[内閣名] 第19代原(大7.9.29〜大10.11.13)
[国会回次](帝国)第44回(通常会)
[演説者] 原敬内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1921/1/22
[貴族院演説年月日] 1921/1/22
[全文]
諸君、茲に第四十四議會の開會に際しまして、諸君と相見えて卑見を述ぶるは、私の最も光榮とする所であります、昨年七月開會しましたる議會は、申すまでもなく、特別議會であります、特別議會であるが故に、其性質に顧みまして、緊急差措くべからずと認めたる案件を提出して、諸君の御協贊を得るに止めたのであります、今期議會は之に異りまして、申すまでもなく通常議會のことでありまするから、前議會若くは前々議會に於て、未議了に属しましたる案件、又は當時提出する計畫でありましたけれども、之を果さヾりし案件等に就きまして、今囘是等の中より提出して、諸君の御協贊を求むるのでありますが、それのみならず尚ほ其以外に於きまして、國家の爲めに必要なりと認むる諸案は、無論提出致すのでありますが、尚ほ法制審議會、財政經濟調査會等各種の委員會を設けて、調査中のものもあるのでありますから、其決定したる諸案は、成るべく今期議會に提出致しまして、御協贊を仰ぎたいと考へて居るのであります、今更申すまでもなく、昨年講和成立致し、其講和會議の結果として、世界の平和に貢獻致さなければならぬことに相成つて居るのでありますから、我國の責任は益々重きを加へたのであります、隨て國力を充實致し、國威を伸張するが爲めには、國民一致の努力に待たざるを得ざるもの多いのであります、又國力内に充實致しませぬければ、外に向つて發展することの難きは、何人も議論のない所であります、故に政府は事情の容す限り、又財政の容す限りに於て、左様なる方針に基き、庶政を料理しつヽあると云ふ次第であります、目下外に對しましては、幸に何れの國とも良好なる國際關係を保持して居ります、加州問題の如き、又は間島問題の如き其他多少の問題は無論あるのでありますけれども、加州問題の如きは、日米兩國當局者が、誠意を以て目下協議中でありますから、政府は圓滿まる解決を得ることを今日期待して居る所であります、又間島問題の如き、是は固より一時的の事件に過ぎぬのであります、睾竟琿春に於て我が領事館が燒かれ、我が居留民中殺傷されたる者もありますから、自衞上彼の方面に於ける匪徒を掃蕩するが爲めに、出兵したに外ならぬのでありますから、是等の地方に於ける治安維持の責任は、支那政府に於て保障する次第でありますから、是等の責任は支那政府に一任致して、出兵當初に於て聲明致したる通り、漸次撤兵するの方針でありまして、今や僅に一小部隊を除くの外、既に撤兵を了したるのであります、其他の國際問題は種々ありますが、何れの問題に致しましても、政府は國際的關係の、此上にも益益良好ならむことを欲しまして、何れの地方、何れの案件たるを問はず、常に公正なる態度を以て之に臨むことを期して居るのであります、尚ほ國際上の今日の状態、及財政計畫等に關しましては、當局大臣より陳述する所がある筈でありますから、私は茲に之を詳しく述べることは致さぬのであります、併ながら要するに今日の急務は、内に在りては國力の充實を圖り、國民の幸福を進め、外に對しては圓滿なる關係を保持致しまして、以て平和的に國外に發展することを期さなければならぬ次第でありますから、左様なる方針を以て、政府は諸般の努力を居るのであります、此點に就ては、諸君の十分なる御諒解を希望する次第であります