[内閣名] 第24代加藤（高）（大13.6.11〜大15.1.30）
[国会回次]（帝国）第49回（特別会）
[演説者] 加藤高明内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1924/7/1
[貴族院演説年月日] 1924/7/1
[全文]
諸君、私は今囘不敏を以ちまして敢て自ら揣らず、内閣組織の大命を拜しまして、過る六月十一日御信任を辱う致し、茲に諸君と相見ゆるに至りましたのは、私の洵に光榮と致す所でありまする、内閣成立後日尚ほ淺くございまして、諸般施設の準備未だ整頓に至りませぬのは誠に已むを得ない所でありまして、此點は豫め諸君の御諒察を請はなければならぬ所であります、刻下内外の情形を審案致しまするに、外列國は力を内に蓄えまして、勢いを外に伸ばさんとするに汲々と致し、飜って内に顧みますれば、人心の緊張を要する甚だ切なるものがあります、隨って庶政百般に渉りまして更新すべきものが頗る多々なりと認むるのであります、今右の中に就きまして緊要なるもの數項を擧げ、所信の一端を披瀝致しまして、御參考に資したいと思ひます、諸君、締盟各國との交際は倍々敦厚を加へまして、何等渝る所がないのは誠に慶すべき所であります、既に御承知のやうに過般米國の議會に於きまして新移民法が成立致したのであります、右立法中、我が移民排斥を目的と致しまする條項は、正義公平の要求に合致致さないものでありまして、之を阻止せんとする我が朝野の熱心なる努力がありましたるに拘らず、斯る立法が遂に實施となりましたのは頗る遺憾とする所であります、政府は飽まで合理的手段に依り、本問題の解決に努めたいと思ふのであります、露國に對する親交の囘復するに至らんことは政府の固より望む所でありますが、右に關聯致しまする對露諸懸案は、目下交渉中に屬して居りまして、其解決の成否を茲に公表し得ないのは私の甚だ遺憾とする所であります、偖て輓近學校及社會兩面の教育は大に發展致しまして、國民の智見亦大に進んで來たのであります、速に普通選擧の制を確立し、廣く國民をして國運の負擔に膺らしめ、政治をして廣汎なる基礎の上に轉廻せしむるのは、洵に刻下の急務であると認むるのであります、將又最近數囘の選擧を見まするのに、選擧費の増大、風紀の廢頽等、憲政前途の爲め深憂とすべき事柄が頗る多いのであります、區制及選擧方法に關する得失、費用節約に關する規定、取締に關する條規等を審究致し、選擧の弊竇を一洗し選擧の公正を確保し、依て以て憲政運用の根幹を鞏固に致しまするのは、洵に喫緊の要務であると認むるのであります、斯の如き所期の目的を達成するが爲めに、衆議院議員選擧法改正法律案を今期議會に提出致しますることは、準備が未だ整ひませぬけれども、次期の通常議會には之が提案を爲さんことを期する次第であります、貴族院の改善に關しましては世間既に其論があり、貴族院内では亦其議があります、政府は一つには憲法制定の趣旨に鑑み、又一つには時代の要求を斟酌致しまして愼重の考究を遂げ、本問題に善處せんことを期する次第であります、諸君、綱紀の紊亂、風教の弛廢は當今病弊の最も大なるものでありまして、之が矯正は庶政更張の第一義であります、政府は綱紀を肅正し、官紀を振作し、服務を励行し以て積弊を一掃したいと思ひます、又官職に政務官及恒久官の區分を明確に致しまして、一は以て國務の公正及繼續性を保障し、一は以て議制の進展を滑かに致しまするのは、憲政の運用に關し必要の條件であると認むるのであります、仍て政府は之に對應する方策を樹つる積りであります、近時中央及地方財政の膨張は殊に著しくありまして、啻に民間經濟との調和を失ひ、之が整理發展を妨害するばかりではありませず、濫費浪用に屬するものが亦鮮くないのであります、隨て財政の整理緊縮は極めて必要のことと信ずるのであります、仍て政府は財政及行政の整理を斷行し、以て財政の基礎を鞏固にし、民間經濟の整理發展に資したいと思ふのであります、財源を公債に仰げる事業に至りましては、緊急にして必要已むべからざるものの外、政府は之を避くる方針を執りたいと思ひます、特に大正十三年度に於きましては、市場の状況に鑑み、公債を市場に公募することを避けまして、一は以て國債の信用を確保し、一は以て經濟に對する壓迫を輕からしめたのであります、財政に關する政府の方針は右の如くでありまするが、大正十三年度追加豫算に至りましては、其編成を改むるに十分の餘日が無かったので、大體において前内閣の編成に係はるものを踏襲致し、唯々二、三の箇所に改定を加ふるに止めたのであります、隨て政府方針の實現は之を次年度以降の豫算の編成に俟つの外はないのであります、諸君、以上は單に目下緊要と認むるものの中に就き、僅に數項を擧げたに止まります、其他機に臨み随時政府の所見を披瀝したいと思ひます、尚ほ對外交渉事項に關しましては、外務大臣より報告致し、財政及び經濟の事項に關しましては、大藏大臣より紹介する所がありませう、諸君は政府の意の在る所を斟酌せられまして、愼重審議政府提出の諸案を協贊せられんことを切望致す次第であります