[内閣名] 第40代東條(昭16.10.18〜19.7.22)
[国会回次](帝国)第78回(臨時会)
[演説者] 東條英機内閣総理大臣
[演説種別] 施政方針演説
[衆議院演説年月日] 1941/12/16
[貴族院演説年月日] 1941/12/16
[全文]
本日開院式に當りまして特に優渥なる 勅語を拜しましたることは、洵に恐懼感激の至りでございます、私は謹んで聖旨を奉體し、一意專心報效の誠を竭し、此の前古未曾有の重大時局を克服し、以て宸襟を案んじ奉りたいと存ずるものであります
過般第七十七囘帝國議會に於きまして、私は國策遂行に關する政府の所信を率直に披瀝し各位の御協力を願つた次第であります、其の後も政府は引き續き米國に對し、既に當時申述べましたる通り、第三國が帝國の企圖する支那事變の完遂を妨害せず、帝國を圍繞する諸國家が帝國に對するに對する直接軍事的脅威を行はざることは勿論、經濟封鎖の如き敵性行爲を解除し、經濟的正常關係を恢復すること、及び歐州戰が擴大して禍亂の東亞に波及することを極力防止すること、此の目的を外交交渉に依つて貫徹せんが爲め、忍び難きを忍び、耐へ難きを耐へ、凡ゆる努力を重ねたのであります、然るに米國は帝國の此の隱忍と自重とを以て與し易しとなし、帝國の公正なる主張に耳を藉さざるのみならず、従來の彼自身の提案すらも之を裏切り、密かに英國と謀議して新たに暴慢なる提案をなし來つたのであります、其の詳細は既に政府より發表致した所であります、而して帝國として最も忍び得ざる點は、
第一は、支那及び佛印より陸、海、空及び警察を含む一切の帝國軍隊を撤收すること
第二は、重慶政府を除く如何なる政權をも軍事的、政治的、經濟的に支援せざること
第三は、第三國と締結し居る如何なる協定も太平洋全地域の平和確保に矛盾するが如く解釋さられざることに同意すること
此の三點にあるのであります、是は言葉を換へて言ふならば、帝國の支那及び佛印よりの全面的撤兵、南京政府の否認、三國條約の破棄、之を要求するものでありまして、米國の意志は、經濟斷交と武力脅威とを以て我に挑戰し、之に依つて帝國を屈從せしめんとするにあることが明かとなつたのであります、若し我にして米國の要求に屈從致しますとするならば、大東亞の安定の爲め傾注して參りました所の帝國積年の努力は、悉く水泡に歸するばかりではなくして、帝國の存立すらも危殆に瀕し、且又世界平和の克服に協力せんことを約したる盟邦との誓を抛棄し、帝國の信義の失墜をも強要されるものであります、斯くの如きは帝國として斷じて忍ぶべからざるものであります、事既に茲に至りましては、如何に平和愛好の念に燃ゆる帝國と致しましても、其の權威と自存とを擁護する爲め、斷乎として起たざるを得なかつたのであります、即ち本月八日畏くも米國及び英國に對する宣戰の大詔が渙發せられた次第でありまして、聖慮の程を拜察致しまして洵に恐懼感激に堪へませぬ
一たび開戰と定まりまするや、大命一下我が陸海軍の將兵は、未だ旬日を出でずして忽ち敵の要衝を突破し、ハワイを基地とする米國艦隊の大半を覆滅し、英極東艦隊の主力を撃滅するなど、敵が誇張して宣傳し且つ脅喝に努めて居りました對日包圍陣も随處に撃破しつつあるのであります、斯くして彼等は崩壊の一途を辿りつつあるのであります、此の偉大なる戰果は世界の驚異の的となり、國威を中外に輝かすに至つたのであります、是れ偏に 御稜威の然らしむる所でありまして、洵に感激に堪へませぬ
默々として隱忍自重、積年練武の勞を重ねて今日あるの備へを整へ一たび戰ひとなりますれば君國に殉ぜんが爲め生還を期せざる我が陸海空軍勇士の偉大なる力の發揮に對しましては、唯々滿腔の感謝と崇敬とを禁じ得ぬのであります、又是と共に銃後官民の責任の愈々重大なるを痛感する次第であります
今や帝國の隆替は正に此の一戰に懸つて居るのであります、我が同胞は、一大國難に直面致しますれば、必ず打つて一丸となつて殉國の精神を發揮し、如何なる艱難をも克服して國威を中外に發揚し、國運の隆昌を致しまして居りますことは、明かに史績の示す所であります、凡そ戰ひの要訣は必勝の信念にあります、私は全國民が我が國體の本義に徹し、建國以來二千六百餘年、未だ曾て戰ひに敗れたことなき帝國の光榮ある史績を囘願して、固き必勝の信念の下に如何なる艱難をも堪へ忍び、職域奉公に遺憾なきを期し、必ず終局の戰勝の光榮を招來するに至らんことを確く信じて疑はざるものであります
併しながら敵は領土の廣大、資源の豐富を誇り、之を以て世界制覇の野望を逞しうせんとする米英兩國であります、帝國は大東亞の禍亂を戡定致しますると共に、此の強大なる敵を摧かなければならないのであります、随ひまして長期戰は固より覺悟の前であります、即ち帝國は今後幾多の困難に當面することあるべきことを深く肝に銘じ、敵兵力の殲滅に愈々奮勵努力して、緒戰に於ける赫々たる戰果を擴充致しますると共に、新たに參加する南方諸地域を加へて各般に亙る一大建設を行ひ、以て此の長期戰に堪へ得る態勢を速かに整備せねばならないのであります、戰ひは寧ろ今後にあります、吾等國民は個々の戰勝に醉ふことなく、又個々の現象に憂ふることなく、愈々正氣を擴充して互に相倚り又相扶け、内は荒怠を戒め、外は、邪惡思想滲透を防ぎ、必勝の確信の下に飽くまで獻身殉國を念とし、誓って征戰の目的を貫徹せねばならぬと信ずるのであります
此の際盟邦滿華兩國が、帝國との一心同體の關係愈々厚く、戰端一たび開かれまするや直ちに帝國に對して凡ゆる協力を與へられつつあることに付きましては、私は茲に滿腔の感謝の意を表するものであります、尚ほ帝國は曩に佛印と共同防衞の約を締結し、今又タイ國と攻守同盟締結に付き意見一致し、是等兩國が愈々帝國との提携を固く致しまして、相共に新秩序建設の爲に邁進しつつありますることは頗る欣快とする所であります
抑々帝國が今囘南方諸地域に對し新たに行動を起すの已むを得ざるに至りましたのは、米英の暴政を排除して大東亞諸地域を明朗なる本然の姿に復し、新たなる大建設を行はんとするに外ならないのであります、大東亞數億の住民も亦帝國の此の眞意を了解して、無益の抵抗を行ふことなく、寧ろ我等同志として速かに帝國の企圖する大東亞共榮圏建設の聖業に參加するに至らんことを切望して已まない次第であります、此の際重慶政權が尚ほ抗戰を續けて居りますことは甚だ遺憾とする所であります、若し彼にして今後も依然抗戰を繼續するに於きましては、帝國は今後と雖も毫も壓迫の手を弛めるものではありませぬ、而も其の抵抗の根源も今や覆滅に瀕しつつあるのでありまして、禍亂の戡定も遠からざるものと存ずる次第であります
此の秋に當り盟邦獨伊兩國が帝國の開戰と共に參戰し、帝國と共に確固不動の決意を以て一切の強力手段を盡し、世界平和の爲の共同の敵に對し勝利を得るまでは斷じて干戈を收めざることを誓ひ、又相互の完全なる了解に依るにあらざれば米英兩國の何れとも休戰又は講和をなさざるべきこと、及び公正なる新秩序招來の爲め將來益々密接に協力すべきことを約し、日獨伊三國の締盟愈々固きを加ふるに至りましたことを、洵に同慶の至りに存じますると共に、米英兩國を屈服せしむるまでは斷じて戈を收めざる帝國の固き決意を茲に表明するものであります
尚ほ此の機會に於きまして私は開戰以來の國民の熱誠溢るる愛國の至情に對しまして、衷心よりの感激を表明するものであります
今囘政府提出の豫算案及び法律案は、何れも戰爭遂行上緊急なる事項に限定せられて居るのであります、何卒速かに御審議の上御協贊を與へられんことを切望致す次第であります、終り