データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第26代田中(義)(昭2.4.20〜4.7.2)
[国会回次](帝国)第53回(臨時会)
[演説者] 田中義一内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1927/5/5
[貴族院演説年月日] 1927/5/8
[全文]

 諸君、不肖大命を拜して内閣を組織し、茲に臨時議會に於て諸君と相見ゆるの機會を得ましたことは、私の光榮とする所であります、我が財界は大震災の餘禍を受けて、爾来産業貿易孰れも不振を免かれませぬ、隨て經濟界一般に尚ほ不況の状態に在ります、殊に去る三月中銀行の休業を動機と致しまして、次第に財界の安定を失ひ、四月に入って一層不安の氣分を増進した跡があります、而して偶々臺灣銀行救濟に關する緊急措置に就て、政局の今次の展開を餘儀なくするに至りましたことは、諸君既に御承知の通りであります、仍て政府は改めて財界の不安に對する精密なる考察と、愼重なる判斷とを遂げて、先づ緊急勅令を以て、臺灣及南洋諸島を除きましたる帝國の各地方に亙りて、支拂猶豫の制を實施致し、一面には人心攪亂の惧ある流言蜚語の防遏に努めたのであります、全國各銀行も政府の方策に順應し、それぞれ善處の方法を執りまして、相扶けて財界の安定に努力致し、政府に於ては又支拂猶豫期間中、財界の根本的救濟方法を講ずる為に、直に臨時議會開會のことを決定致しました結果、財界人心共に平静に歸しましたることは、國家の為め洵に慶幸とする所であります、此機會に於て我が國民が互に自重して財界の圓滑なる進展に貢獻せられんことを切望の至りに堪へませぬ、政府は支拂猶豫制に引續き、更に財界の安定、海外に於ける帝國の信用維持、竝に臺灣統治の必要上、日本銀行をして特別資金を融通せしむるの途を講ずるの急務なることを認めまして、之に關する法律案を今期議會に提出致し、又支拂猶豫に關する緊急勅令の事後承諾をも求むる次第であります、其他一般事項に關しましては、次囘の通常議會に於て所信を陳述致し、案を具して諸君の御協贊を請ふ積りでありますから、右今期議會の提案に付きましては、十分御審議の上、速に御協贊あらんことを希望致します