データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第23代清浦(大13.1.7〜大13.6.11)
[国会回次](帝国)第48回(通常会)
[演説者] 清浦奎吾内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日]
[貴族院演説年月日] 1924/1/22
[全文]

 諸君、今般不肖揣らずも大命を拜しまして内閣を組織するに付きましては、時局重大なる折柄全力を盡して大政を燮理し、報效の萬一を期せんとするの考であります、茲に諸君と當議場に相見えまして政府所信の大要を披瀝いたすの機會を得ましたことは私の最も光榮と致す所であります、皇太子殿下の御慶典が來る二十六日の吉辰を以て行はせられますに付きましては、先刻本院に於て賀表及び賀牋の御決議のありましたる通り諸君と共に洵に慶賀に堪へぬ次第でございます、皇室の彌が上にも繁榮あらせ給ひますことは洵に此上もない目出度いことでございまして、此機會に於きまして國民一般赤誠を捧げて眞に皇室を尊崇する我國民精神を發揮するに於て餘蘊なきことを希望する次第であります、帝國と締盟各國との親交は近年益々其厚きを加へ殊に昨九月の大震火災に際しましては、共助共存の精神より流露したる列國朝野の帝國に對する同情は我國民の永く銘記して忘るる能はざる所であります、帝國の國是としては常に國際協力の公道に則り、世界の平和と文明の發展とに貢獻せんことを期しつヽあるのであります、政府は今後益々列國との協調に留意し、特に規定の諸盟約の趣旨を尊重保有するに努むると共に、國民輿論の趨向を重んじ、正義と公平との精神に基いて國際間に於ける我國家及び國民の正當なる地歩を安固ならしむることを期するのであります、國防のことに關しましては去秋の震火災に依る缺陥を成るべく速に復舊し、竝に必要なる諸般の施設をなしますことは洵に緊要のことでありますから、政府は財政の許す限り、之に關する適當なる計畫を立てて、以て國防上遺憾ないやうに努める積りであります、國民の智徳を向上せしめ、國家の基礎を鞏固にするは、之を文教の振興に待たなければなりませぬ、殊に國民教育の發展充実を圖りますことは、要務中の要務でありますから、義務教育年限延長に關し財政の許す範圍に於て、相當の計畫を立てる積りであります、歐州大戰以來我國の思想界が依然として動揺を續け、人心今尚動もすれば矯激に走り、浮華に流れんとするもののありますことは、洵に痛嘆の至りでございます、斯の如き時弊を矯正するには固より幾多の施設を必要と致しますが、文教の振興と相俟って、國民精神の作興を図ることは現下の國情に照して急務中の急務であると存じます、嚢に喚發せられたる大詔の御趣旨を奉體いたしまして適當の方法を講じ、鋭意思想の善導に努むると共に、苟も安寧秩序を紊り國憲に反するが如き言動を敢てする者あるに於ては、嚴重に之が取締をなす考であります、今回新たに神祇に關する特別官衙を設置し、神社行政の刷新を圖らむと致しますのも、一に我國體の精華たる敬神尊祖の美徳を奨めて、健全なる民風の作興を期せんとする趣旨に外ならぬのであります、震災に依り被りました經濟上の損失を恢復し國力の充實を圖りますことは、國民精神の振作と相俟つて、刻下最も其切要を認むる所であります、今日に於て帝都の復興は固より急務であります、併ながら之が爲め地方の發展、殊に農村の振興を輕視するが如きことがありましては、國民全般の福利を増進する上に於て遺憾少からざる次第でございます、政府は帝都の復興に付きましては既に決定せられたる計畫を速に實行し、且罹災者に對し、建築竝びに商工業資金の融通を便にし、復興の機運を助長すると同時に、農村に對しても亦是れが振興の一方策として、更に農事行政に關する組織を擴張し、進んで各種産業の發達と貿易の伸展とを期せむとするものであります、尚ほ、廣く官民の衆智衆能を聚めて、調査攻究を盡して經濟の復興を圖るの必要なるを認めまして、是が機關の特設に關しましては、目下それぞれ考慮いたして居る次第でござります、官紀の振肅綱紀の肅正は勿論、行政竝に財政の整理緊縮を圖りますに於ては、現下の事態に鑑みまして殊に其必要を痛感する所であります、従つて政府は眞に其の實績を擧ぐるに付まして、最善の努力を致したいと存じて居ります、衆議院議員選擧權を擴張して更に民意暢達の途を開き、選擧の廓清を圖りますことは、國運の現状に鑑みて最も必要なることと信ずるのでありますから、政府は之に關し研究調査を遂げまして、選擧法の改正案を今期議會に提出致す積りであります、尚ほ近く施行せらるべき衆議院議員の總選擧に付ましては嚴正公平を旨とし、選擧の自由を確保すると共に取締法規を励行して、苟しくも違法の處分あるに於ては嚴に之を處斷して以て選擧界の積弊を廓清せむことを期するのであります、以上述べましたる所は政府所見の大要であります、で此方針の下に必要なる計畫を立てまして、是が遂行を期すべきは勿論でありますが、何分現内閣の成立いたしましたのは、既に今議會の開會せられました後で、時日に餘裕もありませぬ爲に、總豫算等は大體前内閣の定めたる所に據ることに致しました、新に施設を要する所の事業及び震災復興に關する必要の經費等に付きましては、追加豫算として之を今期議會に提出致して實行宜しきを制せむとするの考へであります、尚ほ外交に關しましては外務大臣より別に開陳することに致します、今期議會に提出いたします諸般の案件に對しましては何卒十分御審議の上協賛を與へられまするやう切に希望して止まざる次第でござります