[内閣名] 第19代原(大7.9.29〜大10.11.13)
[国会回次](帝国)第43回(特別会)
[演説者] 原敬内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1920/7/3
[貴族院演説年月日] 1920/7/3
[全文]
諸君、去る二月二十六日を以て衆議院は解散と相成りました、而して五月十日を以て総選舉を終りましたが故に憲法第四十五條の規定に依り、本期議會は召集せられた次第であります、申すまでもなく今期議會は、通常議會と異なりまして短期の議會でありますが故に、政府は急速協賛を得るを以て國家の利益なりと考へる豫算案及法律案を提出するだけに今期は止めたいと思ふのであります、前期議會に提出致しまして兩院を通過するに至らざりしもの、又は提出をする積りでありましたが、其機會を得ざりし案件等につきまして、國防問題を首めと致し、官吏増俸、及現に恩給を受けて居る者の恩給法の改正、或は司法制度の改善、其他國力の發展に資すべき諸案件等は、本期議會に提出して其協賛を求むる積りであります、併ながら目下法制審議會の調査に係るものも澤山あります、又財政經濟調査會、若くは産業調査會に於て審議中のものも亦數多あるのでありまするが、孰れも重大に致しまして、尚ほ十分の審査を要する事項でありまするが故に、是は今日遺憾ながら提出する譯には參りませぬ、又近頃財政經濟調査會に於て著手致して居る所の税制整理、是は國税地方税等を根本的に整理致さうと考へて居るのでありまするが、是も短時日の間に完成すべきものでないと云ふことは、申すまでもない事であります、是等の事は總て他日を待つの巳むを得ざる次第であります、外交に關しましては、日英同盟は目下帝國政府に於て考慮を致して、英國政府と打合中であります、對支問題は日、英、米、佛四國財團の成立に依りまして、豫て問題となって居る所の對支借款問題は、之に依て解決せられましたのは、洵に欣幸に堪へざる事項と存ずるのであります、併ながら對支問題中山東問題は、支那政府に於て未だ我が提議に應ずるに至りませぬが故に、交渉を開始するの運びに參らぬのは甚だ遺憾の次第であります、故に此事は未了に屬して居ります、尼港事件、是は申すまでもなく、極めて悲惨なる出來事であります、故に政府は其惨害せられる所の官民同胞に對して、痛惜に堪へざる所であるのみならず、我が國家の威信の爲めに、事柄を不問に附することの出來ないと云ふことは勿論の次第であります、それ故に政府は、本日公表致したが如き措置を執ることに決したのであります、又西伯利の問題、是は我が數次の聲明に基きまして本日公表致しましたから、諸君御承知の事でありませうが、同地方に於て、其必要を認めざる地點よりは撤兵をする積りであります、以上外交及財政の問題に關しましては、尚ほ當局大臣より詳しく述ぶることヽ存ずるのでありまするから、茲に簡單に其主旨を述ぶるに止めて置くのであります、併ながら此場合一言を添えて置きたい事は、物價問題、即ち物價問題に關する財界の近況でありまするが、之に關しては、前議會に於て屡々説明致したが如く、政府は遽に經濟界の攪亂を來しまして、不景氣を醸すと云ふやうな事は避けたき方針に依り、諸種の計畫を實行致しましたが、それに拘らず近來財界の動揺を見るに至りましたのは、頗る遺憾とする所であります、仍て政府は鋭意是が救濟を講じまして、財界の安定を得るに深甚の注意を今日致して居る次第であります、仍て遠からず其效果を見るであらうと信ずるのであります、今囘提案すべき諸案件につきましては、唯今簡單に其理由を述べました所の趣意を諒せられて、是等に對して協賛を與へられんことを、政府の希望して巳まざる所であります