[内閣名] 第6代第2次松方(明29.9.18〜31.1.12)
[国会回次](帝国)第10回(通常会)
[演説者] 松方正義内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1897/1/19
[貴族院演説年月日]
[全文]
諸君、恐ながら 皇太后陛下俄に御大患に罹らせられまして、只管御恢復を祈りましたが、終に 崩御遊ばされまして、御互に哀痛恐悚の至に存じまする、扨戰後經營の大業と申しまするものも、今や僅に端緒を啓くに過ぎざる次第にて、其大成を期し、著々實效を遂行致しまするは、政府の最も重要なる任務と致す所でござります、我國積年の希望でありました條約改正は殆ど成就致しまして遠からず其完結を見るでございませう、又此新條約の實施に就きましては、政府は特に意を用ひまして、當然收むべきの效果を收むるに就きましては、遺漏のないやうに注意致しまする積でございます、國防に於きましては平和を維持するの要具にして、財政と相待って完全を期しまするために、政府は陸海軍の第一期計畫に引續きまして、第二期の豫算を提出致しました、定て諸君の御協贊を得ますることヽ信じます、實業の發達及運輸交通の伸張は、富國の要道でありまして、吾國近來の進歩は頗る著しきに相違はございませぬが、遺憾ながら未だ列國と比肩竝馳すと申す場合には至りませぬ、就きましては國家の進運に伴って、益々實力發達の完全なるを望まなければなりませぬ 臺灣は先きに帝國の版圖に歸しまして以来未だ何程の歳月も經ませぬでございます、隨って十分の治蹟を舉ぐるには參りませぬが、近時の報知に據りますると、土民も漸々安堵し、惡疫も亦漸々其勢を減じました趣でございます、政府は固より臺灣の鎭撫經營には厚く心を用ゆると同時に、北海道拓殖の事にも其歩武を進めて、共に所期の目的を貫徹せしめん事をば勉めて居るでございます、百般の事業興起するに伴ひまして、之に應ずる人材の需要増加しまするは畢竟自然の道理であります、故に教育の制度を大に擴張致しまして、國家富強の本源たる人材養成の機關を完全ならしむるは、政府の盡すべき急務であると信じます、偖、昨年中は諸君御承知の通、未曾有の海嘯、震災、洪水等引續き、隨って人民の生命財産を亡失傷害致しましたこと夥しき次第でございまして、誠に痛嘆に堪へませぬ次第でございます、それ故國庫よりは已むを得ず豫算外緊急の支出を致しました、又復舊工事に關する追加豫算案、及水害の豫防に必要なる土木、其他の事業に關しまする法律案等を提出して諸君の審議を求むる覺悟であります、以上に述べましたる事項は、孰も財政に影響せざるものはございませぬが故に、歳計豫算には特に諸君の慎重なる考慮を盡されんことを望みますでございます、明治三十年度の歳計豫算に就きまして其要領を一言致せば、歳入歳出共に各總計二億三千九百餘万圓で、之を前年度に比較致しますれば、歳入に於きましては四千九百餘万圓、歳出に於きましては五千六百餘万圓の増加であります、而して其大體に於きましては、前年度に決定致しました財政の計畫を基礎と致しましたものであります、經常歳入の景況は頗る良好にして、各種の收入とも大抵は皆増加の傾向であります、就中所得税、酒税、海關税、森林收入、郵便電信收入、鐵道益金等が最も顯著なるものであります、歳出は前年度に比較致しますれば著しく増加致しましたが、第二期陸海軍の擴張費は勿論、大抵は皆既定の計畫に係るものでありまして、其他は外交事務、教育制度、北海道及臺灣經營事業の擴張等であります、臺灣の歳計に於きましては、本年度より特別會計法設置の方針を取りまして、別に法案を提出致しました、臺灣は漸次自營の域に達せしむるの企望ではありますが、先づ當初若干年間は、其經營に要しまする費用をば一般の歳計より補給しなければなりませぬのは、誠に是も勢の免れざる所でございます、本年度に於きましては、償金を以て特別會計の不足を補充するの法案を立てました、國債の償還に關しまして諸君に御注意すべきものがあります、明治六年の倫敦に於きまして發行致しました所の、七分利附の外國新公債と稱へましたが、是は[[undef12]][[undef12]]三十年度に於きまして、悉皆元利共に償却の筈であります、又明治十年の征討費のために借入れました七分五厘利附の第十五國立銀行より借入れました一千五百万圓も、此年度で悉皆償却の筈でございます、終に臨みまして、聊か昨年の貿易の景況をば開陳致します、暫く諸君の清聽を煩します、昨年度の輸出品は大凡一億一千七百餘万圓でございまして、輸入品は一億七千百餘万圓であります、之を一昨年に比較致しますると、輸出に於きましては一千八百餘万圓減少致しました、輸入に於きましては却て四千二百餘万圓を増加致しました、此輸出の減少は重に生絲製茶の不捌でございます、輸入の増加は棉花、棉絲の如き原料品の多きに由りますけれども、又綿布、縮緬呉絽、砂糖等の如き消費物の増加致しまする多きに由ります、實に此外國貿易の消長と利不利とは、直接に國家の損益盛衰に影響を及しますことは無論でありますが、輸入品中生産上に必要有益なるものヽ増加すると共に、又本邦の生産力を増加致しまして、物産の販路を擴張致しましてから、列國經濟上の競爭場裡に立ち失敗せざるやう期したいものであります、本大臣就任以來日尚ほ淺くございまして、遺憾ながら、本年提出の豫算は、前年度に於きまして決定致しましたる大體に基きまして、事の緩急に依り取捨増減を致したのみでござります、其他必要なる法律案、及追加豫算案等をも提出致しまするが、何卒國家のため諸君の協賛を與へられんことを希望致しますでござります