[内閣名] 第33代林(昭12.2.2.〜12.6.4)
[国会回次](帝国)第70回(通常会)
[演説者] 林銑十郎内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1937/2/15
[貴族院演説年月日] 1937/2/15
[全文]
諸君、今囘圖らざる政變に際會しまして、不肖揣らずも大命を拜し重任を辱う致しましたことは、洵に恐懼感激の至に勝へませぬ、内外時局の極めて重大なるに顧みまして、大御心を奉體し、微衷を盡して報效を萬一に期せんとする覺悟であります
内閣の更迭は時適々第七十囘帝國議會の會期中に生じまして、爲に休會に停會を重ね、折角洪猷翼贊の道を盡されんとする議院諸君の日を曠しうせらるヽの已むなきに至りましたことは、甚だ遺憾に存ずるのであります、組閣後茲に旬日餘、漸く諸君に見えて、新内閣の所信を披瀝し、諸君と共に時艱克服の重責に任じますることは、私の眞に光榮とする所であります
新内閣の政綱は去る八日聲明致した通りであります、如何なる内閣たるを問はず、我が國體の本義に基き肇國の理想を顯現することは、總て施政を奉行するの根本であります、隨て先づ第一に國體觀念の明徴、敬神尊皇の大義闡明に力を竭しますことは申す迄もありませぬ、而して尊巖なる我が國體の下に萬古不磨の欽定憲法が嚴として存するのでありまして、我が立憲政治が萬邦無比の我が國體に即した獨特のものとして、世界に渦く如何なる思潮の流にも毅然として健實なる發達を爲さんことを期して居るのであります、又帝國の外交が國際正義に則り、東亞の安定萬邦の共榮を具現せしむるに在る事は確固不動の方針であります、現内閣は諸般の對外事項の處理に當りまして、此方針の下に朝野文武協力一致しまして有效適切なる成果を收め、國際關係を明朗に致したいと考へて居るのであります、又諸般の情勢に顧みまして帝國を安泰にし、其興隆を擁護し、國是の貫徹を期する爲には國防軍備の充實は極めて喫緊の要務であります、而して國力發展の基礎は剛健なる國民精神であり、旺勢なる生産力でありますから、此等國力の基根を十分に培ふべきものと考ふるのであります、産業の振興は内外の經濟情勢に適應せしめ、保護の施設を講ずると共に適切なる統制を實施することが緊要であります、尤も是が爲に國民の創造力や企業心を沈滯萎靡せしむることがあってはならぬのでありまして、寧ろ進んで之を助長すべきであると存ずるのであります
新内閣は此等の大方針に即して懸案たる庶政一新の實を擧げ、特に國民生活の安定を圖らねばならぬと考ふるのでありまして、それが爲には是非とも公明な政治を遂行して時世に適合した革新を行ひたいと思って居ります、因循を戒め矯激を排して宿弊の革新を爲さんことは、如何なる方面に於ても異論なきのみか、國民擧って待望せらるヽ所と思ふのでありますが、因習の久しき利害錯綜して中々容易でないことは、過去に於て既に經驗されて居ります、寔に私を滅し公に奉ずるの心を以て各方面協心戮力するに非ざれば、完うし難きことを痛感されるのであります、私は是非諸君の御協力を得て之が實施を期したいのであります
新内閣は議會の會期中に成立致しましたが爲に、前内閣に於て既に提出された豫算案、或は法律案等は、一應之を撤囘しまして、再檢討を加ふることに致したのでありますが、何分にも僅少の日子に於て之を十分に行ふことが不可能であります、仍て豫算案に付きましては國民生活の安定を圖る意味から、物價騰貴の趨勢を抑制することの急務であることに鑑みまして、是が一部金額の使用見合せを企圖致しました、其金額は約そ金二億七千万圓に近いのであります、併ながら時運に適應せる諸政策は著々是が實現を期しまして、又前内閣に於て計畫しました諸方策に付きましても、實施に妨げないやうに極力配意致して居るのであります、又税制整理に付きましては、前内閣に於て改正案を提出致したのでありますが、全體に渉って修正を行はんと考へましたが、到底時日之を許さず、さりとて國防の整備充實其他の喫緊の時務遂行の爲には、歳入の缺陷に對して何としても最早増税に俟つより外途がありませぬので、暫定的に現行税制に於ける税率の引上を行ふことヽ致し、所謂臨時租税増徴法案を提出致しました、是と同時に若干の新税を起すことに致したのであります
政府は今後更に、發表しました政綱の具體化を圖りまして、國運の進暢に力を致したいと考へて居るのであります
幸に克く政府の意の存する所を諒とせられまして、政府の提出する諸案に對して、速に協贊を與へられんことを望む次第であります