[内閣名] 第22代第2次山本(大12.9.2〜大13.1.7)
[国会回次](帝国)第47回(臨時会)
[演説者] 山本權兵衞内閣総理大臣
[演説種別] 帝都復興計畫豫算案竝法律案等に就ての演説
[衆議院演説年月日] 1923/12/13
[貴族院演説年月日] 1923/12/13
[全文]
諸君、不肖曩に大命を拝して内閣を組織し、茲に當議場に於きまして、諸君と親しく相見ゆるの機會を得ましたことは、私の最も光榮とする所でござります、諸君私が内閣を組織致しましたのは震災直後、物情尚ほ騒然たるの時でありました、私は此未曾有の時局に當り、責任最も重きを念ひ、區々の微衷敢て此重責を完うせんことを期したのでござります、今次の大震災は火災の猖獗を伴ひ、其被害極めて慘烈でありまして、畏多くも皇族殿下御三方迄も薨去遊ばされましたことは誠に恐懼の至であります、震災に因り骨肉に離れ住家を失ひたる罹災者の數は無慮百萬、死傷者十數萬に達し、在留の外國官民にして難に罹りし者も亦少くなかつたことは痛悼に堪へぬ次第であります、此時に當り畏くも、 天皇陛下には深く軫念あらせられ、曩に内帑の資を下され、特に再度の聖詔に依り、國民の向ふ所を示したまひ、叡慮の深厚なるは誠に感激恐懼に堪へぬ所であります、政府は震災に當りまして、秩序の維持と應急救護とを最先の急務と信じ、戒嚴令の一部を適用し、特に治安維持の爲め罰則の規定を設け、極力流言浮説を防遏し、嚴に非違を戒むると共に、食糧物資の供給、應急住宅の建築、其他臨機の措置を執るに於きまして、政府の爲し得べき最善の努力を盡したのであります、固より其間人心の動揺を來たし、混亂の際多少常軌を逸したるものもありましたけれども、幸に常態に復することを得ましたのは、畢竟御稜威の然らしむ所でありますが、又官民協力一致、應急救護に勉め、此非常時に當り、克く前後の措置を誤らず、且つ我が國民の節制を尚び、義勇奉公の精神を發揚したる結果と信じまして、私は深く喜ぶのであります、殊に世界各國が上下を擧げて我が國民に最も深厚なる同情を表し、慰問救恤に盡されたるは、即ち人道的精神と友誼の發露として、我が國民の永く紀念すべき事柄でありまして、私は本日茲に政府を代表して各國に對する感謝の念を表明するの機會を得ましたことを、甚だ欣幸と致すのであります、我が國民たるものは、友邦の斯かる同情を深く感銘すると共に、國際間の共助共存の眞義を充分會得して、將來益々各國民間の友好關係を進め、世界恒久平和の確立に一層の力を致さねばならぬことヽ考へます、帝都の復興に關しましては、本年九月大詔を拜しまして、爾來帝都復興審議會竝帝都復興院を新設し、東京及横濱兩市の災後に善處すると共に、將來の發展を稽へまして、帝都復興の計畫を定めたのであります、帝都復興の計畫に付きましては、全般の施設を通じて實質を主とし、外觀を從とし、専ら國民の實際生活に適合することを以て其の根幹とし、國力と民度とに顧み、其負擔し得る範圍を限度としたのであります、以上の趣旨を以て帝都復興計畫の規模を定め、健全にして秩序ある都府の建設を速進することを期しまして、茲に必要なる追加豫算案及法律案を今期議會に提出することヽなった次第であります、右の外、今期議會に於きましては、震災關係中特に急を要するものに限り提案し、其他一般の事項に關しましては、次の通常議會に於て所信を陳述し、更に案を提して、諸君の協贊を請ふ積りであります、尚ほ今期議會に於ける政府の提案に對しましては、主務の大臣より説明を致すことヽ致します、諸君願くは政府の意の在る處を諒せられ、國家の要務に對し、愼重審議の上速に協贊を與へられんことを切望致すのであります