[内閣名] 第5代第2次伊藤(明25.8.8〜29.9.18)
[国会回次](帝国)第8回(通常会)
[演説者] 伊藤博文内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1895/1/8
[貴族院演説年月日]
[全文]
諸君、方今の軍國重大なる關係の大體に就きましては、本期議會開院の勅語に於きまして既に御承知に相成って居ることと存じまするが、昨年七月日清交戰の事起りました以來、既に半歳を經過致して居りまするが、此間に於て軍事の進行に就きましては諸君に於ても御熟知に相成って居る通のことでありまするに依って、特に私より申述べる必要はないと存じます、又外交のことに就きましても大體は既に勅語に現れて居ります、其詳細のことに至っては今國家と重大なる關係を有する譯でありまする、故に諸君の前に未だ之を明瞭に報告を致すの時期に到達致しませぬのであります、併ながら軍事外交共に自ら其時期に達すれば細大遺すなく諸君に御報道を申したいと存じて居りますが、今日此未曾有の時期に際しまして素より國家の上には爲すべきこと多々ありまするが、已むことを得ず今日は事の緩急を計って軍事及外交上の急なるものを以て、先づ專務と致しまして、其他の事は成るべく後日に讓る積であります、故に本日則ち本院に提出致して置きました所の豫算に於きましても、先づ經常費を目的と致しまして、而して已むことを得ざるものを加へましたのみであります、到底事務局に至りますれば前途の計畫も百般あろうと存じまするが、是等は今日戰争の半ばに於て計畫し能ふことでありませぬ、故に必ず軍事のこと終局を告ぐるに至れば諸君と共に將來の計畫を立てヽ往かなければならぬことヽ存じますが、其時期に際して自ら提出することに至るだらうと思ひます、先づ今日の大勢上に於きましては諸君御熟知の通でありまするが、畢竟此國家進運の時期に際して斯の如き形勢に至って居りますると云ふも、素より上 至尊の御威徳に依り、且つ我陸海軍の忠勇なるに因って則ち今日の戰況を呈して居る譯でありまするが、抑々諸君が國民の代表者として此軍國の大猷を當初より翼贊せられましたために外に在っては軍人内を顧るの必要なく、内に在っては人心一和して以て此大敵に當って居ることを得るものと存じます、博文甚だ不肖ながら、至尊の信任を蒙って、自ら揣らず此時期に際して大任を荷ふて居りまするが、努めて 至尊の大命を全うし併せて諸君の希望に背かざらむことを獨り自ら祈って居りまするのであります、且つ又斯の如きの時期に際して上下人心一致の結果に依って其希望を滿たすことの政略を實行するの大任を蒙りまするは、一國の宰臣として實に名譽とする所であります、願くは今日の時期に於ては成るべくどうぞ政府に於きましても唯今述べまする通に經濟上のことなり、或は又法案抔も急を要しませぬものは他日に讓らむと欲しまするに就きましても、諸君に於てもどうか御同感でありまするならば、事を速に結了されむことを偏に希望致します