データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第12代第1次西園寺(明39.1.7〜41.7.14)
[国会回次](帝国)第23回(通常会)
[演説者] 西園寺公望内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1907/1/22
[貴族院演説年月日] 1907/1/22
[全文]

諸君、昨年本大臣が重責を負ひまして、此席に諸君を相見てより將に一年を經ました、本日は茲に再び諸君に向って政府の所見を陳述いたしまするは、本大臣の光榮とするところでございます、惟ふに昨年の議會に於きましては、戰局僅に其終りを告げたばかりで、匆々の際に未だ戰後の經綸を立つるに至らなかったのでございます、爾來政府は孜々として、是が企畫を怠りませぬで、實に大戰争の後を承けまして、經營施設頗る錯綜を極めて居りまするにも拘らず、今や諸般の畫策略略緒に就きまして、茲に其梗概を述ぶることを得まするは、欣喜に堪へぬ次第でございます、蓋し二十二議會に於ける諸君の公正なる審議協贊は、即ち能く政府をして幾多の施措を遂行せしめたる所以でございます、本大臣は實に諸君の盡されたるところに對して、深く感謝するのでございます、帝國と英國との同盟は倍々鞏固に、他の締盟列國との交際も亦益々深厚を加へまするは、本大臣の諸君と共に慶賀する次第でございます、露國との關係も亦平和克復後親善を恢復致しまして、通商條約漁業に關する條約、其他俘虜收容費等の平和條約に基く問題は、兩帝國の政府間に、互に誠意を以て協商を進めつヽあるのでございます、又桑港に於ける學童問題に就きましても、我政府に在っては適當なる措置を執りまして、米國政府に在っても日米條約の規定に顧み、正義人道に依りて大に斡旋するところがあるのでございます、故に必ずや相當の解決を見るであらうと考へます、韓國との交誼は爾來益々密接を加へまして、且つ其指導啓發に關し、統監府の設置以來、著々其效果を見るは悦ぶべき次第でございます、又滿洲に付きましても、帝國は營口の還付と共に軍政の撤廢を了りまして、諸國をして協約に從ふて漸次滿州開放の實行を努めしめつつあるのでございます、政府は租借地に關東都督府を設置し、又南満州鐵道株式會社を創立して、鐵道の經營に當らしむることに致しました、又大連港を開放致しまして、滿州の商業に就いて各國共同の利益を増進せんことを圖りました、而して樺太の經營も亦漸く緒に就いて參ったのでございます、諸君、國力は宇内の進運に伴ひ、是が發展を努めねばならぬのでございます、國運の振張は寸時も之を緩うすることが出來ぬのでございます、是を以て政府は財政の許す範圍に於きまして、教育上諸般の施設を完うせんことを圖りました、又交通機關、河川港灣、其他直接に産業の發達に資する事柄は、努めて改善の方法を講じました、内に在っては産業を振興し、外に向っては貿易を擴張するの方針を執りましたのでございます、明治三十七八年戰役に依りて生じたる軍備の缺損を補充致しました、又利權の振作、竝に保護責務の擴張に伴はねばならぬ、軍備の充費は、急施の必要があるのでございます、又試に現行法律の範圍内に於きまして、陸軍の兵役期間を短縮致しまして、二年現役の制度を取ることの計畫を立てたのでございます、勿論是等は國力と相俟って其完備を期せねばならぬことでござりまするが故に、緩急順序を較量致しまして、漸を逐うて其目的を達する考でございます、現行刑法は明治十三年の制定に係りまして、爾來社會の事物幾多の變遷を來して居ります、其既定の現今の社會の状態に適せぬことも甚だ多いのでございます、今日に於て是が改正を爲すは極めて適切のことヽ考へます、諸君、明治四十年度の豫算は、既に旨を奉じて議會に提出いたしました、其詳細なる事項、竝に既に提出せられ、若くは將來提出せらるべき諸法案に就きましては、本大臣又は主務大臣より随時説明いたすでございます、本大臣は諸君が此複雜なる戰後の劃策に關し、能く政府の意の在る所を明かにせられて、協贊の任を盡され、以て國務の進行を圓滑ならしめ、國家の進運をして益々堅實ならしめんことを切望致します