[内閣名] 第12代第1次西園寺(明39.1.7〜41.7.14)
[国会回次](帝国)第22回(通常会)
[演説者] 西園寺公望内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1906/1/25
[貴族院演説年月日] 1906/1/25
[全文]
諸君、本大臣は曩に大命を恪みて重責を荷ひ、今日茲に親しく諸君に對して、大政に關する所見の梗概を陳述致しまするは、本大臣の深く光榮とするところでございます、顧みれば去ぬる三十七年露國と釁端と啓くに當りまして、軍國の經營、内外の施設、悉く正鵠に適ひ、時局に應ずるの措置に於て遺算なく、戰捷の偉功を奏し、能く國威を發揮することを得ましたのは、上 陛下の御稜威に由り、下將卒の勇烈なるに因るは勿論でございますが、抑々亦我國民が義勇奉公の聖旨を奉體し、朝に野に各其分に從ひ、其職に應じ、忠誠を披瀝し、擧國一致の實を示したるの效果と申さねばならぬのてござります、而して米國大統領の平和を重んじ、進んで忠言を帝國及び露國に致すや我 天皇陛下は深く其好意を諒したまひ、露國と和好の條約を締結したまひ、平和の克復を見るに至りましたのでございます、我國民が此昭代に遭遇して、協力一致振古未曾有の鴻業を贊襄することを得たるのは、本大臣の諸君と共に慶賀に堪へざるところでございます、曩に英國と改締になりました、協約は、能く時運に適し、其效果の著しく東洋平和の保障は之がために愈々確實になったのでございます、向後此保障をして益々牢固ならしめ、以て永遠に其目的を達せねばならぬのでございます、而して韓國に對する帝國の關係も、數次の協約を經まして、益々密接を加へ、能く帝國の地位をして明確にすることを得ましめたのでございます、帝國が交戰に際して、執りたる正義と公平とは、深く列國の同情を得まして、平和克復後、締盟各國との交際は益々親交を加へましたのも、亦大に喜ぶべきことと考へます、我國が戰捷の效果を完全に收め、愈々國運の隆興を期するに於て、舉國一致に力に倚るは、猶軍國の際の切なるに譲らぬと存じます、彼の滿州の經營、韓國の保護は共に帝國の應に努めざるべからざるところでございます、國力の發展は、一日も緩くすることは出來ぬのでございます、即ち内にあっては財政を鞏固にし、陸海軍の充實、及産業の發達を圖らなけらばなりませぬ、又教育の普及と學術の進歩を講ぜねばならぬのであります、從って之に伴ふ諸般の政務も、亦大に改善と進捗を圖らねばならぬのでございます、外にありましては帝國が滿州に於て獲得したる利權の實效を收め、韓國との協約に基き、保護を完うするに於て違算なく指導啓發の道に於て、缺くるところなきを務むるは、共に急要措くべからざることヽ考へます、又清國と益々親睦を敦うし、我帝國の至誠を貫徹せしめ、共に文化の衢に併進するは、齊しく外交の急務でございます、其多戰捷に由りて獲たる光榮と利權とを永く維持し、益々之が伸長を期するに於いて必要なる施措頗る多いのも、亦分明でございます、之を要するに、現今内外の事務は至繁であって而も一つとして緊要ならざるものはないのでございます、即ち政費の増加を來すは必然の勢でございます、我國民は戰次に於ける熱誠を更に發揮し、此の重大なる負擔に任ずるの覺悟がなければ、帝國の光榮を無窮に傳へ、帝國の利權を伸長することは出來ぬのでございます、今や我國民は上下心を一にし、舉國一致以て、戰後經營の大計を樹つべきの秋と存じます、本大臣は此大責任ある樞機に當りまして、實に恐懼措く能はざるのでございます、然れども亦奮って蹇々匪躬の節を竭さんことを竊に期して居ります、諸君も亦國家の此時運に際し戰後經營の大經綸を畫するに於て、協力一致國論の一定に努められんことを、本大臣は、切に希望致します、政府は以上陳述致しました方針に基き、漸次畫策を立てヽ、諸君の協贊を得て、之が實行を期せんと欲するのでございます、而して本議會に提出し、又提出せんとする豫算案及び法律案は、現下の急に應ずるに於て、已むを得ざるものでございます、此諸案の詳細に至りましては、本大臣及當局大臣に於て、随時説明致します、諸君、本大臣は、終りに臨んで諸君が此國家緊要なる時局に際し、能く政府の意のある所を諒せられ、和衷共同、以て協贊の任を竭されんことを希ひます