[内閣名] 第31代岡田（昭9.7.8〜11.3.9）
[国会回次]（帝国）第66回（臨時会）
[演説者] 岡田啓介内閣総理大臣
[演説種別] 災害對策に就ての演説
[衆議院演説年月日] 1934/11/30
[貴族院演説年月日] 1934/11/30
[全文]
諸君、内外時局極めて多事多難の秋に當りまして、不肖揣らずも大命を拜し、内閣を組織するに至りましたことは、寔に恐懼の至りに堪へぬ所であります、不肖固より菲才微力ではありますが、赤誠を披瀝し、各方面の協力を得て、内、國民康福の増進と、外、國際大義の顯揚とに勉め、以て 聖明に應へ奉らんことを期して居る次第であります、今囘災害對策等の爲め、臨時議會を開かるヽに當りまして、茲に初めて諸君と相見え、所信の大體を開陳し、諸君の御協力を仰ぐ機會を得ましたことは、私の最も光榮とする所であります
施政の大綱に付きましては、曩に組閣の當初に於きまして、之を聲明し、以て一般の協力を期待致したのであります、之が具體化の爲には、十分なる審議を盡し、逐次實現に邁進する考でありまして、何れ通常議會に提案して御協贊を願ふことも少からぬことヽ思ひます
近時各地に災害連りに相踵ぎ、多數の國民が艱苦窮乏に遭遇しまして、之が救濟復舊の爲に、緊急施設を要すること、極めて切なるものがあるのであります、組閣匆々繭絲價の下落により、養蠶農家窮乏の爲め、應急の施設を講じましたが、其後關西北陸地方等に暴風水害甚しく、東北地方に冷害凶作惨を極め、其他随所に旱害の生ずるあり、各方面に於ける損害著しく、應急の救濟復舊等を要するもの、極めて多きに上ったのであります、此等の災害に際し、畏くも 天皇 皇后兩陛下には深く宸襟を腦ませられ、御救恤の思召を以て、内帑御下賜の御沙汰を拜し、又 皇太后陛下各宮家王公家よりも御下賜金の恩命に浴し、寔に恐懼感激に堪へぬ所であります、東北地方に對する 兩陛下の御下賜金は、之を基として備荒竝に隣保相扶の爲め、所謂郷倉の普及を圖り、以て 聖旨に副ひ奉らんことを期して居ります、而して政府に於きましては、直ちに實行し得べき緊急施設にして、苟も災害對策上效果ありと認めらるヽものに付きましては、既に著々之を實施しましたが、更に是等の應急施設の中、必要なるものを繼續すると共に、災害地方民更生の意氣を作興せしめ、將來の災害を防止輕減せんが爲め、禍を轉じて福と爲すべき諸種の恆久的災害對策を樹立致したいと思ふのでありまして、是等の爲め所要の經費を豫算に計上し、茲に臨時議會を開いて御協贊を願ふことヽ致した次第であります
米穀對策に關しましては、米穀統制法の運用を根幹とし、米穀の統制に勉め來ったのでありますが、同法實施の經過、諸般の米穀事情及財政上の影響に顧み、更に考究を遂ぐるの要あるを認め、新に米穀對策調査會を設置し、目下愼重審議を重ねて居りまして、同調査會の答申を俟ち、成案を得るやう努力中であります
此機会に於て更に附加へて申述べたきことは、海軍軍備制限會議の問題と、對滿關係機關調整の問題とであります
來るべき海軍軍備制限會議に付ては、帝國政府は國防の安全を確保するを第一義とし、關係各國間に不脅威不侵略の原則を確立すると共に、軍縮の實を擧ぐる爲め、最も公正妥當なる方式に依り、其實現を期せんとするものでありまして、目下倫敦に於て進行中の豫備交渉に於ても、帝國代表は右方針を體し、鋭意善處中であります
次に對滿關係機關調整の問題でありますが、滿洲事變前に於ける在滿帝國諸機關が事變後著しく變化した情勢に其儘即せざるべきは論を俟たぬ所でありますから、曩に是等諸機關の圓滿なる連絡統制の爲め、其首腦には同一人之に當るの措置が講ぜられたのでありますけれども、其後の經驗に徴し、又滿洲國の發展に顧み、益々各機關の協力に依る機能の發輝を必要と致しますので、茲に滿洲國の獨立を尊重し、同國と我國との格別なる親善關係を考慮すると共に、對滿行政事務の統一を保持し、政府總掛りを以て滿洲國關係事項を處理し得るの機構と爲すことを企圖致したのであります、而も現在の機構に急激なる變化を加へず、治安工作を第一とする現實の事態に即し、必要にして適切なる限度の機關の改革を行はんとするのであります、此對滿關係機關調整問題に關し、其過程に於て多少の紛糾のありましたことは、甚だ遺憾とする所でありますが、既に調整案の根本趣旨の諒解せらるヽに從ひ、誤解や杞憂も自て解消するに至り、各機關相協力して新機構の目的達成に邁進せんとしつヽあるのであります
政府は以上申述べましたる災害對策に關する經費、其他此際緊急を要する若干の經費を豫算に計上致しましたが、之が財源は殆ど全部公債に求めざるを得なかったことは、財政の現状に照し止むを得ざる所であります、此支出の外、尚ほ預金部よりも出來得る限り多額の低利資金を供給し、復舊復興を援助する方針であります、斯の如くして今囘緊急なる豫算案及法律案を提出致した次第でありますから、何卒政府の意の在る所を諒とせられ、宜しく御審議の上速に御協贊あらんことを切望致します