データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第5代第2次伊藤(明25.8.8〜29.9.18)
[国会回次](帝国)第4回(通常会)
[演説者] 伊藤博文内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1893/2/15
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、本官は過ぐる十日 鳳詔を下されて而して十三日より本院開會と相成りましたに就いては、當日出席致して大體政府の執る所の所見を陳述致したいと存じて居りましたが、本院に於ても 詔勅を拜誦された以上それそれ手順も盡さるヽことに承りましたに由って、大要歸著した所を以て罷出てヽ陳述致さうと考へるために、今日まで遷延を致したのであります、即ち十日の 詔勅と申しまするものは政府議會に對して下されたるものでありまして、勿論政府は 勅詔を奉することに於きまして、其責務に當ることは當然のことでありますが、議會も亦同時に此 詔勅に對しては、遵奉されざることを得ざるの義務があると存じます、此に至って再開以來の形状を見ますると云ふと、諸君に於ても勅詔を尊敬され然して十分に 勅詔遵奉の意を表せられて居ると云ふことを認めて居りますのであります、故に本大臣は其當然の職務として此 勅詔を遵奉することに於ては、決して懈怠することはならぬのであります、して見ますると議會に對しましては勿論腹心を開いて十分の御協議を遂げる積りであるのであります、既に本院の議決に依って特別委員を組まれまして、此數氏と三囘の協議を致しましたのであります、段々の尋も受けましたのであります、即ち 詔勅を遵奉するに就きましては、本大臣が職務上に於て許さるヽ限りの話を致したのであります、詔勅に於ては即ち國防の急務が掲げられ、又行政の整理の事をも含んでありますが、要するに今日我大日本國の國是と申すものは、維新以來一定して動かざるものであって、此方針を貫くには互に胸襟を披いて和衷を目的として、此大業を翼贊せよとの 御沙汰でありますに依っては、勿論忌憚なく陳辯致したいと存じますけれども、行政各般の事の如きに至っては、其計畫を盡して然して 天皇の裁可を蒙るにあらざれば、如何様な方向に依り如何様な改革を行ふと云ふことは、職守の許さざる所に依って明言し得ざるのであります、然れども此重大な御盛業に對し、且つ又日本の將來に遭遇すべき事業を計って見ますれば、誠に大切なる時と存じますに依って、事情の許す限り我々の職務を盡すことに於ては誓って其責任を完うせんと希望致して居るのであります、勿論議會再開以前の事情に遡って、區々たることを論ずるの必要はないと存じます、此 聖詔を拜するに就きましては、此 聖詔の趣旨に基いて政府も議會も其職務を執らなければならぬことヽ信じまする、前日は容易ならざる紛爭に立至って、其原因は或は議會多數の見る所と、政府の見る所と異にしたか知れませぬが、是等の事は今日推窮するの要用は無いと信じます、成るべく諸君に於ても 聖詔の御趣意の貫徹するやうに御盡力を願ふのであります、政府は再言も須ちませぬが滿腹の赤心を以て國家に對し、胸襟を披いて諸君に對する積りであります

又此 詔勅を遵奉しまするに就いて、議會多數の意向も局面を一變致して居ると承って居りまするに依って、政府も勿論從來の事に固執することは出來ませぬ、如何となれば國防上今日最も至急を要する軍艦製造の如きに至って非常に 宸襟を悩ませられて遂に御手許より三十万圓の金額を六年間下賜あらせらるヽと云ふことに至り、又官吏の俸給十分一をも差出すやうにと云ふの 御沙汰でありますれば、此金額と申すものを豫算の上に於きましては、必ず歳入の部に組入れ提出せざることを得ませぬのでありますに依って、豫算も修正しなければならぬと云ふことになる、或は政府は豹變して前日の所見を飜ったかと云ふ説もあるかも知れませぬが、それ等の事の言論は仕りませぬ、一意に 聖旨を遵奉して之を貫くの外は無いと存じます、此段を諸君の前に明言を致して置きます