データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第19代原(大7.9.29〜大10.11.13)
[国会回次](帝国)第41回(通常会)
[演説者] 原敬内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1919/1/21
[貴族院演説年月日] 1919/1/21
[全文]

諸君、私は先般微力を以ちまして大命を拜し、茲に諸君と相見て卑見を述ぶるは、洵に光榮の次第に存じます、先づ外交上の事に就て一言致したいと思ひますが、日英同盟の益々鞏固なることは、茲に贅言を費すまでもないことであります、其他締盟諸國との交際は益々親厚を加へ、何等列國との間に支障なきことは、私の國家の爲めに衷心より慶賀する所であります、鄰邦露國の如きまだ安定を得ませぬ、仍て今後の施設に待つものの多きことは、私の頗る遺憾とする所でありますが、併し露國東部地方の状態は、聯合與國の力に依りましてチエック、スロバックの救援及獨墺勢力掃蕩の目的も、既に達せられましたに依り、我軍隊は同地方の秩序を維持するに必要だけの數に止めまして、即ち其守備に必要なるだけに止めて、他は召還することに致しました、又支那の如き久しく結んで解けざりし南北の確執も、今や漸く妥協に傾きまして、不日平和會議を開かんとするに至りましたことは、帝國政府は支那の統一を勸告致しました列國と共に、支那國の爲めに其前途を祝福する所であります、之を要するに、帝國政府は列國との協調を努め、露國に對しても、支那に對しても、何等野心を有するものではありませぬ、露國に對しては誠意其秩序の恢復を努めました、支那に對しては、従來屡々聲明致しました如く、門戸開放、機會均等の主義を重んじまして、而して日支の親善の益々其堅實を加へんことを切望するの外に、何等他意無きことであります、歐州大戰爭の結果に至りましては、諸君の御承知の如く、聯合與國の大捷に歸しまして休戰と相成ったのであります、將に講和議會を開きまして、其終熄を見んとするに至りましたが、是は聯合與國と共に、帝國政府の最も滿足を表する所であります、而して此會議には、既に我全權委員を派遣致しまして、目下彼地に到着致した者もあり、目下渡航の者もありますが、帝國政府は正義人道に基きまして、公明正大なる態度を以て、此會議に臨む積りであります、次に内政上に就て卑見を述べんとする次第でありまするが、之を述ぶるに先たちまして、諸君に御報道致したい一事は、先般高等教育機關擴張の計畫あることを聞食されまして、御内帑金一千万圓御下賜の御沙汰を拜したことであります、寔に聖恩の優渥なること、一般國民と共に只々感泣に外はありませぬ、其詳細なる事は何れ法律案及豫算案を提出致しまするから、之に依って御了承を願ふ次第であります、今囘の大戰爭が我國に及ぼしました所の影響の尠からざることは、茲に縷述するまでもなきことで、諸君の熟知せらるヽ所でありますが、而して此戰爭了り、平和克復の後は、國力恢復の爲めに、列國經濟上の競爭も亦激甚であらうと云ふことは、殆ど豫測せらるヽ所であります、仍て政府は糧食問題等を始めと致しまして、目前處分致さなければならぬ所の諸問題を處理することを努めましたる外に、教育、交通、産業、國防充實等の如き、苟も國家將來の發展に必要なる事柄は、現内閣の成立日も淺く、十分の施設は後年に譲るの外無かったのでありまするけれども、出來得る限り之が施設を致したのであります、要するに此一大變遷の時機に際しまして、篤と國家の利害を考慮致し、政治的にも經濟的にも、其處置を誤らざらむことを努むるのであります、終りに臨み私は今日時局の重大なることに鑑みまして、諸君の協贊に期待すること甚だ多いのでありますから、幸に此意を諒せられんことを希望致します