[内閣名] 第11代第1次桂(明34.6.2〜39.1.7)
[国会回次](帝国)第17回(通常会)
[演説者] 桂太郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1902/12/13
[貴族院演説年月日]
[全文]
諸君、本大臣は今日諸君と茲に相見ゆるを光榮と存じます、今期の議會に於きましては、諸君の協贊を求めまする重要なる案も、尠なくござりませぬから、今日の機會に於きまして、政府の所信を一言致しまするは、決して無用のことでないと信じます、偖外交上の關係に就きましては、締盟各國との交誼が益々親厚を加へまするのは、允に帝國のために賀すべきことでございます、又日英協約に就きましては、曩きの議會に於きまして、其報告を致しましたが、爾來政府は該協約の精神に基きまして東洋の平和と帝國利權の維持擴張に就きましては、出來るだけ力を盡して、其進路を誤らぬことを努めました、顧ふに此協約に依って收め得べき成果の大小は、實に我國民の努力如何に關するものでござりますから、此際舉國一致、國力の發展に盡瘁するは、最も緊要のことヽ信じます、來年度の豫算は既に勅旨を奉じまして、議會に提出致しましたから、政府經畫の概要は、諸君の最早御承知になって居ることヽ存じまする、政府は宇内の形勢に鑑み、帝國當然の利權を護持するために、海軍力を充實することを必要と認めましたから、其經畫を定めまして、本期議會に提出致しました、抑々國防は平和の保障でござりまして、其充實を期することは、我帝國の國是として、國民の舉って異論のないことヽ信じまする、而して此經畫の實行に就きましては、勿論現在の財源を以て、是に應ずることは出來ませぬ、又公債は之を内に募ると、外に募るとに拘はらず、財政策上、時機を得たものでないと信じます、それ故に他に新たなる財源を求むる必要がある次第でござりまする、彼の地租の増徴は、三十六年を以て滿期となりますから、其時に於きまして之を復舊するのは、固より政府の希望する所でござりますが、國家必要の計畫に對しまして、他に良財源がござりませぬ故に、之を地租に仰ぐことは、最も確實でござりまして、且つ適當なるものと認めましたから、政府は地租を増徴するの方針を採った次第でござります、今や東洋の平和を維持し、國運の開發を期するの時に方りまして、我國民は必ず之を負擔するに躊躇しないことを信じます、又行政財政の整理と云ふことに就きましては、本大臣は就職以來、常に其實行に力めました、昨年の整理の結果に就きましては、既に曩の議會で御話を致しましたが、今春以來も政府は更に孜々として、是に從事致しました、其内容は既に之を公けに致したものもござりまする、又尚調査中に屬するものもありまするが、其大部分は此議會に於きまして、諸君の協贊を求めまする法律案、豫算案等に現はれて居るのでござります、抑々行政財政の整理は、國運の伸長と事物の發達とに適應するものでなくてはなりませぬ、即ち今日の國情に鑑みまするに、專ら消極的の方針を執ると云ふことは、出來ませぬのでござります、今其大體に就いて一言致しますれば、財政の基礎を鞏固にするために、事業の緩急を計りまして、其實行の計畫を確定し、又臺灣特別會計に屬するものヽ外は、前年度と同く公債の募集を避け、彼の從來國庫内の繰替勘定になって居ったものは、公債の賣れました収入で整理致しました、又教育の方針を確立し、交通機関の整理發達を圖り、治水の方針を定め、臺灣北海道經營の完成を期し、清韓兩國に於ける帝國の通商貿易上の利益を護持するの畫策を定めました、其他裁判所構成法に關はる法律を改正し、行政の機關に就きましても、それそれ調査を遂げまして、其改癈分合を行ひ、必要の機關は之を新たに設け、經費の節約し得べきものは、之を節約して、行政の機能を発揮し、其行動を敏活ならしむることを期しました、又地方行政に就きましては、自治の制度を改善し、其成るべく各團體の負擔區分を明かに致しまして、經費の濫増を制することを圖りました、以上は勿論政府經畫の大要を述ぶるに過ぎませぬが、尚議事の進行に從ひまして、主務大臣及本大臣より、詳細に所信を開陳するの機會があらうと信じまする、諸君、幸に以上の趣旨を諒せられまして、公平に審議を盡させられんことを、切に希望致しまする