[内閣名] 第27代濱口(昭4.7.2〜6.4.14)
[国会回次](帝国)第58回(特別会)
[演説者] 濱口雄幸内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1930/4/25
[貴族院演説年月日] 1930/4/25
[全文]
諸君、本日茲に第五十八囘帝國議會を開くに當りまして、一言政府の所信を述べますることは、私の最も光榮とする所であります、御承知の如く昭和五年度豫算は、衆議院解散の結果不成立となりましたので、憲法の規定に基き、前年度豫算を施行することヽなりましたが、政府は此施行豫算の範圍内に於て、實行豫算を編成し、更に緊急已むを得ざるものに付ては、追加豫算を作成し、本期議會に提出を致したのであります
外交問題に關しては、先づ倫敦海軍會議に付て御報告を致したいと存じます、本年一月二十一日以來、倫敦に於て開催中でありました日・英・米・佛・伊、此五箇国間の海軍會議は、三箇月に亙る所の關係各國全權委員の熱心なる努力に依りまして、本月二十二日條約の調印を了したのであります、元來帝國政府は他國を脅威せず、又他國よりも脅威を受けざる國防上必要の兵力量を保有する方針を以て、終始協議を進め來たりました次第でありまするが、幸に意見の一致を見まして、茲に協定が成立することヽ相成り、内は國民の負擔を輕減すると共に、外は關係各國間の親交を増進し、世界平和の確保に貢獻することを得るに至りましたることは、洵に慶賀に堪へざる所であります
次に日支通商條約改訂問題に付きましては、昭和二年以來兩國間に改訂交渉を行ったことがありましたが、其後種々の事情の爲め、其進捗を見るに至らなかったのであります、政府は日支國交の大局上、成べく速に本問題の解決を計ることを必要と認めまして、本年一月以來、先づ關税問題に付き交渉を開始しました所、其後交渉は順調に進捗しまして、去る三月十一日兩國代表者間に協定案文の妥結を見るに至りまして、目下御裁可奏請中であります、右協定成立の上は、支那は多年の要望たる關税自主權を囘復し、我國と致しましては、其最も重要視して居りました税率協定の成立を見ることヽなりますので、彼我兩國の爲め眞に祝賀すべきことヽ存じます
今囘提出の諸案件の内、特に諸君の御留意を願ひたいのは、義務教育費國庫負擔金の増加であります、政府は國民負擔の現状に鑑み、義務教育費國庫負擔金を増額することが、極めて緊要の政策なることを認めまして、現在の負擔額に一千万圓を増加して八千五百万圓と爲し、之に依って生ずる地方財政の餘裕を以て、地方税の輕減を爲さしむることヽ致したのであります、元來義務教育費國庫負擔の制度は、大正六年臨時教育會議の決議答申に基き、教員の優遇と、市町村負擔の輕減との二つの理由を包含して、大正7年始めて一千万圓を計上し、大正十二年に三千万圓を加へ、大正十五年及昭和二年に三千五百万圓を増額し、現在に於きましては、合計七千五百万圓を國庫より支出して居ることは、御承知の通りであります、然るに近時義務教育費の増加に伴ひ、市町村税の負擔が著しく過重し、之が輕減緩和の途を講ずるの必要を認めましたので、今囘更に一千万圓の増額を追加豫算に計上し、同時に之に伴ふ所の法律案を提出致したのであります
金解禁後における財界善後の對策と致しましては、先づ産業の合理化運動を一層徹底せしむるの必要を認めまして、商工省内に之が實行機關を設くるの計畫を立て、次に貿易外の受取勘定の増加を圖る一助として、海外の觀光客を日本に誘致するが爲め、鐵道省内に之が實行機關を置くことヽ爲し、尚ほ國産品愛用の氣風を皷吹し、以て國内産業の振興を圖る爲め、竝に輸出補償制度を設けて、我國の商品の海外進出を容易ならしむる爲め、それぞれ相當の追加豫算を要求致してあります
各種社會政策の樹立は、現内閣の最も意を用ひて居る所でありまするが、特に失業問題の解決に付ては、其根本策として産業の振興を圖ると共に、其應急策として職業紹介に關する事業を擴張しました外、失業の救濟又は防止の爲め、地方公共團體に對して公營事業の起興を慫慂し、之が財源に關しては起債認可に關する從來の方針を緩和すると共に、經費の一部を國庫より補助するの途を講じまして、之を追加豫算に計上致してあります
次に肥料政策に關しましては、政府に於て特に肥料に對する鐵道運賃の引下を行ひ、以て其配給を容易ならしめたるの外、更に取引方面に亙りまして、之が改善の實を擧げんが爲め、主として産業組合に依る配給改善の案を立てまして、之に要する經費は實行豫算として支辨し得らるヽものヽ外、之を追加豫算として要求致してあります
以上の諸案件は何れも現下の急務に屬するものでありますから、何卒政府の意の存する所を諒とせられ、愼重御審議の上、速に協贊を與へられんことを希望する次第であります