異にし、其合同する者相投して團結をなし、所謂政黨なる者の社會に存立するは亦情勢の免れさる所なり、然れとも政府は常に一定の方向を取り、超然として政黨の外に立ち、至公至正の道に居らさる可らす、各員宜く意を此に留め、不偏不黨の心を以て人民に臨み、撫馭宜きを得、以て國家隆盛の治を助けんことを勉むへきなり、政府は從來經費の節減を謀り民力の休養を勉むと雖も、外來の事變常に豫期の外に出て其必需の用に供せさるを得す、去る十八年官制改革以來鋭意に冗員を汰し、繁文を省き浮費を減することに從事するも、更に將來に向て不急の用を節して國力を充實することを務めんとす、抑凡百の事業は進歩と整理と併行して始て結果を收むるは普遍の道理なり、故に進歩の中に整理を顧み順序を逐て運動し、堅忍不拔一意貫徹、功を淺近に求めすして事を永遠に慮り、浮華虚飾の弊を矯め勤儉の風を養成し、且つ民治上務て煩苛の失を除き、政務の機關をして活動せしめんことを期待するなり、以上陳述する所は、今囘國家大典の發布を祝すると共に、將來聖意旨を遵行して國家に盡す所の趣旨を伸明するに外ならす、各員の能く體諒せられんことを冀望す、