データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第7代第3次伊藤(明31.1.12〜31.6.30)
[国会回次](帝国)第12回(特別会)
[演説者] 伊藤博文内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1898/5/25
[貴族院演説年月日]
[全文]

諸君、唯今政府より提出致して、諸君の机上に横って居る衆議院議員選舉法改正案のことに就いて、政府の所見を大略諸君の御參考に述べたいと存じますが、其以前に於て、本議會に提出したる重大なる法案の大意を述べて、諸君の協贊を希望致します、前期議會は不幸にして解散せられ、引續いて前の國務大臣は辭職と相成りまして、之がために、今日急要なる國務の上に多少の延滯を來したるは、甚だ吾等が遺憾とする所であります、本大臣等本年一月十二日就職以來、國家の現況に就いて、先づ實務上に關し調査を致しますために、殆ど今日までの時日を費した次第であります、其取調べました大體のことに就きましては、即ち其結果として、必要なる議案を諸君の前に提出致したのであります、且つ亦出しつヽあるのであります、其議案の大なるものは、即ち諸君御承知の通、維新以來上下一致の結合に依って、國是方針と相成って居る所の開國の規模に基いたる條約改正の事業でありますが、此事の將に成就する近日にあらうと考へます、是を實行せらるヽに就きましては、既に數年來修正を加へました法典でありますが、此大部なる法典を此臨時議會に於て決議せらるヽことを希望いたします、此法典にして決議になりませぬければ、今將に成らんとする事業の上に大なる澁滯を來す譯であります、それに續きましては、吾等が國家の財政上に於て取調べた結果として、到底現在の歳入を以て國費を補ふに足らぬ所より、已むことを得ず増税案を提出せざるを得ぬことになりました、いづれ今明日の中に當院に提出して、諸君の協贊を求むる積であります、其案の詳細の節目に至っては、主管大臣より本院の議場或は委員會に於て詳細なる説明に及ぶ積であります、其次は即ち本年度の追加豫算でありますが、是れ亦實務の上を細査致しました結果として已むことを得ず、當年度事業進行の上に必要なるを認めましたために諸君の協贊を求めます、而して唯今本院に出て居ります衆議院議員選舉法の修正案でありますが、唯今所見を陳述することを求められました通、當初憲法が發布せらるヽと共に、衆議院議員選舉法が發布せられたのでございますが、此衆議院議員選舉法を制定せらるヽときに當っては、未だ嘗て經驗のない所であります、故に政府に於ては、深く之に注意を加へて、成るべく憲法上の進行を平穩に運ぶやうにと用心を致して拵へました、故に資格の上に於ては餘程高めてあったのであります、爾來星霜を經て今日となりまして、僅々數年の間ではありますけれども、今の選舉法の規定に依りました所の選舉人の資格では、各種國民の意志を十分に代表するに足らぬと認めました、それ故に選舉權を下げましたのであります、而して此商業工業等の發達するに從って、市の代表者を特に増すの必要あるを認めました、諸君が御熟知の通、憲法の施行せられて居る孰の國に於きましても、凡そ人口上の比例と又選舉權を有する者の數と云ふものは、一定の極りがある譯ではありませぬが、併し稍々近きものが行れて居ります、我國の現今の選舉法に依りますると云ふと、四千二百万人の人口の上に於て選舉權を得て居る者が、四十四五万人内外になって居ります、此度提出したる議案に依ると、凡そ二百万人に上ぼると思ひます、さうすると選舉人即ち所謂參政權を得る者が唯今より五倍以上に相成りますが、是位の増加が先づ當然のことであらうと認めました、而して參政權を得る即ち選舉人の數が増しまして、人民の各種の意志が發表すれば、披選人の上に於ては別段資格を要せぬことヽ認めます、而して成るべく之を日本全國に共通して汎く選舉さるヽやうに相成った方が宜からうと云ふ積であります、是は現在の國状に照して見ましても、唯今の狭小なる区域の上に、此憲法の任務を盡す所の議員の選舉法を固守致すよりは、憲法編制の進行上に於て一層の發達を見て、成るべく國政の上に各種人民の思想の發表さるヽことを希望致す積であります、而して又此現在の選舉法制定の當時の人口と今日と比較して見ますると、餘程人口の數も増して居ります、一面に於て人口の數の増すのと比較しますると云ふと、選舉資格は自ら低減されて居りまするために、次第に縮少する結果を來す譯でありますから、一は議員の數を増し、選舉人の數を増すと云ふ方針を執りました、而して又一方から見ますると云ふと、國勢の結果、自ら人民の負擔を増さざるを得ぬ状勢に趨いて參って居りますに依って、之と相併ふて參政の權を擴張することの必要を認めましたのでございます、此案の詳細なる説明に至りましては、之を起草致させましたる所の主任を出席致させて、諸君の御質問に御答申させる積であります、