データベース「世界と日本」(代表:田中明彦)
日本政治・国際関係データベース
政策研究大学院大学・東京大学東洋文化研究所

[内閣名] 第26代田中(義)(昭2.4.20〜4.7.2)
[国会回次](帝国)第56回(通常会)
[演説者] 田中義一内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1929/1/22
[貴族院演説年月日] 1929/1/22
[全文]

 諸君、茲に第五十六囘帝國議會の開會に方り、政府の所見を述ぶることは、私の光榮とする所であります、昨年十一月行はれました御一代の大典、即位の禮及大嘗祭を滞りなく終了せられましたことは、一に御盛徳の然らしむる所で、誠に御同慶に堪へませぬ、私は諸君と共に謹んで即位禮の當日に渙發せられましたる勅語の御主意を遵奉致し、益々勵精以て皇運の隆昌に翼贊せんことを期する次第であります、而して此皇室及國家の盛儀に際して、遺憾なく我が全國民をして尊王愛國の精神を發揮せしめ、國體の精華を顯揚しましたことは、諸君と共に慶賀措く能はざる所であります、帝國と締盟各國との交際は益々親厚を加へ、殊に御大禮に當りまして各國の元首、政府竝に朝野の諸人士から我が皇室及國家に對して、熱誠なる奉祝の意を致されましたことは、深く感銘する所であります、私は此機會に於て帝國政府の深厚なる謝意を表するものであります、又一時御重態に拜聞致しました英國皇帝陛下の御病状が、昨今次第に快方に向はせられつヽあることは、諸君と共に私の衷心より御慶び申上げる所であります、隣邦支那の時局に關しましては、後刻外務大臣として改めて説明する筈であります、政府は時運の進展に伴ひ國家の隆盛を圖り、國民の利福を増大せんが為に、それそれ緩急を考慮して新規の計畫を立て、就中國民思想の善導、精神の作興に注意し、産業貿易の振興を圖る爲に、財源の許す限り諸種の施設を全うするに勉め、國税地方税を通じて根本的整理を行ひ、地方自治體の健全なる發達を期し、同時に社會政策上必要なる施設を爲さんとするものであります、即位禮當日の勅語に於て、教化を醇厚にし愈民心の和會を致し、益國運の隆昌を進めむとの聖旨を拜しましたことは、國民一同恐懼感激に堪へない所であります、政府は特に國民思想の善導、精神の作興に最善の努力を致し、此方針に基いて教育の内容の改善を圖るは勿論、立法、行政各般の施設に亙りて常に聖旨の徹底を期し、殊に青年及學生生徒等をして其方途を誤らざらしめんが爲に適當の施設を爲し、又社會教育を振興せんが爲め特に行政機關の擴張を行ひ、各種團體の活動と相俟って其目的を達成せんとするのであります、産業貿易の振興に就ては自作農の創設維持の計畫を確立し、開墾、治水、水利、林業、蠶業、水産等、農業上の諸方策を充實すると共に貿易の保護奬勵、主要工業の助長、金融の疏通等、商工業の發達に留意致し、又交通及通信機關の整備に依りて、齊しく産業の振興と文化の開發とに資せんが爲に道路港灣の改修を完成し、鐵道の普及改良を圖り、航空事業の助長、諸航路の開拓改善を企て、電氣事業の統制に就ても亦適當の措置を講ずるの方針であります、政府は帝國領土竝に租借地に對する行政の統轄を必要と致し、拓殖に關する一省の設置を決定し、併せて海外に於ける國民の經濟發展を保護奬勵せんことを企圖しつヽあるのであります、政府が豫て種々なる調査機關を設定して、帝國の殖産興業に關する研究を進めて居ることは御承知の通りであります、是等諸機關の答申に對しましては常に周密なる注意を拂ひ、施設上の參考に資して居るのであります、近時一般財界の整理大に進行致し、金融機關の基礎著しく堅實を加へ、資金の状況は漸次改善せられつヽあるのであります、此際前述の如く政府が産業貿易の振興に關し一段の力を添ふるに於ては、我が財界は一層良好に向ふものと考ふるのであります、政府は地方自治體に獨立の財源を與へて、其財政的基礎を鞏固にし、健全なる發達を期することが刻下の急務なりと信ずるのであります、政府は此目的を達成するが為に、地租竝に榮業収益税を國税より撤廢致し、國税地方税を通じて根本的整理を行ふの方針を決定致し、其過渡的施設として昭和四年度より右兩税の負擔輕減を圖るの計畫であります、世態の推移と、産業經濟の發展とに従って、各種社會問題の解決を要するものが少くないのであります、政府は之に對して立法、行政各方面より種々の社會政策を講じ、勞働者災害救濟法の制定を始め、工場法の改正、公益職業紹介機關の整備等を計画致し、更に失業救濟の為に、土木事業の奬勵、其他に付て十分考慮致して居るのであります、尚ほ財政經濟事項に付きましては、大藏大臣より説明致す筈であります、諸君は何卒政府の意の在る所を諒とせられ、諸般の案件に對して、御協贊を與へられんことを希望致します