データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第18代寺内(大5.10.9〜大7.9.29)
[国会回次](帝国)第38回(通常会)
[演説者] 寺内正毅内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1917/1/23
[貴族院演説年月日] 1917/1/23
[全文]

諸君、本大臣は曩に大命を拜しまして、恐懼措く能はざる次第で御坐います、唯時局多艱なるに際しまして、徒らに御辭譲申上ぐるのは匪躬の臣節でないと云ふことを考へまして區々一身を顧みるの遑なく、謹で内閣を組織致した次第で御坐いまして、茲に閣僚と共に當議會に於て諸君に御目に懸りまして、政府所見の梗概を陳べまする機會を得ましたは、最も欣幸とする所で御坐います、大正三年八月中煥發せられましたる宣戰の詔勅は、炳として日星の如きものであります、帝國政府は聯合諸國と共同の目的を以て致誠進止を倶に致しまして、一意專念最善の努力を盡しつヽある次第で御坐います、獨逸の講和提議に對しましては、昨年十二月三十日聯合諸國の名を以て、共同囘答覺書を米國政府に送りまして、其平和促進の眞意から出たものと認むることが出來ないと云ふ次第を陳べて之を拒絶致しました、帝國外交の機軸たる日英同盟と、之に伴ふ所の日露日佛兩協約とは、今囘の共同動作に於て益々其效驗を顯はしました、交戦國以外の締盟列國との交際は愈々敦厚を加へました、中に就きまして支那に對しましては專ら東洋の大局を顧念致しまして、是迄の雲翳を一掃して、信孚相頼り有無掃扶けまして、益々鄰誼を敦くするの道を徹底することに盡瘁しつヽある次第で御坐います、國防は國家自衞の爲であって、一日も忽諸に付することを許しませぬ、常に輿國即ち世界の形勢に鑑みまして、四圍の關係を審かに致しまして、國家の實力に顧みて軍備を充實せねばなりませぬのであります、之が爲には國民的精神を鍛錬し、人生の健康を保育致しまして、帝國一般の元氣を培ひ、産業を振興し、貿易を促進しまして、國家富力の淵源を養ひ、以て有虞の日に備へなければならぬと思ひます、交戰三年に亙りまして未だ干戈の●らざることは{●のへんは口の下に耳、つくりはほこづくり/オサメ}、世界平和の爲に最も遺憾とする所であります、而して此武器の戰爭は早晩終熄するの日がありませうが、之に續きまして經濟の戰爭が來るべきことは、巴里に於きまする聯合各國經濟會議の結果に依りましても、前途の趨勢を逆賭するに難からざる次第で御坐います、而して政府が既に加盟を承認したる以上は聯合國に對しましては至誠信を履み責を重んずると共に、極東平和の禍源を杜絶して、帝國の威信と利益を確保するが爲に、事情の許す限りは戰後に於ける各般の措置を施しまして、既に勃興せる商工業の維持發展を圖り、以て海外貿易の順調を永遠に持續するの道を構ぜねばならなぬと思ひます、髄て政府は財政の按排と金融の調節とに就て籌畫其宜しきを制しまして、之に頼って以て益々産業の發達を促進し、又教育の方法を摯實に致しまして國民の元氣を涵養し、質實勤驗の美風を育成致しまして、實力の増進を圖らむことを基しつヽある次第であります、之を要しまするのに今囘の戰爭は實に前古無比の大戰でありまして、之に參加せる帝國は上下一致、官民共同して善後を策し、國家百年の長計を確立せねばならぬと存じます、政府は大體に於て前内閣が査定編成したるところの大正六年度豫算案に基き、時勢の須要に應じたる改正を加へまして、各般の法律案と共に議會に提出した次第で御坐います、各議案に付きましては随時本大臣又は主務大臣より説明を致しまするが、諸君に於かれましても、幸に時局に鑑みて政府の誠意を諒とせられまして、審議協贊を與へられんことを偏に希望する次第で御座います