データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第26代田中(義)(昭2.4.20〜4.7.2)
[国会回次](帝国)第55回(特別会)
[演説者] 田中義一内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 19280425
[貴族院演説年月日]
[全文]

 諸君、新選擧法の下に行はれましたる總選擧の結果、當選の榮を荷はれたる諸君と相見えて、茲に現下の國務に關して御協贊を願ひますのは、私の最も光榮とする所であります、昭和三年度豫算は第五十四議會解散の結果、不成立となりました爲に、政府は憲法の條章に依り、前年度豫算に基いて實行豫算を編成致したのであります、大體に關する經費は曩に其一部分を昭和二年度追加豫算として御協贊を仰ぎましたが、今囘は全部の豫算を提出して御協贊を願ひます、追加豫算は會計法の規定に従ひ、必要缺くべからざるものヽみを提出致したのであります、何卒愼重に御審議の上、御協贊を與へられんことを望みます、隣邦支那の形勢が遽に急を告げましたに付、我が在留同胞の生命財産を保護するが爲に、陸海軍一部隊を山東に派遣することに相成りました、固より我が軍隊の派遣は、居留民保護の爲必要已むを得ざるに出でたるものでありますから、山東地方の形勢が其必要を認めざるに至りましたる場合には、直に撤兵すべく已に此旨を中外に聲明致した次第であります、尚ほ此機會に於て私は最近發生致しましたる不祥事件に就て一言致したいと存じます、事件の概要は既に政府に於て發表致しましたる通りであります、詳細なる點に至りましては、更に司法當局の審理に待たなければなりませぬ、要するに組織的計畫を以て暴力革命に依り、金甌無缺の國體を變革して勞農級專制の政府を樹立せんとするもので、其悪逆無道言語に絶したる不祥事であります、吾々は之に關して重大なる責任を感ずると共に、畏多くも 皇室竝に 皇祖皇宗在天の御威靈に對し奉り恐懼に堪へないのみならず、又實に吾等國民の祖先に對して慚愧に勝へない次第であります、政府は固より寸毫も假借する所なく、斷乎たる方針を以て是等の逆徒を處分致しますると共に、此の如き事件の由って生ずる所の原因を究め、各方面に亙って出來得るだけの施設と用意とを盡し、抜本塞源の途を講ずる考であります、併ながら思想を正しくし精神を作興すると云ふが如きことは、獨り政府の力のみを以て能くすべき所ではありませぬ、朝野一致して國民の精神的總動員を行ひ、全幅の精力を傾注して、始めて其目的を達成することが出來ると信ずるのであります、私は忠誠無比なる我が國民の熱烈なる愛國心に訴へ、諸君と共に努力盡瘁致し、斷呼として此の如き不祥事を根絶いたしたいと存ずるのであります